りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

今宵、ちゃんとやる二人

12/27(金)、江戸東京博物館で行われた「今宵、ちゃんとやる二人」に行ってきた。

・り助「桃太郎」
・小燕枝「親子酒」
・アサダ二世 マジック
・小燕枝「二番煎じ」
~仲入り~
・アサダニセモノ&アサダ二世 マジック
・小燕枝「芝浜」

り助さん「桃太郎」
お姉さんのお化粧の小噺で爆笑。お姉さん…迫力ある(笑)。
そして聞き飽きた「桃太郎」がひっくり返るほど面白くて大笑い。
「あるところに」
「あるところってどこ?住所は?」
「住所はねぇ」
「そんなわけないでしょ。どこにでも番地はあるよ。そうじゃなきゃ郵便も届かないよ」
「うるせぇなぁ。…あるところは…調布だ」


「じじいとばばぁが二人で川へ洗濯へ行きました」
「え?二人で川に?」
「そうだよ。仲がいいんだよ、このじじいとばばぁは」
「おじいさんは山…山でしょ?」
「そうだよ。山だよ。早く教えろ。黙って聞け!」

なんか笑わせてやろうとかお客の反応は?とかいうのを気にするような感じは全くないのに全然普通じゃない「桃太郎」で度肝を抜かれた。笑った笑った。


小燕枝師匠「親子酒」
おかみさんにお酒を勧めて飲ませちゃう、って初めて見た。しかもおかみさんが結構いい飲みっぷり。まくらで話していた小燕枝師匠のおかみさんを思い出して、ふふふっと笑いが。
飲みながら旦那があれこれ語るのがなんか楽しい。自由な「親子酒」。楽しい!


アサダ二世先生 マジック
上手なマジックをふわっとやるのと、わざとできないところを見せて笑いを誘うののバランスが絶妙だなぁ。
かっこよかった。


小燕枝師匠「二番煎じ」
夜回りの場面の芸の多彩さにうっとり。
浪曲もおかしかったなぁ。
そして宴会の場面はお酒おいしそう、しし鍋おいしそう、見ているこちらも徐々に体が温まってくる感じ。
楽しいーーー。
でも高座の最中に、後ろの方で子どもが出たり入ったりおしゃべりしたり、途中で携帯が鳴って全然止めてくれなかったのが、ちょっと残念だったな。


アサダニセモノ師匠&アサダ二世先生 マジック
小燕枝師匠はマジックを相当やりこんでる感があって笑ってしまった。芸がきれい!
そして途中で本人登場っぽく出てきたアサダ二世先生とのやりとりもおかしかった。


小燕枝師匠「芝浜」
この「芝浜」にはびっくりしたなぁ、もう。でもいいなぁ。すごくいいなぁ。なんか「芝浜」っていうともうあれでしょ、みたいな「お約束」をころっと裏切る遊び心がたまらない。最高だったー。
そして仲入りの時に携帯とおしゃべりの注意があったけど、鳴らしたりおしゃべりする人ってそもそもこういう注意を聞かないんだよね…そこは残念だったな。寄席ならまだあきらめもつくけど、せっかくのこんなにいい「芝浜」で…ホールの会で…うーん。

それにしても小燕枝師匠がたっぷり三席で、アサダ二世先生もマジックたっぷりって…ちゃんとやりすぎだったのでは?という凄い会だった。

体温

 

体温

体温

  • 作者:多田 尋子
  • 出版社/メーカー: 書肆汽水域
  • 発売日: 2019/10/25
  • メディア: 単行本
 

 ★★★★★

 15歳のとき、両親が本当の両親ではないと知らされた素子。兄の藤一とも血が繋がっていないと知ったそのときから、素子は藤一に恋心を抱くようになる(「秘密」)。
8年前に夫を亡くした率子は、夫の仕事仲間だった小山と再会し関係を深める。率子の自宅の客間を間借りしている女子大生の清子とあけみ、そして娘の百合、幼馴染の光子。賑やかな生活を送る中で、小山との関係はどのような進展を見せるのか―(「体温」)。
心地好い温かさに包まれていたはずが、いつのまにか孤独や哀しさの方に針が振れ、心に引っ掻き傷を残す。歴代最多の六度芥川賞候補にあがった著者の、成就しない大人の恋愛小説集を復刊。
「体温」「秘密」「単身者たち」の3作品を収録。

 私が読んだのは講談社の「体温」で、収められていたのは「やさしい男」、「焚火」、「オンドルのある家」「体温」。絶版になっていて書影もなかった。

とても面白かった。それぞれの物語に出てくる男性が独特で「こういう時代もあったのね」では済まされない何かがあるように思う。
「男とはこうあるべし」という社会的な圧力のようなものが確かに存在していて、それに守られたり追い詰められたりしながらも、「男」として生きようしている。

そういう男性を許すでもなく受け入れる女性がまた独特で、彼女たちの感じ方や行動は明らかに自分とは異質なものなんだけど、そこに強さも弱さも透けて見えてなんだか揺さぶられる。

こういう男女の描き方は今の時代では「古い」と言われてしまうのかもしれないけど、でもその実ここに描かれてる女性はみな凛としていて強い。「自立」って経済的な自立だけじゃないんだよな。

何かとても生々しいものを見た気がするけど、それが全然不愉快でないというか、人間って面白いなぁと思う。他の作品も読んでみたい。
というか、この書影にある「体温」買って読まなきゃ。

 

エシュティ・コルネール もう一人の私

 

エシュティ・コルネール もう一人の私

エシュティ・コルネール もう一人の私

 

 ★★★★

一九一四年、第一次世界大戦。一九一八年秋、社会民主政権誕生。一九一九年春、共産主義革命。一〇〇日余で崩壊、王政復古と国土分断。そして赤色テロ、白色テロ。この激動の時代…!作家の役割は、民衆に勇気と力を与え、権力と闘い、人々を導くことであるという伝統が、ハンガリーに生まれた。一九三三年、コストラーニが大批判に晒されながら示した最後の傑作長篇。 

独特のユーモア…ニヒリズム…不条理が香る作品群。連作短編とも違う、断片的な物語の集まり。
副題にもあるようにエシュティは作者のもう一つの顔。なれなかった自分、なりたかった自分のように感じた。

極端で気まぐれで時に残酷だけれども純粋で子どものまま大人になってしまったようなエシュティの視点で語られる物語と彼と対峙する人(作者?)の視点で語られる物語が入り混じっている。エシュティが旅で出会った人たちや出来事、自分の敬愛する人物について語る物語が面白かった。

今読むとそれほど不道徳にも思わないのだけれど、若いころから詩人として地位を確立していた作者が、自分に求められる社会的な立ち位置をひっくり返す覚悟を持って書いた作品のようだ。

読書メーターにもAmazonにもまだレビューなし。
私はどうしてこの本を手に取ったのか、記憶がないんだけど…表紙のインパクトはなかなかのもの。

 

某

 

 ★★★★★

名前も記憶もお金も持たない某は、丹羽ハルカ(16歳)に擬態することに決めた。変遷し続ける“誰でもない者”はついに仲間に出会う―。愛と未来をめぐる、破格の最新長編。 

人間に限りなく近いけど人間ではない、「誰でもない者」。
過去の記憶が一切ない状態で目覚め、人間の誰かになって暮らししばらくすると「変化」して別の誰かになる。
空っぽだったのが徐々に経験や記憶を重ね、誰かのことを気にかけたり大事に思ったりするようになり「死」を意識するようになる。

人間を人間たらしめているものはなんなんだろう。
幸せを感じると途端に失うことが怖くなる。生きることを意識すると死が怖くなる。
でも死があるからこそ生が輝くという面もあるしなぁ。

いろいろ考えさせられる作品だったが、ラスト美しくて好き。

柳家さん喬一門会 年忘れ大演芸会

12/22(日)、かめありリリオホールで行われた「柳家さん喬一門会 年忘れ大演芸会」に行ってきた。

 

・落語体操~第2バージョン~ 門弟一同
・左ん坊「穴子でからぬけ」
・小んぶ「初音の鼓」
・喬之助「出来心」
・さん助「かつぎや」
・小傳次「幇間腹
・小平太・小太郎・やなぎ「茶番(象)」
・左龍「つぼ算」
~仲入り~
・真打昇進披露口上
(小平太、さん助、小傳次、喬志郎、小志ん、さん喬、喬之助、左龍、喬太郎
・小太郎「猫と金魚」
・小志ん「松竹梅」
・ダーク広和 マジック
・さん喬「抜け雀」
~仲入り~
・やなぎ「先生の話」
・喬志郎「壁金」
・小平太「松曳き」
・さん喬「寄席の踊り」
喬太郎「柚子」

 

6時間の落語耐久レース(笑)。
入り口に「今日は大変長時間の公演となっております」と注意書きがしてあるのが笑える。
長かったしすぐにメモしなかったので細かいことは忘却の彼方。(たいていその日のうちか次の日に覚えている断片を下書きしておいて、後から思い出しながら書くことが多い)
印象に残ったことを箇条書きで。


・落語体操、たまたま座った席がさん助師匠と小んぶさんの近くでラッキー。
うつろな目で落語体操をする二人(ペア)が見られて最高だった。
「疝気の虫」とか「母恋いくらげ」とかレアな体操が多いのも素敵だった。
・さん助師匠はおめでたそうでおめでたくない「かつぎや」。こういう噺ってどうなんすかね(もやさま風に)。
・真打披露口上は司会をさん喬師匠がつとめるという異例の口上。
・まぁみなさん師匠に遠慮がないというか毒舌爆発というか…。これを許すさん喬師匠ってすごいな、というか。
・いやきっとそれはリスペクトしてるから言えるんだろうと思うし、逆に普段は全然言えないからこういう時に…っていうのもあるんだろうけど、びびるわー。
・笑ったのが喬志郎師匠を紹介するときにさん喬師匠が「こいつはほんとにひどいやつなんです」と言って語ったエピソード。「松竹梅」を稽古した時に、梅さんたち三人に稽古をつける前の場面もたっぷり教えたのに、上げの稽古の時にそこをまるでやらなかった喬志郎師匠。「お前なんであそこをやらないんだ?教えただろ?」と聞くと「あー、あそこは無駄だと思ったもんですから」。「無駄って!!!人がせっかく丁寧に教えたのに!!」。…笑った…。
・第3部のさん喬師匠の踊り。最初はしっとり踊っていたのに最後になって「袈裟シャワーをあびていて思いついたことがあったもんですから…ちょっと着替えてきますのでしばしお待ちを」。
なにかなぁと思っていたら、なんとポストの被り物をして登場!ええええ?これほんとにさん喬師匠が入ってるの?しかも師匠のアイデア
すごいサービス精神と弾け方にびっくり。さすが…この一門を率いる師匠だわ…。素敵。

喬太郎師匠の「柚子」、よかったーーー。泣いたー。


長かったけど長さを感じなかった。すごいわ、この一門は。ほんと。楽しい。

さん助燕弥ふたり會

12/21(土)、お江戸日本橋亭で行われた「さん助燕弥ふたり會」に行ってきた。


・市坊「寄合酒」
・燕弥「猫の皿」
・さん助「うどんや」
~仲入り~
・さん助「煙草好き」
・燕弥「火事息子」


燕弥師匠「猫の皿」
最近引っ越しをしたという燕弥師匠。
わりとよく引っ越しをする方で自分は引っ越しには慣れているという自負があったんだけど、今の家には10年いてその間に子どもも生まれて荷物も増えて、思っていた以上に大変だった。
噺家っていうのはそもそも荷物が多い。
着物、稽古をつけてもらったときの録音(テープ、MDなど)、資料類、手ぬぐい。
稽古のテープなんかはどうしても捨てられない。だって自分一人のためだけにやってくださってるって思うともう、ね…。
テープからMDに変わったとき、巻き戻すことができないもんだから、喜多八師匠に稽古をつけてもらった時に「え?テープじゃねぇから巻き戻せねぇ?じゃ最初からやらなきゃだめじゃねぇか。あーあ…」って…その声もしっかり録音されてるんですよ。もう…お宝じゃないですか?嬉しくて。「だれる喜多八師匠」って題名付けて大事に保存。
あと、人から見たらガラクタでしかないけど自分にとったらお宝っていうものが結構たくさんあって。
例えば旅の仕事で東北に行った時に師匠たちとわんこそばに行って、100杯以上食べるとお店から鈴の付いた札をもらえて、それ自体は別にどうでもいいんですけど、そこに雲助師匠が「さん太さん。がんばりました」って書いてくださってて…。またその字がかわいいんだ!たまらないっしょ!

…ああ、もうなんて素敵な話なんだ。
燕弥師匠ってまくらでこういう話を聞かせてくれるからほんとにたまらない。
落語ファンの心もいまだに持っていて、しかもさん助師匠のように話下手じゃない(笑)!
そんなまくらから「猫の皿」。
燕弥師匠の「猫の皿」は、店の主人がかなりの確信犯。かなりのハイテンションなのでさん助師匠が乗り移ったか?と心配に…んなわけない(笑)。


さん助師匠「うどん屋
さん助師匠の酔っ払いは絡み方が他の人と違う。同じ話がぐるぐる回るところは同じなんだけど、酔っ払いが長唄の歌詞にいちいち文句をつける。「おらぁこれおかしいと思うんだ!」。
ああ、めんどくさい酔っ払い…いるいるこういうやつ。
そしてうどんを勧められて食べる。唐辛子をぜーんぶ入れて。
へんてこな「うどん屋」だったけど、なんか面白かった。


さん助師匠「煙草好き」
この間、駒込で聴いた「煙草好き」と少しずつ変わっていた。
面白かったのはまくらで歌舞伎の「娘道成寺」の説明をしたこと。
煙草好きがタバコ好きを追いかけて寺に走り逃げるところで、まくらの「娘道成寺」が浮かんできて、そのギャップとばかばかしさに笑ったー。
こういうところに、さん助師匠のセンスを感じるなぁ。おもしろーーい。


燕弥師匠「火事息子」
ネタ出しされた時から絶対にいいだろうと思っていたけど、ほんとによかった、燕弥師匠の「火事息子」。
屋根の上で番頭に声をかけるところ。勘当した父親と対面するところ。
ちょっと目を伏せただけでものすごいかっこよくてきれいでぞくぞくっ。
多く語らなくても申し訳なさとそれでも火消しになりたかった気持ちが伝わってくる。

やっぱり燕弥師匠には「いい男」が似合うなぁ。すごく素敵な「火事息子」だった。

第381回 圓橘の会

12/21(土)、深川東京モダン館で行われた「第381回 圓橘の会」に行ってきた。
 
・萬丸「王子の狐」
・圓橘「御慶」
~仲入り~
・圓橘「大つごもり」
 
圓橘師匠「御慶」
年末ジャンボ宝くじ1等が3億円の頃は奥さんと一緒に買っていた。
「当たったらちゃんと言えよ」なんてお互いにけん制しあったりしていたけど、あまりに当たらないので諦めた。
そんなまくらから「御慶」。
おかみさんがきついのがすごくおかしい。
「いやだよっ!」「そんなに富が好きなら富と一緒になればいい!あたしゃもう別れるよ!」。
夢から自分が割り出した番号がすでに売れてしまっていたと分かった時、「誰が買ったんだ?」と聞いて「ああ、(家主)たろべえのところの(店子)じろべえか」とがっかりするけどわりとあっさり諦める。
帰り道「あの金はじろべえにくれてやらぁ」と言いながらも「ああ、これで女房は出て行っちゃうだろうなぁ」と奥さんに未練が残っているのがおかしい。
易者に声をかけられて「富くじのことで」と言うと、易者に「ああ、富はいけません。そういうのはやらない方がいい。まじめに働きなさい。それに限る」と言われ、「そう言うなよぉ」と言うのがなんかかわいらしい。
富が当たってからも「おっかぁ!!」とおかみさんまっしぐらに帰る面白さ。
 
大家さんのところにお金を持って行ってからはひたすら陽気で楽しい。
「ぎょけい!!」の声の高さと「上がれって言ってくれよ。言わないと先に進まないよ」と求めるのが楽しかったー。
 
圓橘師匠「大つごもり」
これを初めて高座にかけたのは20年ほど前のこと。
その時には70代ぐらいの一葉ニスト?の女性が何名か見に来ていて、ホール宛てにお叱りの手紙を送ってきたことがありました。「あなたのお峰には深みがない」とかなんとか…。
ものすごい「いい手」でした。
一葉は落語を見に行ったりすることもあったのかなかったのか。
短い物語だけど漢文調の硬い文章で…若いころはそうでもなかったですけど、今回読み直してみて…かなり苦労しました。
 
そんなまくらから「大つごもり」。
口入れやのお金ばあさんが奉公先を探しに来たお店に向かって、とあるお屋敷での奉公を世話する。
ここはお子さんが4人いるけれど長男はもう家を出ているし家にいる3人ももう大きくなっているからそんなに世話が大変じゃない。
ここの奥様は非常なケチで口うるさい人だけどうまくやって可愛がられればなんとかなるから頑張りなさい。
御主人は鷹揚な方だからお小遣いは御主人にねだりなさい。
とにかく辛抱するんですよ。でも辛かったら別の奉公先を世話することもできるからここに来なさい。
送り出されたお峰が行ったお屋敷は奥様がケチで結構きつい人だったけれど、お峰は文句ひとつ言わずに働いた。
というのは、小さいころに父を亡くしその後母も病気で亡くし、叔父の家に引き取られた、という苦労人。
叔父の家には三之助という8歳離れた子どもがいたが、お峰はその子を自分の弟のようにかわいがっていた。

ある日珍しく奥様が奉公人も連れて芝居見物に行こうと言い出したので、お峰は病気をした叔父が心配なので見舞いに行きたいと申し出ると、奥様はそれを許してくれた。
久しぶりに行ってみると叔父は患って床につき、暮れに高利貸から借りた金を返せないとこの長屋にも住んでいられなくなる、と言う。
どうかお屋敷の奥様にお願いしてお金を借りてきてほしいと言われたお峰は「承知しました」と言う。
奥様の機嫌のよさそうな時を見計らって話をすると「わかりました」と奥様。

みそかの夜、ほろ酔いで家にやってきたのはこの家の長男。長男は先妻の子なのだが、財産は今の奥様の子どもたちにやると言われていて、それが面白くない長男はしょっちゅうこの家にやってきては金をせびる。
この日も年の瀬に金をせびるつもりでやってきて居間のコタツで高いびき。
そこへ戻ってきた奥様。長男の姿を見るととたんに機嫌が悪くなる。
そこへお峰が「この間お願いしたお金を…」と申し出たものだから「誰が貸すと言った?私はそういう話なのか、わかりました、とそういっただけだ」と撥ねつける。
しばらくするとここの家作の大家が店賃を持ってくる。それを手文庫に入れるようにと申しつけられたお峰。言われた通り手文庫に金を入れる。
しばらくすると弟の三之助がお金を取りにやってくる。追い詰められたお峰は、いけないことだとは知りながら先ほど手文庫に入れた金に手を出してしまい…。
 
…ドキドキしながら聞いていて、最後のところで涙涙…。
くーーーー。こういう「落語」が聴けるってほんとに幸せ。圓橘師匠ってほんとに素敵だな…。
しかも終わった後にまた江戸時代の法律に詳しい「先生」を呼んで、江戸から明治の初めの頃の「盗み」の罪の重さについての解説。
それを聞いて、よけいにこの物語の感動がじわじわと…。
よかったー。来年もまたできるだけ通いたい。圓橘師匠の会。

カッティング・エッジ

 

カッティング・エッジ

カッティング・エッジ

 

 ★★★

リンカーン・ライム・シリーズ最新作!
ダイヤへの妄執を紡ぐ殺人者――ニューヨークを揺るがす大犯罪を暴け。
シリーズ原点回帰の傑作。

ダイヤモンド店で三人の男女が無惨に殺害された。
被害者は婚約指輪を受けとりにきたカップルとダイヤ加工職人。現場からはダイヤモンドも持ち去られていた。

科学捜査の天才リンカーン・ライムが捜査を担当することになるも、犯行直前に店を訪れた人物が殺害され、さらにはやはり結婚間近の男女がダイヤモンドへの妄執を口にする男に襲撃され、辛くも難を逃れる事件が起きる。連続する事件に振り回されるライムらのもとに、「プロミサー」と名乗る人物から、婚約したカップルへの異様な殺意を表明するメールが届いた。
犯人は関係者を次々に殺害しながら、逃走する目撃者のあとを追う。犯人より先に目撃者を確保すべく、ライムと仲間たちは必死の推理と捜査を展開するが――

ダイヤモンドをめぐる連続殺人は、やがて、ニューヨークを揺るがす大犯罪へとつながってゆく。後半にさしかかるや、意外な事実が次々に明かされ、事件の様相はめまぐるしく更新される。

名探偵VS完全犯罪計画の醍醐味を徹底追求した原点回帰の第14作。

今回はちょっといまいちだったなぁ。だって最初から絶対そうだと思ってたもん!私に分かられるようじゃ…ちょっとヤキが回ったんじゃないのかい?
と思ったけど、巷の評価は結構高いのね。ほー…。

それまでの経緯やわかってきたことをホワイトボードに書くの、やめちゃったんだね。今回はそういう積み上げて分かっていく展開ではなかったからかな。

悲劇的な目に遭った登場人物がまた登場するのがシリーズものの楽しさ。
捜査の時は非情だけど、実は優しいリンカーンライム。なのできっと次回作も読む。

さん助ドッポ

12/18(水)、お江戸両国亭で行われた「さん助ドッポ」に行ってきた。


さん助師匠 初代談洲楼燕枝の述「西海屋騒動」第三十三回「大団円」
京都からどうにか逃れた義松は馬に乗って江戸へと向かう。
馬子に向かって「そろそろ昼食にしよう。ここいらでうまい店はあるか?」と聞くと馬子は「それならば大磯にある 平野屋 (だったか?)という旅籠がいい。3年前にできた旅籠だがめしはうまいし安いし、主は情け深い人だし、なによりおかみさんがいい女」と言う。
いい女と聞いて義松が「それはどういう女だ?名前は?」と身を乗り出すと馬子は「あんたいい女と聞いて急に身を乗り出して来たな。うちの馬と一緒だな」と笑いながら「お静といって、なんでも女郎あがりらしい」。
お静と聞いてはっとする義松。
それじゃその平野屋 に行って休もうじゃないか、と話す。
 
馬子には金を渡し、義松はその晩平野屋に泊まる。
帳場の隣の部屋ではこの宿の主と女房が差し向かいで座っている。それを覗いた義松が驚いた。
主の方はなんと清蔵!
二人が話しをしているのをしばらく覗いていた義松だったが、頃合いを見計らって大声を出して部屋に上がっていく。
自分が女郎屋に売ったお静に向かって「俺の帰りをこんなところで待っていたのか」とうそぶき、清蔵に向かっては「俺が女郎に売った女を勝手に見受けしやがって」とすごむ。
ついに清蔵 と義松の悪人対決!(ちょっと二人の見分けがつかない!)
さんざん言い合った挙句義松は「わかった。お静を返せとはもう言わない。そのかわりここに置いてくれないか」と言う。
清蔵が「了見を入れ替えて奉公しようって言うのか?」と言うと「そんなわけねぇだろう」と義松。
この辺りに家を構えて白いもん(女のことらしい)でも連れてきてこれからは遊んで暮らすから、その金を寄こせ、と言う。
清蔵が「お前になんでそんなことをしてやらなきゃいけないんだ」と言うと、義松は清蔵が今までしてきた悪事を並べ立てる。
 
西海屋の主を殺し、その妻お貞を自分の女房にしたくせに、お静に入れ込んで、お貞を蹴り殺し、二人の子どもだった松太郎は嘉助に金をやって殺させることにした
自分は何もかもこの目で見て知っている、と言う。
「証拠はあるのか」と言うと「自分が見たことが何よりの証拠だ」と言って、現場にいた者でないと知りえないことを言うと、清蔵は「それがどうした」と開き直る。
開き直って自分がしてきたことを言い募る清蔵。
言い終わったところでいきなり戸が開き、そこには二人の侍が。
それが四郎治と松太郎。
 
四郎治は名前を名乗り、松太郎が敵討ちに来たことを告げる。
証文もあると聞いた清蔵は松太郎に向かって「今までどこでどんな(酷い)暮らしをしてきたんだ」とバカにしたように聞く。
松太郎は 嘉助が自分を和尚(花五郎)に預け、そこで大事に育てられたこと、そののち 四郎治の元へ行き剣術の指南を受けていた、と答える。
 
いよいよ松太郎が剣を抜くと、懐に入れていた小刀で応戦しようとした清蔵だったが、腕の違いは歴然としていて、清蔵は斬り殺される。
それを見てお静がそっと逃げ出そうとすると、四郎治(だったか?)が手裏剣を投げて、それが首にあたりばたりと倒れるお静。
それを見て義松がやいやい言い出すと、「ちょっと待て」という声とともに入って来たのが、なんと花五郎。
義松に向かって「今お前は仇討とはなにごとだ!と言っていたが、それならばお前も父親の仇を取れ」と言う。
義松がなんのことだ?と聞くと、和尚は今までのいきさつを語る。
自分の父を殺したのが和尚だったことを聞いて呆然とする義松。刀を構え、斬りかかる…と思いきやその刀を自分に向け腹を斬る。
そして語りだす。
 
最初に預けられたところで自分はそこの家の本当の子どもであった重太郎にたいしてひがみを抱きひねくれて育ち、そののち辰五郎に預けられたが、実はそれが自分の母親を殺した男で、それも知らずにその二人と一時期は愛人でもあった妹も殺したこと。
その後も悪事を重ね人を殺し流れ流れてここまで来たこと。
和尚は自分を西海屋に送り込んでくれた恩人。確かに自分の父を殺した仇だが、父が相当な悪党であることは聞いた。
だから和尚を斬ることはできない。自分で自分を斬るのが自分にはぴったりな末路だ。
そう笑いながらも、「でも一つだけ頼みがある」と義松。
自分の兄である重太郎を探してこれだけは言ってほしい。義松は自分で自分を斬って死んだ、と。それだけは…。
 
そう言っていると「ちょっと待て」と声がして戸が開いて現れたのがなんとその重太郎本人。
会った時になぜ義松を捕まえなかったのか、そのことを自分はずっと後悔していた、と語る 重太郎 。
花五郎を殺さずに自分を斬りつけたということはようやく改心したんだな、と言う。
「兄さん…」と満足そうな義松はこれで心残りはないとばかりに刀を引こうとするがその力がすでにない。それを見た 重太郎は自らその刀で義松の腹を切る。
そして手裏剣が当たって倒れていたお静が目を覚ましこれも改心して死亡。
 
そののち、松太郎はこの平野屋の主となりそれを売却した金で清蔵、お静の墓を建てる。
また四郎治は兄の元へ。
嘉助は和尚のもとへ行き出家する。
めでたしめでたし。
 
…いやぁーーー見事に全てがおさまったのだ。
ありえないほどのイッツアスモールワールドぶりで平野屋に人が集まる集まる。
「ちょっと待った」で花五郎が出て来た時は思わず「出た!」って声が出ちゃうし、お静に手裏剣が飛んだところでは思わず「ぶわはっ!」と笑っちゃうし、重太郎が出て来た時は「また出たっ!」と思って、おかしくておかしくて。
笑うところじゃない!!と思って、必死に笑わないように我慢するんだけど、肩が震える震える。
必死に自分をぎゅうううううっとつねって声が出るのを我慢。
まさか西海屋でこんなに笑えるとは思わなかった。
 
いやでも最後まで聞いてほんとによかった。
ちゃんと全部が回収されていったし、なによりも何がしたいんだかわからなかった義松が自分のことを振り返って改心したのはよかった。
結局悪人の両親から生まれ父を殺され自分を連れて逃げようとした母を殺され…その因縁だったんだな、とようやく納得。
そして最後に残ったのはこの噺ではほんとに数少ない貴重な「善人」。
それならそうともう少しそちらにスポットを当てるとかー、義松にもう少しこう迷いや弱さがあったりとかー、そうしたらもう少し感情移入できたかもしれないのにな、とも。
 
それにしてもやりきったさん助師匠、すごい。
読みといたあらすじをまとめて製本したらほしいですか?の言葉に、わーー!と拍手。
「ま、まさかこんな反応が返ってくるとは…」とご本人は驚いてたけど、欲しいに決まってるー!
あーーでもこれで両国亭でのさん助ドッポはひとまず終わり。
終わっちゃったの寂しいーーー。この会、ほんとに毎回楽しみだった。会自体の雰囲気もそうだし、Unaさんとさん助師匠の雰囲気もよかったなぁ。
とりあえず次回は2020年5月4日(月)、深川江戸資料館(清澄白河)で「さん助ドッポ」。

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第八回 柳家さん助の楽屋半帖

12/16(月)、駒込落語会で行われた「第八回 柳家さん助の楽屋半帖」に行ってきた。
 
・さん助「狸札」
~仲入り~
・さん助「煙草好き」「ベーリング海のたぬき(泉岳寺、重版出来、人魚)」
・さん助「ねずみ穴」
 
さん助師匠「狸札」
どんな噺家さんも当たり前にやる「狸札」。もう聞きすぎて笑うこともないんだけど、さん助師匠の場合、当たり前のクスグリとかが当たり前に聞こえないので、なんか笑ってしまう。
いや…本人は普通にやってるんだけど…安定してないっていうか危なっかしかったりして、なんでこんなつまらない誰もがやる噺がふつうじゃないんだ?というおかしさ。
あと、さん助師匠の子どもと動物はかわいい。とても。
 
さん助師匠「煙草好き」「ベーリング海のたぬき(泉岳寺、重版出来、人魚)」
高座に上がって頭を下げたら、煙草のまくら。
昔から煙草というのはあったんだけど、最初のうちは葉っぱを噛んでいた。
それを筒状のものに詰めて火をつけると香ばしくて香りがあって美味しいということで、吸うようになった。
煙草には今もいろんな銘柄があるけれど昔もそうで、その地方地方によって味が違って、どこどこのが一番上等…というようなことがあった。
そんな時代のお噂です。
と言って始まったのが、おおお、これが前回幻の噺家にさん助が教わりに行った「煙草好き」?
ということは前回の続き?
主催者のブログでは続きをやりますと書いてあったのに、三大噺のお題取りを始めて「え?」ってなったら「続きはやりませんよ」と言っていたのに?!
 
昔は春になると江戸っ子は大師詣りによく行った。
歩いて行くのにそんなに無理のない距離だし海も近いし魚もうまい
今日ものんびり物見遊山と思われる旅人の姿。
前を行くのは担ぐほど大きな煙管を持った男。その後ろを行くのは小間物屋の商人なのか大きな荷を背負った男。
前を行く男がここらで一服しようと思ったのか、石の上に座って煙草を吸いだすと、後ろから荷を背負った男がそれに追いついて話しかけて来た。
「あなた、そんな大きな煙管を背負って…よっぽどな煙草好きなんでしょうな」
「ええ、私は大の煙草好きです。見てください私のこの煙草入れ。大きいでしょ。毎日これだけの量をやってるんですから。私以上の煙草好きはいませんよ」
それを聞いて荷を背負った男が「あなたはたいした煙草好きではありませんな。素人です」
「何を失礼な!」
「まぁそうお怒りにならないで。これをご覧ください」
そう言ってその男が荷を下ろして包みを開けると、男が担いでいた箪笥の中にはびっしり煙管が入っていて、下の段には炭まで入っている。
「煙草というのは葉っぱによって味が違うし味わい方も違うから、私は葉っぱによって煙管を変えてます。あなた、これを吸ってどこの煙草だと当てることが出来ますか?」
「ええ、もちろんです」。

ということで、急遽始まった利き煙草。
この煙草の銘柄の名前や蘊蓄がとっても楽しい。
「これならわからないでしょう」と自信満々で差し出しても「ああ、これなぞは久しぶりですな…」と答えられる。
差し出す男は感心しながらも負けん気を起こして「これならどうだ」「じゃこっちは」と出し続ける。
答えてた方もさすがに吸いすぎで気持ちが悪くなってきて「そろそろやめましょう」と言うのだが「いーや、まだまだ」と許さない。
もうこれ以上は無理だ!と大きな煙管を持って逃げ出すと、男もまた荷をまとめて背負って追いかける。
煙草好きが渡し舟を見つけて「出してください!お金はいくらでも払うから!」と言って船を出すと、またそれを追いかける煙草好き。
 
この煙草好きが煙草好きを追いかけるところの描写がすごく楽しい
サゲもよくて、楽しい~!!!
 
で、サゲを言って頭を下げて、お客さん(私たち)が拍手をすると、「あーー落涙師匠、ありがとうございました」とさん助。
おおお、今の一席は悲哀亭落涙師匠の稽古だったのか!
どうりで話し方がなんかいつものさん助師匠と違ってちょっと落ち着いてて昔の名人(!)っぽいと思った!途中からいつものさん助師匠に戻ってたけど(笑)。
念願の落涙師匠から「煙草好き」を教えてもらえて満足したさん助。
師匠の本棚を覗いて「ああ、これが例の入鹿に乗った少年の本ですね」と言うと、師匠が「ええ、それはとても売れました。 重版出来でした」(パチパチ!)
「それでは私は帰ります」と立ち上がろうとすると「ちょっとあなた、そのまま帰っちゃだめですよ」と落涙師匠。
「え?」と驚くと「あなたは大変な想いをして山を登って私の所まで訪ねてきて煙草好きを教わった。今度は海へ向かいなさい。ベーリング海峡を越えたあたりに、うどん亭たぬきというやはり幻の噺家がいます。その人にも噺を教わりなさい。そうすればあなたの芸は深いものになりますよ。」
ベーリング海峡…わかりました!」
 
それからいきなり海で泳ぎだすさん助。(え?八甲田山は降りないの?その海はどこの海?そこからベーリング海峡を目指すの?しかもその泳ぐしぐさはいったい…もしやさん助師匠カナヅチ?
えいやーえいやーと泳いでいるうちに「ああーーあれはなんだー。鮫が船を取り囲んでる!!」
近づいてみると鮫に囲まれた船で大きな声が聞こえてくる。「頃は元禄14年…」
「あ!あれは鮫講釈、鮫講釈だ!」(ぶわははは!!)
その講釈の中に「泉岳寺」も!(パチパチ!)
「あ、鮫が離れて行って船が動き出した!すごいな」なんて言ってると、鮫がこちらに向かってくる!大変だ!
と、また泳ぎだすさん助。
しばらく泳ぐと「あ、あれは!!氷の上に羽織を着た人が…”時そば”やってる!!あれは間違いなくうどん亭たぬき師匠!たぬき師匠ーーー!」
(そばを食べるしぐさ)
「…それにしても…そばを食べるのが下手だな…下手だよ…うん…でもあれは地方でやるとウケるから…」(ぶわはははは!)
 
師匠に近づいて行ってみると、師匠が変な横座り!
「ま、まさか…うどん亭たぬき師匠は人魚に?!」(パチパチ!)
「そうよ。長く海にいたら人魚になっちゃったのー」
「しかも女性…?」
「性別もかわっちゃったのよー」
「人魚の噺家なんて…師匠東京に行きましょう!絶対売れますよ!
「え?売れる?まだ売れるかしら?」
「ええ、絶対売れます!」
「あら、じゃ行こうかしら。東京まで」
「泳いでいきましょう!」
「あたし泳げないの。だから捕鯨船に乗って行きましょ」
「ほ、捕鯨船?」
 
そんな話をしていると、ぐおーーぐがーーーーと現れたのが捕鯨船ありえない船のしぐさ!)
中から出て来た人が「なんちゃらかんちゃらぺらぺらーーー」
「え?何言ってるの?これ、なに?」
「あらこれはアイスランド語よ(だったっけ…?ノルウェー?)」
「え?師匠、わかるんですか」
「わかるわ。」
「なんて言ってるんですか?」
「乗せてもいいけどお金をよこせですって」
それを聞いて懐を探るさん助が「あー私、お金持ってません。師匠は?」と聞くと、師匠が「あら、あたしもおあしはないわよ。だって人魚ですもの」
 
…ぬおおおお!!サゲがものすごーーくきれいに決まった!すごい!!
めちゃくちゃ面白かった。
なによりも横座りした人魚の師匠。場末のバーのマダムっぽさがあって、たまらなくおかしかった。
 
さん助師匠「ねずみ穴」
あんな爆笑な三題噺をしたあとによく「ねずみ穴」をかけられるよ…(笑)。いいのよ、楽しい噺でも。
なぜかこの会では結構後味の悪い噺をかけることが多い気がする。
 
さん助師匠らしい味を期待したけど、まだそこまでは行ってない感じ(上から目線ですびばせん)。
このお兄さん…結構非道な印象。
お兄さんへの長年の恨みと「ああは言ってたけどもしかして本当は…?」という不安がそういう夢を見させたんだろうな、と思う。
竹次郎の方の甘さは伝わってくるので、お兄さんのキャラクターがもっとはっきりすれば…嫌な噺だけどもしかするとさん助師匠の「ねずみ穴」は好き!になるかもしれない。
 
あー楽しかった。

なかの満点座 師走のむかし家今松を聴く

12/13(金)、なかの芸能小劇場で行われた「なかの満点座 師走のむかし家今松を聴く」に行ってきた。
 
・枝次「ぞろぞろ」
・今松「薙刀傷」
・バトルロワイヤル風間 似顔絵
~仲入り~
・今松「芝浜」
 
枝次さん「ぞろぞろ」
だいなも改め枝次さん。百栄師匠のお弟子さん。
身体が大きくて大味そうだけど決してそんなことはなく、テンポもいいし口調もよくてとっても楽しかった。
百栄師匠のお弟子さんだからいずれは新作もやるのかな。楽しみな前座さんだな。
 
今松「薙刀傷」
初めて聴く噺!と思ったら、以前珍品の会で小助六師匠がかけていたんだった!
しかも会の後にお友だちと飲みに行って「私あの噺初めてだった」と言ったら友だちに「私は小助六師匠で聞いたことがある」と言われ、ええー小助六師匠で?いいなぁーーーと思い切り羨ましがっちゃった…。
あとで検索したらしっかり見てる…おそらく一緒に見たと思われる…私の記憶力…。彼女もか(笑)。
 
番頭の久蔵が主の所へやってきて「若旦那の病の原因がわかりました。なにせあの先生は名医中の名医ですから」。
今まで来てもらった医者、みんな名医だと言って「大船に乗ったつもりで」と請け負って来た久蔵に「今度こそ大丈夫なのか」と不安そうな主。
「いえもう大丈夫。この間までの船は大船ではありましたけど大風が吹いて転覆…」
で、若旦那は恋煩いをしていて、しかも相手は裏長屋の一番ぼろい家に住む浪人の娘だと言う。
あそこに娘などいたかな?と言う主に「そうでしょ。私もずっとあそこにいるのは息子だと思ってたんですが、実はあれお嬢さんだったんですよ」と。
あんな小汚い男、いや女がいいのか?と尋ねると、私は彼女の心根に惚れたのだ、と若旦那は言った、と。
主も戸惑ったものの、息子がそれほどまでにおもう相手ならいいだろう、と言うと、久蔵が「私が話をつけてまいります」。
「お前はおっちょこちょいなところがあるから心配だ」と言う主に「大丈夫です。大船に乗った気持ちで」と久蔵。
いさんで長屋に行き、どや!とばかりに金貨を出してお嫁さんにほしいということを申し出るのだが、父親は「無礼者!」と大激怒。どうしても欲しいと言うのならお前の首を代わりに差し出せ、と言う。
 
ほうほうの体で帰って来た久蔵が主に報告すると「そうか、わかった。それも仕方ない。悪かったな」と久蔵のことを責めるでもなく、逆にねぎらってくれる。
部屋に戻った久蔵は、なんていいご主人なんだ、私のおっちょこちょいがもとでこんなことになったのに一切私を責めないなんて…。とつぶやく。
想いが遂げられないから若旦那はそのうち死ぬだろう、そうしたら主もがっくりして後を追うように亡くなり…店も潰れるだろう。…私も路頭に迷って死ぬだろう。
そう考えたらこのままでいるのも、もう一度訪ねて行って首を差し出して殺されるのも同じこと。私が殺されれば若旦那は無事に結婚できてお店が潰れることもない…。
破れかぶれになった久蔵が再び長屋を訪ね首を差し出すと…。
 
なんともばかばかしくて楽しい噺。
特に後半、泥棒が入ってからの展開のスカッと爽やかさは絶品。
楽しかった~。
 
今松師匠「芝浜」
年末は末廣亭で今松師匠の「芝浜」を聞くというのが大変な贅沢だったのに今年から今松師匠のトリがなくなってがっかり…。
でもちゃんとこうしてそのかわりになるような立派な会を主宰してくださる方がいて、今松師匠もそれにこたえてやってくださる。おかげでこうして見ることができる。感謝しかない。
 
もうほんとにいいんだよなぁ、今松師匠の「芝浜」は。
なにより魚屋さんがからっと明るくてほんとに気持ちのいい人物。
おかみさんに言いくるめられちゃうところに人の好さが表れていていい!
そして真相を明かされた時の反応がほんとにいいんだ。手放しで女房を褒めるんだけど、そこにいやらしさがこれっぽっちもない。ほ
おかみさんにもじめじめしたところが全然ない。
なんて気持ちのいい夫婦なんだ。くーーー。
素晴らしかった。今年も聞けてよかった!
 

白酒・甚語楼ふたり会

12/12(木)、お江戸日本橋亭で行われた「白酒・甚語楼ふたり会」に行ってきた。

・あられ「子ほめ(序)」
・白酒「家見舞い」
・甚語楼 「味噌蔵」
~仲入り~
・甚語楼 「時そば
・白酒「御慶」


白酒師匠「家見舞い」
あられさんが不測の事態で「子ほめ」の最初の部分をやっただけで下がってしまったので、慌てて着替えて出てきた白酒師匠。笑顔。
外と中で温度差があるとこういうこと、あるんですよ。でも今日は…あったかですけどね…。
自分も鈴本のひざ前の出番で鼻血を出したことがあるというエピソードを紹介して「家見舞い」。

道具屋のおやじが出してくる品物を最初「いいな!これいいな!」と喜んで、値段を聞いて「あ、だめだな。お前もだめだろ?あ、こいつがいやだって」の繰り返しがなんといえずおかしい。
はっきり持ってるお金を言えなくて発音がフランス語っぽくなるのもたまらない。

瓶を買ってから二人で洗うんだけどそのしぐさもめちゃくちゃおかしい。
テンポ、しゃべり、しぐさの全てが絶妙で笑った笑った。


甚語楼師匠「味噌蔵」
もったいない、という日本語にぴったりの外国語はないという話から、師匠自身がなかなか物を捨てられないというまくら。
きれいな缶に小さくなっちゃった服。小さくなったっていっても服が小さくなるわけないから自分が大きくなっちゃってる。でもいつか痩せたら着ようと思って大事にしまってある。

…わかる!!私も「痩せたら着よう」という服がどれだけ残してあることか…。時々「もう痩せないよ…」という気持ちになって袋にまとめるけど、これがなかなか。

そんなまくらから「味噌蔵」。
けちべえさんが異常なほどのケチなのでここまでくると漫画チックで笑ってしまう。
渋々おかみさんをもらって初日からおかみさんを二階に上げちゃってあんまりなんだけど、寒い晩に自分のせんべい布団を嘆いて「そういえばおかみさんはふかふかの絹布の布団を用意してきてたな」「貸してくれないなんて情がない」と言うのも笑ってしまう。
寒いから二階に上がって…のくだりも、繰り返しがおかしくて微笑ましい。

子どもができて弱り果てて番頭さんに相談するところは見ていて「うううん…」と思うけど、無事に生まれたと聞いて「こんなあたしでも本当に嬉しい」と喜ぶ姿に救われる想い。

その後の展開は、こんな奇人の主人の扱いに慣れてる番頭さんが大活躍で、奉公人がか語る「当家のお味噌汁はお味噌汁じゃない。そしるです」の言葉に実感がこもっていて、気の毒になるやらおかしいやら。

楽しかったー。あとは主の締め付けがこれ以上きつくならないことを祈るなぁ…。


甚語楼師匠「時そば
近所の洋食屋で「落語好き」のお客さんが奥さんに話している内容が耳に入って食べた気がしなかった、というまくら。
そうなんだろうなー。と思いつつ、私も友達と飲んだりするときは好き放題話してるから近くに噺家さんがいないか気を付けるようにしよう…どきどき…。

そんなまくらから「時そば」。
最初の客の食べるそばがほんとにぽきっと音がする!おいしそう!
二番目の客の食べるそばはほんとに太くて腰がないのが音でわかる。

スピードがあって楽しかった。

 

白酒師匠「御慶」
楽しい!年末に白酒師匠の「御慶」が聴けたらめっちゃ幸せだ。
「ぎょけいっ!」という素っ頓狂な声が楽しくて大笑いだった。

柳家小三治・柳家三三 親子会

12/12(木)、関内ホールで行われた「柳家小三治柳家三三 親子会」に行ってきた。


・こごと「道灌」
・三三「紋三郎稲荷」
~仲入り~
小三治湯屋番」

 

三三師匠「紋三郎稲荷」
膝が痛くて近所の外科へ行ってきました、と三三師匠。
受付にいたのは60代ぐらいの男性。この人が先生なのかな、と思っていると中から出てきたお医者さんは優に80代は超えていそう。
噛み合わない会話に震える手で膝に注射。
その後先生に「正座をしても大丈夫ですか」と聞くと「だめ!正座なんてもってのほか!」
「いやでも…しないわけにいかないものですから…」
「そんなことないでしょう!今は椅子で事足りるでしょう!」
「いやその職業柄正座は必須なんで…」

なんて会話をしていると後ろからさっき受付にいたおじさんが「あなた落語家だ!どっかで見たことある!そうでしょう?私落語好きなんですよ。詳しいんですよ。ちょっと有名でしょう?」
「え、ええ…?」
「でも名前が出てこないな…ええとええと…お名前は?」
「ああ、三三といいます」
「え?さんざ?え?…上は?」
柳家です」
柳家さんざ?…へー」

…落語好きで落語詳しいけど私のことは知らなかったみたいです…。

その後に入って来たおばあさんとのエピソードもおかしかった。
長めのまくら。三三師匠もししょうにならってまくらがながくなってきた?(笑)。
ちゃんとオチまであってよく考えられてる印象だった。

そんなまくらから「紋三郎稲荷」。
狐の胴巻きを着た侍を本物の狐と勘違いする俥屋の様子がおかしい。
お狐様を信仰する宿に泊まって手厚くもてなされお賽銭までもらっちゃうのが楽しい。
面白かった。

 

小三治師匠「湯屋番」
この季節に横浜に来ると私が思い浮かぶ歌はあれですね…と公園の手品師。
でもマネージャーに言われちゃった。「師匠、歌い過ぎです!」
いいじゃないの、同じ歌をまた歌っても。でもだめだって。
横浜はいろんな歌がありますね。♪よこはま~たそがれ~♪ なんて1フレーズ歌って途中で歌詞がもやっとなって「だいたいね。落語のセリフだって忘れちゃうんだから。歌の歌詞なんて覚えていられねぇよ」。

それから、横浜と言えばあの夫婦ですね…。あの夫婦はいいよねぇ、二人で好きなことしてさ。
FM雑誌の企画であの旦那の方…ほらあの…そう、宇崎竜童と対談したことがあったんですよ。
くそして屁して…なんて歌うたってるからどんな奴が来るのかと思っていたら、すごくまじめな腰の低い普通の人でね…安心しました。

なんて話をあれこれしたあとに、80歳の誕生日に本が出るという話。「別に買わなくていいよ」と言いながら、「岩波書店っていうのはね本屋から頼まれねぇと本を置かないんですよ。高飛車でしょ?だから本屋で見ることも難しいかもしれない。だからきっと売れないですよ。でも今まで出た中で一番いい本になってますよ、きっと。そんな気がする」

…そこまで言われたら買わないわけにはいかないでしょう。って言われなくても絶対買うんだけど。

それから横浜から江の島へ…高3の時に演芸番組の賞品でもらった自転車に乗って自宅から江の島まで走って来た、という話。
初恋の人が父親の会社の保養所かなにかが江の島にあるからそこに泊まりにこない?と誘われたのだけれど、自分の家はとても固い家で泊まりなんか許してもらえるはずもない、といったんは断ったものの、自転車が手に入ったので…しかもサイクリング車…乗ると前のめりになるあのかっこいいやつですよ。
早朝に出て江の島に着いたのは12時頃でしたか。もう江の島は佃煮にするぐらい大勢の人。この中から彼女を探すことなんかできるんだろうかと思いかけた時、その彼女がね、海岸から現れたんですよ、私の前に。宿舎に帰るところだったんでしょうか。
こんなことってあります?!運命だよ!!安い映画じゃないんだから!

というのをね…同窓会で再会した彼女に話したんですよ。そうしたら「あら…そんなこともあったかしらね」だって!
ひっぱたいてやろうかと思ったよ!

なかなか名前が出てこなかったり歌詞が出てこなかったりするたびに「今日はね、だめです」「ま、そうはいってもいつもだめなんだけど」とか言いながら、「今日は若いころに覚えた噺をしようかな。思い出し思い出ししながら」

…そういったかと思うと、若旦那が居候先の親方に呼ばれるところ。
季節外れの「船徳」?と思って聞いていると、これは…「湯屋番」!!小三治師匠を追いかけて見に行くようになって5年?ぐらいになるけど、まだ一度も生で聴いたことがなかった噺!

若旦那がいかにも軽くて女好きで遊び好きなのがにじみ出てる。
その若旦那が居候先のおかみさんからおまんまを十分にいただけてないというのを親方に語るのがすごくおかしい。
「たたき飯ののし飯のそぎ飯のこき飯」なんか恨みがこもってるんだなぁ…。
さらにおまんまは隣の家の新内の師匠の家でもらってると聞いて親方が「そんなことしてもらっちゃ困る」と言うと、それもお腹が空いたからとは言わずに「魚の骨が喉につかえて」と言って遠回りをしていただいてるんだ、と胸を張るおかしさ。

湯屋に着いてから主とのやりとりはいかにも若旦那の甘さが出ていておかしい。
「煙突掃除の泥の助」じゃ見栄を切ってもかっこがつかない、と言ってそのしぐさをやるんだけど、なんだろう…こう若手が「腕の見せ所」と作ってやってる感じとは全然違う。そんなにかっこつけたりしない…さらっとやってるんだけど、かっこいいんだー。

番台に上がってから、男湯をのぞいて文句を言うんだけど、一人一人に声をかけて小言を言うのがすごくおかしい。さすが小三治師匠の若旦那!って思って大笑いだった。

妄想の部分も無理にはしゃいだ感じがないんだけど、女にもて慣れてる若旦那が結構リアルに妄想しているのがすごくおかしい。
時々にこっと笑ったり、にやけるのが、かわいいんだ。
初恋の人の話をしたせいなのか、若いころによくかけていた噺だからなのか、すごく若々しくてびっくりした。

この間江戸川落語会でのんびりした田舎の情景を渋く描いた小三治師匠が、今度は女好きの若旦那になって一人ではしゃいでいる。
落語ってすごいなぁーとしみじみ感じたし、小三治師匠の会はやっぱりできるだけ見に行かなくちゃ!と思ったのだった。

あーいいもの見た!

このあたりの人たち

 

このあたりの人たち (文春文庫)

このあたりの人たち (文春文庫)

 

 ★★★★

そこには、大統領もいて、小学校も地下シェルターもNHKもある。町の誰も行くことのない「スナック愛」、六人家族ばかりが住む団地の呪い、どうしても銅像になりたかった小学生。川上弘美が丹精込めて創りあげた、不穏で、温かな場所。どこにでもあるようで、どこにもない“このあたり”へようこそ。

不穏なのになぜかほくほくと安心できる「このあたり」。
子どももおじさんもおばさんもおばあさんもおじいさんもみんななんか変だ。

噛み合わない会話、予期せぬ反応、あっという間の驚きの展開。これがめちゃくちゃ癖になる。

そして何度も出てくるのが「くさい」「ものすごくくさい」。
くさいの…やだなぁ…でも確かめずにいられないんだよな、くさいのって。

あーおもしろかった。

赤い髪の女

 

赤い髪の女

赤い髪の女

 

★★★★★

ある晩、父が失踪した。少年ジェムは、金を稼ぐために井戸掘りの親方に弟子入りする。厳しくも温かい親方に父の姿を重ねていたころ、1人の女に出会う。移動劇団の赤い髪をした女優だ。ひと目で心を奪われたジェムは、親方の言いつけを破って彼女の元へ向かった。その選択が彼の人生を幾度も揺り動かすことになるとはまだ知らずに。父と子、運命の女、裏切られた男…。いくつもの物語が交差するイスタンブルで新たな悲劇が生まれる。ノーベル文学賞作家の傑作長篇。 

久しぶりに読んだパムク。
繰り返される子殺しと父親殺しの神話に導かれるように主人公ジェムの人生はすすんでいく。

第一部と二部の前半を読んだときはパムクにしてはおとなしめ?観念的な作品なのかなと思ったのだが、三部まで読んでおおおっとなる。
信頼できない語り手…。父子殺しにとりつかれていたのは果たして誰だったのか。

表紙の赤い髪の女が目に焼き付いて離れない。面白かった。