りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

あれも凌鶴これも凌鶴 第四回

5/26(日)、道楽亭で行われた「あれも凌鶴これも凌鶴 第四回」に行ってきた。

・凌鶴 ショート講談
 「テアトル新宿入場」
 「伊勢丹カードマジック」
 「中村裕
 「前田長吉」
 「山内一豊の妻 出世の馬揃え」
・凌天「後藤半四郎」
・凌鶴「糞土師 伊沢正名
~ 仲入り~
・凌天「誉れの使者」
・凌鶴「フレッド・コレマツ」


凌鶴先生 ショート講談
俳優時代に演技の勉強になるだろうと思って一鶴先生の講談教室に行ったという凌鶴先生。そこで教わったのは4分ぐらいで終わるショート講談だった。
一人でできる講談の魅力にとりつかれ、一鶴先生のところに弟子入りして講談師に。
それから自分はショート講談というものを作ってきている。
最初に新作をやったのはレッドペッパーで定期的にやっていた勉強会。
自分がかけた一席が短すぎたので何かもう少し…と思い、その日新聞で読んだ「侍マン」のことを高座でかけてみたら、それまで眠そうだったお客さんの目が輝いた!それを見て「これだ」と思って、以来新作を作り続けている。
今日はそんな新作講談をいくつか紹介します、と。

凌鶴先生がチケットショップで買ったチケットを手にテアトル新宿を訪れる「テアトル新宿入場」。
奥様に何回かカバンを買ってあげたことがあるのだが、伊勢丹で買うとなぜかそれが奥様の記憶の中で「自分で買った」という記憶にすり替わってしまう謎に迫る「伊勢丹カードマジック」。
小さなエピソードだけど凌鶴先生の人柄がにじみ出ていて好きだな。
中村裕」「前田長吉」は、できればロングバージョンで聞きたい。
山内一豊の妻」は以前聞いたことがある話だけど、こんなに短くもできるんだ!と驚きがあった。

凌鶴先生「糞土師 伊沢正名
これがもう抱腹絶倒で最初から最後まで肩がふるえっぱなしだった。
キノコなどの自然写真家で野糞をし続け自らのことを「糞土師」と名乗る 伊沢正名さん。
凌鶴先生の口から「野糞」という単語が出て来た時は、「え?何かの聞き間違い?」と思ったけれど、これはほんとに新年を持ってに野糞をし続けている男性の実話なのである。
初めてした時の様子、それから徐々に技を磨いていく様、そして自分の野糞率の克明な記録。
最初のうちは紙で拭いてそれも一緒に埋めていたが、ある時紙がバクテリアで分解されないことを目の当たりにしてそれからは紙を使うのをやめて葉っぱを使うようになり、それもどの葉っぱが適しているかを分析…その葉っぱの名前を講談調に列挙したり、言葉遊び(ダジャレ)がちょいちょい入っていたりで、おかしくておかしくて笑っていたんだけど、最後まで聞くとそれまで笑っていた自分を反省してちょっと真顔に…。
そもそも排泄行為は表立って語ることではないという「常識」が自分にあるから、こんな風に笑ってしまうんだよな…。
震災の時、水洗トイレを流せないというのがすごく大変なことで、自分たちが見たくないものを見ないためにずいぶん無駄なことをしているものよのう…と思ったことも思い出されたりして。とはいっても野糞はなぁ…。うーん。


凌鶴先生「フレッド・コレマツ」
第二次世界大戦の時に家族ともに収容所に入れられ、そのことを不当として裁判を起こした日系二世フレッド・コレマツの物語。
あーーこれは辛い話だなぁ。
前に読んだ「屋根裏の仏さま」を思い出す。
どこの国でも差別はあって、それが戦争となるとあからさまになる。
そういう差別がおかしいこと、不当であることはわかっているはずなのに、「愛国心」という名のもとに国ぐるみで人種による差別を行い家や財産を奪い収容所に閉じ込める。
外国に移り住むというのはそういう危険が伴うということなのか。
いや自国の中にいても差別はあるし、戦争になればやはり「愛国心」を盾に、密告や投獄、拷問なども行われるのだ。

10年以上前であれば「そういう時代もあったんだなぁ」と聞けたかもしれないが、今聞くともうとても対岸の火事には思えず暗澹たる気持ちになってしまった。
折しもトランプ大統領が来日しており、それもあってこの話を選ばれたようだけど、聞いていてしんどかった。でも目をそらしてはいけないことだとも感じた。

フィフティ・ピープル (となりの国のものがたり)

 

フィフティ・ピープル (となりの国のものがたり)

フィフティ・ピープル (となりの国のものがたり)

 

 ★★★★★

痛くて、おかしくて、悲しくて、愛しい。50人のドラマが、あやとりのように絡まり合う。韓国文学をリードする若手作家による、めくるめく連作短編小説集。 

 読み始めてすぐに好き好き!これすごくいい!!と思って、図書館本だったんだけど昼休みに本屋さんに行って購入。同じ本を二冊抱えて家に帰ってくることになった。

韓国の首都圏の大学病院の周辺に住む51人の物語。

事故で大切な人が重体になっていたり、恋人にふられて絶望したり…暮らしのレベルや抱える問題はそれぞれ。
誰もが自分の物語の中では主役なんだなぁ。同じ人が他の人の物語にひょいと現れると印象がまた違ってその人の別の一面も見られるという作りも巧み。

なによりも作者のまなざしが優しくユーモアに満ちていて読みながら何度も声を出して笑ったり泣いたり。

パワハラや欠陥工事、劣悪な労働環境などままならないことが沢山あるけれど少しずつでも良い方向に繋いで行けたらいい。素晴らしい作品。大好きだ。

国同士にいざこざがあってもそこに暮らす人たちは私たちと何ら変わるところはない。善意にあふれた人がたくさんいて葛藤しながら一生懸命生きてる。
反韓の人にこそ読んでもらいたいと思うけれど、そういう人はこういう本を手に取ることもしないんだろうな、と思うと悲しくなる。

青空と逃げる

 

青空と逃げる (単行本)

青空と逃げる (単行本)

 

 ★★★★

深夜の交通事故から幕を開けた、家族の危機。押し寄せる悪意と興味本位の追及に日常を奪われた母と息子は、東京から逃げることを決めた――。

辻村深月が贈る、一家の再生の物語。読売新聞好評連載、待望の単行本化。

ストーリー的には、え?どうなの?と思うところはあったけど(妻子逃げる必要あった?夫どうなん?え?連絡取れるの?それ黙ってたの?はぁ?)、母と息子が逃亡生活の中で成長し絆を深める描写がとても良かった。

見知らぬ土地で生活すること、足場を固めること、信頼を得ること、どうしようもなくなったら助けを求めること。

行った先々の土地が魅力的でロードノベルの魅力たっぷり。
出会った人たちの距離感を保った優しさが心に染みた。

聖者が街にやって来た

 

聖者が街にやって来た

聖者が街にやって来た

 

 ★★

企業誘致に成功し、タワーマンションも林立して人口が急増する神奈川県多摩川市湧新地区で、小谷桜子は古くから花屋を営んでいる。十七歳の娘・菫子が市民の結束を目的に企画されたミュージカルの演者に選ばれた。新旧の住民が入り交じり盛り上がっていく街。だが、水を差すかのように若い女性が立て続けに殺される。それぞれの遺体近くには異なる花びらが一片だけ、なぜか残されていた。犯人が捕まらず、謎も不明なまま、街に不穏な空気が満ちるなか、今度は菫子が何者かに誘拐されてしまう。格差、母子家庭、LGBT、子どもの貧困、タワマン、危険ドラッグ…。ニッポンの“今”を鋭く照らす傑作長編!

前回読んだ「少女たちは夜歩く」がとても良かったのでそれに比べると少し物足りない。

前向きで屈託のない女子高生、ハンサムで頭はいいけど裏のある男子、人情に厚いオカマちゃん、熱血な刑事、天才的な才能に恵まれ奔放なピアニスト、と人物があまりにもステレオタイプ過ぎやしないか。

動機もなんかあまりにもありふれているし、全体的に下町っぽい優しさに包まれているのでスカッとした後味だけど冷静に考えたらかなり酷い話だぜ、おい。
読みやすくて一気読みしたけど、あんまり頭に残ってない。あ、幻冬舎なんだ。ふっ。

クネレルのサマーキャンプ

 

クネレルのサマーキャンプ

クネレルのサマーキャンプ

 

 ★★★★★

自殺者だけが集まる世界でかつての恋人を探すハイムは、親友アリとヒッチハイカーの美女リヒとともに旅に出る。やがて行き着いたのは「意味のない奇跡」に満ちたサマーキャンプだった…。中篇代表作のほか、かつて月に住んでいた人々、作家の才能を奪いにくる悪霊、付き合った女性たちの写真をある家で発見する男、きらきら光るものが好きな女の子、バスに乗り遅れた客にドアを開けない運転手、美術館に飾られた美しい子宮、地獄から湧きでる人々など、意表をつく設定で人間の本質をとらえた数多の物語を紡ぎだすイスラエル人作家の日本語版オリジナル作品集。人気作家の31の中短篇。

表題作が中篇で、それ以外はかなり短めの短編が収められている。

「クネレルのサマーキャンプ」
自殺した者だけが行き着く世界で元カノを探す男。この世界で家族で暮らしてる男(つまり家族全員自殺している)。そして何かの手違いで来てしまった美女。旅に出た三人がたどり着いたのは意味のない奇跡に溢れたサマーキャンプ。

自殺したあともこんな「ふつう」の世界に行くのなら、生きていても変わりがない?なんて思ってしまうけど、それだけ現世が生き難いということなのか。「兵役」までは「(自殺しないで)もった」というような記述もあって、そうか…戦争だ…とはっとする。
ぶっ飛んでいるけど不思議な優しさに満ちている。でも油断してると奈落に落とされるような危うさもある。

前作よりもバラエティーに富んでる作品群。

表題作の他は「君の男」「でぶっちょ」「地獄の滴り」が好き。一瞬で世界が逆転する面白さが独特。

色ざんげ

 

色ざんげ (岩波文庫)

色ざんげ (岩波文庫)

 

 ★★★★★

欧州から帰朝した洋画家湯浅譲二は、毎日手紙を寄越す不思議な女に翻弄されるうちに、女は失踪。女の友人つゆ子と捜索の旅に出た彼はつゆ子に魅かれるが、さらに湯浅の絵のファンだという女学生が現れ……。深く誰か一人を愛するわけではない男と、男の愛を?んだようで常に不安な女の姿を情感豊かに描く。(解説=尾形明子・山田詠美)

昨年読んだ「文豪たちの友情」で、梶井基次郎宇野千代の関係について触れられていて、二人の仲を尋ねられた宇野千代が「顔が好みじゃない」と否定したが、実は恋愛関係があったのかもしれない。恋多き女宇野千代が梶井のことを守ろうとしてそう答えたのかもしれない、というような話。
それを読んで、そういえば一時期「恋多き女」としてよくテレビに出ていた宇野千代の作品を一度も読んだことがなかったなと思って、読んでみた。

画家・東郷青児をモデルに彼と関係を持つ三人の女が描かれる。言い寄られればふらふらと関係を持ち、その友人の方が美人だと思えば今度は自分から言い寄り…駆け落ち、重婚、心中と、主人公の譲二の行動は恋愛に生きる男そのものなのだが、不思議と熱が感じられない。
女の側の熱情や思惑にただ流されているようなのだが、時々激情に駈られて無分別な行動に走る。

彼の虚無感が女から愛情を男からは同情を引き寄せるのか。
身勝手な男だが哀れでもあるし羨ましくもある。こういう生き方がまかり通った時代だったのだなと思うと、今の方がずっと不自由に感じる。
色ざんげ」というタイトルも秀逸。

勢いのある美しい文章。ほかの作品も読んでみたい。

玉川太福 ”男はつらいよ 全作浪曲化に挑戦” 第6回

5/20(月)、日本橋社会教育会館で行われた「玉川太福 ”男はつらいよ 全作浪曲化に挑戦” 第6回」に行ってきた。

・太福・みね子「男はつらいよ 第一作」(大西信行作) 
~仲入り~
・太福・みね子「男はつらいよ 第十作・寅次郎夢枕」

太福さん「男はつらいよ 第一作」(大西信行作)
最近、地方のお仕事もいただけるようになって飛行機に乗る機会が増えたという太福さん。
飛行機好きの噺家の方たちから「マイル貯めたらいいよ」とアドバイスをいただき、貯めようとしているところ…。まだ貯めれてません。ちょっと難しくて…。
昨日も飛行機で帰って来たんですけど、飛行機って非日常ですよね。何がと言えばCAさん。いいですよね。見ていてもいいんですから。合法的に見ていられるっていう幸せ…。

…太福さんがそう言うと、みね子師匠が「え?なに言い出すの?」とちょっと驚いた顔をしてから、ぷっと吹き出したのがすごくかわいい…。

ちょっと引くぐらい…男子中学生みたいなのがもう最高だな、太福さん。
またそういう話を聞きながらみね子師匠がちょこっと眉を上げて、ぷぷっと微笑むのがたまらなくかわいらしいし、この二人の関係がとても素敵で、ほんとにいいなぁと思ってしまった。

寅さんをやるのは、中高校生の時に女の子と口もきけなかった、そういう人間じゃなきゃだめ。
そういう意味では僕にはその資格ありです。
そんなまくらから「男はつらいよ 第一作」。これは太福さんが作ったわけではなく、寅さん映画が流行っていたころに浪曲化されたものとのこと。まさに寅さん登場の回だ。

寅さんが20年ぶりに柴又に帰って来たところから。
寅さんが御前様に気が付いてぺこぺこと丁重に挨拶するところで、ああっ笠智衆だ!と思い出した。
私は子どもの頃、よくおばあちゃんと二人で寅さんの映画を見に行ったものだった…(遠い目)。
御前様の娘・冬子に久しぶりに再会し美しくなっていたことに感激し恋心を抱く。この再会の場面で冬子が「あら、寅ちゃん。ひさしぶりね。はい、飴あげる。」と言ったのがもう最高で大笑い!このセンスったら。
さくらの夫の前田吟が妙にしっくりきていたり、たこ社長がちょっと自信なさげだったりするのも面白い。
わーーー、寅さんと浪曲ってすごい相性がいいんだなぁ。楽しかった。

太福さん「男はつらいよ 第十作・寅次郎夢枕」
第十作はちょっと普段とは違うパターンで異色です、と太福さん。マドンナは八千草薫さん。

柴又に帰って来た寅さん。歓迎してくれるはずのおばさんやさくらの様子がおかしいと思っていると、実は二階には御前様の親戚で大学助教授の岡倉が居候していると聞かされる。
気を悪くした寅さんが出ていこうとすると、そこで幼馴染の千代にばったり出会う。
離婚して柴又に戻ってきて美容院をしている千代に会った寅さんはそのまま柴又に残ることにする。

離れ離れになった子供に会わせてもらえない寂しさを語る千代を慰めて元気を出させようとする寅さんに、千代は徐々に心を寄せるようになる。
また美しい千代に岡倉が片思いし、それを知った寅さんは岡倉を応援する。

千代と二人で出かけた帰り道、千代の想いを知った寅さんは…。

聞いていて思い出した。
私はこの第十話を見て、寅さんのことが大好きになったんだった。
いつも勝手に片思いをして玉砕する寅さんが、初めて相手から思われていることを知ったときの不器用さ、やさしさ…。

それが太福さんにとても合っていて、思わず涙涙。
うおおーーー、いいーーー。
かっこいいところとばかばかしいところのさじ加減も絶妙でほんとに素敵だった。
太福さんの男はつらいよシリーズ、もっと見たくなったぞー。

柳家小三治独演会

5/19(日)、めぐろパーシモンで行われた「柳家小三治独演会」に行ってきた。


・三之助「替り目」
小三治「お化け長屋」
~仲入り~
小三治「長短」


小三治師匠「お化け長屋」
出囃子が鳴っても出てこない小三治師匠。なにかあった?と心配していると、再び出囃子が鳴り始め、ようやくの登場。ドキドキ。
「お待たせしました。なにかあったんですかね」と師匠。わはは。

いきなり出てきてなんですが今とても調子が良くないです。いろいろ…良くないです。夕べから頭がとても痛いし…。でも半年後に良くなる勝算があります。なので今は…谷間です。谷間…谷間の百合…美しい…。
来年私は80になります。どうでしょう?私は…自分がそうなるまで80歳なんて本当の年寄だと思ってましたよ。でも今の自分は…年寄なんですかね。なんかそういう気がしない。
目黒…ここは私の高校の学区域でしたよ。今もそういうのあるんですかね。
高校の同窓会…行われてましたけど数年前から連絡が来なくなりました。どうしたんでしょうか。死に絶えたんでしょうかね…。
今も毎年やっているのが中学の同窓会です。今週末あります。毎年、私の都合を聞いてから日にちを決めるんですよ。なぜかといえば、決まった予定があるのが私ぐらいなもんだから…。でもこれ…とっても親切なようにも見えますけど…そうでもないんですよ。だってこれで日にちを決められてしまうと、その後にすごくお金になる仕事が来ても断らなきゃならない。ふふっ。

それから自分のことを噺家と名乗るようになったという話から、それをいいことにまくらが長くなった…というわけでもないんですが…。名乗りだした頃はまさかこんな風になるとは思ってもいなかったですからね。
ここに来てるみなさんの中にも被害に遭ったよという方もおられるでしょう…。
酷かったのは横浜のホールでやったときですかね。まくらが長くなってしまったので仲入りにしてその後落語をやりますと言って高座を降りようとしたら、舞台袖で主催者が大きく「ばってん」作ってるんです。もう時間切れだ、と。
そういうこともありましたよ…(遠い目)。
お客さんが怒って帰ったこともありました。外人のご夫婦で…後から言われました。私たちは落語を聞きに来たんだ!戯言を聞きに来たわけじゃない!って。
みなさん…そう言われる気持ちがわかりますか?ははは。
今日は落語やりますよ。今日来たおきゃくさん…落語を聴いてやるぞという気概を持っていらした方ばかりでしょうから。
今日はとりとめもない話ばかりだな。あ、いつもか。

なんてことを言いながら。
寄席でやる怪談噺のまくらから「お化け長屋」。
最初に来た男に語る怪談に凄みがある。小さな声で喋っているのが効果的で会場もしーんとなる。
それがあるから二番目に来た男にその手が全く通じないのがとってもおかしい。この男、どういう反応をしてくるか見えないところがあって、それがおかしい。
「この野郎。てめぇがやったな!」と怒り出したかと思えば、「懐に手…おっぱい?おっぱいか?」と食いついて「おらぁそういう話は大好きだ」と言ってにじり寄ってきたり。
楽しかった。


小三治師匠「長短」
出てくるなり「ここに出てくるとき、とても心配でした。お客さんが呆れて帰ってしまったんじゃないかと思って」。
そう言うってことは一席目の出来に納得してないってことなのかな。
私にはよくわからないけれど、小三治師匠の落語って次のセリフは…という風にフツウにやっているんじゃなくて、頭を真っ白にして出てくるままに出している…そんな感じがする。
自分でもそういうふうにして何が飛び出してくるか見守っているような…。
でもそれってすごい怖いやり方で…それを調子が悪い時は最近封印してやっているような…。あくまでも私の勝手な見方だけど。
そういう意味では一席目の「お化け長屋」は安全な方を選んだのかもなぁと思ったり。

なんでも鑑定団に出た時の話から昔、柳家一門でチャンバラのお芝居をやったときの話。
小三治師匠は鞍馬天狗役。本物の刀は使えないけど、ジェラルミンの刀を使ってのお芝居。
一門で誰が1番目に来て、2番目は誰…と打ち合わせしていたのに、実際にやってみたらもうばらばら。みんな、自分は誰の後に出る、ぐらいしか把握してないから、間違った順番で誰かが出るとそれにつられて何人もかかってきちゃって、もうあっちから打たれたりこっちから斬られたり。
一番ひどかったのは馬風師匠との一騎打ち。
あの人は面白いでしょ、高座だと。でも大マジな人なんです。シャレが通じない。だから本気でかかってきて思い切りガツンとやられた。
なんだ?いてぇな!と思ったらチャンバラやりながら馬風師匠が「おい、大丈夫か?」と聞いてきた。
なにがだ?と思って「あ、ああ…大丈夫」と答えると「お前…血が出てるぞ」。
なんと鼻のところをガツンとやったもんだからそこから流血してた…。

そんな話から、柳家の一門はとても仲が良かったという話に。
談志さんと私が仲が悪かったんじゃないかとお客さんやマスコミには思われてたみたいで、談志さんが亡くなった時、よく聞かれました。
でも実際は仲は良かったですよ。一門ですから。

でもほんとに気が合ったといえば、扇橋…。
うちの師匠の「ちはやふる」がそれはもう本当に面白かった。おれもいつかああいう「ちはや」がやりたいと思っていた。でももちろん私の「ちはや」は師匠のと同じにはならない。
ある時末廣亭のトリで「ちはやふる」をやったんです。そうしたら楽屋にいた扇橋が私に近寄ってきて「とってもよかったよ」って言ってくれた。そんなこと言ってくれる仲間はいなかったけどあいつはそう言ってくれた。そう言った後であいつは「落語って哀しいね」。そう言いました。
そんなこと聞いたことがなかった。でもあいつは…俳句の名人で…そのあいつが「落語って哀しいね」そういったんです。

そんなまくらから「長短」。
そんな話を聞いたから、長さんが扇橋師匠、短さんが小三治師匠に見えてくる。
長さんが短さんに焦れてポンポン言うんだけど、お互いに大好きな気持ちが伝わってきて、じーん…。
長さんがかわいいんだ。もう。
「ともだちっていいもんだ」という言葉が浮かんできた。いいもんだなぁ…。

長さんがお饅頭を食べていたら、客席の前の方で携帯がかなり大きな音で鳴り出して止まらない。あーーまたかーと思っていたら、長さんがその音を聞き入るように黙ってゆっくりお饅頭を食べる。
こんなことで長さんは驚かないんだな、と思ったらおかしくて笑ってしまった。

この間見た時ほんとに体調悪いんだろうなと心配した小三治師匠。たっぷり二席、ほっとした。

《噺小屋in池袋》 皐月の独り看板 第一夜 林家きく麿

5/18(土)、東京芸術劇場シアターウエストで行われた「《噺小屋in池袋》 皐月の独り看板 第一夜 林家きく麿」に行ってきた。


・きく麿 オープニングトーク
・やまびこ「金明竹
・きく麿「スナック・ヒヤシンス2」
~仲入り~
・きく麿 「私の頭の中の揚げ物」
ウクレレえいじ ウクレレ漫談
・きく麿「殴ったあと」

きく麿師匠 オープニングトーク
黄色いタイツに赤いTシャツ登場のきく麿師匠。はちみつの壺を抱えて…プーさん!大きなお腹がチャームポイントだよ!わはははは。
なんかしょんぼり登場したのがめちゃくちゃおかしい。
その後、サングラスをかけて誰かの真似をしようとしたようなんだけど、手違いで先に小林旭のカラオケが流れてしまい、「昔の名前で出ています」に突入したのもおかしかった!
歌いながら会場に降りてきて握手するのも演歌のリサイタルっぽくておかしい~。
のっけからこのサービス精神。最高。

きく麿師匠「スナック・ヒヤシンス2」
予告されていた「スナック・ヒヤシンス」第二弾。
ママとチーママあきこさんの二人が慰安旅行に出かける。
バスツアーの不満、生意気なバスガイドへの不満をぶちまける二人。
もうこの二人の会話で昭和なスナックの雰囲気が伝わってきてたまらなくおかしい。きく麿師匠の落語ってストーリーの展開だけじゃなく、こういうどうでもいいような会話に絶妙の面白さがあって…だから聞いていて疲れないんだと思う。
「ビビクリマンボ令和元年」も飛び出して、歌もあり踊りもあり懐かしいアノヒトもありで楽しかった~。会場もどんどんヒートアップ!

きく麿師匠「私の頭の中の揚げ物」
学校寄席に行ったときの話や圓丈一門と木久扇一門の話、などたっぷりのまくら。
デブサミットのまくらからの「私の頭の中の揚げ物」。(会場に張り出された演目名は「頭の中のカラアゲ」だったけど、その後師匠のつぶやきからこちらの演目名に)

人気のとんかつ店に向かうカップル二人。
店長がちょっとめんどくさい人だから気を付けてねと彼氏に言われると「ええ?めんどくさーい」と彼女。
いやでもほんとにうまいからさ。俺の中でNo1だよ。あんなにうまいとんかつはないよ。彼氏の力説に「じゃやっぱり行く」と彼女。
行ってみるとほとんど口をきかず眼力で会話をしてくる店長。ただものではない雰囲気。
この店長が黙って豚肉に衣をつける…もうこの所作がすごくきれいでリアルでどこをどう見てもとんかつを仕込む所作なのがもうおかしくておかしくて大笑い。
また揚げる時のポーズや温度を計るところ…それにいちいち彼女から冷静なツッコミが入るのがたまらない。
それからとんかつを食べながら彼女が彼氏が太ったことに気づき、何キロ?えええ?そんなに?ダイエットした方がいいよーーーというところから、大好きな揚げ物を断った方がいいということになり、彼女が提案したダイエット方法を試すことに…。

噺が意外な方向に進んでいくのもおかしいんだけど、主人公吉田くんの揚げ物への愛や間違ったダイエット知識やこだわりがもうすごくおかしい。
レダレダイエットもそうだけど、デブネタたまらないなー。
そして作るところや食べるところの所作がめちゃくちゃきれいでリアルなので、めちゃくちゃ肉が食べたくなった!たまらん!

ウクレレえいじさん ウクレレ漫談
初めて見た!と思ったけど、テレビで見たことあった!
最初は戸惑いがちだったお客さんが徐々にのってきて最後はものすごい盛り上がりに。
すごく面白かったし、音楽も良くて、すっかりファンになってしまった。
あとウクレレ…やってみたいなぁ…。

きく麿師匠「殴ったあと」
トリネタはなにかなと思っていると「殴ったあと」。
これ、ほんとに秀逸だなぁ…。仲居さんが歌う浪曲が場面転換になっていて、そのテンポの良さと繰り返しのおかしさで聞いてるうちにどんどんボルテージが上がっていくのだ。
ダメな男に引っかかってひどい目にあって殴られる…んだけど、最初のうちは「ああ、だめだよ、その男」「やめたほうがいいよ」と言っていた彼らも、そのうち「これ…殴られた~って言いたいだけじゃん」ってなって、女の悲しい身の上話感が薄れてくるのもいい。
楽しかった~。こんな大きな会場でこんなにすごい盛り上がり。まーろ様すごーい。感動。

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きく麿師匠・プーさん

 

3時のUNA gallery

5/18(土)、「3時のUNA gallery」に行ってきた。

・さん助 ご挨拶
・さん助「本膳」
・さん助「らくだ」
~仲入り~
・さん助「ちしゃ医者」

さん助師匠 ご挨拶
UNA galleryさんでの会、二ツ目のころからずいぶん長くやってます、とさん助師匠。
最初は夜の9時にやっていて、始めたころはほんとにお客様がいらっしゃらなくて…それが何年もやってるうちに最後は20名ほど来ていただけるようになり…。一応そこまで頑張ったからいいだろうと辞めました。
それから今度は朝の9時に始めて…これもまぁ朝の9時なんていう変な時間ですからお客様がいらっしゃらなくて…二名ということもありました。その時お客様からは「稽古してるみたい…」と言われました。
で、今回は3時で始めてみましたが…定期的にやるかどうかもまだわかりません。

…そうなんだ。できれば定期的にやってほしいなぁ。時間も曜日もいろいろでいいから。
こちらの会では珍しくさん助師匠がリラックスしていてまくらも面白いし、蔵出しが見られるイメージがあって大好きなんだ。
どうか定期的に長期的に続きますように…。なむー。

さん助師匠「本膳」
これはごくお古いお話で…山奥のそのまた奥の奥の…海沿いの村の話でございます、と「本膳」。
山の奥に海があるんだ…?山を登って下って…っていうことなのかな。
村の人たちが「先生」のところへ大勢で訪ねてやってきて「地主様のところの婚礼に呼ばれたが本膳がわからないから引っ越さなきゃなんねぇ」「でも引っ越す前に先生ならもしかして知ってるんじゃねぇか、先生に聞いてからでも遅くあんめぇってことになってやってきた」。
先生の真似をしようとぞろぞろ付いて行って、先生が首をかしげれば全員かしげる、お椀に口をつければ口をつける、里芋を転がせば転がす…。
先生の一挙手一投足、「ほら見ろ。本膳なんちゅうは難しいもんやのう…」と感心する村人がおかしい。

終わりかたがなんか唐突だったのはなんだったんだ??むむ?

さん助師匠「らくだ」
まくらに入って、え?え?となる。まさかの「らくだ」!!
兄貴分がちゃんと怖い。大きな声を出す怖さじゃなく、むしろ声が小さい怖さ。意外にも本当に怖い。
それに対する屑やさんが最初は抵抗するんだけど、「おれがおとなしく言ってるうちに…」のセリフを聞くと、しゅわっと「はいっ!やります!」となるのがおかしい。
かんかんのうは、さん助師匠の素っ頓狂な歌が屑やさんがやけになって歌ってる感じがしていい!
かんかんのうをやってから屑屋さんに少し開き直りが出てくるのもいいな。
お酒を勧められていやいや飲むけど、一杯目からすでに「うまい酒ですね」とにやり。
一杯目、二杯目はものすごい勢いで一気飲みするのに、三杯目からは味わって飲みだして、兄貴分のことを「あんたえらいよ」と褒める。
何もないところからこれだけのことをしたんだから、とか、自分も困ってる人を見ると黙ってられないとか…。
その中で、らくださんにはひどい目にあわされた、という話。その時に一度食って掛かったら、長屋の路地に連れていかれて殴られたり蹴られたり…口の中に砂が入って本当に痛くて懐に匕首を入れていたから刺してやろうかと思った。でも子供の顔が浮かんでぐっと堪えた。
あの時は本当に悔しかった。でも何に一番腹が立ったかって、長屋の人たちがだれ一人出てきてくれなかった。隙間から覗いている気配はするのに大家も住んでる人も誰も助けに出てきてくれなかった。
だから、親方とあたしの二人っきりでらくだの弔いはちゃんとやってやろう。
ああ、なるほど…屑屋さんはそういう気持ちから最後まで面倒見ることにしたのか。
さん助師匠らしい解釈で、これだからさん助師匠の落語が好きなんだよなぁ、と思った。

お酒飲んでもう怖いものがなくなった屑屋さんに、兄貴分の方が「はい。頼むよ、兄貴」とどんどん表情から毒気が抜けていく面白さ。
剃刀を借りに行ってこい!のところまで。
いつか通しで聞いてみたいな。

さん助師匠「ちしゃ医者」
噺家仲間としゃべっていると、教わったけど1度だけやってやめてしまった噺とか、教わって一度もやってない噺、っていうのを誰しも持っているようです、とさん助師匠。
私は先代の燕弥師匠に「三十石」を教わったんですが。あれは船頭が船を漕ぎながら歌を歌うというところが一つの見せ場でして…あれを教わろうなんて考えたのはほんとに無謀…なぜなら私はとんでもない音痴。しかも不器用なので漕ぐしぐさをしながら歌を歌うとか…無謀にもほどがあったんですね。
噺っていうのは教えてもらったら今度はその師匠の前でやって見せて「これならやってもいいよ」と承諾を得ないと高座にかけることができない。
私が師匠の前で「三十石」をやると、最初のうちは事細かく「ここはこうした方がいいよ」とか「ここは違うよ」と教えてくれていた師匠がそのうち黙って固まってしまいまして…。
最後までやったとき、燕弥師匠がおっしゃいました。
「君…これは…君が70歳ぐらいになったときにやったらいいよ…」。
つまり70ぐらいになれば相当ヘンテコでももう誰にも何も言われなくなるから…ということのようでした。

あと「七段目」とかああいう芝居が入る噺は、教わりに行く師匠によってはなかなかOKを出してくれないってことがあります。ですから誰に教わりに行くかっていうのはとても大事なことでして。
私は「七段目」もってるんですけど、ずるいですから、相当ゆるい師匠に教わりに行きました。

…ぶわはははは!!!おかしい~!!そのエピソード。上げの稽古ですっかり黙ってしまう師匠。70歳になったらやればいいよって…優しいなぁ。最高だわ。

あと、教わった噺を初めてかける時よりも、一度かけて10年ぐらい塩漬けしちゃった噺をかける時の方が緊張します。これはなぜなんでしょうかね。ほんとにそうなんですよね。怖いんですね。
今から申し上げる噺は二ツ目の時に一度かけたんですけど…そのころ自分の会に若くてきれいな女性が通ってきてくださっていたんですけど、この噺をかけた時に帰り際に「私今日の噺嫌いです」と言ってほんとにそれっきり来なくなってしまって…。
今ならもう平気ですけど当時はまだ純情だったものでショックが大きくてそれ以来かけてなかったんですね。
今日のお客様の中にももしかすると嫌いとおっしゃる方がいるかもしれませんけど…まぁ若い方はいないから大丈夫かな。(←うっせー)

そんなまくらから「ちしゃ医者」。
夜中に医者の扉を激しく叩く音。下男が「そうどんどん叩くな」「うちの先生は藪医者だから行ってもいいけど見せたら命の保証はない」「だから行くか行かないかは患者の容体と家族の希望を聞いてから私が判断している」。
それでも激しく叩くので仕方なく開けるとその物音に藪の医者も目を覚まして出てきてしまう。
うちの主が重病でほぼ死にかけているのだけれどだからって医者を呼ばないのも外聞が悪いのでとりあえず来てほしいと言われ、じゃあ早速行こうと藪先生。
医者が歩いて行くわけにはいかないと、壊れかけた籠に乗り込み、前を呼びに来た男、後ろを下男が担いで夜道をえっちらおっちら。
途中で呼びに来た男の家の人たちと出くわし、主がもう亡くなってしまったことを聞かされる。
男は行ってしまい、残されたのは壊れた籠と藪医者と下男。下男が一人では籠を担げないからと、二人で空の籠を担いで歩いていると、村の百姓とばったり。
百姓は自分はこれから肥をもらいに行くところだからと言って、籠の中に肥が半分入った桶を入れる。
くさい桶と籠に入った藪先生。揺れるたびに肥の中身が飛び出るので臭い臭い。
百姓が肥をもらいに酔ったおばあさんの家でおばあさんから肥の代わりに何をくれるのかと問われた百姓が「今日は何も持ってきてない。籠の中には医者がいるだけ」と言うと、医者をちしゃ(レタス)と聞き間違えたおばあさんが…。

実にばかばかしくて楽しい。さん助師匠もきっとこういう噺好きなんだろうな、生き生きしてた(笑)。

こういう噺が嫌いと申告したお嬢さん。こういうのが嫌いというなら、小泉なんとかみたいに一生「中村仲蔵」だけ聞いてろ!けっ。
って自分たちは若くてもきれいでもないと言われた僻みか?わっはっは。

償いの雪が降る

 

償いの雪が降る (創元推理文庫)

償いの雪が降る (創元推理文庫)

 

 ★★★★

授業で身近な年長者の伝記を書くことになった大学生のジョーは、訪れた介護施設で、末期がん患者のカールを紹介される。カールは三十数年前に少女暴行殺人で有罪となった男で、仮釈放され施設で最後の時を過ごしていた。カールは臨終の供述をしたいとインタビューに応じる。話を聴いてジョーは事件に疑問を抱き、真相を探り始めるが…。バリー賞など三冠の鮮烈なデビュー作! 

 主人公ジョーは父親は誰かわからず母親はアル中、弟は自閉症。バイトで貯めたお金で大学に入り家を飛び出したものの、バイトに追われ家族からも逃げられず何もかもが八方塞がり。課題のために訪れたケアハウスでカールという死刑囚に出逢い彼の話を聞いて伝記を書くことに。

とにかく主人公のジョーが魅力的で読んでいて応援せずにはいられない。そのためミステリーじゃなくて青春小説としても読める。

逃げないジョーがほんとに素敵。ちょっと都合がよいのではなところもあるけど、それはそれ。面白かった。

続編も出るといいなぁ。

夜のアポロン

 

夜のアポロン

夜のアポロン

 

 ★★★★★

濃厚な悪意の闇の中にきらめく、刹那の“生”と魅惑の“謎”―初期作を中心に書籍未収録の16篇を収めた、青春、犯罪、時代、暗号…バラエティ豊かな傑作ミステリ短篇集。 

「夜のリフレーン」と対をなす単行本未収録短編集。初期の作品が多く作者あとがきによれば「初期の頃の不出来な習作」とのことだけどなにがなにが…。

昭和の香りが漂うなか、男女の抜き差しならない仲や捻れた欲望や奇妙な友情や嫉妬、悪意、殺意…。
暗い話が多いが醜悪なものを描いていてもどこかに美しさもあるから読んでいて不思議と嫌にならない。

好きだったのは「冬虫夏草」「致死量の夢」「死化粧」「魔笛」。
最後の「塩の娘」に読者サービスを感じて感謝感謝。

不意撃ち

 

不意撃ち

不意撃ち

 

 ★★★★★

池袋の風俗嬢ルミが失踪した。彼女の過去を追う風俗店のドライバー。彼が辿り着いたのは、伊勢の海に浮かぶ不思議な女たちの島だった。(「渡鹿野」)/東北の町を津波が呑み込んでいく映像に見入る男女。女が呟く。「出番が来たんちがう?」…被災地を舞台に繰り広げられる犯罪、そして―。(「仮面」)/2016年11月30日に報じられた、ある男の逮捕のニュース。それはやがて、中学時代に遭遇した、教師の壮絶なリンチ事件の記憶へと「私」を誘う。(「いかなる因果にて」)/幻覚は数十分後に現実に再現される―帰還した女性宇宙飛行士を惑わす知覚の変容。これは偶然か、誰かの意志なのか?(「Delusion」)/定年から一年、無事な人生を歩んだ奥本さんの頭に不意におとずれた小さな欲望、それは…。(「月も隈なきは」) 

面白かった!五編収められているがテイストが違っていてそれが楽しい。

一作目の「渡鹿野」は妙にリアルなところと妙に作り話っぽいところが入り混じっていて不思議な後味。

「いかなる因果にて」は作者の横顔が見えるようで結構好き。
不条理を見て憤りを感じたのではない。それを原稿に書いて生活のたつきとするのが私の商売、というカラッとした文章が好きだ。

一番好きなのは「月も隈なきは」。これ、いいなぁ。ちょっと身につまされる。

辻原さんの作品、どんどん読みたい。

柳家小三治独演会

5/14(火)サンパール荒川で行われた「柳家小三治独演会」に行ってきた。

・小ごと「道灌」
小三治 お話
~仲入り~
小三治「死神」

小ごとさん「道灌」
淡々と普通にやってる「道灌」なんだけど、なんかかわいい。体が大きいのにかわいい。

小三治師匠 お話
「みなさん、心配してますね。今日は大丈夫なんだろうか、と。…普段ならこういうことは言わないんですが…今日はダメです。とっても具合が悪いです。」
頸椎のこともあり、またインプラントの最中でもあり、熱もある、と。

「歯といえば…円楽さんと談志さんと私の3人で正月旅の仕事に行ってました。ああ、円楽って先代ですよ。そのたびに円楽さんは”あたしは今日はだめだ…歯が悪くなっていて…”と言ってました。そのころは私、若かったのでわからなかった。歯が悪いと落語に影響があるのかい?関係ないだろ?なんて思ってた。でもわかりました。この年になって。歯が悪いとちゃんと喋られない。私、ようやくちょっとよくなりました。治療の甲斐あって。私を追いかけてる人がいたらわかるはずです。」

…追いかけてる…み、みぃ?そう言われてみると聞こえやすくなってる気がする。
小三治師匠って大きな声で喋るわけじゃないし声も少しかすれてるけど、聞き取りにくいということがない。きっとそれってすごい技術なんだろうな…。
かみ合わせとかも大事なんだな。すごくデリケートな芸だな。

以前は近所の町の歯医者に通っていたという小三治師匠。
そこは保険の範囲内でやってくれるということで、噺家連中がずいぶん通ってました。その筆頭が扇橋でね。あいつが先頭切って「無料の歯医者がある」って言いふらしてた。
ずいぶん通ってインプラントもしてもらったけど、ついにこの医者に匙を投げられちゃった。
それで違う歯医者の所に行って…今そこに通ってる。
その先生が言うには…ずいぶんめちゃくちゃな治療をしてる?なんか1本だめになると連鎖してぐずぐずぐず…とダメになるような…。
まぁでもインプラントを前の先生にしてもらって助かりました。ずいぶん助けられた。それは確かです。
あと2本…でもインプラントは値段が高い。ここで募金を集めたいぐらい(にやり)。

それから西田佐智子の大ファンだったという話に。
ほんとにきれいだった。大好きだった。コンサートにも行った。コンサートでは他のお客さんに交じって「さっちゃーん」って声をかけた。なんで関口宏なんかと…。
でも憧れられるより憧れる方がずっと幸せ。一度自分の番組にゲストで来てもらったことがあったけど、だめでした。好きな人を前にするともう何もしゃべれなくなっちゃって。あれはだめだった。
そう言って好きな曲を歌ってくれたけど、知らない曲だった。でも声がほんとにいいんだなぁ。
それから春日八郎、三橋美智也…自分は歌謡曲が好きでフォークはちょっと…でも五輪真弓は好き…と言ってまた歌い…。
歌い終わってから「考えてみたら好きな曲は失恋の曲ばかり」と。

自分の原動力は失恋と母親との確執だった、という話にもなり。
中学の時からずっと好きだった女性の話に。前にも聞いたことがあったけど、ほんとに今でも大事な思い出なんだなぁ…。
それから、歌ったりして少し元気が出てきた、でも…一席三之助にやってもらおうか…と言って袖に声をかけたけどマネージャーさんから「着替えちゃってます」と言われて「なんだよ。じゃいいや」と言って…仲入りに。仲入り後は落語をやります、と言い残し(笑)。

小三治師匠「死神」
座布団に座るなりまくらなしで「死神」へ。
小三治師匠の「死神」久しぶりで嬉しい。
とても丁寧な「死神」だった。1席目で「今日は落語と討ち死にするつもりで来たけどそれはやめました。誤魔化しながらやります」とおっしゃっていて、その言葉が頭にあったせいもあるかもしれないけど、お話として丁寧に語った、という印象。
だから逆にドキドキするようなことはなく、ゆったりと楽しんだ感じ。
でもお客ってほんとに勝手なもので、そうなってみると、どこに連れて行かれるかわからない…そういう落語が聴きたくなる。
と言いながら、私は小三治師匠という人がとにかく大好きなので、見られればもうなんでもいいんである。

具合が悪いと言いながらまくらはたっぷりだったのでまだ大丈夫かなと思いつつ少し心配。

ニムロッド

 

第160回芥川賞受賞 ニムロッド

第160回芥川賞受賞 ニムロッド

 

 ★★★★★

それでも君はまだ、人間でい続けることができるのか。あらゆるものが情報化する不穏な社会をどう生きるか。新時代の仮想通貨(ビットコイン)小説!第160回芥川賞受賞! 

面白かった!芥川賞受賞作ってわかりづらいイメージがあるけど「おらおら」からイメージが変わったな。

仮想通貨とバベルの塔がこんな風に語られるの、面白い。
この物語に隠された大きなテーマはキチンと理解できていないかもしれないけど。

仕組みを理解することと現実の生活にだけ目を向けること。頑張ることの意味。替わりのない存在とは。そして選びとることと切り捨てること。
読みながらそんなことをつらつらと考えた。

ニムロッドと彼女は一緒に消えてしまったのだろうか。