りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

馬治丹精会

7/30(月)内幸町ホールで行われた「馬治丹精会」に行ってきた。

・彦星「牛ほめ」
・アサダ二世 マジック
・馬治「鰻の幇間
~仲入り~
・馬治「景清」


彦星さん「牛ほめ」
あら、かわいい。
立川流の前座さんのようなルックスだけど、正雀師匠のお弟子さんなのか。
ゆったりしてるんだけど時々おもわずぷぷっと吹き出してしまう面白さがある。
あと「牛ほめ」の中でいつも聞くのとは少し違う言い回しがあった。


アサダ二世先生 マジック
「いつもの」なんだけど、寄席とは違ったお客さんなのでちょっと新鮮。
本気で心配したり(笑)本気で感心したり。
それが面白かった。

馬治師匠「鰻の幇間
ゲストのアサダ二世先生のことを、自分が入門した16年前から全然変わらない、と。
マジックっていうのはタネがあるわけでそのつもりで見ているけど、それでもなお「うさん臭い」。あのうさん臭さはなんなんでしょう。

と言っていると、袖からアサダ先生が出てきて「なんだよ、うさんくさいうさんくさいって!」。
「まさか聞いているとは思わなかった」と言う馬治師匠に大笑い。

そんなまくらから「鰻の幇間」。
とほほな一八が馬治師匠にぴったり。
でも、最初にあんなにまずそうにしてた酒とおしんこと鰻を、一人になってから結構普通にもぐも食べてるのに少し違和感。
といって、いちいちまずそうにするのもうるさいし、難しいところなのか。
お店の女の子のけだるそうなやる気のなさそうな感じが、いかにもダメな店っぽくておかしかった。


馬治師匠「景清」
馬治師匠の「景清」は何回か見ている。
ちょっとひねくれてる定次郎がとてもチャーミング。
いちいち逆らったり暴言を叩いても、それは傷ついた心を防御するためなんだな、というのが伝わってくる。
またこの旦那がちょっと距離感がありながらも親身になってくれてるのがいいなぁ。
100日目に目が開かなくて毒づいている定次郎を止めて小言をいうものの、定次郎がお母さんのことを話すと「ああ、悪かった。言い過ぎた」と謝るところも好きだな。
それだけになんで雷に打たれた定次郎を放って帰ってしまったんだろうと疑問だったんだけど、天の怒りに触れたと思って恐れをなしたんだな、きっと。
目が開いたのに気づかずにお月様を見る定次郎に涙…。
よかった~。

ところで「景清」の高座中、すごーーくいいところで携帯が鳴って、しかもなかなか鳴りやまず。
鳴らす人ってそもそも注意してるアナウンスも聞いてないよね…。どうにかならないのかなぁ…。
ってあんまりうるさいこと言うと、お年寄りが気軽に落語見に来られなくなっちゃうのか。うーん…。

1ミリの後悔もない、はずがない

 

1ミリの後悔もない、はずがない

1ミリの後悔もない、はずがない

 

 ★★★★★

紹介
椎名林檎さん絶賛!! 「私が50分の円盤や90分の舞台で描きたかった全てが入っている。」
ネクストブレイクはこの作家! 心揺さぶる恋を描く鮮烈なデビュー作。
「俺いま、すごくやましい気持ち……」わたしが好きになったのは、背が高く喉仏の美しい桐原。
あの日々があったから、そのあと人に言えないような絶望があっても、わたしは生きてこられた――。
ひりひりと肌を刺す恋の記憶。出口の見えない家族関係。人生の切実なひと筋の光を描く究極の恋愛小説。  

とてもよかった。

後悔なんかしてないよ!と胸を張った後で、そんなわけないじゃん、と自分にだけ聞こえるように小さな声で言う。

振り返れば後悔の連続だけど自分の選んできた道は一本しかなくて、選ばなかった道に戻ることはできないのだから、前を向くしかない。

特に子どもは親を選べないし居場所を選ぶこともできないのだから。

恋愛は一時の感情で、恋愛関係が永続的に続くことなどないし、いつかは終わりが来て思い出に変わっていくけど、それでも誰かに大切に思ってもらえた経験は自分にとって一生の宝物だ。

由井が桐原に会えてよかった。由井の母に安伊子さんがいてよかった。そして由井が家庭を持ててよかった。

これがデビュー作とは。これからも注目したい作家さん。

瀧川鯉八独演会 ちゃお2

7/29(日)、内幸町ホールで行われた「瀧川鯉八独演会 ちゃお2」に行ってきた。

・かけ橋「馬大家」
・鯉八「青菜」
・南なん「夢の酒」
~仲入り~
・鯉八「かくあるべし」
・鯉八「ワレワレハ」


かけ橋さん「馬大家」
わーーー、小かじさーーん。
ニツ目になって「売れてやるぜ」という野心を燃やしているように見えていた小かじさんがいつのまにか落語協会を脱会していて本当に驚いた。
何か月か前にその小かじさんが柳橋師匠のところに入門したらしいと聞いていたけど、こうして前座さんとして高座に上がる姿が見られて、よかったよー。
しかも十八番の「馬大家」。なんとなく最近そんなに高座に上がってないのかなという感じがしたけど、喋っているうちにどんどん調子が上がってくるようで、よかった。がんばれ~。


鯉八さん「青菜」
CDのまくらからまさかの「植木屋さん、ご精が出ますな」。
ええええ?鯉八さんが「青菜」---?!
「青菜」と見せかけて新作なんでしょ?と思っていたらこれが本当に正真正銘「青菜」。
ああ、でもそうだ、鯉八さんって古典落語が好きなんだった。毎月神楽坂の会に通っていた時、よくそういう話をされていたっけ。

前半はほんとにちゃんとした古典そのままの「青菜」。
もちろん鯉八さん風味ではあるんだけど、でも驚くほどさらっと江戸前

「俺もやってみてぇなぁ」と家に帰って、おかみさん。これが…植木屋さんの顔を見るなり「…はぁぁぁ…」と大きなため息。
「遅いじゃないか」とかそういう文句をがなり立てるんじゃなくて「…はぁぁぁ」ってため息つくのがいかにも鯉八さんらしくて大笑い。
そしてこのおかみさんと植木屋さんとの会話が絶妙。
「お屋敷の奥様はお前と全然違う」と言われておかみさんが「…比べないでっ!!あたしとお屋敷の奥様と比べないでっ!!」。
そういわれて「悪かったよ。比べないよ。比べない!」。
その後、「奥様がこうやって手をついて…比べてないよっ比べてるわけじゃないよ!」のおかしさ。
そして「疲れた疲れた」言って気だるそうだったおかみさんが「たつんべが来た!お前やってくれないか」と言われると「やる!!面白そうだから、やる!!」。
「押し入れに入ってくれ」「入る!!面白そうだから、入る!!」。

サゲが少し変えてあったけど、ちゃんとしてるけどでもちゃんと鯉八さんらしい味付けの「青菜」だった。よかったー。
鯉八さんの古典聞いたの初めてだったかもしれない。


南なん師匠「夢の酒」
「私は小南の弟子で、よく師匠をしくじりました」で、「夢の酒」だ!とわかる南なんファン。
今回は前に聞いたことがないしくじりエピソードが二つ。
北海道に仕事に行ったとき、飛行機に乗って忘れ物に気が付いてスチュワーデスさんに止められるのも聞かず飛行機を飛び出してロビーへ。忘れ物を見つけて飛行機に乗るまで離陸できず迷惑をかけてしまった。自分だけじゃなく師匠までも他のお客さんから「おめぇがこのまぬけの親分だな」と白い目で見られた。
師匠に「ばかやろう、お前はいったい何を撮りに行ったんだ」と言われ「ビニール傘です」と答えたら師匠の怒りがさらに燃え上がり、飛んでる間中小言。飛行機の中の小言はいけません。逃げ場がありませんから。

…ぶわはははは。
制止されるのもきかず飛び出す南なん師匠が目に浮かぶ…。
それからもう一つはインコ事件。これももうインコをどうにか鳥かごに戻そうと格闘する南なん師匠が目に浮かんでおかしい~。

そんなまくらから「夢の酒」。
お花に夢の話を聞かせてくれと言われてばか正直に向島の女がどんなに美しくて色っぽかったか、惜しい切れ場だったかを事細かく話してしまう若旦那。
夢の話とわかっていながらやきもちをやいて取り乱してしまうお花さん。
そしてあきれながらもお花の言うことを聞いてやる大旦那。
南なん師匠の「夢の酒」は特に大旦那のやさしさが独自で大好き。

夢の人に会いに行ってください、いますぐ、と言われて「はいはい。わかったよ。これでいいのかな?」とすぐに会いに行ってくれる大旦那。
意見してやらなくちゃと思いながらも、家にあげられてお酒と聞くとつい「いや、冷やはだめなんです」と言わずにいられない酒飲みらしさがかわいらしい。

余計なギャグとかそういうのいらない。「夢の酒」は南なん師匠のが一番好きだな。


鯉八さん「かくあるべし」
素晴らしい完成度。
それだけじゃなく、まくらで言ってた「パラレルワールド」の話。
もし自分が前座のころに「お前も新作やらない?」と声をかけられていなかったら…今頃古典に精進して「青菜」をやってたかもしれない…。
ああ、その「青菜」を一席目にやってくれたんだね。ということはあれは一つのパラレルワールドの入口だったのかも。うわーー。

「かくあるべし」
ほんとにすごく独自でスピード感があってグルーブ感がある新作。かっこよかった。


鯉八さん「ワレワレハ」
初めて聴く噺。ネタ卸しだったみたい。

相談者が入ってくるとすでにうんざり気味の回答者。
「で、今日はなんですか?」と聞くと、相談者の女性。
私見たんです。」
「ああ、またですか」
「またってなんですか?」
「ああ、…続けてください」
「仕事の帰りに夜道を歩いていたら、空にぽつっと光るものがあって、なんだろうと見ていると…それがだんだん大きくなってきて…UFOだったんです」
「ああ、やっぱりまた…それでどうしました?」
「そこから降りてきたのが…人間みたいなんだけど背が小さくて目玉がぎょろっとしていて色が灰色の…宇宙人だったんです」
「はいはい、それで?」
「それでその宇宙人が言うには…」と言って、喉のところを叩きながら「ワレワレハウチュウジン」

宇宙人なんかいないんですよ。UFOだって存在しない。
それをキレ気味に論理的に説明する回答者。
質問者を帰すと、上の方に向かって「〇〇さん。だからさっきから言ってるでしょ。もう宇宙人を見たっていう人は通さないで。その質問をする人は通さないで。わかった?聞いてる?」

次に入って来た男性。
「で、今日はなんですか?」
「私、見たんです」
「ああ、またですか」

質問者の話が全く同じとところと微妙に違うところの加減が絶妙におかしい。
そしてどう転んでいくか予測のつかない楽しさ。
すごいっ。

内幸町ホールいっぱいのお客さんの前で堂々とした高座。新しいお客さんがいっぱいだった。すごいな、鯉八さん。

文豪たちの友情

 

文豪たちの友情 (立東舎)

文豪たちの友情 (立東舎)

 

彼らの関係は、とてもややこしくて、とても美しい。
文豪同士の友情を追ったエッセイ集。

佐藤春夫堀口大學は仲良しすぎて男色関係を疑われた?
室生犀星萩原朔太郎の出会いは最悪だった?
国木田独歩田山花袋は同居していてもケンカばかり?

最近再び注目を集めている、日本の文豪たち。学生時代、教科書で彼らの存在を知った、という人も多いでしょう。
でも、教科書に載っているから、後世に名をのこしているから、彼らはわたしたちにとって遠い存在なのでしょうか?
文学で成功してやろうとがんばっていた若き日の彼らは、本当はどういう人たちだったのでしょうか?

本書では、文豪同士の友情にまつわる逸話を紹介しながら、彼らの人生と作品に迫ります。
第一章は自他ともに認める「ニコイチ」の二人を取り上げました。
第二章は若くして亡くなった文豪を取り巻く人間関係がテーマです。友人を代表して一人の作家を選んでいますが、他にも親しかった人たちの言葉を多めにピックアップしています。
第三章は絶交のあと和解するなど、一筋縄ではいかない二人の複雑な関係を浮き彫りにすることを目指しました。
全13組の文豪たちの「友情の履歴書」を、ぜひ味わってみて下さい。文豪がテーマのマンガやゲームの元ネタもわかります。

★★★★★

とても面白かった。文豪たちの感受性の鋭さ、文学への純粋な情熱、そして身勝手さが素晴らしい作品を生み出し、ここに書かれているような強烈な友情を生み出したのだろうと思うと、なにもかもが愛しい。
友情という視点から文豪たちを切り取っているのも興味深いし、ミーハー心を刺激してくる。

以前は読まず嫌いをしていた谷崎の作品を最近大好きになったこともあり、ここに出てきた文豪たちの作品をもっと読みたい!と強く思った。

人間的に未熟でもエゴイストでも身勝手でも、自分の気持ちに正直に生き文学を追求した文豪たちはすばらしい。それを許した時代も素晴らしい。
道徳的にどうだこうだと言われる今の時代の方がよっぽど不自由でつまらないと思う。

第365回圓橘の会

7/28(土)、深川東京モダン館で行われた「第365回圓橘の会」に行ってきた。

・まん坊「黄金の大黒」
・圓橘「夏の医者」
~仲入り~
・圓橘「雁風呂」


まん坊さん「黄金の大黒」
時々どきっとするようなギャグが入るのは萬橘師匠仕込み?
面白くて何度かぶわはっ!と吹きだした。


圓橘師匠「夏の医者」
本当は「塩原多助」の最終回をお届けする予定だったのですが、この台風の影響で撮影隊が来られなくなりまして…申し訳ないのですが予定変更して「塩原多助」は次回申し上げます、と圓橘師匠。
今回はおなじみのところを…と「夏の医者」。

なまりがきつくてゆったり喋るので本当に田舎~という印象。
親戚の人との会話で、田舎の風景が浮かんでくる。これがとても不思議。
風景の描写は一つもないのに、田舎の大きな家の縁側、目の前に広がる畑が浮かんでくるのだ。
そして隣の村のお医者の先生。ふんどし一丁で畑仕事。訪ねてきた人がいることに気づいても「ここもむしっちゃうから待っててくんろ」とのんびりしてる。

山を越えた方が早いからと先生の案内で険しい山道。頂上について汗をぬぐう仕草で、ものすごい暑さと鬱蒼とした山が見えてくる。
ここまでくればあとは降りるだけだからと一休み。
私この山の頂上で先生が一服しながら畑の作物の育ち具合を尋ねるところがとっても好きで。涼しい風がふいてくるようだし、この先生ののんびりした様子になんともいえない気持になる。
父親の具合が心配で「先生もうそろそろ行くべ」と急かすところにもじーんとなる。

突然まっくらになって足元がぐらっとくる…圓橘師匠のしぐさが絶妙ですごい。
いきなり夜になったか?と慌てる男に、「いやおそらくこれは…」と座布団を触って…「この山に住む蟒蛇に飲まれたようだ」と、それでも落ち着いている医者の先生。
いいなぁ、この先生。

ようやく自分の家に着いて留守番をしていた親戚のおじさんが「うわっ、なんだこのにおいは」とくしゃっと顔をしかめるのもまたおかしい。

だいじな薬箱を蟒蛇の腹の中に忘れてきたようだと気付いた先生がなんてことなくまた山の頂上に戻った時、初めて腹下しを飲まされた蟒蛇が木の枝にぶらさがってぐったりしてる様子がおかしい。それに平気で話しかけてもう一度飲んでくれと頼む先生。

楽しかった~。私、ほんとにこの噺好きだー。そして圓橘師匠の落語が好きだーと思った。よかった~。


圓橘師匠「雁風呂」
話し始めて、あ!この噺聴いたことがある!そうだ小満ん師匠の荒木町の会で聴いたんだ。わーー。しかもこれ、初めてあの会に行った時に聞いたんだ。だから記憶力の乏しい私でも憶えていたんだな。
大阪の淀屋は莫大な資産を築いていたがそれが幕府に目をつけられ財産没収となった。それは町人が財産を持つことに幕府が危機感を抱いたためだった。

ある時、水戸黄門が江戸から上方へ向かう道中立ち寄った飯屋で、屏風の絵に目をとめる。
雁に松というのは珍しい、この絵の絵解きをできる者はいないかと家臣に尋ねるが誰もわからない。
そこに上方の商人が二人やってきてこの屏風を見て「これは土佐光信の雁風呂や。見事なもんや」と話している。
その会話を聞いた黄門様が商人を呼んで絵解きを願いたいと言い、そう言われた商人は軽口を叩いた咎かと最初は恐れるのだが何度も言われてそれでは…とこの絵の意味を説明する。

黄門様はこれは只者ではないと思い名前を尋ねるとこの商人、淀屋辰五郎の息子。武士に貸した金を返してもらいに歩いているがあれこ難癖をつけられておよそ返してもらえず困っている、と言う。
それを聞いた黄門様が一筆したためて渡してくれた上にいざとなったら自分の屋敷に来いと言ってくれる。
財産も取り上げられ貸した金も回収できず弱り果てている商人が、たまたま黄門様に声をかけられて屏風の絵解きをしたことで窮地を救われる…この有難さというのが伝わってきて胸がすく想い。
なによりも圓橘師匠の黄門様がとても威厳と品があって、うわーーと思う。素敵だ…。

台風の中、行った甲斐があったなぁ。すばらしかった。

桂夏丸真打昇進記念公演 三派連合落語会

6/27(金)、浅草ことぶ季亭で行われた「桂夏丸真打昇進記念公演 三派連合落語会」に行ってきた。


・三朝「蜘蛛駕籠
・談吉「天災」
~仲入り~
・夏丸「江島屋怪談」
・林田、夏丸、談吉、三朝 トーク

 

三朝師匠「蜘蛛駕籠
AKBのライブを見にグアムへ行ってきたという三朝師匠。
ユナイテッド航空機内食を食べたまくらから、「蜘蛛駕籠」。
明るくて楽しい高座。あまり好きな噺じゃないけど最初から最後まで楽しかった。


談吉さん「天災」
めちゃくちゃ面白い談吉さんの「天災」。
八五郎が喧嘩っぱやいけどケロっとした明るさがあるからとても楽しい。
そして談吉さん独自のギャグがたくさん入ってくるんだけど、それが全く噺の邪魔になってない凄さ。
にらぼう先生の「むっとして戻れば庭の柳かな」がなぜか柳ユーレイが軍団に入る話になっているし、「堪忍の袋を常に首にかけ 破れたら縫え破れたら縫え」の堪忍がなぜかダンカンになって佐世保バーガーからサモハンキンポーにまでなってしまうこのわけのわからなさ。

にらぼう先生が「お前さんが通りを歩いていると…」と始めると「なんで?なんで歩くの?」といちいち尋ねる八五郎。でも先生に「まぁ…行くことにしておくれよ」と言うと「いいよっ!」と気持ちよく受け入れる。
だけど次の話を始めるとまた「なんで?」。先生が頼むと「いいよっ」。
こういうリズムがたまらない。

こんなに楽しい「天災」はなかなか聞けない。最高。


夏丸師匠「江島屋怪談」
歌丸師匠に教わったという「江島屋怪談」。
初めて聴く噺と思ったら、前に宮治さんで聞いたことがあった。その時は「江島屋騒動」というタイトルだった。

江戸の大きな古着屋江島屋の番頭の金兵衛が掛取りに来た下総で道に迷う。
ようやく家の灯りが見えてほっとして中に入れてもらうと、そこには痩せ衰えた老婆が一人。老婆が何度も何度も親切に「遠慮することはありましぇん」と言うのがかえって気持悪い。
そしてその老婆が夜中になると友禅の袖をびりびりにやぶいて囲炉裏にくべて形相ものすごく「め」という文字を書いて呪いの言葉を吐く。
それを夏丸師匠の淡々とした口調で繰り返し語られるとその光景が浮かんできてぞぞぞ…。
またちゃんと鳴り物も入って(録音だと思うんだけど、ぴったりタイミングが合ってた!)びくっとなる。
夏丸師匠の怪談、こわい…。でも面白い。良かった!


トーク (林田さん:司会、夏丸師匠、談吉さん、三朝師匠)
歌丸師匠、談志師匠の写真が飾られて、亡くなられた師匠を偲ぶ?トーク
印象に残った話。

夏丸師匠は一人前座だったこともあり、歌丸師匠の追悼番組やかわら版で歌丸師匠の高座の写真が出たりすると、自分が前座で出ていた時のことが多くていろいろ思い出す、と。
噺もたくさん教わっていて、おそらく自分が歌丸師匠から直接教わることができた最後の若手。その後は歌丸師匠も具合が悪くなってしまい、とても稽古をお願いできるような感じではなくなってしまった。
「夏丸さんの着物のたたみ方は歌丸師匠と一緒だよね」と三朝師匠から言われると、歌丸師匠の着物のたたみ方はとても変わっていて独自だったので、忘れないためには自分の着物を同じたたみ方にしようと思って…と。

…なるほどー。夏丸師匠ってそういう風に見せないようにしてるけど、やっぱりまじめなんだなぁ…。

それから、まだニツ目なのに師匠を二人亡くした談吉さん。
立川一門で集まった時にいろんな人が心配して話しかけてきてくれて「だれのところでもいいんだからな。自分で行きたいところに行くんだよ」と言ってはくれたけど、みんな目を合わせてくれなかった、正直な人間がそろってるんです。次に誰を仕留めるか、と思われてます、と。
結局談修師匠のところに入ることになり、「前からお世話になってる…とてもいい師匠…ほんとに感謝してます」と言ったあとで「若いですから仕留めるのも大変そうです」。
「こうやってネタにでもしないと…つらすぎますから」とぼそっと言ったのが印象的だった。

トークの後は、夏丸師匠の歌。
せっかくだから客席で見ようと三朝師匠と談吉さんが一列目に座って楽しそうに見ていたのがよかったなー。

楽しい会だった。

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戦時の音楽

 

戦時の音楽 (新潮クレスト・ブックス)

戦時の音楽 (新潮クレスト・ブックス)

 

 ★★★★★

音楽と戦争、幻想と歴史が交錯し、響き合う、17の物語。名手による待望の初短篇集。往年の名ヴァイオリニスト。サーカスの象使い。大学教授になりすますシェフ。時代や運命の不条理に翻弄されつつも何かを生み出そうと苦闘する人々の物語は、作家自身の家族史をも織り込みながら、?がり合うように広がっていく。ベスト・アメリカン・ショート・ストーリーズに4年連続選出された名手による、驚異に満ちた17篇。

バラエティに富んだ短編が収められているのだが、じっと耳をすますと一つのメロディが聞こえてくるような感じ。

とても好きだったけれど、ちょっとわかりにくいところもあって、大きな声で「素晴らしかった!」とは言いづらい。じゃどれがよかった?どこがどんなふうに?と聞かれると、まだそこまで深く読み取れてないから、と答えざるを得ない。

「ブリーフケース」「絵の海、絵の船」「惜しまれつつ世を去った人々の博物館」も好きだったが、一番好きだったのは「赤を背景とした恋人たち」。
ピアノの中から出てきたのがちょっと小さめのバッハ!徐々に大きさが整ってきて、元旦那の服も板についてきて、家のピアノを弾くようになってきて…バッハの目から見て初めて高層階の怖さに気づき、理解できなかった元旦那の恐怖をようやく受け入れられるようになるって…いったいどこをどうやったらこういう発想が出てくるんだろう。

自分が生き延びるためにした選択、犠牲にした人、切り捨てたこと…その罪悪感を抱きながら生き続けること。
苦いけれど底に流れる音楽の優しい調べが救いになっている。

ブエナ寄席

7/26(木)、ART SPACE BAR BUENAで行われた「ブエナ寄席」に行ってきた。
BUENAには何回か来ているけど、ブエナ寄席に来たのは初めて。女性のお客さんが多くて華やか。

・可風「まんじゅうこわい
・鯉八「かくあるべし」
~仲入り~
・柏枝「親子酒」


可風師匠「まんじゅうこわい
芸協の若手の「まんじゅうこわい」ってすごく面白い。初めて見て衝撃を受けたのが夢丸師匠。「まんじゅうこわい」がこんなに面白いって?!と驚いたんだけど、それを見たのがこみち師匠との二人会で、こみち師匠も衝撃を受けてその後夢丸師匠から教わった、と何かの会で言っていた。
上方の「まんじゅうこわい」はトリネタになるぐらいだって聞いたことがあるけど、それに近いのかな。

怖いものを言い合っているとそこに兄貴分が入ってきて「兄貴の怖いものは?」と聞くと、この間、身投げをしようとしている女を助けて…という話を始めてそれが怪談っぽくなる。その部分が結構怖いだけに、その顛末のばかばかしさに笑う。
可風師匠が座布団の上でふわふわと機敏に動くのがとてもおかしくて、楽しかった!


鯉八さん「かくあるべし」
久しぶりの鯉八さん。開演前に声がしたから振り返って挨拶したら「お久しぶりです」と言われてしまい、申し訳ない…。
嫌いになったわけじゃないんだ。でも成金がとっても人気が出てなんか行きづらくなってしまって…って言い訳だなー。ずびばせん。

初めて聴く噺。
チンピラに絡まれて困っている女性。
そこへやって来た男が、そのチンピラに向かって砂を投げつけ棒で殴りつけて助けてくれる。
女は「ありがとうございました」と丁寧にお礼を言って立ち去ろうとすると、助けた男が「え?それだけ?」。
助けた男としては、こういう場合は「せめてお名前を」と聞いてくるべきだし、(彼女の)行きつけの喫茶店に連れていくべきだし、なじみのマスターに紹介するべきだし、そこから恋が始まるべき。
は?なにそれ?と困惑していた女だったが、それを言うならあなたもこうやって現れるべき、砂と棒なんか使わずに素手で戦うべき、と言い募る。

もうこの会話の応酬のスピード感、お互いに言い出す内容の斜め上をいく感じ、これがもうたまらない。
すごいグルーヴ感があって…なんだろう、これは。ノリノリの音楽にも似た…聞いている方がどんどんアガっていってものすごい高揚感。

うひゃーー。鯉八さん、すごいことになってるー。楽しい~。
客席はハンパないウケ方だった。すごい。


柏枝師匠「親子酒」
霊感が強いという柏枝師匠。
ああ、確かにそういわれると霊感強そうな感じがする…と思っていると、子供のころに金縛りにあったことがある、と。
でも金縛りにあいながらさらに霊が浣腸してきた、と。

…ぶわはははは。ええええ?なに?いまなんて言いました?浣腸?
柏枝師匠の発音が「官庁」っぽいので何度か聞き返したい気持ちに。なにそれ?

それで渾身の力をこめて「やめて!!浣腸やめて!!」と叫んだら、金縛り中だったから大きな声は出なかったけど霊には通じたらしくやめてくれた。
なんて恐ろしい…そして痛かった…と思い、下で寝ている両親の部屋に行き、「今金縛りにあって浣腸された」と話したが、まるで相手にしてくれなくて悔しい思いをした。

それから旅の仕事でホテルに泊まったとき。
部屋に入った瞬間に嫌な感じ。
ベッドも北枕になっていて、不吉な予感しかない。
その地方では北枕は縁起が悪いわけではないらしいのだが、自分は気になったので位置を変えて盤石の体制。
しかしその晩、また金縛りにあってしまった。
しかも今度は浣腸ではなく、き〇を握ってきた。これが痛いのなんの…。

…ぶわはははは。
もう…柏枝師匠が無表情でそういうことを言うから、ほんとのことを真面目に言ってるのか、嘘をふざけて言ってるのかが全然わからない。
しかもお下品だし(笑)。笑うと巻き込み事故に遭いそうだったけどついゲラゲラ笑ってしまった。

そんなまくらから「親子酒」。
大旦那がおかみさんを見つめる視線が訳ありげで妙に色っぽい。
こんな捨てられた子犬みたいな目で見られたら、じゃんじゃんお酒を注いであげたくなる。
また最初は「つっと寝ちまうから」と言っていた大旦那、飲むほどに元気になってきてとても寝そうにないのもリアル。
お酒を飲みながらなんやかんやと言う部分が結構たっぷりでとっても自由。

そして後半になって酔っ払った大旦那が白目をむくという大技に(笑)。
やっぱり柏枝師匠は「親子酒」でも壊れるのね…ぶわはははは。

楽しかった!3人が3人とも面白いってすごい!
また行きたいブエナ寄席。

若手特選落語会 桂歌蔵の会

7/24(火)、お江戸日本橋亭で行われた「若手特選落語会 桂歌蔵の会」に行ってきた。

・鯉白「六尺棒
・小助六禁酒番屋
・伸治「鰻の幇間
~仲入り~
・歌蔵「モンゴル公演記」
・まねき猫 動物ものまね
・歌蔵「寝床」


鯉白さん「六尺棒
前も芸協の若手特選落語会で見て思ったけど、鯉毛さんの時と全然イメージが違っていて面白くなってるなぁ~。ゆっくり目に大きな声で話すので聞きやすい。

自分の地元で定期的に落語会をやっているという鯉白さん。
会場は「ニューラッキー」という元ストリップ劇場。
自分の会の時、最前列で見ていたおじさん。ストリップ劇場ニューラッキーの常連だったとかで、終演後いろいろ話を聞くことができた。
そのおじさん、ストリップ劇場だった頃はやはり今回と同じく最前列に座ってかぶりつきで見ていたのだとか。
だいたい何歳ぐらいの方が出てらしたんですか?と聞くと「そうね…40~50代の女性だね」。
それを聞いて鯉白さんが「じゃ…ニューじゃないですね」と言うと、おじさんが「うん。ラッキーでもなかったよ」。

…ぶわははははは!
私これがツボにはまってしばらく笑いが止まらなかった。
いいまくら!

そんなまくらから、自分もいまだに親に迷惑かけてる…と「六尺棒」。
若旦那が吉原から帰ってきて俥屋さんに祝儀を渡すところから。こういう始まり方、初めて見た。
祝儀を渡して喜んだ俥屋が去って行く姿を満足気に見る若旦那。
「いいなぁ。ああやって俥屋が何度も振り返りながら帰っていくのを見送るのは」ってのんきな若旦那。
家に向かいながら「こういう家に生まれてよかったよ。遊ぶ金があって」って、若旦那の能天気さが出ていて面白い。
ご機嫌で帰って来たのに戸が締まっていて番頭も小僧も出てこない。
ようやく出てきたのが一番来てほしくなかった大旦那。戸を挟んで親子の攻防。
勘当だと言われた若旦那が「勘当されたらもう自分の家じゃないから火をつけますよ」と言うんだけど、最初の能天気ぶりを見ているので、これがただ言ってるだけだというのがわかる。
そして出てきた大旦那と追っかけっこ。
とにかく鯉白さんの若旦那はのんきでふわふわしてるのでずるい感じが全くなくて最初から最後までとても楽しかった。

助六師匠「禁酒番屋
聞き慣れているお酒の小噺で爆笑してしまう。やっぱり間ってほんとに大事なんだなぁ。小噺が面白い噺家さんってほんとに実力があるんだろうなぁ。
浅めの出番で「禁酒番屋」。刈り込みながらでもきちんと全部やってしまうのがすごい。
しかもちゃんと面白い。
3番目に持って行った若い衆、「植木屋」と名乗っていたのは初めて聴いた気がする。確かにそれなら「松の肥やし」も意味が通る。
笑った笑った。


伸治師匠「鰻の幇間
「暑い中よくいらっしゃいました」と伸治師匠。
「今日は女性のお客様が多いですね」「どちらかというと年の上の女性が…いえそのほうがいいんですよ」など客席を見渡してあれこれ。それから寿命や健康寿命の話をして、自分は健康じゃなくなってから8年とか生きていたくない、ぽっくり逝きたい、など。
「あのね。まだ何をやるか決められてないんですよ。というのはね、先に上がったやつに”きょうのお客さんどう?”って聞くんだけど、鯉白は”だめっす”という返事、小助六さんは”いいっす!”という返事。どうしようかなーとね」。

それから幇間という職業が200年前からあったということについて、「相手をよいしょする職業が200年前からあったんですよ、日本には。どれだけ文化レベルが高いか」なんていうまくらから「鰻の幇間」。
とにかく伸治師匠がふわふわ楽しそうなので、あんまり好きじゃないこの噺が全然嫌じゃなくて楽しい。
一八が最初なんでもいいようにいいように考えるのもおかしいし、入ったうなぎ屋のがっかり感もすごくおかしい。

酒を飲んで「これは…辛口でもなく…かといって甘口でもない。あえていうなら…特徴がないのが特徴というような酒」。
おしんこも「これは…古漬けでもなければ浅漬けでもない。あえていうなら…特徴がないのが特徴というようなおしんこ」。
鰻は「ガムかと思うようなこの弾力。この歯ごたえ。あっ、骨!鰻の骨とはこれはまたオツな…」。

自分がお勘定を払うことがわかったとたんに「わかりました。払いますよ。払います。でもね、だったら言わせて。ちょっとこっちに来て。…腕組みしない。逃げようとしない」に大笑い。
結構難しい顔してあれこれお小言を言うんだけど、それでもなんかおかしいんだなぁ。
楽しかった~。にこにこ笑顔で帰っていく伸治師匠の姿を見られただけで来た甲斐があったと思ってしまう。


歌蔵師匠「モンゴル公演記」
海外公演であちこちの国に行っているという歌蔵師匠。
私の場合、ヨーロッパとかそういうステキなところには行かせてもらえません。結構過酷なところが多いです。インドとかモンゴルとか。
その中でもモンゴル…ここで行った公演は忘れられません。その時のお話を。
と言って語り始めたモンゴル公演記。面白い面白い。
スポンサーが付いてそこがすごい宣伝をうってくれたおかげで、お客さんがいっぱい集まった1回目の公演。
会場の都合で土曜日の夜の公演のはずが急遽昼になってしまいお客さんが激減した上に、元気スタッフが全く段取り通り動いてくれずボロボロだった2回目の公演。
そして2回目の公演のショックを引きずったまま移動したけれど吹っ切れた3回目の公演。
たんなるまくらじゃなくちゃんとお話として流れができていて、楽しい~。

特におかしかったのが独自の日本語をしゃべるモンゴル人の通訳さん。
この人のストレートな物言いに笑った笑った。
知らなかったけど、歌蔵師匠は海外公演の顛末を本に書いていて、在庫がたくさんあるのでみなさんぜひ…ということだったので買っちゃった。サインもしていただいてうれしい~。


まねき猫先生 動物ものまね
大好きなまねき猫先生。
歌丸師匠の思い出をしんみりと。
まねき猫先生のものまねは抒情的で素敵。秋の虫の鳴き声は聞いてるだけで涼しさを感じる。
鹿の鳴き声もよかったなぁ。
ちゃんと笑いどころも作っているのがまた素晴らしい。


歌蔵師匠「寝床」
前半が初めてこの噺を聞く人にはわかりづらかったような気が…。
旦那の義太夫がまずいっていうのを、もう少し最初に垣間見せてもよかったのでは。
でも後半になって「そうか。旦那の義太夫が相当ひどいからみんながなんやかんや言い訳してたのか」というのがわかってからは大盛り上がりだった。

終演後、著書を販売というので並んで買った。
サインもいただいちゃった。

 

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 私が買ったのは「世界をネタにかける落語家 東南アジア・中央アジア編」。

世界をネタにかける落語家 インド・スリランカ編 DFB-005

世界をネタにかける落語家 インド・スリランカ編 DFB-005

 

 

さん助ドッポ

7/23(月)、お江戸両国亭で行われた「さん助ドッポ」に行ってきた。

・さん助 ご挨拶
・さん助 初代談洲楼燕枝の述「西海屋騒動」第二十一回「新右衛門と重右衛門」
~仲入り~
・さん助「代書屋」
・さん助「千両みかん」


さん助師匠 ご挨拶
埼玉県のなにかのフェス?で落語をやったというさん助師匠。
なんでも、フランスから来たコンクール受賞者(美しい女性二人)のクラシックコンサート、尺八の演奏など盛りだくさんのイベントでその中に落語と講談も入っていたらしい。
かなりの人数の出演者だったのだが、主催者側の手違いで楽屋が1つ。1部屋の中にそれだけの大勢が押し込められてあちらで歌、こちらで尺八の練習とカオス状態。
しかもここで着替えをしなければならず、あのフランス人のお嬢さん二人はいったい…と思っていると、全くなんのためらいもなくバーンと着替えをしていて、びっくり。
自分は着換えるとき隅の方でこそこそ着換えていたのに…。

そして落語は主催者から「この暑さですからお客様に涼をとっていただくという意味で”ちりとてちん”をお願いします」とリクエストされていた。
ちりとてちん」で涼をとれるのか?と思ったけど、わかりましたとやったのだが。
そのフランス人のお嬢さんたち、落語を見たことがないから見てみたいと客席の一番後ろで見てくれていた。
さん助師匠の落語に二人は大喜び。しかも終わるとその二人が立ち上がって「ブラボーーー!」とスタンディングオベーション
しかしその前に座っているお客さんたちはしーん。
この温度差がすごかった…。なんか恥ずかしくていたたまれなかった…。

…ぶわはははは。いろんな体験するね!さん助師匠。
それにしてもいいなーそのフランス人のお嬢さんたち。素敵。


さん助師匠 初代談洲楼燕枝の述「西海屋騒動」第二十一回「新右衛門と重右衛門」
お静を追い出し、お糸を迎え入れる前の晩。嬉しくて待ち遠しい義松。燕枝はそれを「一夜を千夜と待ちわびまして」と書いていて、もうそういう表現がたまらないんだというさん助師匠。
次の日、お糸は店の者に「浅草の観音様にお参りに行ってくる」とだけ言って店を出て、義松の元へ向かう。
一方義松の方は、子分たちに「お静のことはお糸には絶対に言わないように」と釘を刺す。

お糸が訪れると子分たちは大喜び。
今まで男所帯でむさくるしかったところに、こんなにきれいな…元芸者の姉さんが来てくれるなんて…と持ち上げ、先を競うように自己紹介をする。
そこへ現れた義松は、お糸が半人(遊女の見受けの証人)を介して店に話をすることなく黙って出てきたことを聞くと、「さてはここが気に入らなかったら店に戻るつもりか」と言う。
それを聞いたお糸は「17年間(義松に)会うことだけを夢見てきた私にそんなひどいことを言うなんて」と怒り、子分に「剃刀を持ってきてくれ」と言う。
驚く男たちに、店に戻るつもりがないことを示すために眉を落とすのだ、と告げて剃刀で眉を落とす。
それを見て義松は喜ぶのだが、お糸はめざとく部屋にあった鏡台に気が付き「男所帯だというがなぜ鏡台が?」。
子分を取りまとめる役の八五郎がそこはうまくお世辞を使って誤魔化す。

一方、弁吉(お糸)が行方不明になって店は大騒ぎ。お糸の面倒を見ていた新左衛門は、お糸が兄と生き別れになってそれを探しているとは聞いてはいたが…おそらく兄というのは嘘で情夫なのだろう、と店の主人に話す。
ああいう女だから仕方ないが、面倒を見た自分にあいさつもなく雲隠れされては自分の顔が立たない。かといって、ああいう世界の者に自分のような堅気の人間が行ってもどうすることもできない。誰か間に入ってくれる者はいないか?と言うと、主人は「それなら築地青柳丁で御用聞きをしている小松屋重右衛門に口をきいてもらったらいいのではないか」と言う。
こういう役にはぴったりな人間だ、と。

お糸の歓迎の酒宴を開いている義松の家にやくざ者が入ってきて自分は折助(下男)だと名乗り暇乞いに来たから餞別を寄こせと大声をあげる。
子分たちが叩きのめしてやれといきり立つと、お糸が現れて「祝いの席なのだから」とたしなめて金を渡してやる。
折助は礼を言って家を出るが、実はこれは重右衛門に頼まれて義松の家の様子をうかがいに行った男で、待ち合わせした重右衛門に「確かに二階で義松の声がした」と報告する。
重右衛門はそれを聞いて義松を訪ねる。

重右衛門が訪ねてきたと聞いた義松は「あれは兄だが子どものころはいじめられ、3年前にも人前で恥をかかされた。仕返しをしてやろうと思っていたところ向こうから訪ねてくるとはおあつらえだ」と喜ぶ。
義松は金ピカの豪華な衣装に身を包み子分を従えて重右衛門の前に現れる。

最初は重右衛門が「お前の兄だ」と言っても、自分に兄などいないとしらを切っていた義松だったが、お糸をいったん店に返して新右衛門の顔を立ててくれと言われると、長年の怨みを吐き出す。
自分は子どものころお前にさんざんいじめられた、お前の父親も血のつながらない自分をかわいがらなかった、その挙句売り飛ばされてそこでお糸と出会ったが、二人で駆け落ちしようとしたところお糸が山賊に連れ去られ、ようやく再会できたのだ。自分はこれまでの人生でどれだけの目にあってきたか。
しかしお前はうちの父に命を助けてもらった身ではないかと言う重右衛門に「あの時そのまま死なせてもらったらどれだけよかったか」とうそぶく義松。
敵意をむき出しにする義松に「お前がその気なら…」と言う重右衛門。
重右衛門が帰ってから「今から行ってあいつを刺しましょうか」と言う子分に、おれに考えがある、という義松。
二人の対決は次回に。

…あんまりよく覚えてないけど重右衛門の方はしっかりしていて剣術の稽古も一生懸命やってたんじゃなかったっけ?それでも結局はやくざになってるんだね…。
そして、いじめられたとか何の恩義も感じてないとか恨み節を言う義松が小せぇ…。小せぇ男だよ、ほんとに。こんな親分でいいんですかね。何もいいところが見つけられないんですけど…義松…。「八艘飛びの義松」言うけど八艘飛びエピソード出てきたっけ?木更津のあのしょーもない戦いの時に船をぴょんぴょん飛んだんだっけ?
金ピカの衣装をつけて登場っていうのも苦笑いしかないわ…。

それにしても新しい登場人物が出てきても、結局また殺して痛めつけるんでしょ?と思ってしまう。
なぜ現れた重右衛門よ…。またチミも拷問みたいな殺され方をするに決まってるよ…。
そんでお静よりお糸の方がきれいなのかね?お静も相当な美貌と言われていたけど、お静の方が年上なのかな。
いつまでも迎えに来ない義松を怪しんでお静が現れて義松をめった刺しにして殺して、お静とお糸が悪女対決して死んだ方が化けて出るとか…義松以外の人物にスポットが当たった方がまだ面白いような気がしないでもない。


さん助師匠「代書屋」
今度ラジオの「真打競演」に出ます、とさん助師匠。
子どものころ、生の落語を聴くのはこの番組ぐらいしかなかったからいつも楽しみに聞いていた。
じゃ青森のなんとかいうところで公開収録ですね!とウキウキしたら、そういうのは売れてる師匠の時だけで、それ以外の時はスタジオ収録らしい。
スタジオ録音となると結構長い時間楽屋にいないといけないんだけど今回は一緒に出るのが蝠丸師匠と〇〇師匠(聞き取れなかった)。
明日が収録?と言ってた気がするんだけど、競演するお二方も大好きな先輩なのでとても待ち遠しい。「一夜を千夜と待ちわびております」。

…ぶわははは。いいなぁ、そのフレーズ。
蝠丸師匠と一緒なんて羨ましすぎる。というか、うれしいんだね、蝠丸師匠だと。それもなんかうれしい。

それから今日はこれから「代書屋」をやります、と。
「代書屋」は今誰もが同じ形でやっていて、あれはもともと小南師匠が上方から持ってきてそれを喜多八師匠が今の形にした、とか。
みんなが同じ形でやってるので他の形はないのだろうかと探していたら、ありました。
〇〇(だれか忘れた…)の速記にあったのでそれでやってみます。ま、みんながやらないのはつまりはあまり面白くないから、なんですけど、こういう「代書屋」もあるんだな、と思って聞いていただければ、と。


代書屋にえらいなまった田舎の人が訪ねてくる。
「はい、いらっしゃいませ」と、この代書屋さん、愛想がいい。
田舎の人は江戸へ出てきたいきさつなどを長々と語りだし代書屋さんは「いったいなんの話ですか?」「あなたの身の上話はいいですから、私は何を書けば…」と言いながらも最後まで聞いてやる。
一旗揚げようと田舎から出てきて、地元でとれた野菜を使った野菜食堂を開こうと思うので、屋根のところに看板を書いてくれ、という。
「ここは代書屋ですよ。看板屋じゃないんですから」と代書屋さんが言うと、田舎の人はうぎゃうぎゃ言って怒って出て行ってしまう。

その後にやって来たのがきれいな女で代書屋さんは「いい女だなぁ」と大喜び。
「何を書きましょう」と聞くと「果たし状」(だったか?)を書いてくれ、と女。
「離縁状じゃなくて?」と聞くと、「だってひどいんですよ、あの男」と今度は女が亭主への恨み節を語り始める。この女の名前がベソ子。ベソ子って(笑)!
そして女の語りがなんともいえずヘンテコな調子(芝居調子とも違う、なんだったんだろうあれは)ですっごいおかしい。
どんどん興奮して激高していく女にたじたじの代書屋さん。
そこに亭主が飛び込んできて、「反省したから心を入れ替える」と言うと、「お前さん…ほんとかい?」と女。
二人は抱き合って出て行ってしまう。

その後に来たのがやたらと威勢のいい男。
出生届を書いてくれと言うのだが、妻の名前が思い出せない。
そして妻とのなれそめを語り始める男…。
代書屋さんは「いったいなんの話ですか?」と文句を言いながらも結局聞いてしまい…。

…楽しい~!私「代書屋」は嫌いな噺なんだけど、この「代書屋」は好き好き。
次々やってくるお客が自由気ままで、それに振り回される代書屋さんが偉そうでもなくて、とげとげしさがなくてただただた楽しい。
特に女とのやりとりがたまらなくおかしかった。なんかやけに古風で…時代はいつごろなんだろう?大正?昭和?古めかしい新しさがすごく面白い。楽しかった!


さん助師匠「千両みかん」
この噺に出てくる万惣というのは神田に本当にあったお店。池上正太郎のエッセイにここのお店で食べるホットケーキがどんなにおいしいか、という文章があって、それを読むともう食べたくてたまらなくなる。
耐震の問題で今はなくなっちゃいましたけど、私なくなる前に食べに行きました、ホットケーキ。
…期待が大きすぎたんでしょうね…。おいしかったですけど…ふつうでした。

…ぶわはははは。
黄金餅」もそうだけど、さん助師匠とスィーツって…なんか面白いぞ。
そんなまくらから「千両みかん」。
これがさん助師匠にしたら珍しくちゃんとした(←ひどい)「千両みかん」だった。
丁寧っていうか、抑え目っていうか。

番頭さんがいいなぁ。
お人好しでおっちょこちょいで…。旦那に脅されて三日かけてそこらじゅうの八百屋を訪ねて歩くんだけど見つからなくて…わけわからなくなって入った荒物屋の主人、心配してくれてお水を飲ませてやって「だったら八百屋に行くより万惣に行ってみなよ」と教えてくれる。
万惣でみかんを蔵から出すところも、ちゃんと蔵の冷たい空気がこちらにも感じられた。
若旦那がみかんを大事そうに手に持って食べるところも、とてもおいしそう。
それを見た番頭さんは本当に嬉しそうで、若旦那を思う気持ちが現れてる。

このサゲ…大好きだなー。落語って感じ。
楽しかった。

第34回鶴川落語会 柳家小三治独演会

7/21(土)、和光大学ポプリホール鶴川で行われた「第34回鶴川落語会 柳家小三治独演会」に行ってきた。


・一琴「真田小僧
小三治ちはやふる
~仲入り~
・一琴 紙切り
小三治「長短」


小三治師匠「ちはやふる
こんな暑さの中こんなに沢山おこし頂いてありがとうございます、と小三治師匠。
そう言ったあとに、でもこの中で一番遠かったのは私です。いやほんとによくたどりついた…。

…ぶわはははは。
でもそうとも限りません。私も結構遠いです、鶴川は。しかもこのチケットはあっという間に完売。地元の人ばかりじゃないんじゃないかな。ま、来たくて来てるんだけどね。小三治師匠が見たい一心で。

ところで私、出てくるの遅くなかったですか、と師匠。
そうなのだ。出囃子が鳴ってもなかなか出てこなくて、もしかして前方の一琴師匠が12分で上がったから支度が間に合ってないのかなと思っていたのだ。

一琴があがってきたとき、私まだ帯締めてなかったんですから。
帯を締めてから鏡で全体を見て直して…まだ何分かかかるんです。自分が出る時に私の支度具合を見てそれぐらいのことわかるはずなのに。
しかもあいつがやった「真田小僧」。あれだってあんな風に…倅が金を持って家を出るところで「おいっ」って声をかけるところにはいろんな想いがあるのに、あれじゃサイレン鳴らしてるのと変わらない。
そもそもあの噺は寄席ではみんな確かにあそこで切るけどあれで終わりじゃなくて…。

と言いかけてもう我慢できず?「おい、一琴!」と舞台袖にいる一琴師匠を呼び出す小三治師匠。

ひぃーーー。公開小言ーー。

出てきた一琴師匠に「真田小僧」の後半部分を話せ、と小三治師匠。
「ええと…」と語り始める一琴師匠。
そんなに丁寧にやらなくていいよーーあらすじだけでーーと思ったのだけど、丁寧に話さないと筋が出てこないんだね。
一通り話し終わって、きっと初めて全部を聞いたお客さんも多かったみたいで、大きな拍手。

落語っていうのはお話なんだからそれをちゃんと語らないとダメ。
笑わそう笑わそうと無駄なギャグを入れて、その場でわっとウケたってお客さんにはそれ以上のものは残らないしそれじゃ落語じゃない。
習ったそのままにやるんじゃない。そもそも習いに行くときだってこの人のここがいい、この噺のここがやりたい、そういう考えを持たなきゃいけない。
そんな小言を一通り言って「下がっていい」。

小三治師匠、ほんとにいろんなことをおっしゃっていたけど、どれもとってもよくわかる…そうだなーーということばかり。
私はただの素人だけど、そういう小三治師匠の落語が好きだし、自分が好きになる噺家さんはそういう考えの人が多いだろうな、と感じた。
これでもかこれでもかと押してくる噺家さんより、その落語がお話として好きでその世界をきちんと見せてくれる噺家さんが好きだな。技術の良し悪しや感じ方、個性はそれぞれだと思うけど。

これだけ小言を言ったら自分の落語に入りづらい?
なんてことは全然なくて、「今からするのはたいして面白い噺じゃありませんよ」と言って「ちはやふる」。

そう思って見てみると、やっぱりすごい技術に裏打ちされているんだな…ということが素人の私にも分かる。
なんだろう。ウケすぎないようにしてる…っていうんじゃないけど、自然に流れていくのだ、会話というか間というのが。
「歌のわけを教えてくれ」と言われた「先生」。最初はまるきりわからないからお茶を勧めたり歌をきれぎれに言ったりして時間を稼いで、でも話し始めたら興が乗ってきてだんだん楽しくなってきて浪花節調になったり三味線が鳴ったり。
聴いてる方も「ええ?5年で大関に?すごいですね!」と感心したり「なんか変な話ですね」とちょっと怪しんだり。
やりとりをしている二人のそばで見ているみたいな…そんな感じ。

楽しいなぁ。無理なく楽しい。だから疲れないのかなぁ小三治師匠の落語は。だから何回でも見たくなるのかもしれない。そんなことを思った。


小三治師匠「長短」
前半が長かったので、後半はまくらなしで「長短」。
小三治師匠の「長短」は時によって長さんがかわいく見えたり短さんが好きになったりするんだけど、今回は長さんがかわいかった~。
自分のすることに短さんがイライラしたり、そういう二人の関係を面白がってる。一緒にいる時間を楽しんでる。そんな感じが伝わってきて、思わずにこにこ。
ガミガミ言われるのは慣れてるけど、怒られるのはいやなんだね、長さん(笑)。

じんわりと楽しい「長短」。
静かな瞬間もあったんだけど、その時に自分のお腹がきゅるきゅるいうのが恥ずかしくて、でもそれも落語みたいで少しおかしかった。

こじんまりしたホールで見る小三治師匠。至福だった。
最近落語ブームで寄席で小三治師匠がトリの時はもう鬼のようにお客さんが押し寄せるので行かなくなってしまった。
大きなホールで見ても満足感があるから小三治師匠はすごい。

鈴本演芸場7月中席昼の部

7/20(金)、鈴本演芸場7月中席昼の部に行ってきた。

・きよひこ「狸札」
・歌太郎「子ほめ」
翁家社中 太神楽
・燕弥「寄合酒」
・はん治「妻の旅行」
・ホームラン 漫才
・馬石「粗忽の釘
・菊丸「鰻屋
・のだゆき 音楽
・文菊「棒鱈」
~仲入り~
・ダーク広和 マジック
・玉の輔「お菊の皿
・小里ん「天災」
ホンキートンク 漫才
・南喬「風呂敷」

燕弥師匠「寄合酒」
ああやっぱり真打って全然違うんだなぁとしみじみ思う安定感。何回聞いたかわからない噺なのに、風呂敷をぴゃーーっとひろげて数の子がくっついてきたくだりを聞いて大笑い。
この芝居、燕弥師匠がすごい安定感でかっこよかった~。


ホームラン先生 漫才
なんか毎回ネタを変えてくれてちょっと感動。この日もたにし先生がぶっ倒れるんじゃないかと思うくらいの熱演(歌舞伎)で大爆笑だった。


馬石師匠「粗忽の釘
亭主が夫婦の違和感を愚痴るのが独自でおかしい~。
「なんかね。言葉に剣が…。あたしの考えすぎなんですかね?いやでもやっぱり確かに剣が…」って。
ふぇーふぇーよりこっちの方が好きだわ。
面白かった。


文菊師匠「棒鱈」
噺に入ったとたん、前から8列目ぐらい?がものすごーーく騒がしい。
その前から結構声が大きい爺がいるようで私語がうるさい時とかあったんだけど、なになに?と思うぐらいの騒がしさ。
どうやらお酒を飲みながら見ていて?トイレに行きたくなったらしいんだけど、その移動がもううるさいのなんの…。
文菊師匠、ちょうどくまさんが酔っぱらって兄貴に隣の座敷の田舎侍の悪口を言ってるところだったんだけど、「なんだなんだこの騒ぎは。席を移動して出て行くだけでこの騒ぎ。もういやになっちゃった…」。
…ぶわははははは!!!さすがです!!

「もうどこまでやったかわからなくなっちゃった」って言ったら、すかさずその仲間の爺が「しっかりしろーー」。
うるせーーー。しっかりしろはお前らだ!!いい気になるな!!(怒)

いやでもさすがだった文菊師匠。あのひどい妨害をちゃんと噺に取り入れて挽回して素晴らしかった。


小里ん師匠「天災」
にらぼう先生の所を訪ねたところから、だったんだけど、そこからだとさすがに噺を知っていないと何が何だかわからないのでは。
客席は水を打ったようにしーーーーん。ある意味あっぱれではあったが。


南喬師匠「風呂敷」
悋気のまくら。
男というのはしょうもないもんで金が少しできるとすぐに外にお楽しみを作るようになる。しかしそういうことはすぐにかみさんにばれる。女性というのは本当に触角が働くというんでしょうか。実に鋭い。

ある男が浮気をして帰ってきて女房が寝ちゃってたのでこれ幸いとあわてて服を脱いで寝巻に着替えようとしたんだけどそこで目覚めた女房が「くやしいーーーお前さん浮気してきただろ!」。なんでわかったのかと思ったら「ステテコが裏返しになってる!」。
それからしばらくおとなしくしていて仕事で遅くなって帰ると女房が待ち構えている。
してない、してる、の押し問答になり、脱いでみろと言われて脱ぐと、ステテコも裏返しになってない。
それを見て女房が「くやしいーーー。今日は二軒行きやがった!」。

…ぶわははははは。
もう小噺でひっくりかえるほどおかしいってなんなんだろう。間がいいのかな。表情かな。決めつけて悔しがるおかみさんが最高だった。

そんなまくらから「風呂敷」。
このおかみさんは本当に新さんとはなんでもなかったのかねぇ…。といつも聴いていて思ってしまう。ちょっと怪しい(笑)。

頼られて文句を言いながらも悪い気はしてない兄貴がいい。
いい気になって「こういう言葉があるのを知ってるか」と言って「女は三階に家なし。女はな、三階にいちゃいけねぇんだ。一階にいなくちゃいけねぇ」。全部でたらめなおかしさ。
そしてえらそうな兄貴がおかみさんにはすっかりバカにされているのがまたおかしい。

家に行ってみるとべろんべろんの亭主。これがもうほんとに酔っぱらってべろんべろんになってるようにしか見えない。
風呂敷で亭主を抑えながら、新さんに言葉を投げかけるおかしさ。

笑った笑った。
楽しかった~。
この芝居、結局5日通ったけど、全部違う噺でどれも楽しくて大満足。

アクシデンタル・ツーリスト

 

アクシデンタル・ツーリスト (Hayakawa Novels)

アクシデンタル・ツーリスト (Hayakawa Novels)

 

 ★★★★★

再読。アンタイラーの中でも特に好きな作品。

主人公のメイコンは「アクシデンタル・ツーリスト」という旅行ガイドを書く仕事をしている。これは仕事で旅行をする人のためにガイドブック。彼らの関心は物見遊山ではなく旅先で家にいるのと変わりなく過ごすことだろうという意図から、ホテルのベッドのサイズ、近くにマクドナルドがあるかどうか、低温殺菌牛乳はどこに行けば買えるか、等を徹底的に調査して書いているガイドで、空港の本屋に置かれたりしてそれなりに売れている。

メイコン自身が旅が嫌いで、日常生活のルールを破るのが嫌い、という変化を嫌い秩序を愛する男。
メイコンは息子をなくした悲しみを何事もなかったかのように毎日を送ることで取り繕おうとする。
妻のサラはそんなメイコンに愛想をつかし家を出る。
メイコン自身、自分は冷たいのではないか、感情が乏しいのではないかと思っているのだが、読んでいるとそんなことは決してないのだということがわかる。
確かに彼は感情表現が乏しく冷たいように見えてしまうところがあるけれど、それは幼い頃奔放な母親に捨てられたも同然の扱いを受けたことから自分の世界を頑なに守ろうとするようになった経緯があって、それは彼の二人の兄、妹も同様。
一人暮らしを続けるうちにますます偏屈になりおかしくなってきたメイコンは、家の中で足を折ったのをこれ幸いと、兄妹たちが暮らす実家へ身を寄せる。

変化に弱いのはメイコンばかりではなく、愛犬のエドワードもそうで、もともとダメ犬だったのが今ではメイコン以外の人間に吠えまくり噛みつくどうしようもない状態に。
駄犬ゆえに今まで預けていたペットホテルに拒絶され、途方に暮れたメイコンが訪ねたペットショップ。そこにいたミュリエルという若い女がエドワードを受け入れてくれただけでなく、自分がエドワードの訓練をしてあげると申し出る。
積極的なミュリエルに腰の引けるメイコンだったが、兄や妹からエドワードを処分しろと強く言われ、ミュリエルに頼らざるをえない状況に。

ミュリエルが積極的なのはエドワードに対してだけではなく、メイコンに対しても、で、身の上話をして距離を縮めようと挑んでくるミュリエルに、最初は拒絶反応を示していたメイコンだが徐々に彼女に惹かれるようになる。

パーパーうるさいミュリエルだけど彼女の闘志と感性にメイコンが惹かれていくように、読んでいる私ももうどうしようもなくミュリエルが愛しくなってくる。
宇宙人が救急車を見たら…の台詞には今回も泣いてしまった。ミュリエル自身が気が付いていない彼女の優しさやひたむきさが台詞やちょっとした描写で伝わってくる。
うまいなぁ、アンタイラー、と思う。

 出てくるのは問題のある人ばかり。だけど読んでいるとたまらなく愛しくなってくる。

人生は旅。いい道連れを見つけることが旅の醍醐味なのかもしれない。

こんな素晴らしい本が絶版なんだね…なんて残念なんだろう。復刊するといいなぁ。もっとたくさんの人に読んでほしい。

講談協会定席 「日本橋亭 講談夜席」

7/19(木)、講談協会定席「日本橋亭 講談夜席」に行ってきた。
貞寿先生の真打披露興行に通って大好きになった貞心先生。また聞きたいと思っていたところトリ!そして他の出演者も全員お披露目の時に見て好きな先生ばかり!ということで行ってみた。
・貞寿「応挙の幽霊画」
・凌鶴「鬼作左と下郎の忠節」
~仲入り~
・春陽「清水次郎長伝 心中奈良屋」
・貞心「市川小團次


貞寿先生「応挙の幽霊画」
この暑さの中ありがとうございます、と貞寿先生。
今日は私の師匠がトリですからそれまでみなさまには体力を温存しておいていただきたい。それが何より一番大切なことですので、私はこの季節おなじみの怪談をごく軽く…と「応挙の幽霊画」。
前に一度陽子先生で聴いていたことがある。

旅をしていた応挙がある宿屋に泊りどんちゃん騒ぎ。夜中はばかりに起きて部屋に帰ろうとすると、どこからか苦しそうなうめき声。どうやら布団部屋らしいと開けてみると、病に冒されてげっそり痩せ衰えた遊女が布団の上で苦しんでいる。応挙は女に優しい言葉をかけ身の上話を聞いてやり、これで薬を買って栄養のあるものを食べなさいと金をやる。そしてその姿を描かせてくれと絵を描く。
その遊女は幼い頃さらわれて自分のほんとうの名前も出身もわからないのだと言い、これだけが自分の身よりの手掛かりと布の切れ端を差し出す。応挙は自分はあちこち旅をしているので、行く先々でこれを手がかりにお前の親を探してあげるからと約束する。
何日か後に別の宿屋に泊まっていた応挙は真夜中、美しい女の幽霊を見る。
なんとなく気になってその前に泊まった宿屋を尋ねると、あの時会った遊女が自分が幽霊を見たその時間に亡くなったことを知る。

江戸に帰ってきてなじみの居酒屋に行くといつもは元気な夫婦がもう店をたたもうかと思っていると打ち明ける。
あちこち借金の証人になっていたため数々の借金を背負うことになり立ちいかなくなってしまったのだと言う。
それを聞いた応挙が、もうしばらく辛抱して店を続けてくれ、自分が客が大勢集まるように絵を描くから、と説得する。

何か縁起のいいものを…と思いながら、応挙が描いたのがあの時の遊女の下絵をもとにした幽霊画。
持って行くと主人は「幽霊画?」と驚くのだが、応挙はこういうものが逆に客を引き寄せるのだ、と言う。
その言葉通り、幽霊画が評判になって店は大繁盛。借金も全て返すことができた。
久しぶりに訪ねてきた応挙に、主人がお礼にと言って家宝の陣羽織をさしだして…。

軽い語り口だけど、死にかけた遊女が呻く様子は恐ろしく、またそんな女に声をかけて話を聞いてやる応挙のざっかけない優しさにじーん…。
居酒屋の夫婦に対しても同じように優しく、恐ろしい幽霊画を贈るがそれも逆に評判になって店が繁盛する、というのも面白い。
とてもよかった。応挙の優しさに涙が出た。


凌鶴先生「鬼作左と下郎の忠節」
凌鶴先生も貞寿先生の披露目で見て面白いなぁ好きだなぁと思っていたのだ。なんかまた全然カラーが違う。私は講談には詳しくないのでうまく言えないんだけど、堅い講談の反対。柔らかい?ユーモラス?軽め?どれもちょっと違う…なんか知的で柔軟という感じ。こういう講談もあるんだ?と初めて見た時ちょっと衝撃だった。

家康の家臣・孫四郎はある時城に女を入れたという罪で斬首の刑になる。孫四郎の家来がどうにかして主を助けたい一心で本多作左衛門の元を訪れる。
話を聞いた作左衛門は主人を想うお前の気持ちに打たれた、私に任せろ、と言う。
作左衛門は「一筆啓上、火の用心、おせん泣かすな、馬肥やせ」の一文で有名だが、家康からたいそう信頼されていた。
家康のもとを訪れた作左衛門は孫四郎の斬首は私が行いますと言って孫四郎を自分の城へ連れ帰る。
そこへ家来も呼び寄せ、自分がいっぺんに二人を斬首してやるから安心しろと言う。
家臣は「任せておけ」というのはそういう意味だったのかとがっくりくるのだが、作左衛門は用意した酒や料理を二人に振る舞い、「今宵は月が隠れている。これはお前たちにツキがあるということ。しばらく浪々の身となって沈んでいていずれツキが出たら浮かぶこともできるだろうからそれまでは隠れていろ」と言う。
そう言われて二人は屋敷を出てしばらく身を隠す。
家来が八百屋稼業で稼いだお金で菜っ葉を買っては二人で喰らう日々。
そんな日々を暮らしていたが、ついに秀吉と家康の決戦が始まり、「月が出た」と喜ぶ二人。
孫四郎は家来が用意した鎧兜を身に付けて戦に参加し、相手方の首を落としては家来が「この首、孫四郎が取ったり」という札をつけて回る。

この札のことが家康の耳に入り、作左衛門を呼び出すのだが、ここでもまた作左衛門がうまく立ち回り…。

武士の話なので基本的には堅い話なのだが、ユーモアたっぷりで笑いどころもたくさんあってすごく楽しい。
うわーー好きだーーこの先生の講談。前に聞いた時もそう思ったけど、すっごい好き。どうやら新作をたくさんやられているらしい。もっと聞いてみたい。


春陽先生「清水次郎長伝 心中奈良屋」
春陽先生も貞寿先生のお披露目の時に見て面白い!と思っていたんだけど、これがまたとても楽しかった。

次郎長がまだ堅気だった時に店の前を通りかかった僧を呼び入れてお布施を渡すと、次郎長の顔をまじまじと見た僧が「お気の毒に…」と言う。
何が気の毒なのだ?と詰問すると、死相が出ているから早くて1年、遅くとも3年したら死ぬだろう、と不吉な言葉。
それを聞いてやけになった次郎長。また賭場に行くようになり堅気でなくなる。
ある時、心中しようとした男女を助け二人から事情を聞き、間に入って口をきいてやり二人を助ける。
それから次郎長が「親分」として名をはせるようになってきた時に、この僧侶がまた通りかかり、次郎長の顔を見て言ったことは…。

凌鶴先生とはまた違った感じで…すぱーっとしたはきはきとした語り口なんだけど、ユーモアたっぷりでとても楽しい。
勝手なイメージだけど落語家でいうと私の好きな甚語楼師匠っぽい。わー好き好きー。もっと聴いてみたいー。


貞心先生「市川小團次
前に松鯉先生で聞いたことがあった
引き上げられたのに一度のしくじりで破門になってしまった小團次。自暴自棄になりかけたところを三津五郎になだめられぐっと堪えて江戸へ。江戸で修業を重ね「市川小團次」として名前を挙げ、かつて自分を破門にした師匠を迎え撃つ…。
破門にした師匠が全てを知って自分の未熟さを認めるところがとてもよかった。

よかったー。
聞いた四人が全員良くてもっと聞いてみたくなって最高だった。
これからもう少し講談の会も行ってみよう。

池袋演芸場7月中席夜の部

7/18(水)、池袋演芸場7月中席夜の部に行ってきた。

・あおもり「たらちね」
・小太郎「弥次郎」
・さん助「しゃっくり政談」
マギー隆司 マジック
・きく麿「寝かしつけ」
・馬遊「牛ほめ」
・ホームラン 漫才
・一之輔「新聞記事」
・白鳥「黄昏のライバル」
~仲入り~
・喬之助「宮戸川(上)」
・扇辰「麻のれん」
・楽一 紙切り
喬太郎宮戸川(下)」


さん助師匠「しゃっくり政談」
久しぶりの「しゃっくり政談」。この噺を聞くと、ああ、夏だなぁ…と思うさん助ファン(笑)。
定吉がかわいいなぁ。顔がうるさい、にはいつも笑ってしまう。
そして生意気を言うけどお嬢様のことを思って守ろうとするところにじーん…。
あと、夏の昼下がり、人っ子一人歩いてないところを歩く怖さ、というのも伝わってくる。
喬太郎師匠目当てでお客さんが詰めかけて異様な雰囲気だったこの日。さん助師匠、大丈夫かと心配したけど大丈夫だった。あーよかった。って何様だあたしは。

きく麿師匠「寝かしつけ」
この代演はうれしいなぁ。
いいなぁ、この二人の会話のかみ合わなさ。前半がちょっとひねくれた感じなだけに、後半の歌の応戦で解放されて気持ちよく笑える。楽しい!
隣のカップル、女性の方が初めて寄席に来たみたいだったんだけど、仲入りの時に「きく麿さんが面白かった」と言っていて、思わずガッツポーズ。って何様だあたしは。

一之輔師匠「新聞記事」
テンション低く出てきて、前半部分もテンション低めで始めて、後半からもうギャグの応酬でドッカンドッカン。
スピードとギャグのセンスの良さにもう笑いが止まらない。
たいして面白くないこの噺でこれだけ沸かせるとはほんとにすごい。


白鳥師匠「黄昏のライバル」
「馬遊でもっと笑ってやってよ。今楽屋ですごい落ち込んでるよ」に大笑い。
今日やるのはある会でリクエストがあった噺で最近やってないのでここで稽古させてください!と男らしく宣言して「黄昏のライバル」。
落語家の久蔵の師匠である白酒は名人と呼ばれ協会の会長を務め人間国宝にまでなった男。
その白酒師匠、最近すっかり元気がなくなり、もう落語をやりたくないと言って寝込んでいる。
心配したおかみさんが久蔵を呼んで相談。
いろいろ話をするうちに、白酒には昔ライバルがいて今ではもう廃業してしまったが、その人に負けたくないというので頑張って来たところがあるので、そのライバルに励ましてもらったらやる気になるのではないかという結論に。
そのライバルというのが、白酒と同期で同じぐらい落語が上手でしのぎを削っていた白鳥。
しかし白鳥は今では廃業し、場末のおでん屋の店長になりさがっていた。
久蔵が白鳥を訪ねて…。

もう落語好きにはたまらない内容。
笑いどころ満載で、白鳥師匠がこの噺を最近やってないらしくぼろぼろなのもまたおかしくて、笑った笑った。


喬太郎師匠「宮戸川(下)」
喬之助師匠の「宮戸川(上)」をうけて、なんと「宮戸川(下)」。
この陰惨な噺を、この喬太郎ファンでいっぱいの熱気ムンムンの池袋演芸場で…って。
この噺全然好きじゃないんだけど、でもこのライブ感に興奮。

雨の両国橋、お花に何があったかは全く語らずに、ただ定吉が傘を持って両国橋に戻るとそこにお花の姿はなく、どんなに探しても見つからなかったので諦めて通夜を行い、3年後…という展開。
法事のあと一人船に乗る半七。そこへ無理やり乗り込んできた酔っ払った船頭。
半七は迷惑がるどころか、一人で気が沈んでいたので一緒に飲みましょうと船頭に酒をすすめる。
今日は妻の三回忌でしたと言う半七に、その酔っ払った船頭が「では私が面白い話を懺悔代わりに…」と語り始める。

この船頭の卑屈さと悪人ぶりがもう…。
とりつかれたような狂気も垣間見せて、気持ち悪いやら腹が立つやらぞくぞくするやら…。
いやだーいやな噺だーでもすごいーすごいもの見たー。

あの熱狂的な雰囲気は正直苦手だが、しかしすごいものを見た、という満足感はハンパなかった。