りつこの読書と落語メモ

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喬弟仁義

8/31(土)、池袋演芸場で行われた「喬弟仁義」に行ってきた。

・左ん坊「からぬけ」
・喬の字「のっぺらぼう」
・喬之助「天災」
・さん助「夏の医者」
~仲入り~
・小太郎「四人癖」
・小平太「馬のす」
喬太郎「拾い犬」

さん助師匠「夏の医者」
おとっつぁんの具合が悪いので隣村の医者の先生を訪ねてきた息子。
山を越えすそ野をぐるっと回ってようやくたどり着き、呼んでも出てこないので見てみると、先生は畑で草むしり。
声をかけると、もうよぼよぼのおじいさん。…さん助師匠のよぼよぼ具合がすごい(笑)。
よぼよぼで耳も遠くてほげーっとしているのに「患者」と聞いて、はっとなって少し普通に戻るのがおかしい。
それじゃ行くべぇと歩きながら「お前は誰の倅だ?」と聞くと、若いころに一緒に遊んだ友達の子だとわかって大喜びの先生。
「あいつとはよくつるんで遊んだもんだ。村におなべっちゅう女がいて、この女が抱かせてくれるっちゅう噂があって二人で夜這いに行って…」。
夜這いの話を克明に語る先生に、「そんな話、聞きたくなかった!」と息子が言うのがめちゃくちゃおかしい。

山の頂上でタバコを一服のシーンものんびりしていて気持ちのいい風が吹いてくる感じ。
そこから一転して真っ暗になってどうやらうわばみに飲まれたらしい、と分かったときの先生の落ち着きがまたいい。

鈴本のトリが終わった次の日のさん助師匠。抜け殻なんだろうなぁと思っていたら決してそんなことはなく…ほどよく力が抜けてとてもいい「夏の医者」だった。
楽しかった。


小平太師匠「馬のす」
仲入りの時に喬の字さんの真打披露のチケットを売っていたんだけど、「私もやったばっかりだからわかるんです。本当に披露目の興行には来てほしいんです。特に鈴本は300名入る大きな会場ですから、ここがガランとしてると寂しいんです。来てください。喬の字の落語なんか聞きたくなくてもいいんです。口上に並ぶうちの師匠目当てでも…他にも豪華なメンバーが集まりますからそちら目当てでもなんでもいいんで。ぜひ来てください」。
心のこもった言葉にじーん…。いいもんだなぁ、兄弟子って…。ちょっと泣きそうになった。

そんなまくらから「馬のす」。
これが本当に素敵な「馬のす」でちょっとびっくり。
釣り好きの小平太師匠らしく、道具の扱いの所作がとてもリアルできれいでウキウキが伝わってくる。
馬のしっぽを抜いて兄貴分が「お前…今…馬のしっぽを抜いた?」と声をかけてきて、上がってからのやりとりは、兄貴分のじらし方と話が聞きたい男のじれ方が絶妙でとても楽しい。
特に兄貴分がどうでもいい話を延々とするところ…「電車…混んでるなぁ?」には大笑い。
すごく楽しかった。
二ツ目の頃から好きだったけど、やっぱり真打になると違うんだねー。と思っていたら、10月に鈴本のトリが決まったとの知らせ。これは行かねば!


喬太郎師匠「拾い犬」
初めて聴く噺。
貧乏長屋に暮らす二人の少年が白い犬を拾ってきて長屋で飼いたいと言うのだが、おかみさんたちに猛反対されてしまう。
間に入った大家さんが「犬は金持ちに飼ってもらうのがいい」と預かり、ある大店で飼われることに。
白犬のことが気になる少年が毎日その店を覗きに行っていると、そこの主人から声をかけられ、その少年のことを気に入った主人は「うちの店で奉公しないか」と言ってくれる。
それから10年が経って…。

いかにも落語の人情噺らしいストーリー。
笑いどころはそれほどない噺だけど、そこはクスグリやギャグを入れて時々ぶわっ!と笑わせつつ…人物がきっちり描かれているから噺に引き込まれる。
そしてシロのかわいらしさよ。やっぱりこういうところから説得力って生まれるのね、としみじみ…。
久しぶりに見たトリの喬太郎師匠。迫力があった。

鈴本演芸場8月下席夜の部(10日目)

鈴本演芸場8月下席夜の部(10日目)に行ってきた。

 

・左ん坊「子ほめ」
・小太郎「ん廻し」
・アサダ二世 マジック
・玉の輔「財前五郎
・喬之助「堀之内」
・正楽 紙切り
・琴調「さじ加減」
・菊之丞「浮世床(本、夢)」
~仲入り~
・ニックス 漫才
・扇遊「お菊の皿
翁家社中 太神楽
・さん助「七度狐」

 

小太郎さん「ん廻し」
めちゃくちゃ面白かった。
お酒を前に「かくし芸をやってそのご褒美で木の芽田楽をあげる」と言われて、それぞれが披露するかくし芸。バカバカしい芸の数々に 笑った~。
ぎゅっと客席を引き付けた感じ。なんかすごいな、二ツ目なのに。

 

正楽師匠 紙切り
「さん助師匠」のお題に、「今日のトリね…さん助師匠」「とにかくすごいから。今日初めて見る人はびっくりするよ。ふふふ」。
この興業、何回「さん助師匠」を切ったのかな、正楽師匠は。
どんどんスピードアップして本人にそっくりになってきているのが最高すぎる。
そのあと、「結婚式」のお題に切り始めた時も「けっこんしきーーー♪けっこんしきーーー」って少し立ち上がって「あ、今ちょっとさん助が入ってます」に大笑い。
ファンにはたまらないこんなトーク


琴調先生「匙加減」
おおお、また違う話だ。
「匙加減」、落語では聞いたことがあったけど講談では初めて。
やくざ者でも恐れることなく対等に張り合える大家さん、素敵…。なんなんだろうな、こういう落語や講談に出てくる大家って。今の世の中にかけているのはこういう人間なのかもしれないなぁ。
10日間…代演もあったけど、全部違う話を聞かせてもらえてほんとに楽しかったなぁ。


菊之丞師匠「浮世床(本、夢)」
最初から最後までとっても楽しい。
「本」はいつも笑っちゃうんだけど、菊之丞師匠はくどすぎずさらーっとスピーディにやるんだけど隅々まで面白い。
「夢」は色っぽい菊之丞師匠にぴったり。音楽的だからおちょこが歌うところもご機嫌で楽しくて。
ほんとにこの芝居、菊之丞師匠にはヤラれたわー。惚れ直したわー。


扇遊師匠「お菊の皿
この日のお客さんにほんとにぴったりな噺。
おそらく落語をあまり聞いたことがないお客さんが多かったので「怪談?」「どういう展開?」ってわからずに聞いていて、この内容なので、ほんとにどっかんどっかん!と受けてた。
扇遊師匠の「お菊の皿」はお菊さんがお客さんが増えてこなれてくるところはなし。
いきなり興行になるので、お菊さんがどんなふうになっているかが初めて見る人にはわからない。
で、皿を数えると確かにくさくはなってるんだけど、おふざけがないので、まだ恨みを持っているようにも見える。
それだけにサゲが生きてくるわけで…
やっぱりこの噺は余計なあれこれをやらないほうがほんとに面白い、としみじみ思った。


さん助師匠「 七度狐」
この間聞いたこわーい映画の小噺で、どっかん!
これ、ほんとに最高。特におずおずと始まる、さん助師匠のちょっと音痴な歌声に笑ってしまう。
江戸っ子の旅のまくらから、気の合う二人連れが旅をしているところ。
後ろを歩く一人が「腹が減ったからちゅうじきにしよう」と何度も。
歩いていると飯屋を見つけて入る。
お、おお?「二人旅」?と思っていると、店にいるのはおばあさんではなくおじいさん。
酒を注文してつまみに何か…と探していると、そこにうまそうなイカ木の芽和えがある。これをくれ、と言うと、いやこれはこれから村の集まりがあってそこで出すものだからダメだ、とおじいさん。
ちょっとぐらいいいじゃねぇかよ、一人前だけ。無理なら半人前でもいい、と言っても「できません」。
ムッとした男が、勘定を支払って、イカ木の芽和えが入っている小鉢を持って駆け出す。

…おおお、これは「七度狐」だ!
投げた小鉢が林にいた狐に当たって、狐がぬおおおおおーーっと立ち上がるところがおかしい。
さん助師匠がぬおおっと立ち上がるとそれだけでおかしいんだな。
それから川が現れて裸になってそこを渡ろうとする二人。ここにも鳴り物が入ったらよかったなー。なんて思いつつ。

日が暮れて野宿になるかもしれないと思っているところに見えてきた寺。
ここに一晩泊めてもらおうと訪ねてみると、中から出てきたのは尼さん。
尼寺なので男性を泊めるわけにはいかないけれど、お寺でお通夜をするならいい、と言われる。
二人が尼さんからまずいべちょたれ雑炊をご馳走になると、尼さんはこれから自分は用事があって出かけるので留守番をしてもらいたい、と。
その前に、寺は夜になると裏にある墓場でしゃれこうべや赤ん坊の幽霊が騒ぎ出す、と聞かされていた二人は嫌がるのだが、尼さんは出かけて行ってしまう。
灯りを絶やさずにいれば幽霊も出てくることはないと言われていたので必死に油を注ごうとしてまちがえて…。
二人が怖がってきゃーきゃー言っているところで、鳴り物がどろどろどろ!!!
おおお!!と思っていると、さん助師匠は「あ、違います。そこじゃないです。」。
ん??
どうやらこのタイミングで鳴らすところではなかったらしい。
「こういうことがあるんですね…だからちゃんと稽古しなきゃだめですね」に大爆笑。
それからまた気を取り直して噺に戻り…
金貸しのばあさんの棺桶が運ばれてきて、このばあさんが「カネ返せ~」と化けて出たところで、鳴り物がどろどろどろどろ!!!
「そうです、ここです。ここで入るところでした」。
失敗をちゃんと笑いに変えてえらい!

千秋楽にこの噺を選ぶなんて、ほんとにさん助師匠らしいなぁと思うし、この人にはやりたい落語、見せたい景色があるんだなぁ、というのを感じた。
初日が「鴻池の犬」で最終日が「七度狐」。 ほんと、面白い噺家さんだな。
さん助師匠のトリは今回で3回目。見るたびにどんどん変わってきているし、今回は少し太くなった感じもして、ほんとに毎晩楽しみだった。
ありがとうありがとう。

 

【トリネタ】
・1日目 「 鴻池の犬」
・2日目 「子別れ」
・3日目 「もう半分」
・4日目 「佃島
・5日目 「妾馬」
・6日目 「らくだ」
・7日目 「宮戸川(通し)」
・8日目 「不動坊」
・9日目 「藪入り」
・10日目「七度狐」

鈴本演芸場8月下席夜の部(9日目)

8/29(木)、鈴本演芸場8月下席夜の部(9日目)に行ってきた。

 
・ひこうき「狸札」
・やなぎ「牛ほめ」
・アサダ二世 マジック
・玉の輔「お菊の皿
・喬之助「真田小僧
紙切り 正楽
・琴調「万両婿」
・菊之丞「酢豆腐
~仲入り~
・ニックス 漫才
・扇遊「つる」
仙三郎社中 太神楽
・さん助「藪入り」
 
紙切り 正楽師匠
「障子の穴」のお題に、うわ、またこれはあれか、「闇夜の烏」的なお題かと思って、正楽師匠も「障子の穴?」と少しムッとしつつ、「あ、でもこうしよう。決めた」ってニコニコ切り始めてしばらくしてから…「あっ!さっきの噺か!障子にね、子どもが指でこう穴をあける…ね?真田小僧ね!」。
切りながら、お題について考えて、前方の落語の演目だ!って気づくって…すごいな、正楽師匠。
切った作品も素晴らしかった。物語があって。くーーー。
 
琴調先生「万両婿」
おお、また違う話だ。そしてこれは落語の「小間物屋政談」。
まー酷い話(笑)だけど、タイトルからわかるようにこれは一度どん底に落とされたものの逆玉に乗れる成功譚なのだな。
コミカルなところもあって楽しかった~。
 
菊之丞師匠「酢豆腐
わーーーー、菊之丞師匠の「酢豆腐」が見られるとは!幸せー。
もうこの若旦那が菊之丞師匠にぴたりとはまって楽しい楽しい。
センスを斜めにやりながら「こんつわ」とか「〇〇でげしょ」とか言うのが、リズミカルでなよっとしていて最高。
それを聞いて「あーー〇〇ですか」とげっそりする江戸っ子との対比が楽しい。
ずっと笑いどおしだった。楽しかった!
 
さん助師匠「藪入り」
先代のさん助師匠のおかみさんのところに年に二回伺っているというさん助師匠。
だんだんなじんできて最近ではおかみさんがいろんな話をしてくださるようになって、この間はさん助師匠との馴れ初めを話してくださった、と。
 
…ああ、素敵だなぁ。さん助師匠って緊張症だからきっと最初のうちはあわあわしてて話どころではなかったんだろうけど、徐々にお互いに慣れていって、昔話をいろいろ聞かせていただける…さん助師匠がそういう話をとても楽しんで聞いていることが伝わってくるし、私たちもそういう話を聞けるとものすごいお得感。嬉しくなる。
 
そんなまくらから「藪入り」。
さん助師匠の「藪入り」は、くまさんがちょっとひねくれてる。
まだかまだかと待ちわびて4時と聞いて家を飛び出すと家の前の掃除。そこで近所の人たちに声をかけられたときのしゃくれ方に笑ってしまう。
ようやくかめちゃんが帰ってきたら変な任侠みたいなあいさつで返すし、顔を見られなくてヘンテコな態度。
でも自分が病気の時にかめちゃんがくれた手紙がなにより薬になったということを話し始めると、それまでのヘンテコな態度はなくなって、素直に自分の気持ちを語りだす。
まだ10歳の子どもを奉公に出す親の心配はいかばかりだったかと思う。その子が三年ぶりに帰ってきて大人びた口をきかれたら、確かにどう返していいかわからなくなるよな…。
 
がま口に大金を見つけたあとは、かーっと頭に血が上ってかめちゃんをぽかりとやってしまうくまさん。
盗んだと決めつけられたかめちゃんが、それまでの大人びた口調から一転して子どもに戻ってしまうところが泣ける…。
ほんとはまだまだ子供なんだよ。
でも誤解されて傷つけられてもけろっと水に流せるのが親子。
さん助師匠にしたら抑えめ?だったけど、じんわりとよかった。
 
いよいよ残り一日。
あー、あっという間だったなぁ。
 

七つのからっぽな家

 

七つのからっぽな家

七つのからっぽな家

 

 ★★★★

家庭や日常に潜む狂気をえぐりだす「家」をめぐる7つの短篇。国際ブッカー賞最終候補、ラテンアメリカ新世代の旗手の代表作。 

一話目を読んで、この母親、何かがあって一時的に正気を失っているのか、あるいは狂ってるの?と思いながら読んでいると、あーでも自分もほんの少し理性が飛んだら同じことをしそうだなと思う。

そもそも正常と異常の境目ってなんだろう?
自分が生きている「日常」にも異常なことは幾らでもある。これは今は正常、これはぎりぎりセーフ、こうなるとアウト、みたいな判断をしながら生きることのつまらなさをふと空しく思い、いやでもまだ私は…まだ!とも思う。

足元がぐらつくような不穏な短編集。「空洞の呼吸」が飛びぬけて凄かったけど、楽しそうに庭で走り回る裸族の両親の姿が目に焼き付いてる。

南米の作家だけどいかにも南米という感じはしなくて、むしろ最近の日本の若い作家に似た雰囲気。
面白かった。

鈴本演芸場8月下席夜の部(8日目)

8/28(水)、鈴本演芸場8月下席夜の部(8日目)に行ってきた。


・小はだ「二人旅」
・小んぶ「強情灸」
・アサダ二世 マジック
・玉の輔「宗論」
・喬之助「寄合酒」
・正楽 紙切り
・琴調「鋳掛松」
・菊之丞「幇間腹
~仲入り~
・ニックス 漫才
・扇遊「浮世床(夢)」
翁家社中 太神楽
・さん助「不動坊」


琴調先生「鋳掛松」
わーい、また聞いたことがない話だ。嬉しい~。
鋳掛屋の息子・松五郎。12歳の時に呉服屋に奉公に出る。ある日、使いに出た時に泥棒に脅されるが機転を利かせて泥棒を手玉にとる。それを知った店の主人、褒めるどころか「この子は頭が良すぎるからいつか店を滅ぼすことになるかもしれない」と言って松五郎に暇を出す。
そんな理由で暇を出されるとは…これも鋳掛屋の倅だからだ…と父親は嘆くが、松五郎は自分は鋳掛屋を継ぐから教えてくれ、と言う。
父が亡くなったある日、両国橋で枝豆売りの母子に出会い…。

同じ人間でも金を持ってる人間と金のない人間がいて雲泥の差があるというのを目の当たりにした松五郎が「だったら俺も太く短く生きようじゃねぇか」と考えるところは、確かに呉服屋の主人の見立てもあながち間違ってはいなかったのかもしれない、と思わせる。
悪の道もかっこよく描くところが講談の魅力だなぁ。


菊之丞師匠「幇間腹
この芝居、菊之丞師匠の高座がほんとに素敵で。
さん助ファンにマニアックな香りを感じるせいなのか?普段聞けないような話をまくらでしてくれたり、さん助師匠の落語と対極にあるような音楽的なノリのいい落語を披露してくれるのが毎回楽しみで楽しみで。
ほんとに顔付け最高だな~。鈴本演芸場よ、ありがとう。

幇間腹」も一八の調子の良さがたまらなくおかしい。
しなやかなんだなぁ。だからもう見ているとウキウキお腹の底から楽しくなってくる。
うーん、丞様素敵。

 

扇遊師匠「浮世床(夢)」
女にもてた話を気取ってするはんちゃんとそれに食いつく若い連中のワイワイガヤガヤ。
楽しいなぁ。浮世床の夢がこんなに楽しいか。扇遊師匠がこの位置で出てるってすごい贅沢!
すごくいい感じにあったまるんだよなー。


さん助師匠「不動坊」
さん助師匠の「不動坊」の面白さったらない。
大家さんにおたきさんとの結婚を勧められた吉さんが「おたきさんはあたしの女房なんです」と言って「ください!ください!」と迫ると、大家さんが「お前さん、気持ち悪いよ」と言うのがめちゃくちゃおかしい。
自分で気持ち悪いってわかってるんだ?(笑)

風呂屋さんでの浮かれっぷりも楽しいんだけど、なんといっても元前座のおじいさん。これがもうたまらない。
稽古の時のド迫力。これがまた気持ち悪い(笑)。
そして本番になったときの…。

もうほんとにおかしくておかしくて爆笑の連続でこういう「不動坊」は他の噺家さんでは見られないなぁと思うと、私はほんとにさん助師匠の落語が好きだなぁと思う。
好きじゃない噺なのにこんなに面白いってすごい。

あーーさん助師匠のトリも残すところあと2日。
あと2日で終わってしまうのがとても寂しい。でもあと10日続いたらお金も体力も持たない(笑)。

そして昨日はついに正楽師匠に「さん助師匠」を切っていただけた。
というより自分で声をかけたのに声が届かずぐずぐずしていたら私の前に座っていた方が私の代わりに声をかけてくださって「はい」と手渡してくれたのだ。うううううー。こんなことってあるかな。ほんとに人の情けが身に沁みた…。
そして切りながら正楽師匠が「さん助さんね…動きのある落語。動くね。なんであんなに動くかね」とか「有望な若手」とか「意外に若い。年寄りに見えるけど意外にね…あはははは…若いんですよね」とかおっしゃるのがまた嬉しくて。
家宝や!

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講談協会定席 広小路亭講談会

8/28(水)、講談協会定席 広小路亭講談会に行ってきた。

・一記「三方ヶ原軍記」
・伊織「源平盛衰記 青葉の笛」
・凌天「村越茂助 左七文字の由来」
・梅湯「谷風の情け相撲」
・すず「仙人」
琴桜おかか衆声合わせ」
~仲入り~
・凌鶴「蒲生三勇士~村上大助誕生」
・貞花「牡丹灯籠 お札はがし」

梅湯さん「谷風の情け相撲」
やっぱり私はかたーい講談より柔らかみのある講談が好きなんだな、と感じる。
途中、行司の物まねがあったり広沢虎造が出てきたりしてとっても楽しかった。


すず先生「仙人」
公団住まいの話から芥川龍之介原作の「仙人」。
口入屋に「仙人になりたい」と言ってやってきた権助。困り果てた口入屋が医者の先生に相談に行くと、そこのおかみさんが「だったら家で引き受けましょう」と言う。
やってきた権助に「20年間、お給金なしで働きなさい。そうすれば仙人の法を教えてあげる」とおかみさん。
果たして20年目になったときに…。

こういうのも講談になるんだね。私は戦記物よりこういう方が好みだなー。面白かった。


琴桜先生「おかか衆声合わせ」
金沢で米の値段が高騰し庶民が困窮する中、どうにかして声をあげて「御救米」を出してもらおうと、おかみさんたちが奮闘する話。
元気なおかみさんたちがとても生き生き描かれていて、前のめりになって聞いた。
いつの世も割を食うのは庶民なんだな…。めでたしめでたしでは終わらない結末が苦い。


凌鶴先生「蒲生三勇士~村上大助誕生」
わーい、凌鶴先生。
凌鶴先生を定席で見るのはとても久しぶりだったんだけど、いいなぁ。爽やかな風が吹き抜ける感じ。ほっとする。
前に道楽亭で聞いた話。
松井と下男の関係がすごく好き。落語の「やかんなめ」みたい。全然松井を恐れてなくて軽口を叩いたり面白がっているところがいい。
妹がどしーんどしーん!と登場するところも落語っぽくて好き。
楽しかった~。

貞花先生「牡丹灯籠 お札はがし」
講談の怪談、前に浅草演芸ホールで松鯉先生のを見に行ったことがあるんだけど、広小路亭はあそこよりずっと狭い空間なので余計に怖かった。
この話、欲に目がくらんだおみねが亭主を説得して二人で今まで世話になっていた新三郎を裏切るところが怖いと感じることも多いんだけど、今日はひたすらにこのお露の情念が怖かった。
新三郎が心変わりをしたと責める女中と、ただただ新三郎に会いたいとだけ繰り返すお露。
どんなに言葉を尽くしても伝わらない気持ちが恐ろしい。

ほぼ暗闇の中で静かに語られるのがほんとに恐ろしくてぞくぞくした。

池袋演芸場8月下席昼の部

8/27(火)、池袋演芸場8月下席昼の部に行ってきた。
予定があったので仲入りまで。

・与いち「やかん」
・まめ平「真田小僧
・さん助「馬の田楽」
・吉窓「近日息子」
・二楽 紙切り
・志ん橋「のめる」
・扇辰「茄子娘」


さん助師匠「馬の田楽」
おおお。この浅い出番で「馬の田楽」。
田舎の馬子の本領発揮や!と嬉しくなる。
笑いどころの少ない噺だけどさん助師匠の「馬の田楽」はのんびりした田舎の光景が浮かんでくるから好きだなー。
耳の遠いおばあさん、何も聞こえてないのに「お前さんの好きな里芋の煮っころがしは今日は売れちまってねぇんだ」がかわいい。
この噺に色気やギャグはいらないなぁ。
おじいさんたちを気持ちよ~く眠らせてた(笑)。


吉窓師匠「近日息子」
とっても面白かった!
小噺も結構しっかりやったあとの「近日息子」だったけどそんなにたっぷり時間がかかった感じでもない。なんでや?
軽くて明るくて楽しかった~。笑った笑った。


二楽師匠 紙切り
カネゴン」の注文に。
SNSの影響でウルトラマン関係のご注文が増えたんですよ。ありがたいんですけどね。この間私と間違えて正楽師匠に”バルタン星人”を注文したお客様がいらっしゃってねぇ。正楽師匠、すごーーく嫌な顔をしながら切ってたそうですよ」に笑った。
紙切り」のお題にはさみと紙を持ったカミキリムシ。これがなんと立体。
「他の寄席だと後ろのお客様に見えないからやらないんですけど、池袋は最後尾でも見えますからね」とのこと。
スペシャルな紙切りが見られて嬉しかった!!
切りながら話していた「がちゃがちゃの大人買い」の話もとってもおかしかった。


志ん橋師匠「のめる」
こんな噺がこんなに面白い。
どうにかして「つまらねぇ」と言わせようとご隠居に相談に行く男のかわいらしいこと。
表情が豊かで間が絶妙で楽しい楽しい。大好きだ。


扇辰師匠「茄子娘」
出てくるなり「志ん橋師匠、いいですねぇー。もうたまらないでしょ。のめるなんて…あんなどうでもいい噺がなんであんなに面白いのか。最高です」。
「のめる」「だくだく」「熊の皮」…若手はたいてい志ん橋師匠に教わってるんですよ。でも教わった通りにやってもあんなふうに面白くならないんですねぇ。

…わーー。そういう話を聞けるとすごくうれしくなっちゃうなぁ。
そんなまくらから「茄子娘」。
好きだなぁこの噺。夏らしくて不思議でかわいくてバカバカしくて。
蚊帳の中で茄子娘と…の部分は「今日はお子さんもいらっしゃるので手短に」。
楽しかった!

明るい夜に出かけて

 

明るい夜に出かけて (新潮文庫)

明るい夜に出かけて (新潮文庫)

 

 ★★★★

富山は、ある事件がもとで心を閉ざし、大学を休学して海の側の街でコンビニバイトをしながら一人暮らしを始めた。バイトリーダーでネットの「歌い手」の鹿沢、同じラジオ好きの風変りな少女佐古田、ワケありの旧友永川と交流するうちに、色を失った世界が蘇っていく。実在の深夜ラジオ番組を織り込み、夜の中で彷徨う若者たちの孤独と繋がりを暖かく描いた青春小説の傑作。山本周五郎賞受賞作。 

若者らしい繊細さと頑なさが描かれていて、読んでいて懐かしいような痛いような気持ちになった。

深夜ラジオ、コンビニ、SNS。いいこともあれば悪いこともあるけれど、「好き」でつながることの心強さ。
差し伸べてくれる手に気づくことができた富山はきっとこれから自分も手を差し伸べる人間になっていくのかな。

清々しい読後感だった。

鈴本演芸場8月下席夜の部(6日目)

8/26(月)、鈴本演芸場8月下席夜の部(6日目)に行ってきた。

・正楽 紙切り
・琴調「清水次郎長伝 お民の度胸」
・扇辰「団子坂奇談」
~仲入り~
・ニックス 漫才
・小里ん「長短」
翁家社中 太神楽
・さん助「らくだ」


琴調先生「清水次郎長伝 お民の度胸」
わー、また初めて聴く話!
都鳥一家に襲われて血だらけになりながら兄弟分の七五郎の家にたどり着いた石松。
七五郎は七松を押し入れに隠し血痕を全て落とすと女房のお民に家を離れるように言う。
しかしお民はここに残る、一緒に殺されればそれも本望だと言う。
都鳥一家が10名で押しかけてくると七五郎は「石松は昨日来たが今日は来てねぇ」と嘯く。
疑っている都鳥一家に向かってお民は…。

読み始めるとあっという間に任侠の世界に入ってしまうのに、最後は笑いも織り交ぜてくれる、このほどの良さ。
かっこいい~。


扇辰師匠「団子坂奇談」
落語というのはほんとにバカバカしいものです。今から申し上げるのはバカバカしいの中でもほんとにバカバカしいお話です。
そう断って「 団子坂奇談」。
初めて聴く噺。
すごくきれいで不気味で…ああ、こういう扇辰師匠は好きだな…。
聞いていてあれ?この展開、聞いたことがある?と思ったら、「腕食い」だ!

すごーく怖くてドキドキして最後にゲラゲラ!
最高だったー。


小里ん師匠「長短」
「長短」ほど演者によって好き嫌いが分かれる 噺はないんだけど、小里ん師匠のは好き好き大好き。
二人のやりとりが楽しくてかわいかった!


さん助師匠「らくだ」
前半の兄貴分の怖さと立場が逆転してからのコミカルさのギャップが大好き。
屑屋さんが酒を飲んで徐々に変わっていくところ。たっぷりやると説得力は増すけどじりじりしてくるんだけど、さん助師匠のは屑屋さんが飲むのは早くてあっという間に変貌(笑)。
でも、大家さんがらくだが死んだと聞いて「(らくだの)頭を潰せ」といった言葉に屑屋さんが腹を立てているというセリフで最初の「死んだら仏」という言葉に嘘がなかったことがわかる。

らくだを坊主にして菜漬けの樽に骨をぼきぼき折りながら入れるところは迫力満点。
そこから二人で担いで友達のやってる焼き場に担ぎ入れるところのスピード感!
途中でわやわやになるのもさん助師匠らしくて大笑い。
「ひや」のサゲまでやりきるところも大好きだ。

楽しかった!

 

鈴本演芸場8月下席夜の部(5日目)

8/25(日)、鈴本演芸場8月下席夜の部(5日目)に行ってきた。

・ひこうき「狸札」
・喬の字「松竹梅」
・アサダ二世 マジック
・玉の輔「マキシム・ド・飲兵衛」
・喬之助「短命」
・正楽 紙切り
・小ゑん「下町せんべい」
・菊之丞「親子酒」
~仲入り~
・ニックス 漫才
・扇遊「一目上がり」
翁家社中 太神楽
・さん助「妾馬」

小ゑん師匠「下町せんべい」
わーい、小ゑん師匠!
最近寄席に若い女性のお客さんが増えた、というまくら。
「昭和落語心中」というドラマを見て「あらー粋な世界ねぇ。しかも落語家ってあんなイケメンなの?」って思って来るみたいですけど、最後まで待っててもイケメンなんかいませんから!きょうなんかトリがさん助だからね。田舎の馬子みたいなやつですから!

…ぶわはははは!!!
「田舎の馬子」って…言いえて妙過ぎて大爆笑。ツボにはまってしばらく笑いが止まらなかった。
そんなまくらから「下町せんべい」。
最初から最後までハイテンションでめちゃくちゃおかしい。
このせんべいやのおやじさんの江戸弁がすごくかっこいいんだ。江戸言葉フェチの主人公じゃなくてもキャーキャー言いたくなるの、わかる。
笑った笑った。

菊之丞師匠「親子酒」
菊之丞師匠も毎日違うネタをかけてくれてめちゃくちゃ嬉しい!
テッパン中のテッパン。もうほんとに目の前で大旦那がどんどん酔っ払っていくおもしろさ。
わかっていても全部笑ってしまう。楽しい~。

扇遊師匠「一目上がり」
わーん、扇遊師匠も毎日違うネタなんだようー。うれしいー。
こちらもテッパン。
弾むような高座。
最初にはっつぁんが来た時のご隠居の嬉しそうなこと。こういうところがもう全然違うんだなぁ…。
二人の仲の良さが伝わってくるし、教えてもらって「やってこよう」と飛び出すはっつぁんのうきうきした気持ちも伝わってくる。

さん助師匠「妾馬」
さん助師匠の「妾馬」はとても独自。そして聞くたびに違う。きっといろいろ考えて噺を構築しなおしているんだろうな。

お殿様がお鶴を見初めて家臣が井戸にいる八五郎に声をかけるところから。
素っ裸の八五郎は大家の家を聞かれて、今自分が何をしようとしていたか、ここの大家かいかにしみったれかをべらべら喋る。
家臣が大家を訪ねてお鶴のことを聞くと、最初粗相をしたのかと思った大家はお鶴を13歳と言うのだが、殿さまの妾にと言われると今度は18歳だと言う。そして八五郎の悪口をべらべら喋る。
これに家臣が「ここはおしゃべり長屋か!」というのがおかしい。
大家が八五郎宅を訪ねると、家賃の取り立てに来たと思った母親はわざとらしい仮病。「妾にしたい」と言われると自分が妾にされるのかと思ったり、激しい母親のリアクションに大笑い。

それからおつるが男の子を産んで八五郎がお城に呼び出されたことを大家が八五郎へ告げる場面へ。
お屋敷へ上がるところはわりと手短で一人だけお殿様の前に通された八五郎
酒宴の席にお殿様は同席せず次の間にいるのだが、声は聞こえるぐらいの距離感。
飲んでるうちにどんどん声が大きくなる八五郎三太夫が「大声を発しないように」と注意を繰り返すんだけど、八五郎がおつるに会いたい、赤ん坊の顔を見たいというと…。

この三太夫とのやりとりやおつると再会の場面はさん助師匠独自なんだけど、これがほんとにいいんだよなぁ…。
普通じゃないけど、兄妹の絆が見えるし、ならず者の八五郎のことをお殿様が気に入るというのもなんとなく理解できる。

さん助師匠らしい「妾馬」が見られて満足満足。
明日はなにかなー。

 

カム・ギャザー・ラウンド・ピープル

 

カム・ギャザー・ラウンド・ピープル

カム・ギャザー・ラウンド・ピープル

 

★★★★

おばあちゃんは背中が一番美しかったこと、下校中知らないおじさんにお腹をなめられたこと、自分の言い分を看板に書いたりする「やりかた」があると知ったこと、高校時代、話のつまらない「ニシダ」という友だちがいたこと…。大人になった「私」は雨宿りのために立ち寄ったお店で「イズミ」と出会う。イズミは東京の記録を撮りため、SNSにアップしている。映像の中、デモの先頭に立っているのは、ドレス姿の美しい男性、成長したニシダだった。第161回芥川賞候補作。

切り取られたエピソードがぽつりぽつりと展開していく。これらがどう繋がっていくのだろう?と首をかしげていると、最後に一ぶわーっと押し寄せてくる。

しわしわのおばあちゃんの意外にも美しい背中。おなかに張り付く男の顔の感触。膝におずおずと置かれた手の感触。
ああ…思い出すのも嫌な思い出が自分にもある。見たくない、思い出したくない、謝られるのだっていやなのだ。

人身事故で見た光景、雪虫という色彩的なイメージも見事で、読み終わって鳥肌。

鈴本演芸場8月下席夜の部(4日目)

8/24(土)、鈴本演芸場8月下席夜の部(4日目)に行ってきた。

・門朗「道灌」
・小んぶ「幇間腹
・アサダ二世 マジック
・玉の輔「紙入れ」
・喬之助「夏泥」
・正楽 紙切り
・琴調「四谷怪談 お岩誕生」
・菊之丞「天狗裁き
~仲入り~
・ニックス 漫才
・扇遊「たらちね」
翁家社中 太神楽
・さん助「佃祭」

小んぶさん「幇間腹
テッパン。これを小んぶさんで初めて見た時の衝撃は忘れられない。確かテイトレコードで小太郎さんとの会だった。
え?小んぶさんが?え?こんな落語を?って驚いてすごく笑ったんだけど、あの時は「教わったまんまやってます」と言っていた。
あれ以来小んぶさんの落語はどんどん進化していっていて、ほんと面白いなぁ。
若旦那が凝った遊びの「カルテ取り」にはいつも笑ってしまう。最高。


琴調先生「四谷怪談 お岩誕生」
わーー。毎日違う話をしてくれてる!琴調先生、たまらない。
なんとこの位置で「お岩誕生」が聞けるとは思わなんだ。
絵が浮かんで鳥肌がぞわぞわ。
読み終わってから、お札をかっと掲げて去って行ったのが、すごくおかしくてかっこよかった。

菊之丞師匠「天狗裁き
羽織を着ている意味と脱ぐタイミングについてのまくら。
「普段こういうことは申し上げないんですが、本日はさん助さんのお客様ですから特別に」。
ぬおおお。もしや毎日通う私たちのために?(←都合のいい解釈)きゃー。

菊之丞師匠の「天狗裁き」はテンポとリズムがいいから聞いているうちに面白さが渦を巻いていく感じ。
この繰り返しの面白さはリズム感がいい噺家さんじゃないとなかなか出せないのかも。
スピード感があるからだれないんだなぁ。
天狗が出てきてからの展開も見事で、サゲでどかん!
かっこいい~。

扇遊師匠「たらちね」
たらちねがなぜこんなに迫力があって面白いのか。やっぱり人物の演じ分けなのかなぁ。
上下の振り方がぴきっとしていて、一瞬でも人が混ざる感じ?がないんだよなー。
この芝居、毎日扇遊師匠を近くで見ていて、表情の豊かさやキレの良さにハートを奪われっぱなし。

さん助師匠「佃祭」
3人の旦那衆が船を出して沖釣り。
船頭といっても宿の者がやっているのでお天気を見誤ることもある。
夢中になって釣っているといきなりの嵐に遭い船はひっくり返り気が付いたら見知らぬ島。
島の様子を見に行った船頭は「どうやらここは日本ではないらしい。真っ黒に日焼けした男たちがへんてこな恰好をしている」と。
どうにか話をつけて日本に送り返してもらおうと4人が島の人間の前に行って片言で話しかけてみるのだが…。

佃島のまくら、おかしい~。
でもそんなに慌てなくていいから。落ち着いて~(親目線)。
そんなまくらから「佃島」。

仕舞船に乗りそびれて引き留めた女に文句を言う治郎兵衛さん。
彼女が自分が3年前に身投げしようとしていたところを止めて命を助けた女だとわかると「ああ、すっかりいいおかみさんになって。だから私が言ったでしょう。生きていればまたいいこともあるって。あの時死んでいたら今みたいにはならなかったんだから」と満面の笑み。
ああ、ほんとにいい人なんだなぁというのが伝わってくる。
船頭をやってる亭主は言葉は乱暴だけど治郎兵衛さんのことをいつも女房と「命の父」と呼んで感謝していたことがわかる、気持ちよさ。

一方、治郎兵衛さんが死んだと思い込んだ近所の人たちのどたばたは落語らしくて面白い。
悔みを言いに行ってのろけを言ったりする人が多い中、一番心配されていた与太郎が「治郎兵衛さんだけは私のことをバカにしないで優しかったです」「あの治郎兵衛さんはどこに行っちゃったんですか」「治郎兵衛さんにもう会えないんですか」。
与太郎の純真さに涙が出る…。
また後日、人助けをしようと身投げを探して歩く与太郎さんもかわいくて…。
なんかこの噺の印象が全然違うんだな。

ちょっとわやわやしちゃった感じはあったけど、さん助師匠らしい楽しい「佃島」だった。
いやぁ…佃島で来るとは思わなかった。
5日目はなにをやるんだろう。楽しみ!!

 

 

夢見る帝国図書館

 

夢見る帝国図書館

夢見る帝国図書館

 

 ★★★★★

「図書館が主人公の小説を書いてみるっていうのはどう?」
作家の〈わたし〉は年上の友人・喜和子さんにそう提案され、帝国図書館の歴史をひもとく小説を書き始める。もし、図書館に心があったなら――資金難に悩まされながら必至に蔵書を増やし守ろうとする司書たち(のちに永井荷風の父となる久一郎もその一人)の悪戦苦闘を、読書に通ってくる樋口一葉の可憐な佇まいを、友との決別の場に図書館を選んだ宮沢賢治の哀しみを、関東大震災を、避けがたく迫ってくる戦争の気配を、どう見守ってきたのか。
日本で最初の図書館をめぐるエピソードを綴るいっぽう、わたしは、敗戦直後に上野で子供時代を過ごし「図書館に住んでるみたいなもんだったんだから」と言う喜和子さんの人生に隠された秘密をたどってゆくことになる。
喜和子さんの「元愛人」だという怒りっぽくて涙もろい大学教授や、下宿人だった元藝大生、行きつけだった古本屋などと共に思い出を語り合い、喜和子さんが少女の頃に一度だけ読んで探していたという幻の絵本「としょかんのこじ」を探すうち、帝国図書館と喜和子さんの物語はわたしの中で分かち難く結びついていく……。

知的好奇心とユーモアと、何より本への愛情にあふれる、すべての本好きに贈る物語!

 

作家の「私」に上野で話しかけてきたのが喜和子さん。白髪で端切れをつなぎ合わせたようなスカートを履いた個性的な女性。喜和子さんは「私」が作家だと聞くと「帝国図書館が主人公の小説を書いてくれ」と頼む。

物語の中で展開する「夢見る帝国図書館」という物語には、図書館を訪れる文豪や歴史に翻弄される図書館の歴史が語られるのだがこれがとても魅力的。

でもなによりも図書館を愛し自由を愛する喜和子さんがとてもチャーミングだ。彼女の棄てた過去が明らかになるにつれ、なぜ彼女がそこまで帝国図書館にこだわったのかがわかってくる。

本を開けば広がる世界。本好き、図書館好きにはたまらない物語だった。

鈴本演芸場8月下席夜の部(3日目)

8/23(金)、鈴本演芸場8月下席夜の部(3日目)に行ってきた。

・琴調「浅妻船」
・扇辰「一眼国」
・扇遊「夢の酒」
・さん助「もう半分」


扇遊師匠「夢の酒」
奥さんがどんどんカリカリしてきているのに気づかずに、「女中があなたが常日頃から恋焦がれている若旦那と言った」とか「びっくりするようないい女」とか鼻の下を伸ばして話す若旦那の能天気ぶりがとっても素敵。
「怒らない?じゃ話すけどさ」ってもう奥さん怒ってますから(笑)。
そして騒ぎを聞いて止めに入った大旦那。
「なんだ、夢の話か。お花、夢なんだから許してあげなよ」と言うと、お花が「私はやきもちを焼いているわけじゃないんです。若旦那は普段からそういことが起こればいいなと思ってるからそういう夢を見るんです。きっとその女には亭主がいるんです。それで亭主が出てきて…なんてことになったらお店の暖簾に傷がつきます」
それを聞いた大旦那が「…はい。」っていうのが、間といい言い方といい、たまらなくおかしくて大笑い。
夢を見てその女の家にあげてもらった大旦那が、お酒が飲みたくて飲みたくてお燗がつくのが待ちきれなくて何度も「まだですか」と尋ねるおかしさ。
それだけにサゲの言葉に実感がこもっていて大笑い。
陽気で楽しい「夢の酒」、よかったーー。


さん助師匠「もう半分」
せっかくの夏なんで怖い話をします、とさん助師匠。
昔の映画で見たんですが、ある家に強盗が入り強盗は夫婦を縛り上げ、その二人の前に狂犬病にかかった犬をつないだ。縄の上にはギロチンがあり、そのギロチンは縄で上げられていてその近くに蝋燭。
蝋燭の炎が縄に移ったら縄が焼けてギロチンが落ちてきて犬をつないでいる鎖の上に落ちる。それで鎖が切れれば獰猛な犬が夫婦に襲い掛かる、というわけ。
いやこの話のオチが最高におかしくて最高にかわいい。
以前、南なん師匠で聞いたことがあったけど、とってもチャーミングな小噺だなぁ。笑った笑った。

これでどかん!と笑わせたあとに、なんと「もう半分」。
「もう半分」と言って飲み続けるおじいさん。
痩せこけて身なりも汚くてどこか不気味だけれど相当な酒好きでご機嫌で飲んでいる。
まわりの客に「私のようなむさい爺が飲んでいると嫌でしょうが」と愛想を振りまき「そもそもむさいという言葉はどこから来てるかというと」とあれこれ蘊蓄のようなでたらめを言うのがおかしい。
芋の煮っころがしをおじいさんが食べるシーンもなんともいえず汚いような不気味なようなユーモラスなような…。

おじいさんが帰ってようやく店じまいをしようとしておじいさんの残した風呂敷包に気が付く亭主。中に五十両入っているとわかったとたん、女房はなんのためらいもなく「この金はもらっちまおう」と言い出す。
亭主の方は「お前何を言い出すんだ」「あんなみすぼらしい爺さんが持ってる金だ。理由のある金に違いない」「じいさんがかわいそうだ」と言うのだけれど、女房は「何を言ってるんだ。世の中はどうせ誰かがかわいそうな目にあうんだ」と動じない。この女房の理屈…こういう風に考える人は今もいるし自分だってそうならないとも限らないと思うとたまらなく怖い。
最初は返さないとだめだと言っていた亭主も女房に押し切られ、やってきたおじいさんに「今日はもう帰ってくれ」と繰り返す。

おじいさんが死んでからの展開は、噺を知っていてもどんどん引き込まれていって、会場中がしーん…。会場の空気が変わっていることを肌で感じてぞくぞくした。

堂々とした高座にびっくり。
さん助師匠がトリで怪談をやるとは思わなんだ。
あーでもこれには「西海屋騒動」が生かされているんだな、と思った。
あんなどうしようもない噺だけど(←ひどい言いよう)あれで陰惨な場面を幾度となくやっているから、大きな声を出さなくても十分に怖い「もう半分」になったのかも。
いやーすごかった。もうほんとに今席のさん助師匠からは何が飛び出すかわからない。
楽しみ!

 

鈴本演芸場8月下席夜の部(2日目)

8/22(木)、鈴本演芸場8月下席夜の部(2日目)に行ってきた。

・琴調「宇喜多秀家 八丈島物語」
・扇辰「麻のれん」
~仲入り~
・扇遊「家見舞い」
翁家社中 太神楽
・さん助「子別れ」


琴調先生「宇喜多秀家 八丈島物語」
福島正則の家臣、大金金衛門が江戸の将軍へ広島の名酒百樽を携えて船で江戸へ渡ろうとするのだが、嵐に遭い立ち往生し、風向きが変わるのを待つことになる。あの島はなんだ?と船頭に訪ねると「あれは八丈島無人島です」という返事。それは面白そうだと足軽を従えて八丈島へ降りて見物していると、向こうからボロボロの身なりの男が魚を手に現れる。
金衛門が勝手に上陸したことを男にわびると、自分はこの島の島民ではないから謝ることはない、と男。
金衛門が自分は福島正則の家臣であることを名乗ると、男は驚きまた懐かしがり、自分は島流しになった秀家であると名乗る。
それを聞いて慌ててひれ伏す金衛門と足軽たち。
秀家は金衛門が酒を江戸へ届けるところだと聞くと、それを飲みたいと言う。
金衛門は本来であれば贈り物なので手を付けることはいけないということを承知で、酒だるを運ばせて秀家へ好きなだけ飲んでくださいと言う。
秀家が酒樽を覗き込むとそこを月が照らし自分のやつれはてた姿を目にする。そして…。

…初めて聴く話だったので必死にくらいつく(笑)。
酒樽を月が照らすシーンがとてもドラマチック。その光景が頭に浮かんできてじーん…。
素敵だった。


扇遊師匠「家見舞い」
楽しい~。
兄貴のところに祝いを持って行かなきゃ!という江戸っ子二人も気がいいけど、道具屋の主人も気のいいざっかけない人物。
食べ物を出されるたびに考え込む弟分がおかしくて笑った笑った。


さん助師匠「子別れ」
朝帰りのまくらで「うおおお、子別れだ」とすぐにわかった。
さん助師匠の「子別れ」が本当に大好きなんだけど、この日の「子別れ」は今までとはまた一味違う…今までよりも太い「子別れ」だったように思う。

お弔いから5日帰って来なかったくまさん。
女房のおふくに今まで何をしてたんだと聞かれ、お弔いの後に紙くず屋のたつ公と一緒に「お通夜」に行ったと言う。
女房にたつ公から全部知ってると言われると、やけになって遊郭でなじみの女に再会した、と。
女がどんなに自分に惚れてると言って引き止めたかをのろけ、「胸の所にぎゅーって抱き着いてきて…こっちだったかな…いや、こっちだったか」。
おふくが「女郎を買ったのろけを女房に聞かせるなんて」と怒ると、最初は謝ったりご機嫌をとったりするんだけど、女房が「離縁状を書いてくれ」と言ってくるので終いには怒り出す。
このくまさんのどうしようもなさ。
離縁状をもらったおふくがかめちゃんを起こして「出て行くよ」と言うと、かめちゃんはくまさんに向かって「とうちゃんはいつもそうやってお酒を飲んでかあちゃんとあたいにだけえばる」「謝っちゃいなよ。いまならまだ間に合うよ」という生意気な物言い。
しかしもう出て行くとなるとおふくに言われるがままお礼を言うかめちゃんが悲しい。

3年経って番頭さんがくまさんを迎えに来て二人で出かけるシーン。
再会した女郎を家に招き入れて…のくだりはなし。
二人で歩いていると番頭さんがかめちゃんを見つける。かめだとわかると「ああ、かめだ。大きくなったなぁ」とくまさん。
ここで登場するろくちゃんが「かめちゃん、さっきからあそこで知らないおじさんがかめちゃんの方を見て泣いたり笑ったりしてるけど、あのおじちゃん知ってる人?」
そこからの父と息子の会話も、いちいちまぜっかえすろくちゃんが出てきたり、二人から目が離せなくなって聞き耳を立てる八百屋が出てきたり。
随所にしめっぽくならない、弾けたおかしさ。

家に帰ってからのおふくさんとかめちゃんのシーンも無駄なところがそり落としてあってあっさりしているけど、かめちゃんが追及されてもうどうしていいかわからなくなるところがとてもリアルで…ああ、こどもってこうだよなぁ…と思ったら涙腺崩壊。

親子3人再会のシーン。
それまでメンツを守ろうとしていたくまさんが自分をさらけ出すところもいいし、なによりそう言われたおふくさんの反応がとっても好き。

ああ、面白いなぁ、さん助師匠の落語は。
そしてなんか今席のさん助師匠は腹をくくってるっていうか肝が据わってるっていうか…そういう太さを少し感じる。
寄席でトリをとるというのはすごい経験。その機会を与えてくれた鈴本演芸場には感謝しかないなぁ。ありがとうありがとう。親類でもないけどありがとう。