りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

末廣亭3月下席夜の部

3/26(火)、末廣亭3月下席夜の部に行ってきた。

・圓馬「粗忽長屋
・小助・小時 太神楽
・談幸「片棒」
・幸丸「新島八重伝」
~仲入り~
・紫「宮本武蔵伝 熱湯風呂」
・コント青年団 コント
・柳之助「家見舞い」
・歌春「子ほめ」
・南玉 曲独楽
・蝠丸「ふたなり


圓馬師匠「粗忽長屋
めちゃくちゃおもしろい!
粗忽長屋」はもう本当にかなりの数を聞いているけど、なんか圓馬師匠らしいリズムというか強弱から生まれるノリが、加速をつけておかしさを増していくので、聞いているとどんどん楽しくなっていく。
「こいつはくまだ」と思い込んでる男の確信の強さがぐわっと効いてくるので、すごくおかしい。
笑った笑った。

談幸師匠「片棒」
短い時間で3兄弟全員分!なのに全然足りなくない。なんでだ?!
剛毅すぎる長男にお祭り男の次男にどこまでもケチろうとする三男。
次男のとんとんとーんと流れるようなお弔いの描写に、父親が「お前…さては稽古してきたな?」には大笑い。
楽しかった~。


幸丸師匠「新島八重伝」
歴史に疎く大河も見てないので、新島八重がどういう人物なのか全く知らなかったのだが、とても面白かった。
一途で気が強くて周りを気にしない八重をわりと憎々しげに(笑)話されているんだけど、聞いていると八重の魅力が伝わってきて、もっとこの人について知りたいという気持ちになる。
時々挟み込まれるダジャレに気を付けないとそのたびに幸丸師匠がピクっと不機嫌になるので気が抜けないんだけど、面白かった。


紫先生「宮本武蔵伝 熱湯風呂」
初めて聞く話だった。
武道に長けていると人から尊敬されたり恐れられることも多いけど、恨みを買っているということもあるのだな。
閉じ込められた風呂場でお湯をどんどん熱くされその湯がどんどん溢れてきて風呂場の水位が上がっていくところで終わり。くーーー続きが知りたい!
それにしてもこの話どうしても「熱湯甲子園」を思い出してしまう。みなさんそんなことないのかな


柳之助師匠「家見舞い」
今まであんまりいい印象がなかったんだけど、なめらかな落語で面白かった。
ちょっと毛羽立った心を静められた感じ。

蝠丸師匠「ふたなり
楽屋にはいろんな人がおります、と蝠丸師匠。
若いころに昭和の名人と言われる人と同じ楽屋にいて話をしているところを見聞きできたことは財産ですね。
志ん生師匠と正蔵師匠が二人並んでね、話をしているのを見たことがあります。
そう言って、二人の地球以外の宇宙にも生物はいると思うか?という会話を物まねで。
楽しい~!!!蝠丸師匠って物まねもうまいんだねぇ。
それから楽屋には変わった人間が大勢いて、中でなんでも請け負っちゃう、なんでも俺に任せろという人がいる、円師匠はまさにそうだった。ものすごい言うことが大げさでね、ほらばかりで。でもそれが面白かった。

「今日は、めったにやられない噺をやりますよ」と蝠丸師匠。
「珍品中の珍品…めったにやらない噺って聞くと、面白くない噺なんじゃないの?と思った方が多そうですけどね…そうなんですよ。だいたいはね。でもこれはね、面白いし、よくできた噺だと思いますよ。私はね。」
そんなまくらから「ふたなり」。

「かめ爺」と呼ばれる亀右衛門さんの所に夜遅く猟師二人が訪ねてくる。
このかめじいがなんでも請け負っちゃう、俺に任せろ大船に乗った気持ちで、というのを地で行く人物。
二人が言うには、五両の借金が返せないから夜逃げをしないといけない。
それを聞いたかめ爺は「たった五両で夜逃げ南下するこたぁない。おらがあかんこ婆に行って借りてきてやる」と言う。
あかんこ婆のところに行くには天神の森を通って行かないといけない。あそこは狐狸が出て人を化かしたりして気味が悪いよと若い二人が言うと「今夜は月が出てるし何も怖いことなんかねぇ」と言って何も持たずに家を飛び出していくかめ爺。

1人になったかめ爺は「ああ…なんであんなこと言っちゃったんだろうなぁ。あかんこ婆も五両は貸してくれねぇだろうなぁ。それに天神の森。気味が悪いなぁ。おらほんとは怖がりなんだよなぁ」とぼやき節。
森に入って行くと若い娘に声をかけられる。
化け物じゃないかとびくびくしながら近づくかめ爺に娘は「自分は若気の至りで男といい仲になって1度ならずも二度三度と重ねるうちにお腹に子どもができてしまった。2人で逃げようと家を飛び出したが途中で男は逃げて行ってしまった。この上は死ぬしかない」と言う。
最初は「そんなことで死ぬこたぁねぇ」と説得にかかるかめ爺だったのだが、娘が自分が書いた書置きを実家に届けてくれたら五両差し上げますと言うと急に態度を変え「んだな。おめぇは死んだ方がいいな。じゃ死ぬのを手伝ってやる」。
首をくくるのが良かろうと木の枝に縄をかけて踏み台に昇ってやり方を教えていたかめ爺だったが、思わず踏み台を蹴ってしまい、自分が縄にぶら下がる羽目に。
それを見た娘は「死んだらこんなになっちゃうのか。やだわ。やっぱり死ぬのやめよう。書置きはいらないからこの爺さんの懐に入れちゃえ」とかめ爺の懐に書置きを入れると逃げてしまう。
いつまでたっても帰って来ないかめ爺を心配して二人が森へ入ってみると首をくくって死んでいるかめ爺。
役人を呼んでくると役人は懐の書置きに気が付いて…。

…うおお、蝠丸師匠の語り口だから昔話っぽくて嫌な感じは全然ないけど、確かにこれはかけにくい噺かも(笑)。
楽しいなぁ。こんな珍しい噺を聞けるなんてほんと幸せだー。
この芝居はマニアックな雰囲気が漂っていて師匠も幕が下りるときに「明日もまた違う噺をしますのでお暇ならいらしてください」と言ってくれるので、通いやすい(笑)。また明日も行っちゃう!

 

末廣亭3月下席夜の部

3/25(月)、末廣亭3月下席夜の部に行ってきた。

 

・圓馬「ずっこけ」
・小助・小時 太神楽
・談幸「元犬」
・幸丸「田中角栄伝」
~仲入り~
桃之助「出張中」
・柳好「浮世床(夢)」
・歌春「短命」
・うめ吉 俗曲
・蝠丸「奥山の首」


圓馬師匠「ずっこけ」
わーい、圓馬師匠ー。会いたかったよー。うぉーん。
酔っ払いの小噺がおかしくて笑いどおし。特に笑ったのが泣き上戸。大勢の宴会で隅っこの方に席をとって泣きながら飲んでる人がおかしくておかしくて。いるいるこういう人。私も時々こうなるよ。笑った笑った。周りの人が引くぐらい(すみません)。
そんなまくらから「ずっこけ」。居酒屋でくだを巻いているところを友だちが見つけてくれるところから。
交番が近いから大きな声で歌うんじゃねぇぞと言われて、口を動かして無音で歌ったあとに「これぐらい?」もおかしいけど、聞こえるか聞こえないかの小声もおかしいし、交番が近づいたとたん大声になるのもおかしい。
「おしっこしたいから手伝ってくれ」「シー言ってくれ」から「お前のかみさんの秘密を大声で言う」の流れももうバカバカしくておかしくておかしくて。楽しかった!!


談幸師匠「元犬」
わーい、談幸師匠も久しぶりー。うれしいー。
何度も聞いてる「元犬」だけど、めちゃくちゃ楽しい。弾むような軽さと明るさ。
シロのかわいさと、それに対する人たちのゆるさがいいなぁ。落語の世界の住人は優しいな。
そろそろお尻がムズムズしてきていたお子さんが「すごく面白かったね」と言っていたのもかわいかった~。
寄席っていいなぁと久しぶりに実感。


蝠丸師匠「奥山の首」
今日は珍しい噺をやりましょうかね、の言葉に拍手拍手!わーいわーい!珍しい噺が聞きたい!
「奥山の首」、前に一度聞いたことがあった。
途中までは甚五郎の噺によくある流れ。
スリにあった甚五郎を自分の家に連れて帰る政五郎。10日の間なにもせず二階でごろごろしている甚五郎におかみさんが文句を言いだすので、仕方なく何か作ってみたらどうかと政五郎。
見世物で恐ろしいものを作ると高く買ってくれると聞いた甚五郎、  に行き生首を見て帰ってきてその夜は一睡もしないで彫り上げる。
政五郎の弟子たちがそれを見に行って「生首がある!」と驚くのだが、政五郎は一目見て「これは甚五郎の作だ」とわかる。
500年後、その生首がなんでも鑑定団に出て…。
この500年後のくだりは蝠丸師匠の創作なんだろうな。

実にのんびりしていて時々挟み込まれるダジャレがバカバカしくてふわっと笑える。
楽しい~。蝠丸師匠の落語の世界はほんとに気持ちよくて楽しいなぁ。
幕が下りてからの蝠丸師匠の口上?もゆるくて楽しい。
「毎日違う噺をしますのでお暇がありましたらまたいらしてください」の言葉に、明日も行こう!と思う。

居た場所

 

居た場所

居た場所

 

 ★★★★★

かつて実習留学生としてやってきた私の妻・小翠(シャオツイ)。表示されない海沿いの街の地図を片手に、私と彼女の旅が始まる。記憶と存在の不確かさを描き出す、第160回芥川賞候補作。 

留学生でやって来て気が付いたら家族のピースにぴたっとはまっていた小翠。
でもここにいる彼女は本当のありのままの彼女ではないかもしれない。そんな不安や後ろめたさが彼女の「居た場所」を二人で訪ねる旅に潜んでいる。

読めない看板、見たことのない動物、いつもと違う彼女。吐き出した緑の液体がSFっぽいけどやけにリアル。

ちょっとわけのわからない世界なのに文章が美しく簡潔なのが面白い。これからも読んでいきたい作家さんだな。

第372回圓橘の会

3/23(土)、深川東京モダン館で行われた「第372回圓橘の会」に行ってきた。

・まん坊「古着買い」
・圓橘「百年目」
~仲入り~
・圓橘 圓朝作 怪談「牡丹燈籠」その2 新三郎とお露


まん坊さん「古着買い」
まん坊さんの挨拶が萬橘師匠とそっくりでいつも微笑んでしまう。
そして前座さんだけど結構珍しい噺をされて、それも圓橘師匠に教わっていることが多く、いいなぁと思う。
こすっからいから買い物が上手とおかみさんに言われてくまさんを買い物に誘いに来た男。何を買うんだい?と聞かれて「羽織」。え?羽織?水瓶じゃなくて?
「古着買い」は志ん丸師匠で一度だけ聞いたことがあった。

くまさんが古着屋の番頭とうまい具合に話を進めるんだけど、当人があまりにバカでくまさんが怒り出してしまい「お前が(番頭と)交渉しろ」と言う。
男の値切り方があまりにすごいものだから番頭があからさまにバカにして男を罵り出し、それに怒った兄貴分と喧嘩になるところまで。
本当はこの後、騒ぎに気が付いて店の主人が出てきて番頭を諫めるんだけど、そこはカット。


圓橘師匠「百年目」
ただいままん坊が申し上げましたのは「古着買い」という噺でして…と圓橘師匠。
ここに出てくる番頭はどうしようもないですね。口の利き方を知らない。古着屋だからしょうがないのかもしれないですけど、番頭がこれじゃいけません。
私が初めて大店の番頭というのを目の当たりにしたのは、私が深川に住むようになった最初の頃。当時長者番付で1位になったハセマンさんの店が近所にあってそこを訪ねた時のこと。
店に入ると、番頭さんは店の一番奥に座ってる。だけどものすごいオーラと威圧感があって、彼がそこにいるだけで店中がぴーーんと張りつめて緊張していて、彼が席を外すとようやくみんなほっとして肩の力が抜ける、というわけで。
とても器用で頭もキレて芸事もなんでもこなす…すごいもんだなぁ、と思った。

そんなまくらから「百年目」。
番頭がピリピリしていて威厳があって怖い。何一つ見逃さない感じ。
小言をくらう店の者は番頭を怖がってはいるんだけど、子どもだったり擦れていたりして恐縮してるだけじゃないのが面白い。
吉原の件で最後に小言を食らう奉公人の「ほら来なすった」がおかしい。
番頭が店を出た途端、扇子をパチパチ言わせながら近づいてくる一八。それまでピリピリしたムードがあっただけに、いかにも芸人らしいお気楽な態度がおかしい。
女たちはいかにも華があるし、「旦那」と甘える様子も手慣れた雰囲気。
舟の障子を全て閉めさせて女たちが「これじゃお花見の意味がない」と言うと「花なんて昨年と同じだ」だの「匂いだけかいで楽しめ」だの「どうしても見たければ障子に穴を開けてみろ」だの…。
それが大きい器でお酒をがぶがぶ飲むにつれ、「なんだ暑いな。障子をそんなにピタッと閉めて。開けなさない」と言うのが楽しいし、開けた瞬間にふわーーっといい風が入ってきていい景色が広がったのが見えた。

向島を玄白先生と歩く旦那は番頭に比べるともっと鷹揚。
「あそこで派手な長襦袢を着て芸者と鬼ごっこをしている者がいるが…ああいうのは傍で見てるとバカみたいだがやってみると楽しいもんだよ」と懐かしむ様子。
玄白先生が「あれはお宅の番頭さんじゃ…」と言うと「あれは堅すぎるから困ったものだ」。
それが鉢合わせして顔の前に付けていた扇子を番頭が外した瞬間。ものすごい驚いて動揺する番頭に「まあまあそんなに慌てないで」と諫める旦那。
丁寧すぎる挨拶がリアルでおかしい。

その後の番頭の逡巡はそれまでの威厳があった様子がすっかりはがれてすごくおかしい。
下の様子をうかがいながら逃げようかと着物を3枚羽織ったり脱いだり悪夢を見たり…。等身大で楽しい。
旦那に呼ばれて相まみえた時の旦那の言葉には涙が出てしまった。それぐらい番頭に共感していたのかもしれないなぁ。
よかったー。素晴らしい「百年目」だったなぁ。


圓橘師匠 圓朝作 怪談「牡丹燈籠」その2 新三郎とお露
今日申し上げる「新三郎とお露」、私は素人の時に圓生師匠で聞いたことがあります、と圓橘師匠。
その時はずいぶん色っぽくやられているなぁと思ったことを覚えてます。
私も以前はこういう女性の噺をするときにはその女性に思い入れたっぷりでやったもんですけど、このごろはそういう色っぽい女性をやるよりも、意地悪なじいさんをやる方が楽しくなってまいりました。これも年のせいなのかなんなのか…。
そんなまくらから「新三郎とお露」。

幇間医者の山本志丈は、平左衛門とも親しく、また浪人の荻原新三郎のことも父親から頼まれていたこともあり気にかけている。
山本は家にこもってばかりの新三郎を誘い亀戸の臥龍梅を見に行く。一人で酒を飲んでいた山本は男二人でこうして梅を見ていても仕方がない。自分の知り合いの平左衛門の娘が女中と二人で柳島に済んでいるので訪ねてやろう、と新三郎を連れ立って屋敷へ行く。
最初は乗り気でなかった新三郎だが、屋敷で平左衛門の一人娘お露の姿を一目見るとその美しさに目が釘付けになってしまう。
お露の方でも美男の新三郎に一目ぼれし、新三郎が手水を使うのを手伝い触れ合う手と手に胸を熱くする。
別れるときにお露は新三郎に「また来てくれなければ私は死んでしまいます」と言う。
この噺は何回か聞いているけど、このお幇間医者の山本っていったいどういう人間なのかなぁといつも疑問が。
調子が良くて軽くて遊び人だが適当に間を取りもつけれどそれより深入りはしない。
ちょっとぐらい遊ぶのはいいけど面倒は起こさないでくれよという感じなのだろうか。
また女中のお米は最初から新三郎とお露をくっつけようとしている風にも見えるのだが、圓橘師匠はそこを「こんな場所に追いやられてしまったお嬢様がたまには少し刺激があってもいいだろうとあくまでも主人を思う気持ちからの行動だったのだが、それが度を過ぎてしまった」と説明されていた。
なるほど…。
なんにしてもおどろおどろしい展開への布石が打たれた今回の噺だった。

心霊電流

 

心霊電流 上

心霊電流 上

 
心霊電流 下

心霊電流 下

 

 ★★★

途方もない悲しみが、若き牧師の心を引き裂いた―6歳の僕の前にあらわれたジェイコブス師。神を呪う説教を執り行ったのち、彼は町から出て行った。しかしその後も僕は、あの牧師と何度も再会することになる。かつては電気仕掛けのキリスト像を無邪気に製作していた牧師は、会うたびごとに名前を変え、「聖なる電気」なるものを操る教祖にのぼりつめる。少年小説であり青春小説である前半を経て、得体の知れぬ恐怖が徐々に滲み出す。忌まわしい予感が少しずつ高まる中、あなたは後戻りのきかない破滅と恐怖への坂道を走りはじめる。 

すごく怖いというわけではないのだけれど、視覚的な表現がリアルなので、それが妙に印象に残って後からじわじわ怖くなってくる。

あの場所に行かなければよかったのに…見ずに済めばよかったのに…と思わずにいられないが、脅しに屈したというよりも自分の好奇心に勝てなかったのか。

治療を受けて何年もしてからブラックアウトで愛する人を道連れに自死をする患者の数が増えて行くなんて。越えてはいけない一線を越えてしまったということなのか。

上巻が面白かっただけに、下巻の展開が残念に感じた。ちょっともやもや後味。

小学館カルチャーライブ 春風亭一之助×キッチンミノル 公開ナマ『師いわく』

3/19(火)、小学館で行われた「小学館カルチャーライブ 春風亭一之助×キッチンミノル 公開ナマ『師いわく』」に行ってきた。

一之輔師匠が寄せられたお悩みにこたえる「師いわく」が大好き。

本ももちろん買って出版記念イベントにも行ってみた。
イベントの申し込みをするときに「あなたのお悩みも書いてください」とあって書くのだが、そのお悩みをキッチンミノルさんがあらかじめ読んで決めておいて、その悩みを一之輔師匠に答えてもらう、というのが前半。
仲入り挟んで後半は一之輔師匠の落語(「今日は落語頑張らないよ。1割ぐらいの力しか出さないよ。まさか落語会だと思って来た人いないよね?」)。


・「私は寄席に行くと必ず両方の肘掛を取られてしまいます。私の肘はどうしたらいいんでしょうか」のお悩みに、「わかる。肘掛問題。あれな、決めてほしいよな。自分が座った右しか使っちゃいけない、とかさ。はっきりしないから平気で両方使われたりして窮屈な目に遭うんだよな」と一之輔師匠。
実は自分はそういう時全然反撃できないタイプだ、と。
飛行機で隣の奴が肘を張ってきて窮屈になっても自分で「ちょっと」と注意できない。なんならCAさん呼んで「おかーさん、こいつがこうだから怒ってやってー」と言うぐらいの自分で言えなさ。

でもこの人はもう肘掛を使うことはあきらめてるね。肘掛に乗せられない私の肘をどうすれば?っていう相談だもんね。
だったら、胸の前でこうぎゅっとやるこのかわいいポーズ…この状態でずっといたらいい。寄席の客席でこんなかわいいポーズでいられたらオレ絶対高座から見ちゃうもん。
あるいは右ひじを左の手で掴む…敏腕プロデューサーの形。このどちらかで!


・「何度注意しても自分で片付けない旦那に困ってます。いったいどうしたらいいでしょう」という悩みには。
俺は逆に片付いてないと気になるタイプ。で、かみさんは意外と気にならない方(これにミノルさんが”そうっすよね。奥さんこう言っちゃなんですけど片付けない…片付けられないほうですよね”と失礼なくらい何度も(笑))。だから、仕事して疲れて家に帰ると子どもが食べたものがまだ散らかった状態っていうことがよくある。そうすると俺が”はぁーー”って言いながら食器を台所まで持って行って食洗機に入れて、机拭いて、脱ぎっぱなしの服を洗濯機の所まで持って行ったりするの。

この相談者の旦那は奥さんがやってくれるから甘えてるんだろうね。だから1週間手を出さずに放っておいたらいい。私がやらないとこうなっちゃうよ、って。
…あーーでも絶対これ旦那の方は汚くてもへっちゃらで奥さんの方が耐え切れなくなるな。うちもそうだもん。

でもね。オレ最近思うんだけど、俺がこれやると家の雰囲気がすごく悪くなるの。俺がイライラして”はぁーーー”って言いながら片付けるとさ。だからほんとはさ。散らかっててもいいんだよ。家の中の雰囲気が悪くならない方がいいんだよ。
あと、部屋がきれいなやつなんか面白くもなんともねぇよ!いるじゃん、おしゃれなカフェみたいな家に住んでるやつ。なにも物が置いてない。つまんねぇよ、そんなやつ!


・「上司がお金にセコくて、自分が飲み会のお金を立て替えて後で請求に行くと、請求書をわざと仕事の書類に紛れ込ませてごまかそうとしたりします」という悩みには。

最初は「それは明らかに不正だから会社の法務みたいなところに訴えた方がいいんじゃ?会社ってそういうところないの?」と言っていた一之輔師匠。
半年飲み会に誘わないのはどう?明らかに職場で自分だけが誘われてないって気が付くと、”え?なんで?”って聞いてくるでしょ。その時に”自分の胸に手を当ててきいてください”と言ってやる。
「でもこれも会社の規模やその上司との関係性にもよるか…できればもっと詳しく状況を聞きたい」と。
勇気ある相談者が手を挙げて状況を説明…(飲み会自体上司が企画している。部署は上司と自分の二人きり等)。

それらを踏まえて「とにかく逃げ場のない時間帯…仕事中じゃなくお昼を食べてげふーーっと気が抜けてる時を見計らって近づいて行って、”折り入って話があります”と言う。”折り入りましょう!”」


質問を聞いてからの答えるスピード。ちゃんとふざけててちゃんと面白くてでもその後にまじめに答えた時のなるほど感。
どうしてもぐだぐだになりがちで質問にそれほど答えてないなと思ったのか「仲入りそんなになくてもいいよね」とできるだけ多く答えようとするサービス精神。
落語は「風呂敷」とちゃんと相談系(笑)。
うーん。やっぱりすごい師匠だなぁ。

「この本とか私のCDとか私のじゃなくてもそうですけど、欲しいなぁと思ったらすぐ買うこと!(ピエール瀧さんの件を踏まえて)私が何しでかしていつ買えなくなるかわからないから!」。
ちゃんとほんとのこと言っててちゃんと面白い。楽しかった。

ん!?

 

ん!?

ん!?

 

 ★★★★

NHK連続テレビ小説あまちゃん』、映画『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』、TVドラマ『ゆとりですがなにか』、舞台『サンバイザー兄弟』、NHK大河ドラマ『いだてん』…ん、いまなんつった!?思わず耳を疑う名&迷セリフ88!365日セリフと格闘する宮藤官九郎の5年にわたる作品がエッセイに!!?

もてはやされてもスタンスが全然変わらないのが良さだなぁ。
視聴率や動員数はもちろん気になるけれど、とにかく自分が面白いと思ったことをやる。俺の面白いってもしかして世間の面白いとずれてるんじゃない?と不安になりもするけど、それはそれ。ま、いいや、というところに太さを感じるなぁ。

妻子に尊敬されたくて「あまちゃん」のロケ地を旅した時の話が面白い。
オーラゼロで気付かれないのも寂しいけど気付かれて歓迎されるのも居心地が悪い。

この感覚を持ち続けているからこの人の脚本が好きなんだな。ゆるく面白かった。

三越落語会

3/18(月)、三越劇場で行われた「三越落語会」に行ってきた。

・茶光「手水廻し」
・小八「道灌」
・〆治「お菊の皿
・馬生「抜け雀」
~仲入り~
・今松「穴泥」
小三治「小言念仏」


今松師匠「穴泥」
「お後お目当てをお楽しみに」のお決まりのセリフに客席から笑い声が起こる。
人間国宝、もう楽屋入りしてますから。私はさらっと終わらせてあとは国宝がたっぷり。ま、あの方の場合、落語よりその前のほうが…」。
いやしかし素敵な並び。ドキドキする。

「穴泥」、誰かで聞いたことがあったっけとブログを検索したら百栄師匠で聞いていた!
借金をしようと方々歩き回っていた亭主が家に帰ってくる。
「それで三両は借りられたのかい?」と女房が聞くと「いいや、借りられなかった」と亭主。
女房は「お前は甲斐性がない」「豆腐の角に頭をぶつけて死ね!」と罵り、三両借りてくるまでは家に入れないよ!と亭主を追い出す。
追い出された亭主、貸してもらえるあてなんかないし、どうしたもんかとふらふら歩いているうちに浅草の商家の前へ。二階の窓ががらりと相手誰かが降りて来たので、「泥棒だったら捕まえて礼金をもらってやろう」と隠れて見ていると、どうやら店の若い者。
「ああ、店を抜け出して吉原にでも行こうっていうのか」とがっかりするのだが、逆のことをすれば中に忍び込めるじゃないかと気が付く。
これだけの大店だから三両なんてはした金だろう。とりあえず三両盗んで借金を返して後で金ができたらせんべいでもつけて返しにくればいいだろう。
そう思って中に入ると、どうやら店で祝い事でもあったらしく、座敷にはごちそうや酒がまだたくさん残っている。
そういえば朝から何も食ってなかったんだと言って、そこらにあるものをうめぇうめぇと食べてお酒を飲むとすっかりいい気分に。
しばらくするとこの家の子どもがヨチヨチ歩きで入ってくる。
子どもに気が付くとこの男「おお、かわいい坊だな。こっちにおいで。ほら、あんよは上手、あんよは上手」。
やってきた子どもが食べ物を欲しそうにすると「お?これが食いたいのか?じゃ、はい、あーん。ああ、おいしいおいしい!」「ん?もう一つ?」「酒も飲むか?」。
子どもをあやしているうちに足を滑らせて土間の穴蔵へ落ちてしまう。
大きな音に店の主人も気が付いて出てきて、穴の中に泥棒がいるのだな、と気づく。
すぐに役人を呼んで捕まえさせましょうと番頭が言うと「今日は坊の内祝い。こういうめでたい日に縄付きは出したくない」と主人。
だったら鳶の頭「向こう見ずのかっつぁん」を呼んできて捕まえてもらおう、ということに。
やってきたかっつぁん、自慢の彫り物を見せてたいそう威勢がいいのだが、穴の中の泥棒を捕まえてくれと言われると急に腰が引ける。
そこで主人が捕まえてくれたら「一両やろう」と言うと少しだけやる気になったかっつぁん。「じゃ二両」と値が上がっていき…。

淡々と始まったので最初はテンションがよくわからなかったんだけど、泥棒に入ってからのお気楽ぶりがとても楽しくて大笑い。
坊をあやすところなんか、今松師匠がほんとに孫をあやしているみたいでなんともいえずチャーミングで微笑んでしまった。
また彫り物して威勢のいい「向こう見ずのかっつぁん」の腰が引けてるのも楽しい~。
落語らしい世界でほんとにこういう落語を聞くと幸せだ~と思う。
よかったーーー。ほんとに今松師匠はいいなぁ。

小三治師匠「小言念仏」
この会はネタ出しされているんだけど、小三治師匠のネタ出しが「小言念仏」だったので、これはきっとたっぷりまくらをやってください、という意なんだろうと思う小三治ファン。
「私の前に出たやつ…今松ですね?今松でしたよね?とても久しぶりに会ったんですが、あいつとは野球仲間でね。
前座の頃、噺家が集まってやってる野球部に入ってて、私はチーム柳家。あいつは違います。違うチーム。チーム古今亭だったか。対戦したんですよ。
私は結構打つ方でね、一試合に2ホームランなんて日もあった。
あいつはピッチャーだったんだけど、あいつのドロップがまぁ打てねぇんだ。すごい角度を付けて落ちるとかじゃないんだけどね。なんかこうふわっとね…ドロップするんですよ。これが打てなくて。
今あいつと階段のところですれ違ってね。思わず指さして”お!ドロップ!”って」。

…わーー。小三治師匠の口から今松師匠の名前が出るとは!しかも野球部の思い出って!
噺家の付き合いなんか全くやっていなさそうな今松師匠も若い頃は野球部に入って野球やったりしてたのかと思うと嬉しくなっちゃう。
なんかものすごく興奮してしまった。うれしいまくら。

あと「最近男らしくとか女らしくっていうことは言わなくなりましたね」と。自分が若かった頃はまだそういうことをうるさく言われる時代でそう言われることになんの疑問も抱かなかった。
私は五人兄弟で私以外は全員女。姉が3人に妹が1人。
そういう構成ですから家に帰るとみーんな女なんですよ。私と親父以外は。
こういう中で育ったら自分が女らしくなっちゃうんじゃないかと思ってね…女らしくっていうのはオカマっぽくっていうことじゃないですよ。そうじゃなくて女性的な男になるんじゃねぇかと思って、ずいぶん気を付けました。気を付けたっていってもことさらバンカラにふるまったってわけじゃないんですけどね。
でも私はいろんなことをああでもないこうでもない考える方で。そもそも男らしい男だったら女らしくならねぇようになんてこと気にすることもねぇんでしょうから、女性的なんでしょう、私は。

…面白いなぁ。小三治師匠のこういう話。
確かに今の時代は「男らしく」とか「女らしく」っていう言葉自体が問題になるようなところがあるけど、でもやっぱり男性的な男もいれば女性的な男もいるし、その逆もあるわけで。そういうのを男性、女性ともに強いられるのは苦痛以外の何物でもないけど、でもそういう時代に育ってそういう価値観を持っているけれど自分を「女性的」と評するところが好き。だから年を取ってる人をひとくくりに「老害」なんて言わないでほしいな、と思う。

そんなまくらから「小言念仏」。
何度聞いても大好き。小言のたねを探してあちこち目をやったり、小言がいちいち細かかったり。
そしてなんといっても這って来た赤ん坊への「ばぁ」のかわいらしさ。
でも師匠も嘆いてたけど「ネタ出し」されるのは師匠向かないよね(笑)。あと時間制限も。

鈴本演芸場3月中席昼の部

3/18(月)、鈴本演芸場3月中席昼の部に行ってきた。

・扇ぼう「たらちね」
・文吾「一目上がり」
翁家社中 太神楽
・たけ平「金色夜叉
・甚語楼「弥次郎」
・小猫 動物物まね
・おさん「出来心」
・彦いち「看板の一」
・あずみ 三味線漫談
・正朝「町内の若い衆」
~仲入り~
・志ん陽「壺算」
・楽一 紙切り
・圓太郎「強情灸」
ロケット団 漫才
・南喬「風呂敷」

たけ平師匠「金色夜叉
客いじりで苦手な師匠なんだけど、この日の反応のうすーーいお客さんには効果抜群だった。ようやくみなさん目が覚めた感じ?
「みなさん、ぼーっとしてちゃだめよ」「私の落語は客席参加型ですから」と言いながら、「後から出てくる人たちのためにも」と言ったのが印象的だったな。
確かに空気が変わったのがわかった。すごいな。


甚語楼師匠「弥次郎」
嘘をつく時にちょこっと考えるそぶりをするのがたまらなくおかしい。
また「だまされないよ」と言っている大家さんがそのたびに「え?そうなのかい?」と前のめりになってすぐに騙されちゃうのもかわいい。
テンポの良さと押したり引いたりの絶妙の加減で、ノリのいい音楽を聞いてるようにテンションが上がってくる。大好き。


おさん師匠「出来心」
見たい見たいと思っていたおさん師匠の落語をようやく見られた!
なんかいいなー。素朴というかかわいいというか味があるというか…。
呑気な泥棒に思わず見ているこちらもにこにこ。

志ん陽師匠「壺算」
手を伸ばすと丸っこい手がどん!と見えてそれだけで微笑ましい。
ご機嫌な「壺算」。この噺で全然ギスギスしないっていいな。


南喬師匠「風呂敷」
お金に少し余裕ができると浮気の虫が動き出す…男っていうのはほんとにどうしようもないもので…でもどんなにうまくやったつもりでもかみさんにはすぐにバレてしまう。なにせ女性の野生の勘っていうのはものすごいものがありますから。
浮気の小噺がどれもおかしくて大笑い。おどおどする旦那と何一つ見逃さないおかみさんのやりとりが楽しい~。
そんなまくらから「風呂敷」。
相談に来るおかみさんも相談される兄貴分もやきもち焼きの亭主もみんなそれぞれにチャーミング。人物が生き生きと浮かび上がってくるから、ただこれだけの噺なのにとても面白い。
酔っ払いがほんとに酔っぱらいにしか見えないし、頼られて悪い気がしない兄貴が自分のおかみさんにはまるっきりバカにされているのもおかしい。
楽しかった~。

奇商クラブ

 

奇商クラブ【新訳版】 (創元推理文庫)
 

 ★★★★

巨大な蜂の巣のようなロンドンの街路の中で「奇商クラブ」は扉を開かれる時を待っている―この風変わりな秘密結社は、前例のない独創的な商いによって活計を立てていることが入会の条件となる。突然の狂気によって公職を退いた元法曹家のバジル・グラントが遭遇する、「奇商クラブ」に関する不可思議な謎。巨匠が「ブラウン神父」シリーズに先駆けて物した奇譚六篇を新訳で贈る。 

チェスタトンをそれほどたくさん読んだことがあるわけではないので、この作風とテンション(の低さ)に戸惑ったが、読み進めるうちになんとなくパターンが読めてきてゆったりと楽しんだ。

小学生の頃にイギリスユーモア選みたいな本を読んで、どこが面白いのかさっぱりわからなかったのだが、それに通じるユーモアを感じる。わはは!じゃなく、ニヤリ。

ブラウン神父のシリーズも少しずつ読んでいきたい。

この世にたやすい仕事はない

 

この世にたやすい仕事はない (新潮文庫)

この世にたやすい仕事はない (新潮文庫)

 

 ★★★★★

「一日コラーゲンの抽出を見守るような仕事はありますかね?」ストレスに耐えかね前職を去った私のふざけた質問に、職安の相談員は、ありますとメガネをキラリと光らせる。隠しカメラを使った小説家の監視、巡回バスのニッチなアナウンス原稿づくり、そして…。社会という宇宙で心震わすマニアックな仕事を巡りつつ自分の居場所を探す、共感と感動のお仕事小説。芸術選奨新人賞受賞。 

 ありそうでなさそうなお仕事を転々とする女性が主人公。

最初は「こんな仕事が?」とはてなでいっぱいだったが、読んでいるとその感じわかるなーと思う。

仕事をしている中で、自分が何となく心もとなくなっていったり、のめり込んで行ってまずい感じになりそうな感じがリアルで、仕事ってそうなんだよなーと思う。

最初は頼りなく思えた主人公が徐々に芯を見せてくるところが素敵で一作ごとに焦点が定まっていく感じ。面白かった。
津村さんは文章がいい!

鈴本演芸場3月中席昼の部

3/16(土)、鈴本演芸場3月中席昼の部に行ってきた。

・あられ「道灌」
・緑助「真田小僧
翁家社中 太神楽
・馬玉「幇間腹
・甚語楼「金明竹
・小猫 動物物まね
・勧之助「粗忽長屋
・玉の輔「財前五郎
・楽一 紙切り
・正朝「六尺棒
~仲入り~
・のだゆき 音楽パフォーマンス
・文菊「出来心」
・燕路「時そば
ロケット団 漫才
・南喬「火焔太鼓」

あられさん「道灌」
白酒師匠のお弟子さん。無駄に声がいい(笑)。いや無駄ってことはない。これから面白くなればこの声は武器になるかも。教わった通り丁寧にやってる印象。


甚語楼師匠「金明竹
わーい!甚語楼師匠で大好きな「金明竹」を聴けるとは。嬉しすぎる。
言い立てがものすごい早口だけど全部きちんと聞こえる。時々、早口だけど何を言ってるか全然聞き取れない噺家さんがいるけど、甚語楼師匠のは全部の単語がきちんと聞こえる。
与太郎もかわいいけど、おかみさんがかわいい。一生懸命思い出しながらめちゃくちゃなことを言うのが楽しい。笑った笑った。


小猫先生 動物物まね
上手くて面白い。とにかくトークがうまいから客席が引き込まれる。素晴らしい。大好き。


南喬師匠「火焔太鼓」
おかみさんと甚兵衛さんの会話がいい。お前さんは商売が下手だ、と言われて「そうか。俺は商売が下手だな」と納得しちゃう甚兵衛さん。
松の木にぶらさげられちゃうよと言われた時のぶら下がる形がすごくおかしい。しぐさが大きくて映えるんだなぁ。

「手一杯に申せ」と言われて「一千両」と言った甚兵衛さんが「これじゃ買えん太鼓」と言って客席がウケると「ウケたからいいようなもののウケなかったらこれ大変なことになっちゃうんですから」と南喬師匠がつぶやいたのがおかしい。
三太夫さんが「あーあそんなに押すやつがあるか。真っ赤になっちゃった」とか「さようなものを置いて行かれても困る」と甚兵衛さんに完全に呆れているのも楽しい。

陽気で明るい「火焔太鼓」で最初から最後まで楽しかった~。

 

はん治一門会

3/15(金)、多目的サロンレタスで行われた「柳家はん治一門会」に行ってきた。

・小はだ「手紙無筆」
・はん治「長屋の花見
~仲入り~
・小はぜ「巌流島」
・はん治「ろくろ首」


はん治師匠「長屋の花見
久しぶりにやるから緊張してますと言いながら「長屋の花見」。
大家さんの酔狂に付き合う長屋の連中のわいわいがやがや。
特別に何か変えたりしていないんだけど、なんともいえず楽しい。
師匠、もっと寄席でもこういう噺をどんどんやったらいいのになぁ…。

いつものが面白いのは間違いないけど、師匠の古典、すごく楽しい。
「白いのください」「白いのってことはかまぼこだな」「ええ、そのぼこです」もうそれだけで面白いんだ。
この噺を聴くと、ああ、春が来るんだなぁと思う。
落語はこうやって季節を感じられるから好きだ。


はん治師匠「ろくろ首」
兄貴のようにかわいいお嫁さんが欲しい松公。
おじさんに聞かれて恥ずかしくて言いだせなくて「おにょにょさんがほしい…」ともにょもにょ。
おじさんに「はっきり言え」と言われて「およめさーーん、およーーめーーさーーん」。
このかわいらしさは真似できない。

師匠が怖がりだから、お嫁さんの首が伸びるところがほんとに怖いのもいい。

楽しい!
お弟子さんも魅力的だしほんとにいいわ、この一門!

芥川龍之介選 英米怪異・幻想譚

 

芥川龍之介選 英米怪異・幻想譚

芥川龍之介選 英米怪異・幻想譚

 

 ★★★★★

気鋭の研究者と当代随一の翻訳家がタッグを組み、芥川が選んだ「新らしい英米の文芸」を蘇らせる!旧制高校の英語副読本として編まれたアンソロジー八巻より、二〇の短篇をさらに精選。ポーやスティーヴンソンから本邦初訳の作家まで、芥川自身の作品にもつながる“怪異・幻想”の世界を全て新訳で堪能する。イェーツやキャロルなどの芥川による翻訳も収録。 

 芥川龍之介旧制高校の生徒のために編んだ英読本を芥川研究者の澤西祐典さんと柴田元幸さんで選び翻訳し直した作品集。

古風な作品が多いが、奇想短編に飽きた読者にはむしろ新鮮。
芥川は海外の作品をこんなに熱心に読んでいたということにも驚くが、その作品がこれらの幻想的な作品の影響を多大に受けて書かれた物と言うことにも驚く。

オスカー・ワイルド「身勝手な巨人」、ダンセイニ卿「追い剥ぎ」、スティーヴンソン「マークハイム」、ビアス「月明かりの道」、マシューズ「張り合う幽霊」、ウェルズ「林檎」、ビアボーム「A.V.レイダー」、ブラックウッド「スランバブル孃と閉所恐怖症」、オサリヴァン「隔たり」、グッドマン「残り一周」がよかった。

芥川の「馬の脚」もよかった!また芥川が「不思議の国のアリス」に心酔していたと言うことにも驚いた。まさか芥川役の「不思議の国のアリス」が読めるとは。

柳家蝠丸独演会

3/12(火)、花座で行われた「柳家蝠丸独演会」に行ってきた。
前から花座には行ってみたい!と思っていたんだけど、今回は蝠丸師匠が昼夜で独演会をやるというので、これは!と思い行ってみた。

昼の部
・かけ橋「狸賽」
・蝠丸「宮戸川(上)」
~仲入り~
・蝠丸「文七元結

夜の部
・かけ橋「浮世床(本、将棋、煙管)」
・蝠丸「時そば
~仲入り~
・蝠丸「徂徠豆腐」


昼の部
蝠丸師匠「宮戸川(上)」
長めのまくら。
蝠丸師匠は花座に出るのが初めてなので、楽屋で評判は聞いてますよ~という話をしたり、「レベルをはからせてもらいますよ~」と難しめの?小噺をしたりして、温度を探ってる感じ。
誰でも知ってる昔話は落語にしやすいというところから「桃太郎」のパロディ。前にも何回か聞いていたけどオチを忘れていたのでゲラゲラ笑ってしまった。

そんなまくらから「宮戸川(上)」。
今回せっかく遠征してきたのだからと最前列で見たんだけど間近で見ると普段「ふわっとしている」と思っている蝠丸師匠、しぐさや表情や語りが実はすごく感情豊かだということを再発見。
それでいて時々漫画チックなしぐさや表情、ゆるいクスグリが入るから、見ているこちらもふっと力が抜けて楽しいんだな。
雷のところ、「ピシーー」って漫画っぽく雷が落ちる様子を表現していて、こういうところがかわいくて好きだなー。
終わりもわかっているけどいつも笑っちゃう。楽しかった~。


蝠丸師匠「文七元結
仲入り後は「東京でもめったにやらない噺を」と言って「文七元結」。
長兵衛さんは博打にはまってしまったけれど、粗暴な感じはなく気のいい人物。
角海老に入る時にとてもきちんとしていて、ちょっとはっとした。本当はしっかりした職人なんだろうな。
十両を持って東橋で身投げを止めるところ、ものすごい緊張感でびっくりした。
そうか。やっぱりこういうところから説得力が生まれてくるのだな…。

十両なければ死ぬしかないと言う文七に「親戚はいないのか」とか「少しずつ返すわけにはいかない?5両じゃだめか?」と説得しようとする長兵衛。話している途中で文七がまた身を投げようとするのを止めて「今値切ってるところなんだから」と言うのに笑った。
誰か止めてくれる人がほかにいないかなと橋の向こうをじっと見るのもかわいい。

文七が店に帰って来ないのを心配している旦那と番頭。
旦那には威厳があるし、「硬い」で通っている番頭が文七の話を聞いてすぐに「角海老」とピンとくるのもおかしい。

旦那と長兵衛さんが話をしているところで、江戸っ子の見栄で財布を受け取ろうとしない長兵衛さんの袖をおかみさんが引っ張るところでほんとにビリって音がしたけど大丈夫だったのだろうか(笑)。
旦那に「じゃこれは五十両が出た身祝いということで」と言われてようやく財布を受け取った長兵衛さんが「実はこのことで夕べから寝てねぇんですよ」と言ったのがかわいかった。
見受けされて戻って来た娘がまだあどけなくてちょっと泣けた。


夜の部
蝠丸師匠「時そば
昼の部と同じく長めのまくらから「時そば」。
最初の男のお世辞はわりと短め。それほどくどくない。
二番目の男の食べるお蕎麦のまずそうなこと。汁を飲んで、おえーーっ。うどんはにちゃにちゃ。
その後の展開がさすが蝠丸師匠らしく一味違うのが楽しい!
初めて聴けた蝠丸師匠の「時そば」。うれしい~。


蝠丸師匠「徂徠豆腐」
「情けは人の為ならず」のまくらから「徂徠豆腐」。

大工の棟梁が二十両置いて行ったときのおかみさんの反応がすごくおかしい。
「うちは取られるものなんかなにもねぇじゃねえか」というお豆腐屋さんに「一つあるじゃないか。なんでわからないのかねぇ。ほら…あたし」。
ぶわははは。
立派なお武家様が訪ねてくるからあたしゃそこのお嫁さんにあってお前さんのことは奉公人として雇ってあげるから、というのがおかしい。
そして立派になった徂徠先生が訪ねてきたのを見ておかみさんが「ほらごらん」と張り切るのがおかしい。
火事で焼け出されてなんの希望も持てずにいたところにこんな恩返し。

全部で四席見られて満足。遠征してよかった。