悪意
★★★★
「トム」、夜中にかかってきた一本の電話、それは二十二年前に死んだはずの息子からのものだった。「レイン」、亡くなった著名な作家の遺作には母国語での出版を禁じ、翻訳出版のみを許可するという、奇妙な条件が付されていた。「親愛なるアグネスへ」、夫の葬式で久し振りに会ったかつての親友、二人の交わす書簡はやがて……。デュ・モーリアの騙りの妙、シーラッハの奥深さ、ディーヴァーのどんでん返しを兼ね備えた傑作短編集。
サスペンスの中・短編集。2段構えだし楽しい話じゃないので読むのに時間がかかってしまった。嫌な話だけどどれも面白かった。
「トム」
ヒッチコックの映画のような、クラッシックなサスペンス。読んでいて、この夫婦には何か裏がありそうだなと思っていたら、やはり…。
ラストにぞぞぞ。
「レイン ある作家の死」
2つの物語が交錯していて、語り手の翻訳家も今一つ信頼できなくて、現実なのか物語なのかもやもやするところもあったが、読み応えがあって面白かった。
「親愛なるアグネスへ」
女同士のこういう歪んだ友情って結構よくあることで、特に気の強い者同士…小中学生ぐらいにはあることだけど、それがずっと続くとこんな風に…。
二人の手紙とアグネスの一人語りのパートが交互に綴られ、この結末。見事。
「サマリアのタンポポ」
これだけは、読んでいて真相がわかったぞ。わかると嬉しいけど、たいしたことなかったなと侮ってしまう、読者の勝手さよ。
小満ん夜会
8/2(金)、日本橋教育会館で行われた「小満ん夜会」に行ってきた。
・朝七「たらちね」
・小満ん「応挙の幽霊」
・龍志「小言幸兵衛」
~仲入り~
・小満ん「大山詣り」
朝七さん「たらちね」
わーい、朝七さん。前座が朝七さんだとものすごい得した気分。
うまくてきれいというだけじゃなくて、ちょっとハズした面白さみたいのがあって大好き。
新妻が言葉が丁寧というだけじゃなくて絢爛豪華さがにじみ出てるのがおかしい。
そして新妻を置いてすぐに帰っちゃう大家さんの「じゃね!」の意外な軽さ。
楽しい~。
小満ん師匠「応挙の幽霊」
大好きな噺を大好きな師匠で聞けるヨロコビ。
小満ん師匠の「応挙の幽霊」は道具屋さんがほんとに洒脱でのんびりしてて商売っ気がなくてチャーミング。
あれこれ蘊蓄を繰り広げながら一人で飲んでるところも楽しいし、出てきた幽霊がお酒好きでウィスキーを「ワンスモア」と何度も催促するのも楽しい。
もうずっとこの二人の飲んでるところを見ていたいと思うような、のんびりした贅沢な時間。
すーてーきーー。
どなたかのブログで読んでずっと見たいと思っていた小満ん師匠の「応挙の幽霊」を見られて大満足。
龍志師匠「小言幸兵衛」
ゲストが龍志師匠っていうのがめちゃくちゃうれしい。かっこいい師匠だよなぁ。
私は面食いじゃないけど、好きなタイプの顔というのがあって、龍志師匠は本当に好みで、数少ない顔から好きになった噺家さん。
またこのこざっぱりした人柄といかにも噺家さんらしい佇まいがほんとにかっこいい。
龍志師匠は「小言幸兵衛」率が高くて、できれば違う噺が聞きたかった!
でも言いっぱなしの小言も神経質な感じが全然なくてただ言いたくてぱーぱー言ってるだけというのが伝わってくるので、嫌な感じは全くしない。
サゲもばかばかしくてとても楽しかった。
小満ん師匠「大山詣り」
決め式は先達さんが言い出すのではなく、若い連中の方から言い出す、というのは初めて聞いた。
でもたしかにこれだと後味の悪さが少ないかも。自分たちから言い出して、自分たちもそうされる覚悟があったっていうことだから。
それにしても自分が坊主にされたとわかった途端、すぐに籠を呼ぶあたり…くまさんも頭の展開が早いというかなんというか。
「自分のところのかみさんだけしっかり黒髪を残してやがる!」には笑った。
上野広小路亭 8月上席
8/2(金)、上野広小路亭 8月上席に行ってきた。
・馬ん次「転失気」
・吉馬「だくだく」
・夢花「猫と金魚」
・ポロン マジック
・鹿の子「鼓ヶ滝」
・里光「一眼国」
・コントD51 コント
・遊之介「かぼちゃ屋」
~仲入り~
・紫「お富与三郎 出会い」
・今丸 紙切り
・柳好「お見立て」
・とん馬「熊の皮」&踊り
・東京ボーイズ 歌謡漫談
・圓馬「ちりとてちん」
夢花師匠「猫と金魚」
楽しい!
途中、旦那と番頭さんの会話が駄洒落合戦みたいになって、ものすごいくだらなさ(←ほめてます)。そのせいかくまさんが猫をやっつけに来るところまでやらず、途中で切った。独自のサゲ。
鹿の子師匠「鼓ヶ滝」
初めて見た噺家さん。まだ初めての師匠がいることに驚いたりして。
俳句や芭蕉の旅などのまくらから「鼓ヶ滝」。
落ち着いた口調と時々ぐわっと出すギャグとのバランスが好きだった。
里光師匠「一眼国」
上方版?の「一眼国」。といって出発する場所が大阪という以外は内容は同じ。
楽しいなぁ。里光師匠はまくらも落語も楽しくて大好き。
紫先生「お富与三郎 出会い」
初めて聴いた話と思ったけど、ブログを検索したら紅先生で聞いていた。
勢いのあるところとふわっとかわいらしいところ。
講談を初めて聴くお客さんが多い感じだったけど、集中をきらさず釘付けにしたところはさすがだなぁ。
柳好師匠「お見立て」
べらぼうに面白い「お見立て」だった。これってよく聞くけどそんなに爆笑できる噺じゃないと思うんだけど、なんだろ、めちゃくちゃ面白かった。
喜助が最初から「あのお大臣じゃ花魁が嫌がるのはしょうがない」と思っている、というのは初めて聞いたけど、その方が話が早くていいかも(笑)。
線香を松明のように振り回すしぐさには大笑い。
すごく楽しかった。
とん馬師匠「熊の皮」&踊り
九官鳥の小噺(「だーれだい?」が口癖のおばあさんに飼われている九官鳥の話)がすごく楽しくて大笑い。それがウケたのに気を良くして(笑)「めったにやらない九官鳥の小噺パート2」(男が九官鳥を飼い始めて、左足を掴んで「おはよう」、右足を掴んで「ありがとう」と教えたら、足を掴んだだけでどちらかを言い分けるようになって、それなら両方掴んだらどうなるかと思って両足を掴んでみたら…)を聞けたのも嬉しかった!
小噺ですごく笑えるってそうめったにあることじゃないから、すごくうれしくなっちゃうんだなぁ。
「熊の皮」もとっても楽しかった。甚兵衛さんがふわふわしていてご機嫌でかわいい。
そして落語のあとに、やっこさんとかっぽれの踊りもあって、ものすごい満足感。
とん馬師匠、いいなぁ…。すごく楽しい。トリの芝居も見に行きたくなった!
東京ボーイズ 歌謡漫談
なんか「いつもの」じゃなくて戸惑い気味?だったけどすごくおかしかった!
圓馬師匠「ちりとてちん」
ノリノリの「ちりとてちん」。
お酒も肴もとってもおいしそう!!鯛はしこしこしてさっぱりしてるし、鰻はとろっととろけてる。
お世辞のいい客の「灘の生一本?え?これが?」といちいち驚くところが、わかっていても毎回おかしくて楽しくて大笑い。
圓馬師匠ってリズム感がいいから、ノリのいい音楽を聞いてるように気持ちいいんだなぁ。
ひねくれ者の方がおいしい料理にケチをつけながらも実際おいしいのを隠しきれてないのもおかしい。
ちりとてちんを口にしてからの悶絶ぶりも楽しくて、笑った笑った。
上野広小路亭はあたりはずれが激しい(失礼!)のと、狭くて逃げ場がなくて、行くのにちょっと勇気が必要な寄席なんだけど、この日は最初から最後まで全員楽しかった。満足!
五街道雲助一門会
7/31(水)、鈴本演芸場で行われた「五街道雲助一門会」に行ってきた。
・こはく「子ほめ」
・龍玉「首ったけ」
・馬石「居残り佐平次」
~仲入り~
・白酒「徳ちゃん」
・雲助「藁人形」
龍玉師匠「首ったけ」
はんちゃんのぐずぐず…から始まって、徐々にボルテージが上がっていくのがとてもリアル。
それだけに店を飛び出して「あーどうしよう」となってから、隣の店で若い衆にうまいことおだてられて花魁にお世辞を言われて…まさに捨てる神あれば拾う神あり。
次の朝、嬉しくって向かいの紅梅に向かって「やーい!」って声をかける大人げなさ。
何日かして吉原が火事になって、なじみの花魁を助けようとお歯黒土手まで来た男たちが、気の抜けきった花魁たちの逃げ惑う姿に助ける気がなくなるのもばかばかしくて面白い。
かーっ、本気だしたね、龍玉師匠。本気の龍玉師匠は本当にかっこいい!
この時点で、今日の一門会はすごいことになりそうな予感。わくわく。
馬石師匠「居残り佐平次」
出る前に龍玉と話をしたら「おれのは短いっすよ」って言ってたんですけどたっぷり30分ありましたね、と馬石師匠。
「居残り佐平次」 、馬石師匠らしい 佐平次でとってもチャーミング。
これなら確かに呼びたくなる(笑)。
時間の関係かしゃべりのスピードがアップしていて、それもすごいなぁと思った。
明るく軽くて楽しい「居残り」。
サゲが独自に変わっていたのも面白かった。
白酒師匠「徳ちゃん」
徳ちゃんが達観していて妙にポジティブなのがおかしい。
って、徳ちゃん自身はしゃべらないんだけど、もう一人の方が「え?安いからいいよ?そうか」「え?仕方ないよ、1円60銭だもの?…徳ちゃん、詩人だね」などのセリフ。
芋をかじりながら出てくる花魁が、部屋に入る直前に芋をぺっ!!と吐き出すのがすごくおかしい。
「おらぁ芸人さん好きだ」と迫ってくる花魁の迫力とかわいらしさよ。
楽しかった~。
雲助師匠「藁人形」
初めて聴く噺。
前半はおくまの悪女ぶり。
後半はもともとは悪かったという西念の鬼気迫る恨み。
そして芝居でぐっと盛り上げたあとに、落語らしいサゲ。
素晴らしかった。
最後に弟子を全員呼んで並んだのもかっこよかったなぁ。ほんとにすごい一門。
そして雲助師匠がトリだとそこに向かって全員がぐっと集中していく感じで、すごく良かった。
また鈴本で一門会、やってほしい。その時はぜひこの並びで。
ホンキートンク独演会
7/31(水)、鈴本演芸場で行われた「ホンキートンク独演会」に行ってきた。
・花ごめ「からぬけ」
・歌武蔵 いつもの
・琴調「浅妻船」
・彦いち「遥かなるホンキートンク」
・ホンキートンク 漫才
・喬太郎「ふくろうの夜」
~仲入り~
・市馬「俵星玄審」
・ロケット団 漫才
・一之輔「初天神」
・正楽 紙切り
・ホンキートンク 漫才
琴調先生「浅妻船」
前の高座でげっそりした気持ちをからっと晴らしてくれるような高座で素晴らしかった。
「浅妻船」 は初めて聴く話だったので、ストーリーについていくのに必死。
画家の朝湖が将軍を愚弄したという無実の罪で島流しにあう。流刑地に向かう朝湖に会いに行った宝井其角は彼の母親の面倒は自分が見ると約束をする。朝湖は流刑地で干物を作ることになっているのだが、自分が生きている証拠に干物のえらに松葉をはさんでおくからもしそういう干物を見つけたら私を思い出してくれと言い残す。
其角は魚屋に行くたびに干物のエラを掻きだすので魚屋に嫌がられるのだが、ある日松葉が入った干物を見つけ喜ぶ。
朝湖の島流しが解けるまで其角は母親の面倒を見続け、そのおかげで朝湖は母親と再会することができた。
ホンキートンクの二人の友情にこの話を捧げます、と下がった琴調先生、かっこよかった!
彦いち師匠「遥かなるホンキートンク」
7/31ホンキートンクの伝説の独演会のDVDを届けるためにヒマラヤにのぼる鈴本演芸場の若旦那。がっしがっし!言いながら登るだけでそれ以上でもそれ以下でもないんだけど、午前中落語協会の寄合があったから酔っぱらっているだとか、ホンキートンクは解散するけど俺たちにはまだロケット団がいるだとか、言いたい放題。
「遥かなるたぬきうどん」のホンキートンク版。
ものすごい盛り上がった。すごい!
でも唐突に終わった(笑)。びっくりした。
ホンキートンク 漫才
解散のことは一切言わずに、いつも通りの漫才。
ああ、もうこれを見られなくなるのかと思うとものすごい残念。
私、トシさんが好きだったな。
すごくこう独特で。ハイテンションで。涙。
喬太郎師匠「ふくろうの夜」
初めて聴く噺。うれしい!
工事現場で働く若者が、どん兵衛のおあげを落っことしてそれを拾おうとして命を落とし、ふと気が付くと目の前には言葉を喋るふくろうが…。
現れたふくろうが「くるっくー」と小さく鳴くのが絶妙ですごくおかしい。
そしてシュールだけど寂しさと優しさがあって、サゲはホンキートンクへのはなむけになっていて…。よかった~。
市馬師匠「俵星玄審」
めくりを見て嬉しさがこみ上げ、座布団が出てこずにマイクが上がったのを見て大爆笑!
演歌歌手のような派手派手な衣装を着た市馬師匠が現れて気持ちよさそう~に「 俵星玄審」。
ああもう大好きだよ、市馬師匠。
サプライズゲストで登場してご機嫌で歌い上げる…身の軽さと優しさ。
しかもこの歌がすごーく長くて、終わりそうで終わらない。
終わりそうなところで、舞台に芸人さんがどどっと乱入してきて、紅白歌合戦みたいに後ろで盛り上げるんだけど、歌が終わらないのでずっこけて楽屋に戻っていく。
高座のない噺家さん…玉の輔師匠、百栄師匠、八ゑ馬師匠、馬るこさん…も出てきて、いいなぁ!と思う。
素敵だったー。
ロケット団 漫才
市馬師匠の歌で盛り上がって、ロケット団の漫才でボルテージが最高潮に上がった感じ。
ホンキートンクの二人から話を聞いて間に入ったという三浦さんだけどもちろん全部いじり倒してふざけ倒す。
ほとんどの話を吉本ネタに持っていく三浦さんに倉本さんが「お前…いいおもちゃ見つけたな…」とつっこんだのがめちゃくちゃおかしかった。
一之輔師匠「初天神」
彦いち師匠が高座で「俺はだんご買ってーだんごーだんごーとかやらねぇよ! あっ、一之輔がやるつもりだったかもしれない!」と言ったのを受けて「初天神」。
最初から父親が「おい、団子買いに行くぞ」と子どもを連れて出かけるんだけど、子どもが「買ってー買ってー」をやり始めると、「買わねぇよ!行く前に約束しただろ!」「今日は約束してねぇよ!」。
…ぶわはははは!!
「おれはこの初天神でずいぶん食わせてもらってるんだ!」とか「団子買いに行くぞって言って始まったのになんで買ってくれねぇんだよ」とか、もうはじけまくった高座で、笑った笑った。
一之輔師匠のこの程のよさってほんとになんなんだろう。すごいとしか言いようがない。
正楽師匠 紙切り
最初のはさみ試しの線香花火で、女の子が線香花火をしているところに、ちょこっと添えたのがそれを見ている小さなホンキートンク。
きゃーーー。すごい粋な計らい!!
しかもその後、どんなお題に対しても、必ず小さなホンキートンクを添えて手渡す。あらかじめ用意してあったらしい。
「もうわからなくなっちゃった」とか「ギザギザハート~♪ぎざぎざ~♪」と歌を歌ったりしながら、どれもほんとに素敵でもらえがお客さんがほんとに羨ましかった~。
ホンキートンク 漫才
最後は新ネタのかまきりも披露して、ああ…もっと新しいネタを見たかったな…と悲しくなる。
漫才自体は弾け切って終わったけど、その後に全員壇上に上がって二人からの挨拶。
そして撮影タイム。
しめっぽくなくて最後までバカバカしくにぎやかでよかった。寂しいけど、今までほんとにたくさん笑わせてくれてありがとう。
ニツ目勉強会
7/30(火)池袋演芸場で行われた「ニツ目勉強会」に行ってきた。
・まめ平「紙入れ」
~仲入り~
・小んぶ「あくび指南」
・あお馬「悋気の独楽」
・ほたる「百川」
小んぶさん「あくび指南」
普通この噺って師匠は風流にやって、教わる方が不器用でそれを笑うんだけど、小んぶさんのは師匠が変でそれがすごくおかしい。
師匠が最初に黙って揺れ始めるんだけどそれが何をやってるのかわからなくて(揺れが微妙すぎて)大笑い。
師匠が二度目にやる時なんか「堀から上がっていっぱいやって…」の後からあくびをもよおしだしてあくびを噛み殺しながらふがふが口だけ動かしておいて「…わい」。
…わい、って!!ぶわはははは!
教わる方はフツウに不器用でヘタクソなんだけど、うまい方の師匠で笑わすって新しい!
笑ったーー。後ろに座ってた師匠に後から小んぶさんが怒られなかったかだけがちょっと心配(笑)。
あお馬さん「悋気の独楽」
あお馬さんは大好きな前座さんだったけど、ニツ目になってから見るのは初めてだったかもしれない。
定吉がとてもかわいい。生意気言ってもかわいい。
笑ったのは、旦那が来るのが遅いと言ってふくれるお妾さんが「ぷんぷん!」。
ぶわはははは。誰から教わったんだ?あ!玉の輔師匠?!
とっても楽しい「悋気の独楽」だった。
ほたるさん「百川」
百兵衛さんの喋り方が早口でなまっててぴゃーぴゃー言ってるように聞こえるんだけど、それが全然わざとらしくない。なにこれすごい(笑)。
いちいち感心して早飲み込みをする江戸っ子がいいなぁ。
きっと真打の披露目でやるんだろうな。
とても合ってるし、とても面白かった。
綴られる愛人
★★★
夫に抑圧される妻。地方に住む男子大学生。手紙だけでつながるひみつの関係、のはずだった―。むさぼるように、焦がれるように、手紙を交わす男と女。やがて、越えてはならない一線を踏み越え―。著者新境地、究極の恋愛サスペンス。
読んでる間じわじわと嫌な感じで「うぎゃーー」と叫びたくなる。
凛子が夫との生活で感じる違和感や嫌悪感をクモオに向かって物語る気持ち。クモオがうまくいかない就職活動や彼女との関係を離れて凛子にのめりこんでいく気持ち。
自分のことのように感じられてなんともいえず居心地が悪かった。
特に凛子の夫・真哉の気持ち悪さといったら…。
結果的に凛子の方がクモオを道具にしてしまったのだが、彼女にしてもまさか相手がこんなにも「子ども」だとは思わなかったわけでそこが誤算だったのだ。
最初は嫌悪しか感じなかった真哉だがこの着地点を読むとやはりこの二人はお似合いの夫婦なのだなと思う。
なんとも気持ちの悪い話だが、手紙を送りあううちにどんどんお互いの「物語」が加速していくのは面白かった。
あれほど会いたかった相手なのに実際に会ったらその気持ちが全くなくなってしまうのも…年齢のことだけではなく、お互いに作り上げたイメージに翻弄されただけのことだったのだな。
柳家小三治独演会 板橋区立文化会館
7/29(月)、板橋区立文化会館で行われた「柳家小三治独演会」に行ってきた。
・三之助「のめる」
・小三治「厩火事」
~仲入り~
・小三治「ちはやふる」
小三治師匠「厩火事」
「昔は何かというとご縁と言われました。今も言うんですかね?」と小三治師匠。
若いころはそう言われると「そんなんじゃねぇや!」と反発を覚えました。俺たちのはご縁なんてもんじゃねぇんだ。縁じゃなくてなんだと言いたかったんでしょう?運命?はっ。
でも実際のところは、「おい、一緒になるか」「あいよ」
この程度のもんですよ。でもそれだって1年…2年、3年もするとなんでもなくなっちゃう。
結局のところは…「縁」ってことになるんでしょうかね。
おお?世間話なしのまくら。今日はこの噺をしようという強い意志を感じる…。
そんなまくらから「厩火事」。
お埼さんが相談すると旦那は最初から「ああ、別れちまいな」。
だから最初から言ってただろ、それをお前がはっつぁんと一緒になりたい!絶対一緒になる!って聞かないからこういうことになるんだ。
お前は一流の髪結で、ほんとだったら若いもんを何人も従えていたっておかしくないのに、うだつが上がらないのはあんなやつと一緒にいるからだ。
もともとお前のことは小さい時分から知ってるけど、あいつはそうじゃない。いったいどういうやつなのかよくわからない。何を考えてるかわからない。
この間だって、家を訪ねた時に昼間から刺身をとって酒を飲んでいた、と。
そう言われたお埼さんがだんだんむくれてきて「だけどねぇ。お酒って言ったって何本も飲んでへべれけになってたわけじゃなし。お刺身だって50人前も取ってご近所に配って歩いたわけじゃし。昼間暇なんですよ!なにもそこまで悪く言わなくたって」と言う、かわいらしさ。
手をもじもじさせてほんとに女らしい。
「どうすりゃいいんだ」と言う旦那に「もう旦那ったら…じれったい」も絶妙で笑ってしまう。
それから旦那が聞かせてくれる話をいちいちまぜっかえすお埼さん。亭主に何か言われても全くこたえずに言い返しているんだろうな、というのが伺えて楽しい。
「あらやだ!猿が旦那だとやっぱりお客はチンですか」。
絶妙の間だからわかっていても全部笑ってしまう。
「それじゃやってみます」と家に帰ってからは、亭主がなんともいえずかっこいい。
やっぱりこの噺って亭主がかっこよくないとだめなんだな。だからお埼さんはどうしようもなく亭主に惚れてるんだ。
「お前と飯が食いてぇや」と言われて「まぁ嬉しいじゃないか。お前さん、もろこしだね」と喜んだお埼さんが「それじゃ瀬戸物にとりかかるか」とつぶやきながら立ち上がるおかしさ。
そのあと亭主がヤイヤイ言うと「だからいやになっちゃうんだよ。さっきまでもろこしだと思ったら麹町の猿になっちゃうんだから」とお埼さん。
「お前なに瀬戸物持って踊りをおどってるんだ。その踊りをやめろ!」にも大笑い。
転んで壊してから、亭主は「あーーこなごなにしちまいやがった!」と結構きつい調子で言ってるんだけど、それからしばらく沈黙があって…「大丈夫か?指でも怪我してねぇか?」。
その言葉の優しさに聞いていて涙がこぼれてしまった…。
そしてそこからのサゲの言葉。
くーーーー。か、かっこいいーー。
結局この亭主の了見はわからないのだ。旦那の言ったように試しても。
最後のセリフが本音なのか照れ隠しなのかわからないところがこの亭主の魅力でもあるのだなぁ。
今まで聞いた「厩火事」の中で一番好きだったかもしれない。鳴りやまない拍手にも鳥肌が。素敵だった~。
小三治師匠「ちはやふる」
前から言ってますけど、私はオリンピックには反対です、と小三治師匠。
山田洋次監督が自分が思っていることと同じようなことを発言されていて、少しほっとしました。
こういうことを表立って言う人がいないのかわざと載せねぇようにしてるのか知らない。多分同じように考えてる人はいるんだろうけど、表立って言わねぇで裏で言ってるんでしょう。裏っていうのは…板橋のホールみたいな。
東北の人たちのことを見て見ぬふりをしておいて何がオリンピックだ。
そして終わったあとに何が残るんだ。
…表立って言わないというのは、報道されることがないということなんだと思う。
小三治師匠はネットを信用しないと言っているけど、新聞もテレビも信用できないよー。
山田洋次監督がああいうことを言えるのは、もう老い先短いからいいやと思ってるのかもしれない、私もそうです、と笑っていたけど、ほんとにそういうことをきちんと言ってくれる年上の人がいるということはものすごく心強いこと。
逆にそういう方たちがいなくなったら日本はどうなってしまうんだろうという不安も…。
そこまで話してから「やっぱりやった方がいい?」に大笑い。
大きな拍手に苦笑いして、夕べのラグビー観た?あれはすごかった。とひとしきり話をしてから「知ったかぶり」のまくら。そして「ちはやふる」。
小三治師匠の「ちはやふる」は何度も聞いているけど、昨日の「ちはやふる」はほんとにひっくり返るくらい面白かった。
「先生」の知ったかぶりがもうほんとに自然で、「え?百人一首にいい男?あー、いるね」「え?その人の作った歌?…知ってるよ」「ええと…なんとかって言ったな」「お茶でも飲むかい?」
全然声を張らずふわっとしているんだけど、知らないんだろうなぁというのが見えて、たまらなくおかしい。
それが「物語」を語りだしてからはのりにのってくる面白さ。
また金さんが真面目に聞いて反応してるのがおかしくておかしくて。
最高に面白かった。
小三治師匠も会心の出来だったのでは?なんて思ってしまった。よかったー!
娘について
★★★★★
老人介護施設で働く「私」の家に住む場所をなくした三十代半ばの娘がしばらく厄介になりたいと転がりこんでくる。しかも、パートナーの女性を連れて。娘の将来を案じるあまり二人とぶつかる「私」にやがて起こる、いくつかの出来事と変化とは。LGBT、母子の関係、老いというテーマを正面から見つめ「シン・ドンヨプ文学賞」を受賞した傑作長編。
「善い人」として生きてきた母親が、娘の同性愛を恥ずかしく思い、育て方が悪かったのか教育を与えすぎたのがかえってよくなかったのかと悩む姿には「娘の生き方を認めてあげなよ」という思いを抱きつつも、気持ちはわかるので身につまされた。
介護施設で働く彼女は、若いころにアメリカで学びヨーロッパで活躍し自身とは全く関係のない子どもたちを援助したジェンの介護をしているのだが、認知症が酷くなったジェンは待遇の悪い施設に送られるのを目の当たりにする。
常識人としてふるまうことを当たり前と思って生きてきた母親が、職場では明らかに上司の不興を買うような行動をとってしまい、最終的には職を追われてしまう。
また、同性愛であることを理由に職場(大学)を追われた教師仲間のためにデモを行っている娘とその恋人「あの子」の行動を苦々しく思っていた母親だが、現場に行き彼女たちへの激しい憎悪をぶつける「普通の人たち」の言動を目の当たりにして衝撃を受ける。
あの子たちがそんなに悪いことをしたのだろうか。性的マイノリティーであることと仕事は分けて考えるべきなのではないか。
娘と「あの子」に少しだけ歩み寄りながらも、それでもやっぱり娘が普通の家庭を持つことを諦めきれない母親の心情。
タイトル同様地味な内容だけどとても素晴らしい作品。よかった。
第376回 圓橘の会
7/27(土)、深川東京モダン館で行われた「第376回 圓橘の会」に行ってきた。
・まん坊「開帳の雪隠」
・圓橘「寝床」
~仲入り
・圓橘 圓朝作怪談「牡丹燈籠」その6・お札はがし
圓橘師匠「寝床」
文楽師匠の出囃子で登場。
文楽師匠の義太夫は楽屋で「寝床」呼ばわりされていたというまくらから「寝床」。
圓橘師匠の旦那は本当に威厳があってきちんとしていて恐いので、それが最初のうちこれから自慢の義太夫を語れると思ってウキウキ嬉しそうだったり、お客が来ないと聞いてどんどん不機嫌になったり、使いに行った者を叱り飛ばしたりするのがもうとってもリアル。
普段は優して慈悲深い旦那なんだろうなぁというのが伝わってくるだけに、本当に気を悪くして感情的に怒り出すのには、震えあがってしまう。
すっかりご機嫌を損ねたところに、長屋の連中が全員やってきてそれを番頭から伝えられると、「芸っていうのはそういうもんじゃないんだ!」「こちらが語りたい、あちらが聞きたい、それがぴたっとあって初めていい芸ができる」。
そう言われて番頭が「ああそうですか」と下がろうとすると「おいっ!待て!」「お前はどうしてそう正直なんだ。言われたことをそのままうのみにするな」。
…ぶわはははは!!怒り方が激しいだけにこのセリフはおかしい。
そして「提灯やはそんなに楽しみにしているのか?」と言って「仕事が手に付かないそうです」と言われると「私は商売でやってるわけじゃないから。だからその分芸に欲がないんだな」。
この根拠のない自信がすごくおかしい。そして根本にその自信があるから、どんなにくさされてもまた立ち直ってすぐにやりたくなるんだろうな。
時折うたってみせるそのすさまじさもおかしくて、最初から最後まで大笑いだった。
圓橘師匠 圓朝作怪談「牡丹燈籠」その6・お札はがし
お札はがしは何回か聞いているけれど、怖かった…圓橘師匠のお札はがし。
何が怖いって二人の女がからんころんと下駄の音をさせて牡丹燈籠を持って出てくるところ。
女中のお米の話し方がとても静かでなんともいえず不気味。ぞぞぞ…とする。
そしてお露の方はとにかく新三郎に会いたいというただそれだけ。お米が「あんな不義理な人はもうやめなさい」と言うのだが、とにかく会いたいの一点張り。その一途な思い故の焦がれ死にだったのかと思うと、その一途な思いも怖い。
また伴造をそそのかす女房のおみね。しっかり者でからっとした性格に見えるけれど、恩のある新三郎に何かあったとしても自分たちが百両せしめられれば…と考える恐ろしさ…。
圓橘師匠が「女というのはあんまり貧乏が続くとこういうことを言い出したりするんですね…だから私もあんまり女房には貧乏させないように…」と言ったのがおかしかった。
2か月ぶりの圓橘師匠の会、楽しかった!
回復する人間 (エクス・リブリス)
★★★★★
大切な人の死や自らの病、家族との不和など、痛みを抱え絶望の淵でうずくまる人間が一筋の光を見出し、ふたたび静かに歩みだす姿を描く。李箱文学賞、マン・ブッカー国際賞受賞作家による珠玉の短篇集。
とてもよかった。
人を傷つけた痛みや罪悪感、自分が負った傷や打撃から立ち直れずにうずくまる人たち。その傷は誰にも治してあげることはできなくて、慰めたり励ましていた人たちにもしばらくすると陰鬱な気分が伝染し苛立って離れていく。
そんなに簡単に立ち直ったり前を向けるわけではないけれど、それでもかすかな光が見えて新しい痛みを感じた時、それを「回復」と捉えることができるのかもしれない。
命のイメージが色覚的なのが印象的だった。
どの作品もよかったけれど「回復する人間」「青い石」「火とかげ」が特に好きだった。
ハン・ガンは以前「菜食主義者」を読んだけれど、それよりも好みだった。
他の作品も読んでみたい。
それにしても最近の韓国作家の面白さといったらなんなんだ。
そして斎藤真理子さんっていったいどれだけ仕事してるんだ。
翻訳のことはよくわからないけど、きっと斎藤さんの翻訳の功績も大きいんだろうなと想像する。
素晴らしい。感謝感謝。
三遊亭圓馬「北の独演者 第一回」
7/26(金)、梶原いろは亭で行われた三遊亭圓馬「北の独演者 第一回」に行ってきた。
新しく始まった圓馬師匠の独演会。うれしい!!
初めていくハコだったので迷うんじゃないかと不安でいっぱいだったけど、どうにかちょい迷いぐらいでたどり着けた。
花座を大きくしたような会場で高座も高いからどこからでも見やすい。良い!
・馬ん次「真田小僧」
・圓馬「ねずみ」
~仲入り~
・圓馬「粗忽の使者」
圓馬師匠「ねずみ」
ここは町おこしで作られた寄席。でも来てみたら分かると思うんですが、町が…ない…?なにもないところですね、ここは…。
以前はお江戸日本橋亭で年に4回独演会をやっていたんですが、やる噺がなくなってしまいましてしばらくお休みしてました。
久しぶりの独演会ということで、あくまでも噺の方は私がやりたい噺を選ばせていただくということで…お客様のご要望には沿わない噺になってしまうかもしれませんが、そこはご了承ください。
…うおおお。寄席や江戸噺の時とはまた違った感じの圓馬師匠。なんか「素」を垣間見れるようでうれしいぞ!
そんなまくらから「ねずみ」。
子どもがとてもかわいくて、甚五郎は品があって落ち着いた感じ。
甚五郎に「おじさん…布団を敷いたりかけたりして寝たいですか?」「おじさん…ご飯食べたいですか?」と尋ねたり、「あたし、お酒はいただきません」と言ったりするのが、全然生意気な感じがしなくてかわいらしい。
ねずみ屋の主人が語る「愚痴」も、酷い話なんだけど静かな諦念のようなものが漂っていて、子どもが「少しでもお客さんを泊めて自分たちで商売をしようよ」と言い出す気持ちがなんかわかるような…。
甚五郎のねずみがあるという看板を見てねずみ屋を訪ねてくる二人組が、えらいなまっていておかしい。
それだけじゃなくて時々、えっ?!と驚くようなギャグが入るのが、圓馬師匠のきれいな落語とのギャップがあってドキッとしてすごくおかしい。
じんわりと優しくてかわいい「ねずみ」、よかった~。
圓馬師匠「粗忽の使者」
地武太治部右衛門がいかにも侍らしく丁寧でしゃちこばっているのにやることなすことめちゃくちゃなのがおかしい。
また、着いた先のお屋敷で、地武太治部右衛門の様子を覗き見た大工のとめっこのいかにも職人らしいおっちょこちょいぶりも楽しい。
「指先に力量のある者」って…ぶわははは!!
一席目と打って変わってにぎやかでスピード感のある噺。このギャップがたまらないなぁ。
次回は、9月20日(金)18:30開演とのこと。楽しみ!
大家さんと僕 これから
★★★★★
日本中がほっこりしたベストセラー漫画、涙の続編いよいよ発売!
季節はめぐり、僕と大家さんとの楽しい日々に少しの翳りが見えてきた。
僕の生活にも大きな変化があり、別れが近づくなか、大家さんの想いを確かに受け取る僕。
感動の物語、堂々完結。
大家さんと一緒にいる時間が楽しかったり少し気詰まりだったり寂しかったり。本が売れて得意になったり誇らしかったり罪悪感を感じたり。
「僕」の心の動きが自分が体験したことのように伝わってきて読みながら一緒に笑って一緒に泣いた。
お別れの時に向かって覚悟を決めていくような時間。
お見舞いに行くたびに弱っていく大家さんを見ているのはつらかっただろうなぁと思う。また家族でもないから遠慮やためらいもあっただろうし、元気な大家さんと二人で暮らしていた時とは全然違う時間が流れていたことがうかがえる。
時に味気なくて寂しすぎる現実にほんのちょっぴりファンタジーで味付け。それが全然いやらしくなくて爽やかなのはこの人の人柄だなぁ。
とても素敵な「これから」だったな。
この人はもっともっと描くべきだと思うな。
愛なんてセックスの書き間違い (未来の文学)
★★★★★
アメリカSF界のレジェンド、カリスマSF作家
ハーラン・エリスンはSF以外の小説も凄い!
犯罪小説を中心に非SFジャンルの初期傑作を精選、
日本オリジナル編集・全篇本邦初訳でおくる
暴力とセックスと愛とジャズと狂気と孤独と快楽にあふれた
エリスン・ワンダーランド!「父さんのこと、殺す」痩せた少年の緑色の瞳は飢えたようだった……孤独な男と孤独な少年の出会いを痛切に描く「第四戒なし」、成功した作家が体験するサイケデリックな彷徨譚「パンキーとイェール大出の男たち」、閉ざされた空間に幽閉される恐怖を華麗な筆致で綴る「盲鳥よ、盲鳥よ、近寄ってくるな!」、〈ジルチ〉がある小説を書け!と命じられた新人作家の苦悩とは? 爆笑のポルノ小説「ジルチの女」、ギャング団潜入取材を元に書かれた「人殺しになった少年」、グルーヴィな筆致が炸裂するエリスン流ジャズ小説「クールに行こう」など、カリスマSF作家エリスンによる犯罪小説・ポルノ小説・ジャズ小説・ハードボイルドといった非SFジャンルの初期傑作を精選した日本オリジナル短篇集(全11篇、すべて本邦初訳)。
なんていかしたタイトル。これは最後の二編の中に出てくるセリフ。
暴力的な話が多いけど切実な寂しさが際立つ短編集。
「第四戒なし」
父親を殺したい少年の燃え立つような憎しみと思慕。
「父さんのことを殺す」とつぶやいた少年の言葉に寒気を覚えた男。普段ならだれとも交わらず距離を置いて生きているのに、なぜかその少年に興味を覚え近づいていく。
最初は心を開かなかった少年も男に心を許すようになり、事情を話し、二人はともに行動するようになるのだが…。
静かな筆致で、止められない衝動と衝撃を描いていて、「えええ?」としばし茫然。
救いがないけれど、後味がそんなに悪くないのは、からっとした文章によるものなのだろうか。
「ジェニーはおまえのものでもおれのものでもない」
人工中絶の話。こういうのを読むと、アメリカはキリスト教の国なんだな、と思う。人工中絶への抵抗感はおそらく日本よりアメリカの方が強いのだろう。それ故、中絶を行うために闇の医者にかからなければいけない悲劇。
読み終わって、この話を前にも読んだことがあったような気がしたのだが、何かのアンソロジーに入っていた?あるいは似たような物語を読んだことがあったのか?(ありそう)
作家の物語(「ジルチの女」「パンキーとイェール大出の男たち」)は作者自身の経験や想いが投影されてるのかな。突き抜けた面白さがあった。