りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

池袋演芸場5月上席夜の部

5/8(火) 、池袋演芸場5月上席夜の部に行ってきた。

宮田陽・昇 漫才
・夢花「あくび指南」
・談幸「王子の狐」
・コント青年団 コント
・圓馬「蛸芝居」

 

宮田陽・昇先生 漫才
一番好きな漫才師。いつでもほんとに面白い。そして毎日少し内容を変えてくれるのも嬉しい。
「みなさん、山口達也くんのことを忘れないでくださいね。リメンバー山口メンバー」には笑った。


夢花師匠「あくび指南」
あくびの師匠のあくびがそれほど風流じゃない。「中に行って」を「吉原行って女遊び」とわざわざ言い換えなくてもいいような気が…。
それよりもなによりも稽古にきた男のあくびがけたたましい!(笑)。
夢花師匠の芸風って、ムキになったときのさん助師匠のよう…。なんて言ったら両方に失礼か。ぷぷっ。
でも面白かった。


談幸師匠「王子の狐」
こんな優しいおじさんにだったらだまされちゃうな、狐でなくとも…。
狐ちゃんにはお酌してあげて、自分は手酌。これ、両方ともすごく酔いそうだな。注がれる方も手酌の方も。
狐を捕まえようとした店の人たちは店の主人に、狐をだました男は手土産の卵焼きを持って行った兄貴分に「お狐様にそんなことをするなんて」とたしなめられるのが面白い。

サゲの余韻がいいなぁ。大好き。
最初から最後まで楽しかった~。


圓馬師匠「蛸芝居」
今年に入って体を壊しまして、と圓馬師匠。
そうなのだ。今年に入って圓馬師匠を見られてないなぁ、寄席にも入られないみたいだし、えーん…と思っていて、しばらくしてそのことを知ったのだ。
脱腸の手術をしたということを師匠のtwitterを見て知ったのだけれど、いやぁ…痛そう。
出産の痛みに比べれば…なんてことを言う人がいるけど、いやいやいやいや、切るような手術とは痛さの質が違うと思うんだなぁ…。
なんでも3か所手術をしなければいけなくていっぺんにやるか自分で決めなければならなくて、結局二回に分けてやることにしたらしい。
一回目が終わってみれば、一回にしておけばよかった、と思うよなぁ…確かに。
情けないけど本当に痛くて痛くて…ってそりゃ痛いよー。

で、仲間がお見舞いに来てくれたんですけど、これがありがたいような迷惑なような。
というのは切った後ですから笑ったりしたらいけないんですよ、傷口が開いちゃうから。
だけどみんなどうにかして笑わせようとするんですね。
それで私は実感しました。
「笑うことは健康のためによくない」。

…ぶわははは。
そんな話から、昔は民間療法があれこれあってその中に「蛸に当たったら黒豆を3粒食べると治る、というのがあった」というまくらから「蛸芝居」。
初めて聴く噺!!

ある砂糖問屋。この店は主人から奉公人に至るまでみんな芝居好き。何をするにも芝居掛かり。
朝、主人が起きて奉公人が起きてないことに気づき、では起こしに行くか。あいつら、普通に起こしても起きないだろうから、とここも芝居がかりで。
主人の熱演に布団の中から掛け声をかける奉公人。それを叱る主人。

奉公人二人は主人に言われて表の掃除。
しかしここでも芝居仕立て。
それを主人に見つかり、お前たちは二人揃うと芝居の真似ばかりして仕事をしない、と別々に用事を言いつける。
仏壇の掃除を申しつけられた定吉は位牌を手にとって「ご隠居はいいひとだった。よくお芝居に連れて行ってくれた」と思い出に浸ったり、「この婆はすごい意地悪だった。死んでも頭痛になるように」と位牌を逆さにしまったり。
そして位牌を使った芝居はなかったかと探し始め、また芝居。
ここで主人が入ってくると主人に向かって「禿ちゃん」呼ばわり。(ぶわははは!)

位牌で芝居とは罰当たりな!
お前は子どもの重りをしろと、今度は赤ん坊のお守り。
しかしここでも定吉は赤ん坊を抱いたまま芝居を始め、興が乗って赤ん坊を庭に放り出す…。
主が飛んできて「今度芝居のまねごとをしたらクビだ」と脅されて、さすがの定吉たちももう芝居はできないと肩を落としていると、やってきたのが魚屋でこの人も芝居好き。
自分たちはできないからせめて魚屋にやらせようとかけ声をかけると、まんまと乗せられた魚屋。
口上をやってるところに主人がきて、鯛と蛸を注文。
蛸は酢だこにするというので、定吉に酢を買いに行かせ、蛸はざるに置いておくのだが、なんとこの蛸も芝居を始め…。

もうとにかく次から次へと芝居掛かりになっていくのだが、歌舞伎がわからないのがとっても残念。わかったら二倍三倍面白いだろうなぁ。
でも芝居を始めるうちに徐々に興が乗っていくのと鳴り物が入るタイミングがぴったりでとっても楽しい。
そして圓馬師匠の蛸が…とても蛸…もう蛸にしか見えない…(笑)。
幕が下りた後、下からにゅっと手が出て(蛸の足?)こちらに向かって振っていたのがすごくおかしくて、楽しかった~!

圓馬師匠って端正なところとふざけるところのギャップが大きくて毎回びっくりしちゃう。
そして手術のまくらからの「蛸芝居」って…。こんな動きの多い噺をするってことは、完全に治ったと考えてよいのかしら。

 

末廣亭5月上席夜の部「桂夏丸・神田蘭 真打昇進披露興行」

5/7(月)、末廣亭5月上席夜の部「桂夏丸神田蘭 真打昇進披露興行」に行ってきた。

・米福「近日息子」
・今丸 紙切り
・歌春「たらちね」
小遊三六尺棒
~仲入り~
・真打昇進披露口上(歌春、紅、蘭、夏丸、幸丸、小遊三
・蘭「西行鼓ヶ滝」
・紅「母里太兵衛(黒田節の由来)」
・幸丸 電化製品の進化の噺
ボンボンブラザーズ 曲芸
・夏丸「茄子娘」


小遊三師匠「六尺棒
若旦那の軽さが楽しい。
体の使い方がうまいなぁ。斜めにきゅっとひねる動きに思わずこちらもぐわっと笑ってしまう。


真打昇進披露口上(歌春師匠:司会、紅先生、蘭先生、夏丸先生、幸丸師匠、小遊三師匠)
無駄にふざけないし温かみがあって歌春師匠の司会の方がいいなぁ…。
人数は一名少なかったけど、その分意味のない口上がないし、こっちの方が好きだなぁ。
小遊三師匠が夏丸師匠のことを「幸丸師匠」と言い間違えて、え?と思ったら幸丸師匠が訂正したのがおかしかった。
小遊三師匠が「あ、マジで間違えちゃった」、幸丸師匠が「見逃すわけにはいかない」。
わははははは。
ゴールデンウィーク明けでお客さん少な目、みなさんもお疲れ気味だったけど、いい口上だった。


紅先生「母里太兵衛(黒田節の由来)」
私は蘭さんの講談より紅先生の講談の方が好きだなぁ。
あんまり声を作ってないのに、強弱があって、疲れないのに引き込まれる。
講談がいかに話を大きくしているかということを途中で挟みいれるのも楽しい。


夏丸師匠「茄子娘」
相撲のまくらだったので、お!また相撲の噺!と思ったら、「茄子娘」に。気が変わったのかな?
ちょっと鼻声でお疲れ気味かな。
この噺はほんとに夏丸師匠に合ってる。テッパンだなー。
昔話っぽくてちょっと色っぽくてでもいやらしくなくて。余裕だね!

雪の階

 

雪の階 (単行本)

雪の階 (単行本)

 

 ★★★★★

 昭和十年、春。数えで二十歳、女子学習院に通う笹宮惟佐子は、遺体で見つかった親友・寿子の死の真相を追い始める。調査を頼まれた新米カメラマンの牧村千代子は、寿子の足取りを辿り、東北本線に乗り込んだ―。二人のヒロインの前に現れる、謎のドイツ人ピアニスト、革命を語る陸軍士官、裏世界の密偵。そして、疑惑に迫るたびに重なっていく不審な死。陰謀の中心はどこに?誰が寿子を殺めたのか?昭和十一年二月二十六日、銀世界の朝。惟佐子と千代子が目にした風景とは―。戦前昭和を舞台に描くミステリーロマン。

素晴らしかった!
最初から最後まで好みで夢中になって読んだ。読んでいる間、谷崎を読んでいるときのような楽しさがあった。

内容は決して軽くないんだけど、どこかユーモアがあってふっと笑ってしまう部分がありつつ、ミステリー的な要素もあり、時代や身分の違いによる部分を楽しみながらしかし政治や人間のありようは現代につながるものもあるなぁと考えつつ、物語の波に巻き込まれる楽しさ。

文章もとても美しくてそこも読んでいて大変楽しかった。

奥泉作品の中では「鳥類学者のファンタジア」が飛びぬけて好きなんだけど、これも同じぐらい好き。よかった!

池袋演芸場5月上席夜の部

5/4(土)、池袋演芸場5月上席夜の部に行ってきた。

・桃太郎「裕次郎物語
~仲入り~
宮田陽・昇 漫才
・夢花「天災」
・談幸「火焔太鼓」
・コント青年団 コント
・圓馬「手水廻し」

 

談幸師匠「火焔太鼓」
おかみさんが亭主を脅すところ、おかみさん楽しそう~(笑)。松の木ぐるぐるにされるくだり、好きだわー。
お屋敷に上がって実際に松の木があるのを確認するところも笑っちゃう。
「三百金ってなんの三百金?」って聞くのもおかしい。

好きなんだよなぁ、この噺。
談幸師匠で「火焔太鼓」を聴ける喜び。満足。

 

圓馬師匠「手水廻し」
まさかここで「手水廻し」が聞けるとは、うれしい!
この噺って普段の圓馬師匠のイメージにないから、その意外性がたまらないんだよー。
女中さんの「ちょ、ちょうずぅ?」でもう大爆笑。

「ちょうず」の意味を聞かれた物知りの和尚さんが、長い頭を回すところを絵に描いてくるのもおかしい。
「長いのはこっち(顔の下)じゃなくてこっち(頭の方)って…やかましいわ!」
…ぶわははははは!

呼ばれた長い頭の男が「それでは回させていただきます。一生懸命回させていただきます」もおかしいし、お客から「早よ手水を回してくれ」と言われて「速く回す…わかりました」と勢いよく回すばかばかしさったら。

トリでこういうばかばかしい噺をかけちゃう圓馬師匠がたまらない。
楽しかった!

古典落語を聴く会「藤兵衛会」

5/4(金)、富士見区民館2Fで行われた古典落語を聴く会「藤兵衛会」に行ってきた。
以前から寄席で見ていて好きだーと思っていた師匠。こんな会があったので行ってみた。


・藤兵衛「だくだく」
・藤兵衛「天日裁き」
~仲入り~
・藤兵衛「氏子中」
・藤兵衛「田能久」

 

藤兵衛師匠「だくだく」
ホワイトボードに今日の会の予定が書いてあって、一番最初に「開口一番」と書いてあったのでてっきり前座さんが上がるのかと思ったらそうではなくて、師匠が上がって「開口一番」をつとめるという意味だった!
うっひょーー。ってことは一人で四席?すごい!
しかも「まずは軽いお噺で」と言って「だくだく」って嬉しすぎる!落語の中で一番好きな噺。

「店立て食らっちゃった」「そりゃ大変だったな」「それが大変じゃない」
「店賃棒引きにしてくれるって」「そりゃよかったな」「それがよくない」
いちいち反対のことを言う男と先生のやりとりが楽しい~。
気で気を養うとか、下駄箱に女の下駄が置いてあると色っぽいとか、この男…面白いなぁ。
どろぼうとのやり取りも楽しくて幸せな気持ちに。


藤兵衛師匠「天日裁き」
どういうわけだかこの会はいつの日からか「珍品」をかけないと許されない、という雰囲気になってしまいまして…。
これから申し上げる「天日裁き」はめったにやられる方はいませんな。私以外でやってる人を見たことがない。
別にこれぐらいのお裁きだったら大岡様じゃなくてもいいんじゃないかという気がしないでもないですが、やっぱり大岡様っていうとなんかありがたい感じがするんでしょうね。
そんなまくらから「天日裁き」。

高野(染物屋)「茄子屋」の主人(職人)は生粋の江戸っ子。それに反して隣に住む平兵衛は屑やから始めて小金を貯めて今では立派な質屋を営むようになったケチん坊。この二人が大変仲が悪い。
ある日、茄子屋がいつものように染めた布を干そうとして驚いた。隣の平兵衛の家が蔵を建て増ししていてそれが出来上がると自分の家にお日様の光が入ってこなくなってしまう。
天日に干すことでいい色が出るので、日が当たらなくなると商売ができなくなってしまう。
仕方なく茄子屋は隣家に蔵をもう少しだけ低く建ててくれないかと交渉に行く。
平兵衛の方では「もう工事も終わりかけだしどうすることもできない」とにべもない。
そこをなんとかと頼むと「自分の敷地に建物を建てるのは当然の権利」と怒り出す。
これでは話にならないと大岡様に訴え出る。

大岡様は貧乏人の味方だからいい知恵を授けてくれるに違いないと茄子屋は期待していたのだが、意外にも大岡様は「平兵衛の言う通り、自分の敷地にどんな建物を建てようが自由」と訴えを取り下げさせる。
カンカンに怒る茄子屋に向かって大岡様は「それでお前はどうするつもりだ?」と聞く。
日が当たらなくなったら高野は仕事にならない。もう仕事を辞めるしかない、と答えると「商売替えか。それもよかろう。だったら自分の敷地に深い池を掘って金魚屋をやったらどうだ?」という。
金魚屋だと?!とバカにしやがって!と茄子屋はその日以来仕事もしないで酒を飲むようになる。
心配した大家が聞きに行くと、大岡様に金魚屋でもやれと言われた、と話す。
すると大家は「それはいい考えだ!やってみろ!」と。

渋々茄子屋は庭に深い穴を掘って水を入れて池をこしらえ金魚を泳がす。
するとその日を境に隣の蔵に異変が…。
水が隣から染み出てきて徐々に蔵が傾き始めたのだ。
なんてことをしやがるんだ!と平兵衛が茄子屋に文句を言うがもちろん取り合わない。
それで今度は平兵衛が大岡様に訴え出るのだが、大岡様は「自分の敷地に何を作ろうが本人の勝手だ」と言う。
そんなばかな!と平兵衛が言うと大岡様は「黙れ黙れ!誰もが自分の都合だけ考えたらこういうことになるのだ。茄子屋の商売のために蔵を低めに作り直せ。そうすれば茄子屋も池をどうにかしてくれるだろう」。


大岡様はきっといい裁きをしてくれるはずとおもっていたところ、肩透かしで「えええ?」と思っているところにこの展開。面白い~。
これ、もっと寄席でかかってもいいのに!
落語ファンは喜ぶと思うなー。

 

藤兵衛師匠「氏子中」
膝を痛めているという藤兵衛師匠。
半月板を痛めて手術をした後膝の調子もよかったのが、ここへきてまた痛めてしまった。
年のせいか回復も遅くなっているので、もう一度手術をする気持ちになれず、だましだましやっている。
そういう噺家は多いので職業病のようなもんです。
と言いながら、2席終えて膝がちょっと…と仲入り。になったけど立ち上がるのが難しいらしく高座の上で雑談。痛いところをあんまり見たら申し訳ないと思いつつ、雑談も楽しくてそのまま聞き入ってしまった(笑)。

お客さんが戻ってきたところで「氏子中」。
これは前に一度どなたかで聞いたことがあったような気がするんだけど、ブログを検索したら出てこなかった。

おかみさんのことが大好きな男。
仕事に出かけてる間もおかみさんに会いたくて涙ぐむほど。
そんな男が商用で上方へ4か月ほど行かなければならなくなって大騒ぎ。
おかみさんの方はさっぱりしたもんで「お前さんは仕事を頑張っておくれ。私はその間家を守るから」と送り出す。
仕事が手間取って男が家に帰ってこられたのは2年経ってから。
おかみさんは帰ってきた男を歓迎してくれたのだが話しをしていて気が付いた。おかみさんのお腹が大きくなっている!
これはいったいどうしたことだ?と男が問い詰めるとおかみさんは「お前が子供を欲しがってたからあたしの働きで作っておいた」とおかみさん。
相手は誰だ!と問い詰めるとおかみさんは「一人でこしらえた」「神田大明神に毎日願掛けしたら神様が宿してくれた」とうそぶく。

男が兄貴分のところに相談に行くと、お前が家を空けてからあの家に若い男が家に出入りしていてあぶねぇなと思っていたが下手にそんなことをお前に知らせると思い詰めて自殺しかねないと思って言わずにいた、と。
お前には新しい身持ちのいい女を世話してやるから、あの女房のことはあきらめろ、と。
ついては、出産した後で近所の男たちを集めて祝いをやれ。荒神様のお神酒で胞衣を洗うと、その胞衣に相手の男の紋が浮き出る。集めた連中の羽織の紋と照らし合わせれば相手が誰だかわかる、と言う。

言われた通り若い衆を集めて胞衣を洗ってみると、浮き出た文字が「神田明神」。
おかみさんは「ほら言った通りだろ」と得意顔。
しかしそれに続けて「氏子中」。

…ぶわははは。なるほどこれはバレ噺。
町内の若い衆リアル編だ。すごっ。
面白かった!

 

藤兵衛師匠「田能久」
軽やかで最初から最後までずっと楽しい「田能久」。時々え?と驚くようなクスグリが入るのも意外性があっていいなぁ。

いやぁ想像していた以上にたっぷりで大満足。楽しかった~。また行きたい。

末廣亭5月上席夜の部「桂夏丸・神田蘭 真打昇進披露興行」

5/3(木)、末廣亭5月上席夜の部「桂夏丸神田蘭 真打昇進披露興行」に行ってきた。

・桜子「秋色桜」
翔丸初天神
・コント青年団 コント
今輔「飽食の城」
・米多朗「まんじゅうこわい
東京ボーイズ 漫談
・陽子「鼓ヶ滝」
・米助「寝床 ロッテ戦編」
・今丸 紙切り
・円楽「つる」
・鯉昇「蛇含草」
~仲入り~
・真打披露口上(米助、紅、蘭、夏丸、幸丸、鯉昇、円楽)
・紅「母里太兵衛」(黒田節の由来)」
・幸丸「昭和歌謡
ボンボンブラザーズ 曲芸
・夏丸「おすわどん」


今輔師匠「飽食の城」
わーい、今輔師匠、うれしい。
兵糧攻めされたものの、実は城をお菓子で作っていたためまるで城が落ちなかった、というすごいばかばかしい新作。
楽しかった!


鯉昇師匠「蛇含草」
時間が押してたのかショートバージョンだったけど、最初から最後まで楽しかった。


幸丸師匠「昭和歌謡
めちゃくちゃ面白かった。今日はこの噺で弟子の歌を封印した?


夏丸師匠「おすわどん」
トリで「おすわどん」を選ぶ夏丸師匠が好きだー。
前半部分が怖いのだ、結構。それだけに後半とのギャップがたまらない。
らしいなぁー。そして新真打とは思えないこの落ち着きはなんなんだ。最高。

三遊亭好の助真打昇進披露興行

5/3(木)、お江戸両国亭で行われた「三遊亭好の助真打昇進披露興行」に行ってきた。

・鳳笑「つまようじ」
・幸之進「黄金の大黒」
・一蔵「鷺とり(好の助由来)」
・あおい「紀伊國屋文左衛門 宝の入船」
~仲入り~
・真打ち昇進披露口上(鳳笑、一蔵、宮治、好の助、幸之進、あおい)
・宮治「初天神(好の助由来)」
・好の助「文七元結


鳳笑さん「つまようじ」
今日の口上の司会をしなければいけない、という鳳笑さん。緊張で夕べは眠れなかった、と。
1日目の口上をやった先輩から「録音していいよ」と言っていただきありがたく録音させてもらったんだけど、香盤の低い順に口上をしなきゃいけないのに師匠に最初に口上を指名してしまったり、柳亭なのに三遊亭と言ってしまったり、もうぼろぼろ。だけどちゃんとなんとかなってはいて、それを聞きながらますます眠れなくなってしまった。

で、口上の前振り?ということで、いきなりここで好の助さんの紹介。
一緒に前座修行をしたこともあるんだけど、とにかくこの兄さんは正義感が強くて人によって態度を変えたりすることのない、分け隔てのない人です。
大学を出た後、つまようじの会社に入社し、つまようじ業界でもなくてはならない人材となりかけたのですが、そこをあえてやめて演芸の道へ。
そしてみなさんご存じのとおりお父さんはナポレオンズのボナ先生。だからお金持ちです。

一方の僕は貧乏育ち。どれだけ貧乏かといえば、小学生の時の制服のYシャツは襟が丸襟。つまり女物。リコーダーも近所の子のおさがりでその子の名前が書いてあった。
中学の時のボンタンズボン、先生にとりあげられてジャージで帰ってきたら、下校途中に父親(隣の高校で教師をしていた)とばったり。事情を話したら次の日父親が「これ卒業生が置いていってくれたやつがあったから」と同じようなボンタンズボンを持ってきてくれた。でもそれはきっと卒業生が置いて行ったのではなく、自分と同じようにとりあげられたやつなのでは…。

話がなんどか「つまようじ業界」に戻ったりしながら落語はせずに終了。
ぶほーーー。また落語聴けなかったー。でもこの人面白い。好き。


一蔵さん「鷺とり(好の助由来)」
落語家10人ぐらいで自分の家の近所の公園でバーベキューをした話。
荷物をリヤカーに乗せて運んでいたらヤンキーたちにからまれた。血気盛んな連中が多いなか「兄さん、あたしに任せてください」と出てきたのがななこさん。
ヤンキーたちに「あんたたち親のすねかじってんでしょ。あたしたちは仕事してるんだから。あんたたちの相手なんかできないのよ」。
ヤンキーに「何の仕事してんだよ」と聞かれ「落語家よ!」。

…言えますーー?落語家よ!なんて。言えないでしょ、普通。恥ずかしくて。
しかもヤンキーに「なんて名前だよ」と聞かれ「林家ななこよ」。

…言えますーーー?言ったってわからない名前なのに。

…ぶわはは。笑った。
そんなまくらから「鷺とり」。テッパンなのかな。ドッカンドッカンうけてた。
そして鷺たちの様子をあらわすのにすごい顔芸。でも「この顔で笑わないってよっぽど性格悪いよ」って…すごい自信あるんですね…。


真打ち昇進披露口上(鳳笑さん:司会、一蔵さん、宮治さん、好の助師匠、幸之進さん、あおいさん)
ぐだぐだ(笑)。でも好の助師匠がみんなに愛されてることはよーく伝わってきた。いろんな協会の人がこんな風に出る真打ち披露興行っていいなぁ。微笑ましい。


宮治さん「初天神(好の助由来)」
子どもが好の助さん、父親がボナ先生、という設定。
スピード感、たっぷりのギャグ、そして親子のブラックな会話。面白かった。
会場もものすごい盛り上がりだった。


好の助師匠「文七元結
一蔵さんがまくらで「トリはもう本気出してやりますから。”文七”とかやると思います」と言っていたのをうけて?まくらなしで「文七元結」。
時間がそんなにたっぷりなかったので刈り込んでいたけど過不足なくとてもよかった。

私は今まで好の助師匠を見たことはなくて、あの襲名の騒動で「大変だったね…」と思い応援の気持ちで見に行ったんだけど、嫌らしくなくてしゅっとしていて好きだったな。

マザリング・サンデー

 

マザリング・サンデー (新潮クレスト・ブックス)

マザリング・サンデー (新潮クレスト・ブックス)

 

 ★★★★★

あの秘密の裏道を通って、わたしは本当の人生を漕ぎはじめる。一九二四年春、メイドに許された年に一度の里帰りの日曜日(マザリング・サンデー)に、ジェーンは生涯忘れられない悦びと喪失を味わう。孤児院で育ち、帰る家のない彼女は、自転車を漕いで屋敷を離れ、秘密の恋人に逢い、書斎で好きなだけ本を眺める。そこに悲報が――。のちに著名な小説家となった彼女の、人生を一変させた美しき日をブッカー賞作家が熟練の筆で描く。 2017年 ホーソーンデン賞受賞作 

主人公ジェーンは聡明でしたたかで逞しい。

前半を読んだときはジェーンには選択肢も決定権もないのだと、メイドという低い身分であること、女性であることの弱さを目の当たりにしたようで苦い気持ちになったけど、それだけで終わらないのが素晴らしい。

ジェーンが一人屋敷に取り残されてからの場面。そして受け身に見えた彼女が自転車で裏道を駆け抜けるシーンが素晴らしい。

彼女がその瞬間に感じた自由、無敵感がとてもリアルに伝わってくる。
マザリング・サンデーにジェーンが失ったものものと得たもの。そして作家として歩み始めるきっかけとなったまさにその日。

こんな中途半端な長さでこの充足感、すごいなぁ…グレアム・スウィフトは。「ウォーターランド」よかったもんなぁ。また読み返したくなったな。

池袋演芸場5月上席夜の部

5/2(水)、池袋演芸場5月上席夜の部に行ってきた。


宮田陽・昇 漫才
・夢花「そば清」
・談幸「もぐら泥」
・コント青年団 コント
・圓馬「お見立て」


宮田陽・昇先生
陽先生が7歳までおっぱいをやめられなかった+禁煙した時の話がめちゃくちゃ面白かった。
さっき言ってたネタをぐるっとまわってオチにつなげるの、たまらないなぁ。最高。


夢花師匠「そば清」
「どーーーーも」の言い方の極端さと、そばを食べる時間が異様に長くて、引っ張って引っ張って「なに?」と思ったら中手を要求。それを何度も何度もやるので正直げんなり。
夢花師匠ってこんなにしつこかったっけ?と思っていたら、この日のお客さん、ほんとに笑わないの…。それで目を覚まさせる?ために、大声出したり中手を要求してたみたい。仲入り後に入って宮田陽・昇先生の漫才で大笑いしていた私は気づいていなかったのだ。
要求されてそのたびにちゃんと拍手してるお客さんもいたけど、むしろ逆効果な気が…。


談幸師匠「もぐら泥」
私この噺好きだけど、お客さんがあんまり笑わないとなんか酷い噺みたいに聞こえてくるから不思議だよなぁ…。
もぐらから財布盗っちゃう男が、いかにも人が好さそうなのが好印象。楽しかった!

 

圓馬師匠「お見立て」
今はお遊び場所がたくさんありますが…というようなまくらから、地方に行った時に昔はその手の遊び場所があって…という話になり、そこから宿に泊まって仲居さんに「ここらへんに遊び場所ある?」と聞くと仲居さんが訳知り顔で「遊び場所…ですか。あ、それでしたらこの裏に一つだけございます」。嬉しくなってちり紙代をたっぷり渡して次の日行ってみると…っていう小噺、おかしかった~。仲居さんがちょっとためらった後にいかにも含みがある感じで答えるのがツボだった。

「お見立て」、喜瀬川花魁が本当にお大臣を嫌がってる(笑)。
若い衆はいかにも嘘が苦手そうで、お大臣に「墓はどこだ?」と聞かれて大慌てで「近く」と言っちゃってるのがわかる。
お茶を目につけるしぐさがおかしかった~。「ほんとをついております!」わははは。

なんたって今年に入ってからようやく見られた圓馬師匠。うれしかった!

末廣亭5月上席「桂夏丸・神田蘭 真打昇進披露興行」

5/1(火)末廣亭5月上席「桂夏丸神田蘭 真打昇進披露興行」に行ってきた。
夏丸さんの真打披露目大初日ということで有休をとって昼の部から入る。
10時40分ぐらいに末廣亭に着くと、思った以上の大行列。ひぃーー。なんてことーー。
と思ったら、余一会の前売りを買いに来た人も混ざっていたらしく、途中で整理されてどうにか前の席をゲットできた。ほっ。


昼の部
・あら馬 サルの小咄
・竹千代「見世物小屋
・ハッポウくん ハッポウ工芸
・橋蔵「寄合酒」
・京子「与謝野晶子伝」
・山口君と竹田君 コント
三四郎「かずとも」
・米福「幇間腹
ぴろき ウクレレ漫談
・笑遊「堀之内」
・鶴光「試し酒」
Wモアモア 漫才
米丸「タクシーの怪(4話)」
~仲入り~
・昇也「庭蟹」
・京太・ゆめ子 漫才
・好楽「一眼国」
遊雀悋気の独楽
・正二郎 太神楽
・竹丸「西郷隆盛

夜の部
・伸しん「桃太郎」
翔丸「つる」
・コント青年団 コント
・枝太郎 「アンケートの行方」
・米多朗「浮世床(戦争ごっこ、将棋)」
東京ボーイズ 漫談
・松鯉「卵の強請」
・米助「新聞記事」
・今丸 紙切り
・円楽「代書屋」
小遊三「弥次郎」
~仲入り~
・真打披露口上(米助、紅、蘭、夏丸、幸丸、円楽、小遊三
・蘭「樋口一葉一代記」
・紅「桂昌院
・幸丸「米丸の悪口」
ボンボンブラザーズ 曲芸
・夏丸「稲川」

 

三四郎さん「かずとも」
顔は以前から知っていて、面白くないんだろうなと決めつけていたんだけど(すみません!)面白かった!
東京のおばさんが三四郎さんに気が付いた時と大阪のおばさんが気づいた時の反応の仕方。ベタなんだけど、すごくおかしい。
マッサージに行ったとき、並んでマッサージを受けていて、マッサージをしてくれてるおばちゃんとの会話に隣の人もその隣の人もどんどん混ざってくる様子がすごくおかしかった。
そんなまくらから続いた感じで、「かずとも」。
大阪の子どもは東京とはちがいますねん!というまくらからの地続きで、もうこの子どもが…存在だけでうるさいタイプのクソガキで、でも罪がなくて。もうおかしくておかしくて。笑った~。


米丸師匠 「タクシーの怪(4話)」
年をとって落語を喋るスピードが落ちたという話や心臓の手術をした時の話やあれこれ話題が飛んでいくんだけどそれが楽しくてにこにこしてしまう。
まくらだけかなとおもったら、夏はやっぱり怪談、と言いながら…。

噺家3人組がお客様(なのか?)が飲みに連れて行ってくれて珍しく二次会まで行きました、別れるときにはご祝儀もいただいちゃいました、と師匠に報告している。
よかったな、と師匠から言われた3人は、せっかくだからこのままタクシーに乗って飲みなおすか!と盛り上がってタクシーに乗る。
3人だけど一人が太っているのでお前は助手席に行け、と言われて助手席に乗ろうとすると、運転手に「助手席はだめです」と断られる。
仕方なく3人でぎゅうぎゅうで後部座席に乗ってバカ話をして盛り上がっていると、運転手が助手席に向かって「すまない…許してくれ」とぶつぶつ言ってる。のぞいてみると、助手席に白い布に包んだ箱のようなものがあって、それに話しかけている。
気味が悪くなって「なにしてるの?」と聞くと、「これは妹のお骨。東京見物に行きたいと言っていたけど結局連れて行ってやれなかった。せめてと思いお骨を助手席に乗せてあちこち回っているのだが、(お客様方が)うるさいので妹に謝っていた」と。
すっかりしらけてしまった3人は飲みに行くのをよしてそれぞれ家に帰る。
そのあと乗ってきた男が運転手に「そこにある白い布に包まれた箱は何?」と聞くと運転手は…。

…わはははは。
なんかすごいなー。93歳でまだ新作をやっていてこんなに元気で。レジェンドだわ、まさに。


小遊三師匠「弥次郎」
前方の円楽師匠の「代書屋」でさんざんいじられた小遊三師匠。
「ほんとにもうあることないこと…たまーにほんとのことが混ざってるから始末に悪いよ」と言いながら「弥次郎」。
いやぁこれが楽しいんだ。体の使い方がうまくて楽しいんだな、小遊三師匠は。キレがあるの。笑った笑った。


真打披露口上(米助師匠:司会、紅先生、蘭先生、夏丸師匠、幸丸師匠、円楽師匠、小遊三師匠)
司会の米助師匠が無駄にふざけるので(しかも全然おもしろくな…)それにいらっとなりつつ…それでも紅先生、幸丸師匠が本当に嬉しそうで、蘭先生、夏丸師匠がきりっとしていて本当に素敵で、見ていてじーん…。やっぱり師匠が生きていてお披露目の口上に並んでくれるのがなによりだなぁ。
紅先生が「自分の時はこんな風にそうそうたるメンバーが口上に上がってはくれなかった。芸術協会に入れていただいて蘭は幸せ…」とおっしゃっていたけど、本当にそういう気持ちが伝わってきて、見ていてほほえましかった。
幸丸師匠は夏丸さんが高校2年生の時に我が家に「弟子にしてください」と訪ねてきた時は、がりがりに痩せていて「大丈夫か?」と思ったと。自分と違って欲のない芸で、ウケなくても平然としている。自分なんかはいまだにウケようウケようとしているのに、全然違う。最初のうちは直してやろう!と躍起になっていたけど、ある時からそれがいい味になって、まあいいや放っておこう、と思った、と。
確かに芸風全然違うもんなー。師匠と弟子って面白い。

しかし落語協会の口上でも思うんだけど「私はこの人のことを知りません」という人には口上にあがってほしくないなぁ。いくら有名人でもなんでも。
「落語家にはうまい人と下手な人、面白い人とつまらない人、売れてる人と売れてない人、その組み合わせしかない」というのも、正直まぁあなたはそういう考え方なんでしょうね、ふーんって感じ。
そしてきっと自分は全部兼ね備えてると思ってるんだろうけど、私から見るとあなたはただ売れてるだけの人です。あくまで好みの問題だけど。


幸丸師匠「米丸の悪口」
前は苦手だったけどだんだん好きになってきた、この師匠。
真打になってからはアッという間に時が過ぎた、と自分の真打になったばかりのころのことを振り返りつつ、自分の師匠、米丸師匠のことを。
ブランド物が好きで、末廣亭に出た後は必ず伊勢丹で買い物。みなさん、伊勢丹で買い物なんかします?私は伊勢丹はトイレしか入ったことない。
買ったばかりのバーバリーのコートを着る日は天気を気にする。それはピタッと全部ボタンを締めると中の地が見えない。でも全部外してこれ見よがしに見せるのは粋じゃない。
下の3つぐらいボタンをはずして、風でひらっと中の地がのぞくのがかっこいい。
なのにその日は風がなくて、仕方なく師匠は自分で下を持ってパタパタやってました、とか。

米丸師匠、10年前に心臓のバイパス手術をしてそれから3年前ぐらいから急に元気になった。私が思うに…電池を新しくしたからじゃないか、というのに大笑い。
話しながら自分でも思わずといった感じでぷっと笑うのがおかしかった~。

 

夏丸師匠「稲川」
わー、真打になった夏丸さんだー。
思えば真打披露目は何回も行っているけど、真打になる前から応援していて「もうすぐ真打です」「今パーティの準備で大変なんです」なんていう話しを聞いたり、パーティに招待してもらったりしたことのある噺家さんは夏丸さんが初めて。
そのせいか、ああ、いよいよ本当に真打になったんだ!と、身内のような緊張と感動が(笑)。

最初相撲のことを話し始めた時は「阿武松」か?!と思ったのだが、タニマチについてあれこれ話しをしだしたので、お、違う、もしや知らない噺?!とワクワク。

「魚河岸」の名が入った廻しを贈られた力士がいた。これはすごいこと。
というのは「魚河岸」全体から贔屓にされているということで、ふつうはどんなに人気がある力士でも「おれはあいつを嫌いだ」と言い出す人がいて、全体から贈ることはまずない。
これをもらったのが小染川という力士で、しかも太刀山に負けた時に贈られた。

大阪の稲川という力士。
江戸に出てきて勝ち進んだが、なぜか贔屓ができない。贔屓ができなければこの先やってはいけないので、もう大阪に帰ろうと考えていた。
そんな折、外から自分のいる部屋を覗く乞食がいて「稲川と話をしたい」という。
それではと部屋に呼ぶと、自分は稲川関が大好きで贔屓になりたい。自分のような者が贔屓になるのは嫌だろうが、もしいやでなければごちそうしたい、という。
稲川が快諾すると、乞食は自分の使っているふちのかけた茶碗と竹の皮を持って蕎麦屋に行き、そばを持って帰ってくる。
乞食が差し出す茶碗でそばをおいしそうに食べた稲川は「大名でもおこもさんでもご贔屓には変わりはない。自分は江戸に出てきて恥ずかしながら御贔屓が一人もいない。あなたが私のとって初めての御贔屓です。ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」と頭を下げる。
その姿を見て、乞食が…。

途中、袖からマイマイクを出して「そんな夕子にほれました」を歌い上げたり、地噺っぽく雑談を交えたり…夏丸さん…もとい夏丸師匠らしい自由な高座。
さすがに緊張がちらりと見える場面もあったけど、初日にこういう噺をするって…実に夏丸師匠らしくて素敵。

いろいろな噺をたくさん持っている夏丸師匠、この後のお披露目の興行が楽しみ~。
通うぞ~。

 

アラブ、祈りとしての文学

 

アラブ、祈りとしての文学 【新装版】

アラブ、祈りとしての文学 【新装版】

 

 ★★★★

 

もしもパレスチナの難民キャンプで傷付いた子どもの傍らにいたなら、
私たちはその手をとるだろう。ベツレヘムの街で自爆に赴く青年が目の前にいたら、
彼の行く手を遮るだろう。
だが私たちはそこにいない。

小説を書き、読むという営みは理不尽な現実を直接変えることはない。
小説は無能なのか。悲惨な世界を前に文学は何ができるのか。古くて新しい問いが浮上する。

ガザ、ハイファ、ベイルートコンスタンティーヌ、フェズ……、様々な土地の
苛烈な生を私たちに伝える現代のアラブ文学は多様な貌をもつ。しかし
各作品に通奏低音のように響く、ひとつの祈念がある。
「「かつて、そこで」起きた、もはやとりかえしのつかない、痛みに満ちた
出来事の記憶。もう帰ってはこない人々。[…]作家は、頭蓋骨に穿たれた
二つの眼窩に湛えられた深い闇からこの世界を幻視し、彼岸と
此岸のあわいで、起こらなかったけれども、もしかしたら起こりえたかもしれない
未来を夢見続ける死者たちの息づかいに耳を澄ます。」

小説を読むことは、他者の生を自らの経験として生きることだ。
見知らぬ土地、会ったこともない人々が、いつしか親しい存在へと変わる。
小説を読むことで世界と私の関係性が変わるのだ。
それは、世界のありようを変えるささやかな、しかし大切な一歩となる。
世界に記憶されることのない小さき人々の尊厳を想い、文学は祈りになる。
「新装版へのあとがき」を付す。

[初版2008年12月19日刊]

 

しんどかった…。途中「もう無理!」と投げ出しかけ、気を取り直して読み直しの繰り返しでどうにか読み終えた。

ホロコーストは知っていたけど、ナクバは知らなかった。

ホロコーストを体験したユダヤ人がなぜパレスチナ人に同じことを繰り返すのか、という問いをよく聞く。
(中略)

ホロコーストという出来事とは、実は人間とは他者の命全体に対して限りなく無関心である、という身も蓋もない事実を、言い換えれば「人間の命の大切さ」などという普遍的な命題がいかにおためごかしかということを否定しがたいまでに証明してしまった出来事ではないのだろうか。

(中略)

むしろホロコーストを経験したユダヤ人「だからこそ」なのだということを物語っているように思えてならない。

(中略)

他者の命に対する私たちの無関心こそが殺人者たちにシニシズムを備給し、彼らが他者を殺すことを正当化し続けるものとして機能しているのである。

爆弾が飛んできて自分の家も故郷も祖国も奪われる中、そして世界がそのことに無関心な中、文学はあまりに無力だ。
でも物語という形で伝えること、共感を得ること、そして慰めを与えることができる。読むことで知ること、感じること、祈ることはできる。 

だから文学は無力ではあっても無意味ではない。本を読むことも決して無意味ではない、と思いたい。

酸っぱいブドウ/はりねずみ

 

酸っぱいブドウ/はりねずみ (エクス・リブリス)

酸っぱいブドウ/はりねずみ (エクス・リブリス)

 

 ★★★★

『酸っぱいブドウ』―「短剣に斃る」:強欲で乱暴で慎しみを欠き、くせ者揃いの住民で知られるクワイク街区。そこに暮らす片耳の男ヒドゥル・アッルーンは、自分の伴侶のように大事にしていた短剣を警察に没収されてしまう。「隘路の外衣」:クワイク街区を抜けて近道しようとしたムフスィン・ファーイルは、黒い外衣をまとった女に道を訊かれる。知らないと答えると、突然その女の兄を名乗る男に因縁をつけられる。「ハッラーウの末路」:床屋のサイード・ハッラーウは店を閉め、謎の黄色い錠剤を売っている。錠剤には魔法のような効能があり、街区に住む男たちは次々と中毒に陥るが、その成分や製造方法は誰にもわからない。「八時」:ハナーン・ムルキーは一時間刻みで約束をこなす。正午には公園、一時にはある家、二時にはカフェ、三時には映画館、五時には婦人服店、六時にはレストランへ…多忙な娘ハナーンが八時に帰宅するまでの半日を追う。『はりねずみ』―両親と兄と暮らす6歳の「僕」は、大人にいたずらを仕掛け、質問攻めにして困らせるのが大好き。シリアの子どもの殺伐とした日常をコミカルかつシニカルに語る。 

 シリアでは言論の自由が厳しく制限されていることを受けてか、寓話的な物語が多い。しかし描かれるのは徹底した残酷性、暴力性だ。
命はとことん軽んじられ、昨日の加害者が今日の被害者になり、誰かを殺した誰かはまた違う誰かに殺されていく。特に「酸っぱいブドウ」の方はそういう短編が次から次へと畳み掛けるように続いて行くので読んでいて何度かめげそうになった。

「はりねずみ」は主人公が幼い子どもなため、一見無邪気な物語に見えるのだがやはりそこにも暴力、絶望の陰がちらつく。

同時に読んでいた「アラブ、祈りとしての文学」よりは、フィクションだったためまだ続けて読むことができたが、しかし正直絶望しか感じられない世界でいったいどう生きていけばいいのだろう、という気持ちになった。
自国ではどのように読まれているのかが気になる。

末廣亭4月下席昼の部

4/28(土)、末廣亭4月下席昼の部に行ってきた。


・ぐんま「たらちね」
・ほたる「真田小僧
・ニックス 漫才
・一花「やかん」
・萬窓「宮戸川(上)」
・楽一 紙切り
・勢朝「袈裟午前」
・歌武蔵 いつもの
笑組 漫才
・清麿「某私鉄駅長会議」
文楽「悋気の火の玉」
・紋之助 曲独楽
馬風 いつもの
~仲入り~
・三語楼「代書屋」
・わたる 漫談
・一九「そば清」
・南喬「鮑熨斗」
・仙三郎社中 太神楽
小満ん「笠碁」


一花さん「やかん」
中高とのんびりした女子校で、先生もほとんどが女性という環境にいました、と一花さん。
女の先生で小林先生(だったかな)という先生がいまして、すごく声が小さくて普段は何を言っているか聞きとれるか聞き取れないか。それが小林先生が一度だけ大きな声を出したことがあって今も忘れられない思い出になっています。
今日も先生の授業が始まり…「ほにょほにょほにょほにょ…」(小さい声)…今日も何を言ってるか聞こえない…。
その日は教室の暖房が壊れてしまってもう授業どころではない寒さ。みんなで寒がって教室が落ち着かない雰囲気になった時、後ろの方にいた生徒が「先生!」と手をあげて「寒くてたまりません」と言うと、それまでほにょほにょ言ってた先生が「わかります。わかってます。寒いですね。でもこういう時寒さを忘れる方法があります。それは大きな声で”暑い!暑い!”と言うのです。さあ、言いましょう。”暑い!”」「はい!暑い!」
先生と一緒に大きな声で「暑い!」とやってるうちに、箸が転がってもおかしい年頃の生徒たち、なんか楽しくなってきて笑えてきて気が付いたら寒いのも忘れて温まってきた。

次の日、同じ小林先生の授業、入ってきたのは教頭先生。
え?と思っていると「小林先生は風邪を引いて今日はお休みです」。
先生…やっぱり寒かったんですね…。

…わはははは。
かわいい…ほんとにかわいい一花さん。たたずまいのかわいらしさと清潔感がたまらない。
そんなまくらから「やかん」。
落語をやる楽しさがあふれ出るような高座で清々しい~。
川中島の合戦のところで八五郎が「どうでもいいけどなんでそんな大きな声を出すんですか」と聞くと先生が「これぐらい大きな声を出さないとニツ目になった気合が伝わらない」。わはははは。

爽やかな「やかん」だった。あーいいなぁ、一花さん。


萬窓師匠「宮戸川(上)」
よくやられている「宮戸川(上)」と微妙に違う。
例えば半ちゃんがおじさんの家に行くときに走り出してお花ちゃんに追い抜かされたりしない。あとお花ちゃんが半ちゃんに迫るようなところもない。
私はこの方が好きかな。
好きだな、この師匠。もっと見たい。


一九師匠「そば清」
清兵衛さんのそばを食べるスピードがすごい速くて笑ってしまう。ほんとにそばが吸い込まれていくみたい。
赤い実が食べたものを消化させるのではなく人間を溶かす草という説明はなかったけど、それでも十分面白さが伝わった。

南喬師匠「鮑熨斗」
甚べえさんが「おかみさ~ん」とちょっと震える声で言うのがたまらなくおかしい。
お金を借りに行った先で全部喋っちゃって「あーあ、全部喋っちゃいやんの。長生きするよ。俺だからいいけど他のやつには言わないほうがいいぜ」と言うの、楽しい。

「お祝い持って行って1円もらって半分を返して」と言うと魚屋さんも同じように「そういうのはもらってから考えた方がいいよ」と言うのもおかしい。

大家さんところに行ってからの口上、「承りますれば」が言えずに「うけうけうけけけけけ…」「蛙?」とか「本日はお茶殻もよく」「山本山?」もおかしい。
最後までやらなかったけど、最初から最後まで楽しかった!


小満ん師匠「笠碁」
小満ん師匠が「笠碁」って、なんか意外。初めて見た気がする。
ご隠居同士が結構きつめの感じで、両方とも大店の旦那で対等な雰囲気。
笠をかぶって顔をぴょこぴょこさせるの…小満ん師匠がこういうふうにやられるんだ!ってそれにも驚き。
二人で碁をやりたい気持ちが伝わってきてよかったなぁ。
楽しかった~。

世界は終わりそうにない

 

世界は終わりそうにない (中公文庫)

世界は終わりそうにない (中公文庫)

 

 ★★★★★

 恋愛の苦み、読書の深み、暮らしの滋味…愛しい私たちのしょっぱい日々よ!膝を打ちたい気分で人生の凸凹を味わうエッセイ集。船戸与一成島出三浦しをん他との豪華対談も収録。

角田さんのエッセイは大好きだけど、今回は特に心にしみたなぁ…。
とても謙虚な方なのでついつい「私と一緒!絶対気が合う!」「友だちになりたい!」と思ってしまうのだが、洞察力と文章の素晴らしさは並大抵ではない。

最終章の恋愛についてのエッセイは特によかった。
宝物にしたいような言葉がいっぱい。

どれほど私をだいじに思ってくれてる人でも、つねに私のために問題解決なんてしてくれない、ということだ。何が問題か、そもそも言葉で説明しないと相手は理解しない。自分の問題を解決できるのは、自分しかいないのである。停滞するのは、人任せだから。それは恋愛ばかりでなく、友だちでも家族でも!あるいは仕事でも、おんなじことだろう。だれも、何も、私ほどには私のことを知らないし、私ほどには私のために動かないのだ。 

 誰も私ほど私のことを知らないし、私ほどには私のために動かない。
なんて正しくて深い言葉なんだろう。
ちっとも私のことを分かってくれない、私のことを考えてくれない。そう思うことがよくあるけど、当たり前なのだ。自分のことを一番大事に思ってるのは自分なのだから。自分で何も言わずに…自分で何も動かずに、誰かが何かをしてくれるわけはないのだ。
まずは自分で動くこと。相手に働きかけること。


書評についてのエッセイ、対談もよかった。
角田さんの書評を読むと間違いなくその本を読みたくなるのだが、自分が書評を頼まれた時は「読んでみたくなること」を大事に思っている、ということがわかって、なるほど…と思った。

八光亭春輔独演会

4/26(木)、赤坂会館で行われた「八光亭春輔独演会」に行ってきた。
寄席で見ていて大好きになった師匠。独特の語り口で「権兵衛狸」や「ぞろぞろ」をやってかっぽれを踊って去って行くようすのかっこいいこと。
寄席でトリをとったりはしないのかなぁと思っていたらこんな会があったので前売りを買って楽しみにしていたんだけど。
会場はディープな落語ファンの方でいっぱいでものすごい期待感。みんな考えることは同じなのね。うひゃー。


・あお馬「出来心」
・春輔「かつぎや」
~仲入り~
・春輔「文七元結


・あお馬さん「出来心」
前座になって4年目。一番うれしいことは師匠方に名前を憶えていただけるようになってきたこと。
入りたての頃は師匠方から「おい!」とか「前座!」と呼ばれていたのが、このごろでは「あお馬さん」と呼んでいただける。これがなにより嬉しい。
この間も街を歩いていたら遠くの方で私に気づいたとある師匠が大きな声で「あお馬さん!」と呼んでくださった。
私がはっと気づいて振り向いたら、近くにいた中年の女性も同じように振り向いて、あれ?なんでかな?と思ったら、「あ、おばさん…」。

あお馬さんがまくらふるの初めて見たなー。面白い!

そんなまくらから泥棒の小咄。頭のいい泥棒がいて…という小咄は初めて聞いたけど面白かった。
小咄で思わず笑ってしまうのは、喋り方…リズムとか抑揚とか間、なんだよなぁ。
小咄を聞いただけで、この人面白い!って期待しちゃう。

「出来心」、とっても面白かった。
あお馬さん、どんどんうまくなるなぁ。
うまくなってるだけじゃなくて、なにかこう楽しさが湧き上がってくる感じ。ニツ目になったら見に行きたい前座さんだな。


春輔師匠「かつぎや」
今日のこの会、プロデューサーの方がいらっしゃるから、いつも自分がやってる会とは趣が違う。
ちゃんと人数が集まるのかしらと心配していて、よっぽど電話して聞いてみようかと思ったんですけど、これがいい方の人数ならいいですけど悪い方だったら…と思うとなかなか決心がつかず。そうこうしているうちにプロデューサーの方の方からお電話いただきまして、「とっても評判がいいので次回7月5日で予定組んでもよろしいでしょうか」と。
とっても評判がいいって…私まだ一言も噺をしていないんですよ。

…わははははは!
でもこのお客さんの数とキラキラした期待に満ちたまなざし。
大勢の人がこういう会を「待ってました!」だったのがわかるよなぁ。

そんなまくらから「かつぎや」。
縁起を担ぐ呉服屋の大旦那。
正月ともなるといつにも増して縁起にこだわる。
井戸で水を汲むのも正月だからおめでたい歌を詠み「お年玉」と唱えてダイダイを井戸へ落とせ、と飯炊きの権助に教える。
権助は井戸へ向かいながら「あの旦那はほんとにいつも縁起を担いでくだらねぇことをちまちま言って。あれじゃ(先は)長くはねぇな」とぶつぶつ。
ぶつくさ言ってたら教えられた歌の文句を忘れちまっただと、うろ覚えでとっても縁起の悪い歌を詠んで「お年玉」のところも「お人魂」。

それを聞いて旦那が権助を叱っていると、雑煮の支度が出来て奉公人がみな旦那を待っていると言われる。
座敷に行くと、番頭の食べていた雑煮から釘が出て旦那は「正月早々」と怒るのだが、番頭が旦那が喜ぶように「これはいいしるしです。(当家が)金持ちになるということでしょう」と言うと、大喜びの旦那。
それをほかの者が「ご機嫌とりやがって」「釘から餅が出たなら金持ちだけど、餅から釘が出たんだから(当家は)もちかねる、だろう」とぶつくさいうのがおかしい。

餅が大好きな定吉が女中に雑煮に餅をたくさん入れてくれと頼んだのに1個しか入ってなくてぶつくさ。
なんだよ芋ばかりはいってる。芋なんかいつでも食えるのに。
食べてるうちに泣き出して、旦那が尋ねると、「うちのじいちゃんは餅を喉に詰まらせて死んだから、餅を食べてるとじいちゃんを思い出す」に大笑い。

それから年始の挨拶にきた客の名前を読み上げるくだり。
屋号と名前をくっつけて短くして言えと言われると、「ゆかん」「せきとう」等縁起の悪い言葉ばかり言う店の者。
旦那が「なんだ?どなただ?」と聞いては「…そりゃ、ゆかんだな…確かに」「そりゃ…せきとうだな…」といちいち納得するのがおかしい。
ここでも番頭が「つるかめ」とおめでたく締めて、「それにしてもなんで最初は縁起が悪い名前が続いたのだ」と聞くと、店の者が「縁起のわるいやつを寄って言った」というばかばかしさ。

また訪ねてきた友だち。これが早桶屋。
あいつはわざと縁起の悪いことばかり言うから嫌なんだと言って旦那が隠れると、それをかさにさらに縁起の悪いことを言うので仕方なく出てくる旦那。
この二人のやりとりがとても楽しい。
なんだかんだ言いながら仲がいいのが伝わってくる。
そして最後にお前を喜ばせてやる!と言って縁起のいいことを言った…と見せかけて…というのも面白い。

二日目は初夢を見るために船屋を呼ぶんだけど、最初に呼ばれてきた船屋がもう辛気臭くて物貰いに近い風情。
「しの字」嫌いの旦那に「四文」「四十文」と言い、縁起の悪いことや景気の悪いことばかり言うのがおかしい。
次に呼んだ船屋は若い衆に耳打ちされてから来たので縁起のいいことを言い募る。

こんな風にたっぷり聞いたのは初めて。
この噺って、縁起のいいことを言ったり、悪いことを言ったり、またいいことを言ったり…という繰り返しなんだね。
どちらか一方しか聞いたことがなかったから、縁起がいいばっかりだと飽きてくるし、縁起が悪いことばっかりだと「正月からこんな噺?」と思ってたけど、こうやって上げたり下げたりするの、すごく楽しい。
それも春輔師匠の独特の語りのリズムと抑揚に引き込まれて、聞いてる方はどんどん乗せられていく感じ。
こんな噺がこんなに面白いなんて、びっくりだ。

 

春輔師匠「文七元結
今まで聞いた誰の「文七元結」とも違う。
セリフが七五調でお芝居のよう。でも人物はあくまでの落語の中の人物で、もってまわった物言いが芝居調。
これはなんなんだろう。先代の彦六師匠ってこんな感じだったのか?そういえば正雀師匠も結構芝居調子だけど、そういう一門なんだろうか(なんとなくのイメージ)。

長兵衛が腕のいい職人でもともと博打を打つような人間じゃなくて、誘われてやってみたら大損をして、それを取り返そうとしているうちにずぶずぶになってしまった、というのが伝わってくる。
着物を着換えてから出かけようとしたり、こんな格好じゃ表からは入れないなと逡巡したり、久しぶりに顔をあわせた女中にお世辞を言ったり、娘の格好を恥ずかしがったり…見栄っ張りの江戸っ子なんだなぁ。
おかみさんに娘に礼を言えと言われて、そんなことできるか!と突っぱねるのも、長兵衛が本来は一家の大黒柱だったことをうかがわせるなぁ。

文七を助けて話を聞いて、長兵衛が文七が正直者だからその了見に惚れた、と言って「娘を女郎にすることに決めた」ときっぱり言うのには驚いた。
一度お金をやると決めたらぐずぐずしないで潔くお金を放り投げて逃げていくところも、なんかこの長兵衛という人の人柄が出ている感じ。

店の旦那がとても品があって、言葉少ないけれど奉公人を大切にしていることが伝わってくる。
夫婦喧嘩の声をたよりに行けばわかると言われて行ってみると、ほんとに大声でけんかをしているのがおかしい。
外から声をかけられると、みっともねぇ!とおかみさんを必死になって隠すのも、見栄っ張りらしくてほほえましい。

お金のやりとりがしつこくなくて好きだな。
大旦那から「頼みたいことがあります」と言われて「壁を塗りますか?」とすぐに聞いたのがおかしかった~。
大旦那から親戚づきあいを言われたとき長兵衛が遠慮するより先に「ありがてぇ」って言うの、よかったなぁ。

最初から最後まですごい吸引力で引き込まれて夢中になって聞いた。
ふだんはあんまり好きな噺じゃないのに驚くほどよかった。

いやぁこの会は行ってよかった。すばらしかった。
終わった後の拍手の大きさが、この場にいたお客さんの気持ちを表していたと思う。