今宵、ちゃんとやる二人
12/27(金)、江戸東京博物館で行われた「今宵、ちゃんとやる二人」に行ってきた。
・り助「桃太郎」
・小燕枝「親子酒」
・アサダ二世 マジック
・小燕枝「二番煎じ」
~仲入り~
・アサダニセモノ&アサダ二世 マジック
・小燕枝「芝浜」
り助さん「桃太郎」
お姉さんのお化粧の小噺で爆笑。お姉さん…迫力ある(笑)。
そして聞き飽きた「桃太郎」がひっくり返るほど面白くて大笑い。
「あるところに」
「あるところってどこ?住所は?」
「住所はねぇ」
「そんなわけないでしょ。どこにでも番地はあるよ。そうじゃなきゃ郵便も届かないよ」
「うるせぇなぁ。…あるところは…調布だ」
「じじいとばばぁが二人で川へ洗濯へ行きました」
「え?二人で川に?」
「そうだよ。仲がいいんだよ、このじじいとばばぁは」
「おじいさんは山…山でしょ?」
「そうだよ。山だよ。早く教えろ。黙って聞け!」
なんか笑わせてやろうとかお客の反応は?とかいうのを気にするような感じは全くないのに全然普通じゃない「桃太郎」で度肝を抜かれた。笑った笑った。
小燕枝師匠「親子酒」
おかみさんにお酒を勧めて飲ませちゃう、って初めて見た。しかもおかみさんが結構いい飲みっぷり。まくらで話していた小燕枝師匠のおかみさんを思い出して、ふふふっと笑いが。
飲みながら旦那があれこれ語るのがなんか楽しい。自由な「親子酒」。楽しい!
アサダ二世先生 マジック
上手なマジックをふわっとやるのと、わざとできないところを見せて笑いを誘うののバランスが絶妙だなぁ。
かっこよかった。
小燕枝師匠「二番煎じ」
夜回りの場面の芸の多彩さにうっとり。
浪曲もおかしかったなぁ。
そして宴会の場面はお酒おいしそう、しし鍋おいしそう、見ているこちらも徐々に体が温まってくる感じ。
楽しいーーー。
でも高座の最中に、後ろの方で子どもが出たり入ったりおしゃべりしたり、途中で携帯が鳴って全然止めてくれなかったのが、ちょっと残念だったな。
アサダニセモノ師匠&アサダ二世先生 マジック
小燕枝師匠はマジックを相当やりこんでる感があって笑ってしまった。芸がきれい!
そして途中で本人登場っぽく出てきたアサダ二世先生とのやりとりもおかしかった。
小燕枝師匠「芝浜」
この「芝浜」にはびっくりしたなぁ、もう。でもいいなぁ。すごくいいなぁ。なんか「芝浜」っていうともうあれでしょ、みたいな「お約束」をころっと裏切る遊び心がたまらない。最高だったー。
そして仲入りの時に携帯とおしゃべりの注意があったけど、鳴らしたりおしゃべりする人ってそもそもこういう注意を聞かないんだよね…そこは残念だったな。寄席ならまだあきらめもつくけど、せっかくのこんなにいい「芝浜」で…ホールの会で…うーん。
それにしても小燕枝師匠がたっぷり三席で、アサダ二世先生もマジックたっぷりって…ちゃんとやりすぎだったのでは?という凄い会だった。
体温
★★★★★
15歳のとき、両親が本当の両親ではないと知らされた素子。兄の藤一とも血が繋がっていないと知ったそのときから、素子は藤一に恋心を抱くようになる(「秘密」)。
8年前に夫を亡くした率子は、夫の仕事仲間だった小山と再会し関係を深める。率子の自宅の客間を間借りしている女子大生の清子とあけみ、そして娘の百合、幼馴染の光子。賑やかな生活を送る中で、小山との関係はどのような進展を見せるのか―(「体温」)。
心地好い温かさに包まれていたはずが、いつのまにか孤独や哀しさの方に針が振れ、心に引っ掻き傷を残す。歴代最多の六度芥川賞候補にあがった著者の、成就しない大人の恋愛小説集を復刊。
「体温」「秘密」「単身者たち」の3作品を収録。
私が読んだのは講談社の「体温」で、収められていたのは「やさしい男」、「焚火」、「オンドルのある家」「体温」。絶版になっていて書影もなかった。
とても面白かった。それぞれの物語に出てくる男性が独特で「こういう時代もあったのね」では済まされない何かがあるように思う。
「男とはこうあるべし」という社会的な圧力のようなものが確かに存在していて、それに守られたり追い詰められたりしながらも、「男」として生きようしている。
そういう男性を許すでもなく受け入れる女性がまた独特で、彼女たちの感じ方や行動は明らかに自分とは異質なものなんだけど、そこに強さも弱さも透けて見えてなんだか揺さぶられる。
こういう男女の描き方は今の時代では「古い」と言われてしまうのかもしれないけど、でもその実ここに描かれてる女性はみな凛としていて強い。「自立」って経済的な自立だけじゃないんだよな。
何かとても生々しいものを見た気がするけど、それが全然不愉快でないというか、人間って面白いなぁと思う。他の作品も読んでみたい。
というか、この書影にある「体温」買って読まなきゃ。
エシュティ・コルネール もう一人の私
★★★★
一九一四年、第一次世界大戦。一九一八年秋、社会民主政権誕生。一九一九年春、共産主義革命。一〇〇日余で崩壊、王政復古と国土分断。そして赤色テロ、白色テロ。この激動の時代…!作家の役割は、民衆に勇気と力を与え、権力と闘い、人々を導くことであるという伝統が、ハンガリーに生まれた。一九三三年、コストラーニが大批判に晒されながら示した最後の傑作長篇。
独特のユーモア…ニヒリズム…不条理が香る作品群。連作短編とも違う、断片的な物語の集まり。
副題にもあるようにエシュティは作者のもう一つの顔。なれなかった自分、なりたかった自分のように感じた。
極端で気まぐれで時に残酷だけれども純粋で子どものまま大人になってしまったようなエシュティの視点で語られる物語と彼と対峙する人(作者?)の視点で語られる物語が入り混じっている。エシュティが旅で出会った人たちや出来事、自分の敬愛する人物について語る物語が面白かった。
今読むとそれほど不道徳にも思わないのだけれど、若いころから詩人として地位を確立していた作者が、自分に求められる社会的な立ち位置をひっくり返す覚悟を持って書いた作品のようだ。
読書メーターにもAmazonにもまだレビューなし。
私はどうしてこの本を手に取ったのか、記憶がないんだけど…表紙のインパクトはなかなかのもの。
某
★★★★★
名前も記憶もお金も持たない某は、丹羽ハルカ(16歳)に擬態することに決めた。変遷し続ける“誰でもない者”はついに仲間に出会う―。愛と未来をめぐる、破格の最新長編。
人間に限りなく近いけど人間ではない、「誰でもない者」。
過去の記憶が一切ない状態で目覚め、人間の誰かになって暮らししばらくすると「変化」して別の誰かになる。
空っぽだったのが徐々に経験や記憶を重ね、誰かのことを気にかけたり大事に思ったりするようになり「死」を意識するようになる。
人間を人間たらしめているものはなんなんだろう。
幸せを感じると途端に失うことが怖くなる。生きることを意識すると死が怖くなる。
でも死があるからこそ生が輝くという面もあるしなぁ。
いろいろ考えさせられる作品だったが、ラスト美しくて好き。
柳家さん喬一門会 年忘れ大演芸会
12/22(日)、かめありリリオホールで行われた「柳家さん喬一門会 年忘れ大演芸会」に行ってきた。
・落語体操~第2バージョン~ 門弟一同
・左ん坊「穴子でからぬけ」
・小んぶ「初音の鼓」
・喬之助「出来心」
・さん助「かつぎや」
・小傳次「幇間腹」
・小平太・小太郎・やなぎ「茶番(象)」
・左龍「つぼ算」
~仲入り~
・真打昇進披露口上
(小平太、さん助、小傳次、喬志郎、小志ん、さん喬、喬之助、左龍、喬太郎)
・小太郎「猫と金魚」
・小志ん「松竹梅」
・ダーク広和 マジック
・さん喬「抜け雀」
~仲入り~
・やなぎ「先生の話」
・喬志郎「壁金」
・小平太「松曳き」
・さん喬「寄席の踊り」
・喬太郎「柚子」
6時間の落語耐久レース(笑)。
入り口に「今日は大変長時間の公演となっております」と注意書きがしてあるのが笑える。
長かったしすぐにメモしなかったので細かいことは忘却の彼方。(たいていその日のうちか次の日に覚えている断片を下書きしておいて、後から思い出しながら書くことが多い)
印象に残ったことを箇条書きで。
・落語体操、たまたま座った席がさん助師匠と小んぶさんの近くでラッキー。
うつろな目で落語体操をする二人(ペア)が見られて最高だった。
「疝気の虫」とか「母恋いくらげ」とかレアな体操が多いのも素敵だった。
・さん助師匠はおめでたそうでおめでたくない「かつぎや」。こういう噺ってどうなんすかね(もやさま風に)。
・真打披露口上は司会をさん喬師匠がつとめるという異例の口上。
・まぁみなさん師匠に遠慮がないというか毒舌爆発というか…。これを許すさん喬師匠ってすごいな、というか。
・いやきっとそれはリスペクトしてるから言えるんだろうと思うし、逆に普段は全然言えないからこういう時に…っていうのもあるんだろうけど、びびるわー。
・笑ったのが喬志郎師匠を紹介するときにさん喬師匠が「こいつはほんとにひどいやつなんです」と言って語ったエピソード。「松竹梅」を稽古した時に、梅さんたち三人に稽古をつける前の場面もたっぷり教えたのに、上げの稽古の時にそこをまるでやらなかった喬志郎師匠。「お前なんであそこをやらないんだ?教えただろ?」と聞くと「あー、あそこは無駄だと思ったもんですから」。「無駄って!!!人がせっかく丁寧に教えたのに!!」。…笑った…。
・第3部のさん喬師匠の踊り。最初はしっとり踊っていたのに最後になって「袈裟シャワーをあびていて思いついたことがあったもんですから…ちょっと着替えてきますのでしばしお待ちを」。
なにかなぁと思っていたら、なんとポストの被り物をして登場!ええええ?これほんとにさん喬師匠が入ってるの?しかも師匠のアイデア?
すごいサービス精神と弾け方にびっくり。さすが…この一門を率いる師匠だわ…。素敵。
・喬太郎師匠の「柚子」、よかったーーー。泣いたー。
長かったけど長さを感じなかった。すごいわ、この一門は。ほんと。楽しい。
さん助燕弥ふたり會
12/21(土)、お江戸日本橋亭で行われた「さん助燕弥ふたり會」に行ってきた。
・市坊「寄合酒」
・燕弥「猫の皿」
・さん助「うどんや」
~仲入り~
・さん助「煙草好き」
・燕弥「火事息子」
燕弥師匠「猫の皿」
最近引っ越しをしたという燕弥師匠。
わりとよく引っ越しをする方で自分は引っ越しには慣れているという自負があったんだけど、今の家には10年いてその間に子どもも生まれて荷物も増えて、思っていた以上に大変だった。
噺家っていうのはそもそも荷物が多い。
着物、稽古をつけてもらったときの録音(テープ、MDなど)、資料類、手ぬぐい。
稽古のテープなんかはどうしても捨てられない。だって自分一人のためだけにやってくださってるって思うともう、ね…。
テープからMDに変わったとき、巻き戻すことができないもんだから、喜多八師匠に稽古をつけてもらった時に「え?テープじゃねぇから巻き戻せねぇ?じゃ最初からやらなきゃだめじゃねぇか。あーあ…」って…その声もしっかり録音されてるんですよ。もう…お宝じゃないですか?嬉しくて。「だれる喜多八師匠」って題名付けて大事に保存。
あと、人から見たらガラクタでしかないけど自分にとったらお宝っていうものが結構たくさんあって。
例えば旅の仕事で東北に行った時に師匠たちとわんこそばに行って、100杯以上食べるとお店から鈴の付いた札をもらえて、それ自体は別にどうでもいいんですけど、そこに雲助師匠が「さん太さん。がんばりました」って書いてくださってて…。またその字がかわいいんだ!たまらないっしょ!
…ああ、もうなんて素敵な話なんだ。
燕弥師匠ってまくらでこういう話を聞かせてくれるからほんとにたまらない。
落語ファンの心もいまだに持っていて、しかもさん助師匠のように話下手じゃない(笑)!
そんなまくらから「猫の皿」。
燕弥師匠の「猫の皿」は、店の主人がかなりの確信犯。かなりのハイテンションなのでさん助師匠が乗り移ったか?と心配に…んなわけない(笑)。
さん助師匠「うどん屋」
さん助師匠の酔っ払いは絡み方が他の人と違う。同じ話がぐるぐる回るところは同じなんだけど、酔っ払いが長唄の歌詞にいちいち文句をつける。「おらぁこれおかしいと思うんだ!」。
ああ、めんどくさい酔っ払い…いるいるこういうやつ。
そしてうどんを勧められて食べる。唐辛子をぜーんぶ入れて。
へんてこな「うどん屋」だったけど、なんか面白かった。
さん助師匠「煙草好き」
この間、駒込で聴いた「煙草好き」と少しずつ変わっていた。
面白かったのはまくらで歌舞伎の「娘道成寺」の説明をしたこと。
煙草好きがタバコ好きを追いかけて寺に走り逃げるところで、まくらの「娘道成寺」が浮かんできて、そのギャップとばかばかしさに笑ったー。
こういうところに、さん助師匠のセンスを感じるなぁ。おもしろーーい。
燕弥師匠「火事息子」
ネタ出しされた時から絶対にいいだろうと思っていたけど、ほんとによかった、燕弥師匠の「火事息子」。
屋根の上で番頭に声をかけるところ。勘当した父親と対面するところ。
ちょっと目を伏せただけでものすごいかっこよくてきれいでぞくぞくっ。
多く語らなくても申し訳なさとそれでも火消しになりたかった気持ちが伝わってくる。
やっぱり燕弥師匠には「いい男」が似合うなぁ。すごく素敵な「火事息子」だった。
第381回 圓橘の会
・圓橘「御慶」
ある日珍しく奥様が奉公人も連れて芝居見物に行こうと言い出したので、お峰は病気をした叔父が心配なので見舞いに行きたいと申し出ると、奥様はそれを許してくれた。
久しぶりに行ってみると叔父は患って床につき、暮れに高利貸から借りた金を返せないとこの長屋にも住んでいられなくなる、と言う。
どうかお屋敷の奥様にお願いしてお金を借りてきてほしいと言われたお峰は「承知しました」と言う。
大みそかの夜、ほろ酔いで家にやってきたのはこの家の長男。長男は先妻の子なのだが、財産は今の奥様の子どもたちにやると言われていて、それが面白くない長男はしょっちゅうこの家にやってきては金をせびる。
この日も年の瀬に金をせびるつもりでやってきて居間のコタツで高いびき。
そこへ戻ってきた奥様。長男の姿を見るととたんに機嫌が悪くなる。
そこへお峰が「この間お願いしたお金を…」と申し出たものだから「誰が貸すと言った?私はそういう話なのか、わかりました、とそういっただけだ」と撥ねつける。
しばらくするとここの家作の大家が店賃を持ってくる。それを手文庫に入れるようにと申しつけられたお峰。言われた通り手文庫に金を入れる。
しばらくすると弟の三之助がお金を取りにやってくる。追い詰められたお峰は、いけないことだとは知りながら先ほど手文庫に入れた金に手を出してしまい…。
くーーーー。こういう「落語」が聴けるってほんとに幸せ。圓橘師匠ってほんとに素敵だな…。
カッティング・エッジ
★★★
リンカーン・ライム・シリーズ最新作!
ダイヤへの妄執を紡ぐ殺人者――ニューヨークを揺るがす大犯罪を暴け。
シリーズ原点回帰の傑作。ダイヤモンド店で三人の男女が無惨に殺害された。
被害者は婚約指輪を受けとりにきたカップルとダイヤ加工職人。現場からはダイヤモンドも持ち去られていた。科学捜査の天才リンカーン・ライムが捜査を担当することになるも、犯行直前に店を訪れた人物が殺害され、さらにはやはり結婚間近の男女がダイヤモンドへの妄執を口にする男に襲撃され、辛くも難を逃れる事件が起きる。連続する事件に振り回されるライムらのもとに、「プロミサー」と名乗る人物から、婚約したカップルへの異様な殺意を表明するメールが届いた。
犯人は関係者を次々に殺害しながら、逃走する目撃者のあとを追う。犯人より先に目撃者を確保すべく、ライムと仲間たちは必死の推理と捜査を展開するが――ダイヤモンドをめぐる連続殺人は、やがて、ニューヨークを揺るがす大犯罪へとつながってゆく。後半にさしかかるや、意外な事実が次々に明かされ、事件の様相はめまぐるしく更新される。
名探偵VS完全犯罪計画の醍醐味を徹底追求した原点回帰の第14作。
今回はちょっといまいちだったなぁ。だって最初から絶対そうだと思ってたもん!私に分かられるようじゃ…ちょっとヤキが回ったんじゃないのかい?
と思ったけど、巷の評価は結構高いのね。ほー…。
それまでの経緯やわかってきたことをホワイトボードに書くの、やめちゃったんだね。今回はそういう積み上げて分かっていく展開ではなかったからかな。
悲劇的な目に遭った登場人物がまた登場するのがシリーズものの楽しさ。
捜査の時は非情だけど、実は優しいリンカーンライム。なのできっと次回作も読む。
さん助ドッポ
12/18(水)、お江戸両国亭で行われた「さん助ドッポ」に行ってきた。
さん助師匠 初代談洲楼燕枝の述「西海屋騒動」第三十三回「大団円」
結局悪人の両親から生まれ父を殺され自分を連れて逃げようとした母を殺され…その因縁だったんだな、とようやく納得。
とりあえず次回は2020年5月4日(月)、深川江戸資料館(清澄白河)で「さん助ドッポ」。
第八回 柳家さん助の楽屋半帖
~仲入り~
なかの満点座 師走のむかし家今松を聴く
白酒・甚語楼ふたり会
12/12(木)、お江戸日本橋亭で行われた「白酒・甚語楼ふたり会」に行ってきた。
・あられ「子ほめ(序)」
・白酒「家見舞い」
・甚語楼 「味噌蔵」
~仲入り~
・甚語楼 「時そば」
・白酒「御慶」
白酒師匠「家見舞い」
あられさんが不測の事態で「子ほめ」の最初の部分をやっただけで下がってしまったので、慌てて着替えて出てきた白酒師匠。笑顔。
外と中で温度差があるとこういうこと、あるんですよ。でも今日は…あったかですけどね…。
自分も鈴本のひざ前の出番で鼻血を出したことがあるというエピソードを紹介して「家見舞い」。
道具屋のおやじが出してくる品物を最初「いいな!これいいな!」と喜んで、値段を聞いて「あ、だめだな。お前もだめだろ?あ、こいつがいやだって」の繰り返しがなんといえずおかしい。
はっきり持ってるお金を言えなくて発音がフランス語っぽくなるのもたまらない。
瓶を買ってから二人で洗うんだけどそのしぐさもめちゃくちゃおかしい。
テンポ、しゃべり、しぐさの全てが絶妙で笑った笑った。
甚語楼師匠「味噌蔵」
もったいない、という日本語にぴったりの外国語はないという話から、師匠自身がなかなか物を捨てられないというまくら。
きれいな缶に小さくなっちゃった服。小さくなったっていっても服が小さくなるわけないから自分が大きくなっちゃってる。でもいつか痩せたら着ようと思って大事にしまってある。
…わかる!!私も「痩せたら着よう」という服がどれだけ残してあることか…。時々「もう痩せないよ…」という気持ちになって袋にまとめるけど、これがなかなか。
そんなまくらから「味噌蔵」。
けちべえさんが異常なほどのケチなのでここまでくると漫画チックで笑ってしまう。
渋々おかみさんをもらって初日からおかみさんを二階に上げちゃってあんまりなんだけど、寒い晩に自分のせんべい布団を嘆いて「そういえばおかみさんはふかふかの絹布の布団を用意してきてたな」「貸してくれないなんて情がない」と言うのも笑ってしまう。
寒いから二階に上がって…のくだりも、繰り返しがおかしくて微笑ましい。
子どもができて弱り果てて番頭さんに相談するところは見ていて「うううん…」と思うけど、無事に生まれたと聞いて「こんなあたしでも本当に嬉しい」と喜ぶ姿に救われる想い。
その後の展開は、こんな奇人の主人の扱いに慣れてる番頭さんが大活躍で、奉公人がか語る「当家のお味噌汁はお味噌汁じゃない。そしるです」の言葉に実感がこもっていて、気の毒になるやらおかしいやら。
楽しかったー。あとは主の締め付けがこれ以上きつくならないことを祈るなぁ…。
甚語楼師匠「時そば」
近所の洋食屋で「落語好き」のお客さんが奥さんに話している内容が耳に入って食べた気がしなかった、というまくら。
そうなんだろうなー。と思いつつ、私も友達と飲んだりするときは好き放題話してるから近くに噺家さんがいないか気を付けるようにしよう…どきどき…。
そんなまくらから「時そば」。
最初の客の食べるそばがほんとにぽきっと音がする!おいしそう!
二番目の客の食べるそばはほんとに太くて腰がないのが音でわかる。
スピードがあって楽しかった。
白酒師匠「御慶」
楽しい!年末に白酒師匠の「御慶」が聴けたらめっちゃ幸せだ。
「ぎょけいっ!」という素っ頓狂な声が楽しくて大笑いだった。
柳家小三治・柳家三三 親子会
12/12(木)、関内ホールで行われた「柳家小三治・柳家三三 親子会」に行ってきた。
・こごと「道灌」
・三三「紋三郎稲荷」
~仲入り~
・小三治「湯屋番」
三三師匠「紋三郎稲荷」
膝が痛くて近所の外科へ行ってきました、と三三師匠。
受付にいたのは60代ぐらいの男性。この人が先生なのかな、と思っていると中から出てきたお医者さんは優に80代は超えていそう。
噛み合わない会話に震える手で膝に注射。
その後先生に「正座をしても大丈夫ですか」と聞くと「だめ!正座なんてもってのほか!」
「いやでも…しないわけにいかないものですから…」
「そんなことないでしょう!今は椅子で事足りるでしょう!」
「いやその職業柄正座は必須なんで…」
なんて会話をしていると後ろからさっき受付にいたおじさんが「あなた落語家だ!どっかで見たことある!そうでしょう?私落語好きなんですよ。詳しいんですよ。ちょっと有名でしょう?」
「え、ええ…?」
「でも名前が出てこないな…ええとええと…お名前は?」
「ああ、三三といいます」
「え?さんざ?え?…上は?」
「柳家です」
「柳家さんざ?…へー」
…落語好きで落語詳しいけど私のことは知らなかったみたいです…。
その後に入って来たおばあさんとのエピソードもおかしかった。
長めのまくら。三三師匠もししょうにならってまくらがながくなってきた?(笑)。
ちゃんとオチまであってよく考えられてる印象だった。
そんなまくらから「紋三郎稲荷」。
狐の胴巻きを着た侍を本物の狐と勘違いする俥屋の様子がおかしい。
お狐様を信仰する宿に泊まって手厚くもてなされお賽銭までもらっちゃうのが楽しい。
面白かった。
小三治師匠「湯屋番」
この季節に横浜に来ると私が思い浮かぶ歌はあれですね…と公園の手品師。
でもマネージャーに言われちゃった。「師匠、歌い過ぎです!」
いいじゃないの、同じ歌をまた歌っても。でもだめだって。
横浜はいろんな歌がありますね。♪よこはま~たそがれ~♪ なんて1フレーズ歌って途中で歌詞がもやっとなって「だいたいね。落語のセリフだって忘れちゃうんだから。歌の歌詞なんて覚えていられねぇよ」。
それから、横浜と言えばあの夫婦ですね…。あの夫婦はいいよねぇ、二人で好きなことしてさ。
FM雑誌の企画であの旦那の方…ほらあの…そう、宇崎竜童と対談したことがあったんですよ。
くそして屁して…なんて歌うたってるからどんな奴が来るのかと思っていたら、すごくまじめな腰の低い普通の人でね…安心しました。
なんて話をあれこれしたあとに、80歳の誕生日に本が出るという話。「別に買わなくていいよ」と言いながら、「岩波書店っていうのはね本屋から頼まれねぇと本を置かないんですよ。高飛車でしょ?だから本屋で見ることも難しいかもしれない。だからきっと売れないですよ。でも今まで出た中で一番いい本になってますよ、きっと。そんな気がする」
…そこまで言われたら買わないわけにはいかないでしょう。って言われなくても絶対買うんだけど。
それから横浜から江の島へ…高3の時に演芸番組の賞品でもらった自転車に乗って自宅から江の島まで走って来た、という話。
初恋の人が父親の会社の保養所かなにかが江の島にあるからそこに泊まりにこない?と誘われたのだけれど、自分の家はとても固い家で泊まりなんか許してもらえるはずもない、といったんは断ったものの、自転車が手に入ったので…しかもサイクリング車…乗ると前のめりになるあのかっこいいやつですよ。
早朝に出て江の島に着いたのは12時頃でしたか。もう江の島は佃煮にするぐらい大勢の人。この中から彼女を探すことなんかできるんだろうかと思いかけた時、その彼女がね、海岸から現れたんですよ、私の前に。宿舎に帰るところだったんでしょうか。
こんなことってあります?!運命だよ!!安い映画じゃないんだから!
というのをね…同窓会で再会した彼女に話したんですよ。そうしたら「あら…そんなこともあったかしらね」だって!
ひっぱたいてやろうかと思ったよ!
なかなか名前が出てこなかったり歌詞が出てこなかったりするたびに「今日はね、だめです」「ま、そうはいってもいつもだめなんだけど」とか言いながら、「今日は若いころに覚えた噺をしようかな。思い出し思い出ししながら」
…そういったかと思うと、若旦那が居候先の親方に呼ばれるところ。
季節外れの「船徳」?と思って聞いていると、これは…「湯屋番」!!小三治師匠を追いかけて見に行くようになって5年?ぐらいになるけど、まだ一度も生で聴いたことがなかった噺!
若旦那がいかにも軽くて女好きで遊び好きなのがにじみ出てる。
その若旦那が居候先のおかみさんからおまんまを十分にいただけてないというのを親方に語るのがすごくおかしい。
「たたき飯ののし飯のそぎ飯のこき飯」なんか恨みがこもってるんだなぁ…。
さらにおまんまは隣の家の新内の師匠の家でもらってると聞いて親方が「そんなことしてもらっちゃ困る」と言うと、それもお腹が空いたからとは言わずに「魚の骨が喉につかえて」と言って遠回りをしていただいてるんだ、と胸を張るおかしさ。
お湯屋に着いてから主とのやりとりはいかにも若旦那の甘さが出ていておかしい。
「煙突掃除の泥の助」じゃ見栄を切ってもかっこがつかない、と言ってそのしぐさをやるんだけど、なんだろう…こう若手が「腕の見せ所」と作ってやってる感じとは全然違う。そんなにかっこつけたりしない…さらっとやってるんだけど、かっこいいんだー。
番台に上がってから、男湯をのぞいて文句を言うんだけど、一人一人に声をかけて小言を言うのがすごくおかしい。さすが小三治師匠の若旦那!って思って大笑いだった。
妄想の部分も無理にはしゃいだ感じがないんだけど、女にもて慣れてる若旦那が結構リアルに妄想しているのがすごくおかしい。
時々にこっと笑ったり、にやけるのが、かわいいんだ。
初恋の人の話をしたせいなのか、若いころによくかけていた噺だからなのか、すごく若々しくてびっくりした。
この間江戸川落語会でのんびりした田舎の情景を渋く描いた小三治師匠が、今度は女好きの若旦那になって一人ではしゃいでいる。
落語ってすごいなぁーとしみじみ感じたし、小三治師匠の会はやっぱりできるだけ見に行かなくちゃ!と思ったのだった。
あーいいもの見た!
このあたりの人たち
★★★★
そこには、大統領もいて、小学校も地下シェルターもNHKもある。町の誰も行くことのない「スナック愛」、六人家族ばかりが住む団地の呪い、どうしても銅像になりたかった小学生。川上弘美が丹精込めて創りあげた、不穏で、温かな場所。どこにでもあるようで、どこにもない“このあたり”へようこそ。
不穏なのになぜかほくほくと安心できる「このあたり」。
子どももおじさんもおばさんもおばあさんもおじいさんもみんななんか変だ。
噛み合わない会話、予期せぬ反応、あっという間の驚きの展開。これがめちゃくちゃ癖になる。
そして何度も出てくるのが「くさい」「ものすごくくさい」。
くさいの…やだなぁ…でも確かめずにいられないんだよな、くさいのって。
あーおもしろかった。
赤い髪の女
★★★★★
ある晩、父が失踪した。少年ジェムは、金を稼ぐために井戸掘りの親方に弟子入りする。厳しくも温かい親方に父の姿を重ねていたころ、1人の女に出会う。移動劇団の赤い髪をした女優だ。ひと目で心を奪われたジェムは、親方の言いつけを破って彼女の元へ向かった。その選択が彼の人生を幾度も揺り動かすことになるとはまだ知らずに。父と子、運命の女、裏切られた男…。いくつもの物語が交差するイスタンブルで新たな悲劇が生まれる。ノーベル文学賞作家の傑作長篇。
久しぶりに読んだパムク。
繰り返される子殺しと父親殺しの神話に導かれるように主人公ジェムの人生はすすんでいく。
第一部と二部の前半を読んだときはパムクにしてはおとなしめ?観念的な作品なのかなと思ったのだが、三部まで読んでおおおっとなる。
信頼できない語り手…。父子殺しにとりつかれていたのは果たして誰だったのか。
表紙の赤い髪の女が目に焼き付いて離れない。面白かった。