りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

草の花

 

草の花 (新潮文庫)

草の花 (新潮文庫)

 

 ★★★★★

研ぎ澄まされた理知ゆえに、青春の途上でめぐりあった藤木忍との純粋な愛に破れ、藤木の妹千枝子との恋にも挫折した汐見茂思。彼は、そのはかなく崩れ易い青春の墓標を、二冊のノートに記したまま、純白の雪が地上をおおった冬の日に、自殺行為にも似た手術を受けて、帰らぬ人となった。まだ熟れきらぬ孤独な魂の愛と死を、透明な時間の中に昇華させた、青春の鎮魂歌である。 

サナトリウムで療養中に「私」が出会い親しくなった汐見茂思という青年。
自分を含め他の患者たちは自分の病状や先行きに不安を感じ悶々としているのに、汐見はそのようなことにまるで無関心で悠然としている。その汐見が結核の治療に成功率の低い手術にのぞみ、自分に何かあったら二冊のノートは君にあげるから読んでくれ、と「私」に告げる。

二冊のノートには汐見が学生時代に出会い一方的に愛した藤木忍と、その妹千枝子への想いがつづられていた…。

戦争に反対しながらも抗うことができず戦地へ赴かなければならないこと。熱烈な恋心を自分で扱いきれずまた相手にも受け入れられない苦しみ。お互いに想いあいながらも一歩を踏み出せずひとりよがりに終わってしまったこと。

いろいろな読み方ができるのだろうが、私は汐見と千枝子との恋愛のところがとても面白かった。
宗教の問題があって千枝子の方から拒絶したように読んでいたが実は拒絶されていると感じていたのは千枝子のほうだったのか。女はじぶんをちゃんと見てくれてなりふり構わず求めてくれる男がいいのだよなぁ…。汐見の内省的な態度を千枝子が自分への拒絶と感じたのは無理からぬことだと思ったし、汐見自身も二人の愛が成就することを望んでなかったように思える。

文章がとても美しくて何度も読み返したくなる。素晴らしかった。

一朝会

9/30(土)、浅草見番で行われた「一朝会」に行ってきた。

・一猿「たらちね」
・朝之助「唖の釣り
・一朝「転宅」
~仲入り~
・一朝「居残り佐平次

一猿さん「たらちね」
ことさらなにか入れたりしてないけど、ちゃんと面白い。
八の「嫁さんが来る」ワクワクが伝わってきて、微笑ましい。

朝之助さん「唖の釣り
前座時代はよく見ていたけれどニツ目になってからご無沙汰だった朝之助さん。すっごく面白くなっていてびっくり!

七兵衛の家を訪ねてきた与太郎が「七兵衛さーーん!行きましょうよー。釣りをしにー。殺生禁断の池にーーー。鯉を釣りにー。それで売って金儲けしましょうー。」と大声で呼んで、出てきた七兵衛が「お前、なんでこういうことを大声で言うんだ。向かいにはおしゃべりばばあが住んでるんだぞ」と言うと「じゃあたし今からおばあさんのところに行ってきます」
「行ってなんていうんだ?」と聞くと「私がさっき七兵衛さーん(指を一本折る)、行きましょうよーー(二本)、殺生禁断の池にーー(三本)…って言いましたけど、これらの文章の中で一番印象に残ったのはどれですか?」。

…ぶわははは!

あと口がきけなくなった仕草の時に、役人から問われると「うぃ」と返事をするのがなんともいえずおかしい。
ご本人がぼけっとしていていかにも与太郎さんっぽいし、大きな声を出すだけでおかしいし、それにちょっと面白い工夫があるから、ぶわはっと吹き出してしまう。楽しかった。


一朝師匠「転宅」
一朝師匠の「転宅」初めて!うれしい。
泥棒が盗みに入って酒や肴をつまみながら「いい酒飲んでるなぁ」「なんだ、これ、なんかわかんないけどうまい」「これもうまい」と機嫌よく実に楽しそう。さんざんあれこれつまんだ後に「全部うまくて次に何を食おうか決められねぇよ」というのがおかしい。
途中で名乗りを上げる時、それまででれでれしていたのに急に低い声で芝居のかたちでかっこつけるのが、ばかばかしくて楽しい。
お菊さんは堂々としてるけど、時々「あ、もしかしてお菊さんもドキドキしてるのかな」と思う瞬間があって、魅力的だった。


一朝師匠「居残り佐平次
これも一朝師匠では初めて。わーーい。
佐平次が仲間を呼んで「遊びに行こう」と誘うところ、最初からなんかちょっと他の連中より兄貴っぽい。
店に行って若い衆に声をかけたときに若い衆が気のない返事をする、っていうの、南なん師匠のでもそうだけど面白いな。多分とてもいい店に上がるように見えないんだろうな、この人たち。

布団部屋に移って働き始めるようになるところ。
勝さんに取り入るところがすごく面白くて、さらにその勝さんが最初は不機嫌だったのに徐々にでれっとしてくるのがとてもかわいくておかしい。

店の主人も威厳があっていかにも好人物なんだけど、佐平次の言葉にみるみる慌てるところに、「だまされやすさ」が出ていておもしろい。

この日は結構早めに行って並んだので前の方で見られたんだけど、細かい表情とか、ちょっとした言葉にちゃんと意味があるんだなぁというのが感じられて面白かった。

鈴本演芸場9月下席夜の部 古今亭志ん五真打昇進襲名披露興行

9/29(金)、鈴本演芸場9月下席夜の部 古今亭志ん五真打昇進襲名披露興行に行ってきた。


・志ん橋「熊の皮」
・志ん輔「豊竹屋」
馬風 いつもの
・正楽 紙切り
・金馬「権兵衛狸」
~仲入り~
・真打昇進襲名披露口上(志ん輔:司会、一朝、小さん、志ん五、志ん橋、金馬、馬風
・小さん「長短」
・勝丸 太神楽
・一朝「初天神
・小菊 粋曲
志ん五「抜け雀」

志ん橋師匠「熊の皮」
かわいいなぁ、志ん橋師匠の甚べえさん。おかみさんに全然逆らわない。「うんわかったよ」ってすんなり納得しちゃう。
もしやさん助師匠の「熊の皮」は志ん橋師匠からかな。なんとなく細部が似ている気が。それにしてもこれがあれになるのかと思うと…ぶわははは!


志ん輔師匠「豊竹屋」
うー苦手だ、この師匠。作りすぎなところが苦手。でも好きな人は好きなのかな。


金馬師匠「権兵衛狸」
「ご~んべぇ」という言い方が独特でこれがこの噺に不思議な奥行きを与えている。
「狸が扉を叩くとき尻尾じゃなくて頭の後ろを当てるそうですな。私のごく近しい狸に聞いたので間違いありません」。この台詞が大好き。
大きな会場が一瞬にして民話の不思議な空気に変わる。すてき。


真打昇進襲名披露口上(志ん輔師匠:司会、一朝師匠、小さん師匠、志ん五師匠、志ん橋師匠、金馬師匠、馬風師匠)
司会は司会に徹すればいいような気が…。そして志ん五師匠の新作を「へんてこな」とか「気の迷い」っていうのは言いすぎな気が…。
あと「私はこの志ん八のことは…よく知りません」という人をわざわざ口上の席にあげなくてもいいのに。これだけ人数がいるんだから。馬風師匠は「最高幹部」だからしょうがないにしても…。

一朝師匠の先代志ん五師匠との思い出話が心がこもってて素敵だったなぁ。
あと志ん橋師匠の口上。「お客様にお願いです。今日、この志ん五がトリであがりますが、この高座をどうかお客様、厳しい目で…見ないでいただきたい。甘い…ごくごく甘い目で見て、笑ってください。お願いいたします」。笑いながら涙がぽろりと出てしまった。いいなぁ。


小さん師匠「長短」
あら珍しく「親子酒」以外の噺。でも面白くない…。笑えるタイミングのところがさらっと流しちゃうから笑いそびれちゃう。


一朝師匠「初天神
微妙になった空気を明るく「ちゃんとした空気」に戻してくれて、ほっ…。
この日は代演で出た人がどうも…でなんか…むむむな印象。よかった。一朝師匠がこの位置で。
この噺って子どもに可愛らしさがないとみていて全然楽しくなくなってしまうんだけど、一朝師匠の子どもは可愛い。買ってくれーーーっていうのも激しいけどおかしさがあるからいいな。
団子のたれを舐めすぎてしまったお父さんが息子に「待ってろ、今なんとかするから」と言うのがたまらなくおかしかった。


小菊先生 粋曲
「この夏、最後の両国風景」と言った後に「もう10回ぐらい言ってるんですけどね」とにっこり。素敵だった~。


志ん五師匠「抜け雀」
いつものようにけろっとした表情の志ん五師匠。
自分には最初に入門を許してくれた師匠と先代が亡くなった後に私を引き取ってくれた師匠がいます。
今日は最初の師匠が教えてくれた噺をします。そう言って「抜け雀」。

いやこれがとても素敵な「抜け雀」で。
絵師は威厳があるし、宿屋の主人の人の好さがにじみ出てるし、いやぁ志ん八さんのときはあんまり古典を見たことがなかったけど、実はとても落語が上手なんだなぁ。上手っていうのもいやないいかただけど。びっくり。

師匠はいったいどういう落語をされていたのか、なんかとても見たくなった。そしてやっぱりこうやってその師匠が亡くなってしまっても、引き継がれていくものがあるから弟子をとるって大事なことなんだなぁ、と思った。

不時着する流星たち

 

不時着する流星たち

不時着する流星たち

 

 ★★★★

ヘンリー・ダーガーグレン・グールドパトリシア・ハイスミスエリザベス・テイラー…世界のはしっこでそっと異彩を放つ人々をモチーフに、その記憶、手触り、痕跡を結晶化した珠玉の十篇。現実と虚構がひとつらなりの世界に溶け合うとき、めくるめく豊饒な物語世界が出現する―たくらみに満ちた不朽の世界文学の誕生!  

 静かで美しいけれど油断しているとどきっとするような裂け目を見ることになる。自分の小さな世界を守ろうと思って生きていても、変化や喪失は逃れられない。現実と空想の世界の境目をぐらぐらしながら、最後に残るのは人間の寂しさ、なのかな。

モチーフやヒントになったと思われる作家や出来事の解説が章の終わりに書いてあるのがまた面白かった。

末廣亭9月下席 三代目桂小南襲名披露興行

9/28(木)末廣亭9月下席 三代目桂小南襲名披露興行に行ってきた。

・うめ吉 俗曲
・南なん「辰巳の辻占」
小遊三「蛙茶番」
~仲入り~
・襲名披露口上(遊之介:司会、遊吉、金太郎、小南、南なん、歌春、小遊三
ボンボンブラザーズ 曲芸
・遊吉「粗忽の釘
・二楽 紙切り
・小南「しじみ売り」

南なん師匠「辰巳の辻占」
南なん師匠で初めて聞く噺!うれしい~。
おじさんが「どうも腑に落ちない」と首をひねるところから。
「おじさん、何が腑に落ちないんですか」
「その女が金を持ってこいって言ってるってところだよ」

花魁とは夫婦約束をしていてあたしにバカな惚れようだと言う半ちゃんに、「お前は女に惚れられる顔じゃない」とおじさん。
「女は顔に惚れるんじゃないんですよ。ここに惚れるんです」と胸の下あたりを叩くのをみておじさんが「え?胃?」「どこの女が、あの人は胃が丈夫だよ!って惚れるんですか」には大笑い。

浮かれて店に行って片づけの済んでない部屋に上がって辻占を見るけどどれもダメダメな内容で、そこに花魁のお玉が来たっていうんで、一生懸命ぼーーっとした顔をして見せる、その「ぼーーー」がどうしようもなくおまぬけで笑っちゃう。
またこのお玉が…半ちゃんに向かってものすごーくぞんざいなのがもうおかしくておかしくて。

もう生きてはいられないから死ぬという半ちゃんに「そうだね、じゃ」と、とっとと話を終わらせようとするお玉。
「お前、いつも俺が死んだら自分にはなんの楽しみもないって言ってるじゃねぇか」
「だって…楽しみなんて…いくらでも見つけられるもんだよ」

心中を迫られて「ああ、わかったよ。じゃちょっとやってこよう」っていう軽さがすごくおかしくて、川の場面もすごく軽くて短くてとんとんとーんと進んでいって、それがとっても楽しい。
とっても落語らしくて楽しかった~。


小遊三師匠「蛙芝居」
こうやって毎日のように出てきていつも違う噺をしてくれるからたまらないよなぁ、小遊三師匠って。
またこの「蛙芝居」がテンポがよくてとても楽しい。
定吉がこの状況をとっても楽しんでいるのが楽しいし、ミーちゃんの名前を聞いて食らいつく半ちゃんがとってもおかしい。
けつをまくって見せる小遊三師匠の嬉しそうなこと。
笑った~。


襲名披露口上(遊之介師匠:司会、遊吉師匠、金太郎師匠、小南師匠、南なん師匠、歌春師匠、小遊三師匠)

南なん師匠。「トースターを落としたのは私です。それで小南を継げなかったんです。」
初日に見た時よりどんどん短く簡潔になっている口上。南なん師匠は落語もそうだけど、どんどん削り落としていくタイプなんだな。
常套句(「それにはなによりお客様のお引き立て…」)の入らないふわふわっとした口上がとても南なん師匠らしくて好き。

歌春師匠。高座はいつもいつも同じ漫談で「はぁ…」なんだけど、口上がすごくよくて。小南治師匠がお父さんの先代正楽師匠に言われて小南師匠のもとで前座修行をしているうちに落語の方が面白くなって紙切りではなく落語家になりたいと言ってお父さんががっかりしたこと、だけど弟の二楽さんが跡を継いで、落語協会所属なのにこの後出てくれることなどを紹介。ちょっと見直した。(えらそうですびばせん)

小遊三師匠。先代の小南は爆笑王でした。その師匠が先代の金馬。とても厳しい師匠だったそうです。小南師匠が100席覚えた江戸落語を捨てて、上方落語をこちらでもわかりやすいようにいろいろアレンジして売れてきて本人も「これなら」とほっとしたころ、金馬師匠に言われたそうです。「お前の落語は、金クレ金クレ言ってるように聞こえる」。
そう言われて頭を抱えた。そんなふうなつもりはないのに師匠にはそう聞こえている。いったいどうしたらいいのか、と。
3代目小南もそんな師匠の名前を継いだからには、金クレではない落語を目指していくのでしょう。

…売れっ子なのにこうやって毎回口上に並んで、いつもいつも同じことじゃなく先代のエピソードとか入れて心のこもった口上。素敵。

 

 小南師匠「しじみ売り」
また初めて聴く噺。
雪の中しじみを売りに歩く子ども。吉原に遊びに行かせてもらえず家でくすぶっていた出来損ないの子分が、声をかけてきたしじみ売りにああだこうだと文句を言っていると、それを聞きつけた親分が子分をたしなめてしじみ売りを家に上げる。

しじみ売りの子の身の上話を聞きながら、しじみを全部買い上げてやったり、ご飯を食べさせてやる親分。
最初のうちは子どもをいたぶっていた子分も、子どもの話を聞いて思わず自分のなけなしの小遣いを差し出して…。


これも先代が得意にしていた噺なのかな。
笑いどころは少ないけど、独特の世界があって素敵だった。だんだん好きになってきた、小南師匠の落語。

さん助ドッポ

9/27(水)、お江戸両国亭で行われた「さん助ドッポ」に行ってきた。

・さん助 初代談洲楼燕枝の述「西海屋騒動」第十二回「お貞の覚悟」
~仲入り~
・さん助「十徳」
・さん助「応挙の幽霊」


さん助師匠 「西海屋騒動」第十二回「お貞の覚悟」
いつものように立ち話。
この立ち話の時間をお手伝いしてくださってるUnaさんが測ってくれているんだけど、前回は15分喋ってたらしい。15分あったらもう一席できるじゃないか!
なので今回は短めに…。

この間謝楽祭がありましたけど、私よくお客様から「さん助さんどこにいました?」「いなかったですよね」と言われるんですが、いました。最初から最後まで。
うちの師匠がブースを出してまして、一門のTシャツ、トートバック、それから師匠の本を販売してたんですが、うちの師匠が午後から来たんですけどそうするとお客様がサインをもらおうと行列を作るんですね。そして悲しいかな、サインをもらうお客さんはグッズを買わない…。

私その行列の最後尾にいて行列が他のブースの邪魔にならないようにお客様を誘導したり…あと撤収時間は厳守しないといけないので、「もうこれ以上は無理だな」と判断したら、「ここで打ち止めです」って言う係。
これ、ニツ目が「あにさんにぴったりの持ち場がありますよ。楽ですよ!」って言うんで毎年そこをやるんですけど…楽じゃないんですよ。並ぼうとするお客様に「もうこれで終わりです」って言わないといけなくて嫌われ役だし。そうか、楽だからじゃなくて、自分が嫌われ役をやりたくないからあたしにやらせてるんですね…。

で、一番長い時で2時間待ちになって、そうすると最後尾にいるお客様とずいぶん長い時間一緒にいるのでちょっと話しかけてくださったりして…多分私のことを知らないんでしょうね。でも知らないっていうのは失礼と思って、さぐりさぐり会話していて…でも「寄席で何回も見てます。ええ。…真打になるときには応援しますから!」と言われました。

あと、私の他の会…馬治兄さんとの会なんかにはいらしてくださってるお客様で、こちらの会には一度だけ来てそれ以来いらしてないお客様から「あら、(さん助ドッポに)伺わずにすみません。まだあの変な噺(西海屋騒動)を続けてらっしゃるの?」と。
今日もその…変な噺の続きをやります。

…ぶわははは!最高だな!
そしてなぜか座布団に座ってのまくらだと喋りづらそうなのに、立ち話だと面白いさん助師匠。なんでや?

前回、奉公人の嘉助がお貞に打ち明けたことで明らかになった清蔵の正体。
お貞は清蔵を追い出したい気持ちを、何か確かな証拠をつかんでからでないと誰も信じてくれないだろうと思いぐっとこらえる。
もともと内にこもる性格のお貞は気の病から左目のところにできものができたかと思うとそれがどんどん広がりそのうち目のところがぷくっと腫れてしまう。
そうなると清蔵はもうあからさまにお貞を疎んじるようになり「ヒキガエル」と呼ぶ。それを見た奉公人も真似をして「ヒキガエル」と呼びバカにするように。
具合が悪くなり寝付いてしまったお貞の面倒をみるのは、嘉助と鳶の親方の二人だけになってしまう。

あるとき酔って帰ってきた清蔵がお貞の部屋を訪れ「まだ死んでないのか。まだ息をしているのか」と毒づく。
お貞は「私は何を言われてもかまわないけれど、私が生きているうちに、どうかこの店は(息子の)松太郎に譲ると言ってください。その言葉が聞ければ私は安心して死ぬことができます」と言う。
清蔵は「お前ごときがなぜ私に指図をするのだ」と相手にしないのだが、引き下がらないお貞。
黙れ!と清蔵が足蹴にするとそれがもとでお貞は死んでしまう。

初七日を過ぎた時に清蔵は嘉助を部屋に呼び、「これで邪魔者は松太郎だけになった」と言う。
松太郎のことは毒殺しようと考えていたがそれはやめてもっといい方法を考えた、と清蔵。
お前が松太郎を預けている直十とお庄夫婦のもとを訪ねていき、松太郎を連れ出して谷へ落とせ、そうすれば犬や狼に食われて証拠も残らない。
それで5年ほど身を隠し、その後私を訪ねてきたら、その時に約束通り店を持たせてやる、と言う。

そう言われた清蔵は、やってもいいが5年後に来た時に「そんなことは約束してない」と言われるかもしれないから、用心のために証文を書いてくれ、また「偽物」と言い逃れられたら困るから血判を押せ、と言う。
「用心深いやつだな」と言いながら清蔵は血判を押した証文を渡す。

一方、同じ時に、松太郎を預かっている直十お庄の家にお貞が訪ねてくる。
よく来てくださったと喜ぶお庄はお貞を家にあげ、松太郎を挟んで3人で床をのべて昔話に花を咲かせる。
次の日に訪ねてきた嘉助にお庄が「お貞様も家にいらっしゃっている」と言うと、「何を言ってるだ?お貞様は亡くなった」と嘉助。
そんなわけはない。夕べは一晩中話をしていたのだから、とお庄。
ここにいるからと部屋を見てみると、すでにお貞の姿はなく、松太郎を心配するあまり幽霊になって訪ねてきたのだと悟る。

清蔵に頼まれたことをお庄に話す嘉助。
自分は身を隠すから、松太郎をどこか安全な場所に匿ってもらってくれ、と言う。
証文も手に入れたからこれをお奉行様の所に持って行けばいいかもしれないが、それではひどい目にあったお貞と宗太郎のうらみをはらすことができない。
松太郎に武芸を教え15歳になった時に清蔵のもとを訪ね、清蔵を殺してほしい。
そうすれば二人の仇をとることができる、と。
そう言われたお庄と直十は、だったらコショウ庵がよかろうと言う。
ここの和尚とは昔から懇意にしているのだが、とても親切な和尚で義松を西海屋へ世話をしたのもこの人だし、もとは相撲取りだったので武芸を仕込むにもぴったり。

ということで、さっそく和尚(花五郎)を訪ねる3人。
全ての話を聞いて「それなら私が松太郎に読み書きそろばんから武芸まで全て教えて一人前にしましょう」と約束する花五郎。
果たして松太郎は両親の仇をとることができるのかは、次回のお楽しみ。

…っておい!
義松はどうなったんじゃ?ダークヒーロー義松は?
もう義松の話は終わりで、清蔵を松太郎が倒すのが主軸になるのか?
そしてもうとにかく悪いじゃないの、清蔵。大悪人じゃないの!お貞がかわいそうすぎる!
お貞が気の病から目にできものができてそれがはれ上がって…というのは「豊志賀」にそっくりだなー。きっとこの時代の定石だったんだろうな。
何かこう視点が定まらないところがこの噺の弱いところよねぇ…。
とぶうぶう言いながら、毎回「次はどんなひどいことが?」ってわくわくしてるんだけど。


さん助師匠「十徳」
最近記憶力に不安を覚えるようになりまして、とさん助師匠。
おととい10秒前に履こうと思って用意していた靴下がなくなってしまった。あちこち探したけど見つからない。なぜ?いったいどこへ?と思っていたんだけど、数日たって気が付いた。
履こうと思っただけで引き出しから出していなかった!
引き出しを見たら、きちんとそこにしまったままだった。
これでよく落語を覚えていられるな、と。

…だ、大丈夫か、さん助師匠。
見た目はおじいちゃんだけどまだ若いのに!って失礼だな、おい。

そんなまくらから「十徳」。
いいなぁ、この八つぁんとご隠居、仲が良くて。
十徳という名前がなぜ付いたか、わからないよと言うご隠居に「そんなこと言わないで。あっしとは頭の出来がちがうんですから」と食らいつく八つぁん。「そんなつれないことを言わないで」っていうのもおかしいし「お天道様が許してもあっしが許しません」っていうのもわけわからなくておかしい。
教わったことをやってくる!と言う八にご隠居が「やめなさい。絶対うまくいかないから。請け合うから」と言うのも笑っちゃう。
楽しかった。

さん助師匠「応挙の幽霊」
考えてみたら「幽霊」で噺ついちゃってますけど。こちらは面白い幽霊なのでお許しを。と言いながら「応挙の幽霊」。
前にさん喬師匠で一度聞いたことがあって、タイトルから怖い噺なのかと思っていたら案外楽しい噺でびっくりしたんだけど。
でもさん喬師匠のとはまた全然印象が違ってた。

古道具屋の主人が、幽霊画が好きな客に「これなんですが」と見せに行く。
客は「これはいい幽霊だ。山吹と合わせているところがとてもいい」とたいそう気に入った様子。
「これは誰の作品だ」と問う客に「おそらく応挙の幽霊ではないかと思います」と道具屋。
「応挙の?まさか…。だとしたらよっぽど高いだろうね」と言う客に「いえ、それほど高くはありません」。

実は道具屋の主人は奥さんの七回忌で法事をやりたいと思っていて、この絵が売れたらそれをやることができる…と思っていて、客にちょっと高めに言うのだが、客は少し考えて「ちょっと高いがこれを他の客に持って行かれると思うとがまんできない。買うよ」と言う。
ただし今は手持ちがないので、これを手付に置いていくから、明日の朝届けてくれ、と。

首尾よく売れて大喜びの道具屋。
家で一人酒を飲み肴をつまみしているが、そうだ、こんな風にうまい酒が飲めるのはこの幽霊のおかげだ、と、「あなたもお酒をお飲みなさい」と幽霊画に酒と肴、線香を手向け、「あなたのお宗旨が何かわかりませんが」と言って手を合わせ「南無阿弥陀仏…何妙法連華経…アーメン…」。
唱えた後で酒をまた飲み「あーうまい。また酒の味が変わった」と喜んでいると、どこからか女の声がして「私がお酌をしましょうか」。
誰だ?と驚いていると、なんと絵の中の女の幽霊が話しかけてくる。

今まで絵を買ってくださった方は最初のうちは床の間に飾ってくれるけどそのうち子どもが怖いと言い出して箱に入れられ暗い倉に放り込まれてしまう。
お酒どころかお水さえ手向けてもらったことがないのに、あなたはこうして酒や肴、線香を手向けてくれて、さらにお経をあげてくれた。
お礼にお酌します、と言う幽霊に、「じゃお願いしようか」と道具屋。
いつも一人で飲んでいるから、こんなにきれいな人にお酌してもらうのはうれしいと言うと、幽霊は「私も飲みたい」と言う。
小さい入れものに注ごうとすると「それより茶碗に入れてください」。
おや、あなた、いける口ですか?と道具屋がお酒を注ぐとくいっと飲んで「ああ、おいしい」。
じゃ、もう一杯。またもう一杯。
そのうちご機嫌になった二人が都々逸を歌いあったり。
幽霊があんまりぐいぐい飲むのでもうそれぐらいにしておけば、と道具屋が言うと、「いいえ。私は大丈夫」と幽霊。
「大丈夫って言うのが一番危ない」と言っても「自分のことは自分が一番わかってるからもっと飲ませてくれ」と幽霊。
それじゃあ…と飲み交わすうちに、眠り込んでしまった道具屋。

いつまでたっても絵を持ってこないので業を煮やした客が来てみると、道具屋だけでなく、絵の中の幽霊も眠り込んでいる…。そこで…。

陽気な幽霊が素っ頓狂な都々逸をうなるのがもう楽しいったらない!とてもチャーミング。
酔っ払いが言う「大丈夫」が全然大丈夫じゃないところがすごくリアルでおかしい~。
さん喬師匠のはもう少ししんみり色っぽかったけど、そうじゃなく、ひたすら陽気でばかばかしくて楽しかった~。

 
さん助ドッポ1周年ということで、こんな素敵なプレゼントをいただいてしまった。
しかもこのフリクションよく見ると「SANSUKE DOPPO」って入ってて、ドッポくんのイラストも入ってる!
さん助師匠にそんな気が回るわけもないから(失礼!)、お手伝いされているUna様のよるもの。うれしい…。
この会がずっと続きますように。

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末廣亭9月下席 三代目桂小南襲名披露興行

9/26(火)、末廣亭9月下席 三代目桂小南襲名披露興行に行ってきた。


・うめ吉 俗曲
・南なん「不動坊」
小遊三金明竹
~仲入り~
・襲名披露口上(遊之介:司会、遊吉、金太郎、小南、南なん、歌春、小遊三
ボンボンブラザーズ 曲芸
・遊吉「道灌」
・金太郎「大安売り」
・二楽 紙切り
・小南「鰻の幇間

南なん師匠「不動坊」
何回見てもこの噺をここまで短くできるのか!と驚く。それもちゃんと最初から最後までやって、だから。
おたきさんをお嫁さんにもらえると決まって浮かれる吉さんがかわいい。
お湯屋に行くのに鉄瓶を持って行きそうになったり、お湯につかりながらあれこれ妄想したり。
おたきさんをとられて面白くない男たちの会話もほんとに過不足がない。
すごいなぁ。南なん師匠って。
ほんとに一切無駄がないんだけど、別に何も足りないものがない。

それにしてもなぜか私が見に行くと「不動坊」の確率が高い気がする~。
「反対俥」で素早く動く南なん師匠を見たかったんだけどなぁ…。なかなか当たりそうにないな。

小遊三師匠「金明竹
好きだー。小遊三師匠の「金明竹」。
おかみさんが旦那に語るところが大好き。すごくふざけてておかしい~。
「透き通るようなバカ」のフレーズも好き。
楽しかった。

 

襲名披露口上(遊之介師匠:司会、遊吉師匠、金太郎師匠、小南師匠、南なん師匠、歌春師匠、小遊三師匠)
南なん師匠。金太郎師匠が、前座修行時代に南なん師匠が師匠宅でトースターを師匠の頭に落としてしまったことを話したのをうけて「トースターを落としたからあたし小南を継げなかったんです」。「師匠の遺言です。あいつにだけは小南を継がせるなって」。
初日に見た時より口上がすっきり。「小南を継ぐために(小南治師匠は)家の裏の畑を売りました。そのかわり、小南という畑を手に入れて…そこに種をまいて花が咲いて実がなって…。でもそう簡単にはいかないんです。虫に食われたり烏にやられたり畑荒らしが出たり」。
こうやって落語と同じように口上もどんどんそぎ落として過不足がなくなっていくのね。面白い~。


遊吉師匠「道灌」
ふわふわっと軽くて楽しくてスピード感に溢れる「道灌」。
平坦といえば平坦なんだけど、すごい好き。うきうきしてくる。

二楽先生 紙切り
うわーー二楽さんが芸協の寄席にー。
10年以上前に地元でタクシーに乗った時、タクシーの運転手さんに「ここには昔は正楽っていう紙切りの達人がいたんだけどねぇ。息子がいるって聞いたけど、そいつらは今はいったいどうしているのやら」。
そのタクシーの運ちゃんをここに連れてきて、今の二人の様子を見てもらいたい!
話しもおもしろくて切るものも動きがあってひねりがきいていて。かっこよかった!


小南師匠「鰻の幇間
店の二階によしおちゃんがいるっていうのは、権太楼師匠から教わったのかしらん。
この師匠の独特な語り口、こうやって見ているうちに徐々に慣れてきたぞ。

最後の最後にちょっと噛んでしまって「連日の打ち上げで飲みすぎてちょっとお疲れ気味なのよ…」って言ったのがおかしかった。
こういう咄嗟の瞬間の表情とかごまかし方(!)とかで好きになったり嫌いになったりするけど、小南師匠はとってもチャーミングで好きになったなー。

 

オープン・シティ

 

オープン・シティ (新潮クレスト・ブックス)

オープン・シティ (新潮クレスト・ブックス)

 

 ★★★★

マンハッタンを日ごと彷徨する若き精神科医。時折よみがえる遠い国の記憶。数々の賞に輝いたナイジェリア系作家によるデビュー長篇。  

 

主人公はナイジェリア人の父とドイツ人の母を持ちアメリカで精神科医をしている男。移民であることからどこにも属してない自分を持て余している。
その彼がブリュッセルを訪れ過去の出来事を思い出し暗い歴史に思いを馳せる。「ゼーバルトのような」というのはきっとこの語りによるものだろうと思うが、この主人公はもっと生々しい存在だ。

傍観者であり被害者側だった主人公の加害者の側面を見せるラストに驚愕。
虐待される存在は常に虐待されているだけではない。それでもあなたは受け入れられるのか?と突き付けられているような気がした。

鈴本演芸場9月下席夜の部 柳亭こみち真打昇進襲名披露興行 

9/22(金)、鈴本演芸場9月下席夜の部 柳亭こみち真打昇進襲名披露興行に行ってきた。
会社帰りに行ったのだが、客席はもうぎゅうぎゅう。
ひぇーと思いながらもどうにか前の方で空いてる一席があったので滑り込む。
こみちさん、人気あるなぁ~。

・燕路「狸札」
馬風 漫談
・楽一 紙切り
・金馬「表彰状」
~仲入り~
・真打昇進披露口上 (司会:玉の輔、さん喬、金馬、こみち、燕路、馬風、市馬)
・ストレート松浦 ジャグリング
・市馬「のめる」
・さん喬「長短」
・小円歌 三味線漫談
・こみち「稽古屋」


燕路師匠「狸札」
鳴りやまない拍手に「あの…今日は私の披露目じゃないので。最後に出てきたときに盛大に拍手をしてやってください」。
いっぱいの客席を見渡して「こんなに大勢いらしてくださってありがとうございます」と心からの言葉。
もうほんとにほんとに嬉しそうで、師匠がこんなに嬉しそうにしてくれるなんてこみちさん本当に幸せだねぇ…。いい師匠なんだなぁ…。

「狸札」、もう弾むような高座で、何度も見ている噺なのにげらげら笑ってしまった。弟子が真打になったことを心の底から喜んでいるのが伝わってくる素敵な高座だった。


金馬師匠「表彰状」
わー。この噺、金馬師匠がされるんだ!びっくりー。
まじめに悪事に励む泥棒が、ひょんなところから表彰状をもらってしまい、そんなものをもらったら仕事をしにくくなってしまう!と、どうにか悪いことをしてもらわずに済ませようとするのだが、やることやること裏目に出て、どんどん表彰のランクがあがっていく…。

テンポが良くて語りがあたたかくて最初から最後まで楽しかった。


真打昇進披露口上 (司会:玉の輔師匠、さん喬師匠、金馬師匠、こみち師匠、燕路師匠、馬風師匠、市馬師匠)

さん喬師匠。入ってきた時、本当にかわいらしかった。ニツ目になって頭角を現してきて、芸もいいし、それだけじゃなく結婚して子供も産んでお母さんをやりながら落語の方も頑張ってる、と心のこもった言葉。


金馬師匠。どんなに人気があって落語がうまくて寄席でトリをとることはできない。真打になって初めてトリをとることができる。といって、真打になったからといって誰でもトリをとれるわけじゃない。何が大事かといったらもちろん本人の精進も大事だけれどお客さんが応援してくれること、これに勝るものはない。今までもこみちのことを応援してきてくださっているとは思うけれど、今まで以上に応援してやってください。はっきりと「こみちを応援してやってくれ」と言う言葉にじーん…。


市馬師匠。こみちは落語もとっても素晴らしいけれど、それだけじゃなく子どもも産んで両立させている。これからいいことばかりじゃなく壁にぶちあたることもあるだろうけど、いい時は「よかったよ」と褒めてやって、悪い時は見守ってやってほしい。市馬師匠の言葉はいつもあたたかい。


燕路師匠。こみちが弟子にしてくれとやってきた時、自分だってまだまだ修行中の身なのに…と悩み小三治に相談した。小三治は「お前はその子を弟子に取ったら一人前にしたいと思うか」と聞いてきた。「もちろん私は弟子に取ったら一人前にしてやりたいです」と答えると「甘い。お前だってまだ一人前じゃないんだ。でも弟子をとることでお前は一人前になれるんだ。そうやって弟子と師匠と一緒に成長できる」と言われ、それで弟子にとることを決心した。
名前を付ける時も師匠に相談したら「弟子の名前をつけるところからお前の師匠としての修業が始まるのだ」と言われ、「小三治」の「こ」、自分の「みち」をとって「こみち」と付けた。

何年かしてこみちが「師匠にお話があります」と来たので、やめるのか?!と思ったら「結婚したいと思ってる人がいます」。
この仕事は不安定だから、結婚するなら相手は固い仕事の人間がいいぞ。弁護士とか会計士とか「士」が付く仕事がいい、と言うと、「し、はつくんですが」と。ならいいじゃないかと思ったらよりにもよって「漫才師」。

そして何年かすると今度は「子どもができました」と。
結婚して子供ができて母親になって。そういう経験が落語に活かせることができれば、こみちにしかできない落語ができるようになってくれれば…。

…もう本当に心のこもった口上で、師匠がこんな風に大事に思ってくれてこんな口上を述べてくれるって本当に素晴らしいなぁ…と感動。
師匠の言葉に、頭を下げているこみちさんが泣いているのが見えて、もらい泣きしてしまった。


ストレート松浦先生 ジャグリング
皿回しは見たことがあったけど、飯台回しは初めて。すごい。

 

小円歌先生 三味線漫談
「こみっちゃんは本当に小さくてかわいくていつも一生懸命で」「子どもも産んで育てていて本当に尊敬する!」と心からの言葉。

「さっきの師匠の口上、素晴らしかったですよね!もう楽屋でみんな絶賛!二人ともちいちゃいけどね。二人してちびっこギャングみたいでね」。

「いつもの」じゃない、難易度の高い三味線&歌。襲名に向けて特訓中なのかな。かっこよかった!

こみち師匠「稽古屋」
出てきたときにすでに泣いているこみち師匠。顔をくしゃくしゃにしてタオルハンカチを出して顔をくしゃくしゃーっと拭くのがおかしいやらかわいいやら。

私ほんとにすごい泣き虫で。絶対泣くんです。ニツ目にあがったときの最初の高座でも…持ち時間15分なのに6分で降りて。もう号泣して落語ができなかった…。今日も絶対泣くと思って…タオル持ってきたんですけど…すみません。

今日も来るときに師匠のお宅に行って師匠の着物を持って行こうとしたら、「お前は持って行かなくていいよ」って言われたんです。え?でも…。私が…。と言うと師匠が「もういいんだよ」って。
あの…うちの師匠、ああ見えてももう来年還暦で…50代だけど末期なんです。着物重いのに大変なのにもう持たなくていいって言われて。ああ、こういうことなのか、真打になるって、って思って。それがすごく寂しくて。これからは一人なんだなって。

私、ちょっとでも気を抜くと妊娠しちゃうんで…妊娠がわかったときに師匠のところに飛んでいって、おそるおそる…「子どもができました」って話したら…師匠が「そうか。それは良かった。幸せなことだよ」って…言ってくれて…。


…わーーーーん。もうそれを聞いてまた泣いてしまった。
仕事をしていると「子どもができた」って言ってマイナスな反応がかえってくることが多くて、落語界も「男の世界」だから、こみちさんもいつも「女」と意識されないようにいつも頑張っていて、だからといってことさら女を見せないようにしてないところがまたこみちさんの魅力でもあって…。
どういう反応がかえってくるか内心びくびくしながら話したこみちさんに「幸せなことだ」とはっきり言ってくれた師匠。素敵。

今まで何回か真打披露目興行に来ているけれど、噺をする前にこんなに泣いている人は初めて見たので(笑)大丈夫?と思っていたのだけれど、ようやく涙もおさまってきたようで、江戸っ子の習いごとのまくらから「稽古屋」。

こみち師匠の十八番だよね。稽古屋の師匠がとってもチャーミング。所作がとてもきれい。
それに対する習いに来た八五郎のだめだめ加減とばかばかしさが楽しい。
鳴り物ともぴったり合って気持ちいい~。
稽古屋の師匠が「小円歌」で、襲名が決まっているっていうのもおかしかったな。

満員のお客さんがみんな温かい目で見守る中、素晴らしい「稽古屋」だった。
本当にいいお披露目だった。

末廣亭9月下席 三代目桂小南襲名披露興行

9/21(木)末廣亭9月下席 三代目桂小南襲名披露興行に行ってきた。
 
・歌春 漫談
・うめ吉 俗曲
・南なん「置き泥」
小遊三「替り目」
~仲入り~
・襲名披露口上(遊喜、金太郎、南なん、小南、歌春、小遊三
ボンボンブラザーズ 曲芸
・遊吉「粗忽の釘
・金太郎「大安売り」
・まねき猫 物まね
・小南「菜刀息子」
 
南なん師匠「置き泥」
南なん師匠の「置き泥」久しぶり!
昨年の夏はかなりの回数聞いたけど今年はほとんど聞いてない。師匠の中でマイフェバリット落語って入れ替わっていくんだなー。
久しぶりだったせいか、時間を短縮しようとして最初の部分を省いたせいか、序盤ちょっとごにょっとしたけど、徐々にエンジンがかかってきて、楽しくなってきた。
なんとなく陰気に始まるから初めてこの噺を聞く人は少し戸惑うのかもしれないな。
なんといっても南なん師匠の「置き泥」は、家にいる大工が他の人の噺ではないぐらいの絶望をたたえている。もうほんとにどうしようもなくなって「動かない」感じ。
でもその分、泥棒がお金を出してきたときの心のほぐれ方が、いいんだよなぁ。
こいつから金を巻き上げてやれっていうよりは、自分の話を聞いてくれる泥棒にほっとしてどんどん開いていく感じ
 
煙草借りて吸い始めて軽口をたたくところが大好き。
「お前にもきっといいことがあると思う…よ?」でいつもほわっとなる。
よかった~。

 

小遊三師匠「替り目」
今日もこの後の打ち上げが楽しみで来ています、と小遊三師匠。
なんでもご馳走してくれるそうですから。
それで飲み食いしていい気持ちで家に帰ってもそのまま寝たりはしない。
ビール一本ぐらい飲んで、でもまぁビールはお腹膨れるからその後日本酒に切り替えて5合ばかり。そこらへんでかみさんはあきれて寝ちまうから、ここからがあたしの時間!ってなもんで。
ま、日本酒は口が甘くなっていけねぇやっていうんで、いただきもののウィスキーを出してきて飲んで、ようやく気が済んで寝るんだけど、もう布団になんかちゃんと入れない。そのままばたっと倒れ込んで、気が付くと昼近く。
そんなに腹もへってねぇなっていうんで、おじやかなんか食って、テレビでワードショーの残りを見て、薄暗くなってきた頃に這うようにして家を出て、で今こうして高座に上がってみなさんの前にいるわけで。
噺家の生活なんてそんなもん。
 
そんなまくらから「替り目」。
正直寄席で聞きすぎてうれしくもなんともない噺なんだけど、それでももうとっても楽しいんだ、小遊三師匠だと。
底抜けに明るくてパーパー楽しい。
おかみさんが酔っぱらった亭主にあきれてるんだけど、でもなんか面白がってもいて。
亭主の方もおかみさんとの会話を楽しんでる感じ。
好きだなぁ、小遊三師匠の落語。楽しい。
 
襲名披露口上(司会:遊喜、金太郎、南なん、小南、歌春、小遊三
司会が遊喜師匠。いつもの早口でかる~い語りなのでそれだけで笑ってしまう。この師匠、大好き。
 
金太郎師匠。小南師匠が入門してきたときは高校を卒業したばかり。でもそのわりに酒も遊びも女も自分たちより知っていて、特に女に関しては…南なんなんかは教えてもらったほう。
師匠の名前を継いでくれてこんなにうれしいことはない。なによりこれからは「おい、小南」って呼び捨てにできるのがうれしい。
でも真打になっても師匠の名前を襲名してもいきなりたいしたものになれるわけじゃない。それは私たちも同様。でも一人だとたいしたことなくても、一門なら…南なん、私、小南のこの3人が集まれば強くなれますから。3本の矢ですね、つまりは。
 
…おお、金太郎師匠、なんてちゃんとした口上!
そしてこうやって3人並ぶと、そうかー一門なのかー一緒に前座修行をした仲間なのかーとなんか感動。
 
南なん師匠。襲名の披露目ってお金がかかるんです。(小南師匠は)春日部の出身で実家では畑を持ってるんですけど、この披露目のために裏の畑を1つ売ってます。
畑があるっていったって、大変なんです。耕して種をまいて水や肥料をやって。それでせっかく作物が育ったなと思ってもカラスにやられたり畑荒らしに持って行かれたり。
だからこれからもよろしくおねがいします。以上です。
 
…ぶわははは!なんて南なん師匠らしい口上なんだ。ちょっと不思議で素敵。
なにより、南なん師匠がこうやって口上の席に並んでいるっていうのがもう珍しすぎてときめく~。
 
小遊三師匠。
小南師匠のことを気が利いて楽屋での信頼も厚いと持ち上げたり、ちょっとふざけたり…。楽しかった。
 
小南師匠「菜刀息子」
大きな拍手に迎えられ深々とおじぎをして頭をあげるなり「ちょっと緊張してます」。
菜包丁のまくらから「菜刀息子」。初めて聞く噺。
 
父親(店の大旦那)が「菜刀ではなく紙切り刀を誂えさせろと言ったのに、お前は何をやってるのだ」と息子をしかりつけている。
母親は息子をかばって「この子が間違えたんじゃなくて刀屋が間違えたのだ」と言うと、「だとしたらなお悪い。間違ったものを差し出されたら、どうしてこれは違う!と突き返さなかったんだ」とますます父親は怒る。
「この子は気が弱いからそんなこと言えるわけがない」と母親が言うと「お前がそうやって甘やかすからいけないのだ。お前はいったいいくつになった?」
問われた息子は「ぴえー」と泣くばかり。
母親が「そうは言ってもこの子ぐらいの年だと世間ではやれ吉原だ品川だと遊んで親を困らせている。この子は煙草さえ吸わないしやった小遣いを残すぐらいなんだから」と言うと、父は「小遣いも使い切らないというのは甲斐性がないからだ。世間へ出て苦労したほうがいい。出てけ!」と言う。
父親の怒りがおさまるまで二階に上がってなさいと母が息子を二階へ追いやる。
 
夕飯の時間になっても息子が降りてこないので母が二階へ行ってみると部屋はもぬけの殻。
遅くになっても帰ってこないので懇意にしている鳶の頭を呼び、行きそうな所を探してきてもらうがどこにもいない。
何日何か月経っても戻ってこないので、死んでしまったに違いないと夫婦はあきらめて葬式を出す。
 
1年経ったある日、夫婦で天王寺へお参りに行ったとき、母親が乞食に施しをしようと言って席を立とうとすると父親は「ただ金をやったらいかん。何か大きな声を出させて、それへの祝儀という形でやってこい」と言う。
大勢いる乞食一人一人に金を渡す母は、そこに死んだと思っていた息子の姿を見つけ…。
 
…笑いどころはあまりない噺なのだが、1年が過ぎたことを外を通る物売りの声で表現したり、冬の寒さや夏の暑さなどしぐさで表したり、なかなか渋い噺。
あとで調べたら先代の小南師匠がされていた噺らしい。
 
声も話し方も独特な小南師匠。正直、あんまり好きなタイプの噺家さんではないのだけれど、味わい深くてよかった。
 
 
 
 

 

 

馬治丹精会

9/20(水)、内幸町ホールでおこなわれた馬治丹精会に行ってきた。

・はまぐり「魚根問」
・馬治「百川」
ロケット団 漫才
~仲入り~
・馬治「宗眠の滝」


馬治師匠「百川」
馬治師匠の「百川」は何回か聞いてるけど、百兵衛さんが馬治師匠にとてもよくはまってる。かわいいんだけど強気なところや意地っ張りなところもあったりして、とってもチャーミング。
でもこの日はなんかちょっとやりづらそうな感じがあって、言い間違いがあったりリズムに乗り切れない感じ。

もしかしてこのせいじゃ?と思ったのは、この日のお客さんですごく大きな声で笑ってすぐに大きな拍手をする人がいたんだけど、これがもうちょっと尋常じゃないぐらいの大きさで。もしかしてお酒が入っていたのかなぁ。ここでそんなに笑う?というぐらいの声で笑って手をバンバン叩くのでもうそれが気になって気になって。
まわりのお客さんはみんなそっちに気を取られて笑うどころじゃなく…。
私も耐え切れず仲入りの時に席を移動したんだけど。
悪気はなくてもああいうのはほんとに勘弁だなぁ…。


馬治師匠「宗眠の滝」
席を離れたせいもあるけど笑いどころの少なめの噺だったから、あの狂ったような笑い声が会場に響きわたらず、ほっとした。

「宗眠の滝」、生で聞くのは初めてかも。
宿屋の主人が客のもとを訪ね、もう何日もこちらにお泊りいただいているけれどどこにも出かけずお酒ばかり飲んでいらっしゃる、たまにはお出かけになったらいかがですか、と声をかける。
客は「ありがとう」と言いながらも、自分は花より団子で観光に行くより宿屋でうまいものを食べて酒を飲む方がいいのだ、と言う。
それに外に行くとお金がかかるだろう。自分は一文無しだし、と。
え?一文無し?ご冗談でしょ、と主人。あなたはなんのお仕事をされているのですかと主人が聞くと腰元彫りをしていると言う。では作品を見せて下さいと言って見せてもらった虎を見て主人が「なぜ死んだ虎を彫ったのですか」と聞く。
それを聞いて客が、実は自分は橫谷宗珉の弟子で宗三郎という者なのだが、その虎を彫ったところ宗珉から「死んだ虎を彫るような弟子はいらない」と言われ破門になってしまった。自分ではこの虎のどこがわるいのかわからない。途方に暮れて旅に出て専門家のところを訪ねたものの、この虎を見せても「上手に彫れている」としか言ってもらえない。

これを見て「死んでいる」と言ったのは師匠とあなただけ。どうかわたしを弟子にしてくれ、と頼む。
宿屋の主人は「自分は素人だけれど、そこまで言うならあなたの面倒をみましょう」と宿屋に置いて面倒を見る約束をする。

最初のうちはダメ出しばかりされていた宗三郎だったが、そのうち主人も「これはいい」と認めてくれるようなものを彫れるようになる。
たまたま宿屋に泊った留守居役木村又兵衛が間に入り、殿様から刀に滝を彫るようにとの注文を受けることができた。
しかし慢心した宗三郎は酒を飲みながら滝を彫り、殿様から突き返される。
それを見た宿屋の主人が宗三郎に本気で怒り、ようやく我に返った宗三郎は宿を飛び出し、21日断食をして滝に打たれる。
そうして戻ってきて滝を彫り始めた宗三郎。その姿に主人も「これなら絶対にお殿様のお気に召すだろう」と思い「これで突き返されたら私もあなたと一緒に死にます」と約束する。
しかし彫りあがった滝は、前に作ったものよりも出来の悪いものだった。はたして…。


宗三郎のダメな人ぶりが馬治師匠にぴったり合っていてとても魅力がある。人が好くて、ひたむきだけど、ちょっと甘いところもあって。
頼まれて損得抜きで宗三郎の面倒を見る宿屋の主人も、とても立派な人だけれど立派すぎず人間臭くてとてもいい。

こういう噺を全く気障な感じなくできてしまうのが馬治師匠の魅力だなぁ。よかった。

柳家小三治一門会

9/19(火)、大田区民ホール・アプリコで行われた小三治一門会に行ってきた。
会場に着くと「おわび」の張り紙があって、どきっ!
小三治師匠の体調がよくないので独演会を一門会に変更させていただきます、とのこと。
ほっ…中止じゃなくてよかった…。
 
・小八「元犬」
・〆治「そば清」
~仲入り~
・一琴「目薬」
小三治「転宅」
 
小八師匠「元犬」
ペットのまくらから「元犬」。
喋るスピードの速さにお客さん(年配者多め)が付いていけなかったような。
時間が短めだったのかな。ちょっとどたばたしていて、落ち着かなかったな。渋谷らくごでまくらなしで「らくだ」をやった小八師匠はどこへ(笑)。
 
〆治師匠「そば清」
「そば清」というとほとんど今はさん喬師匠の「ど~も」でやられる人が多いけど、違う感じだった。
でもなんか…暗いんだよなぁ。
あと、草の説明(仕込み)がなかったから、サゲでほとんどのお客さんがポカン…。
 
一琴師匠「目薬」
ようやく今日のお客さんにぴったりの噺だったのか、笑いが起きてほっ…。
わかりやすく面白かった。
亭主が目が悪くて仕事に出ないものだから芋ばかり食べてるおかみさん。
尻を出せと言われて「変な薬買ってきちゃった」と言いながら「おまんまが食いたいんだろ」と言われ「それを言われると弱いんだけどさぁ」とお尻を出すのがおかしい。
面白かった。
 
小三治師匠「転宅」
頸椎の手術後、初めての東京での落語会。
京都の病院で手術をした小三治師匠。そこのお医者さんが手術の次の日から「京都の町を歩いてきなさい」と言う。「どれぐらい歩けばいいですか」と聞くと「好きなだけ」。
そう言われたから、結構いろんなところを歩いたらしい。
「京都大原三千院」ね。あれ、永六輔が詩を書いてるから。
♪京都~大原三千院。恋に破れた女がひとり~♪
そういうからね、なんかこう広い原っぱみたいなところに、味のある寺があるんだろうなと思ったんですよ。
そうしたらすごい山道で。あるところまではタクシーで連れて行ってもらったんだけどその後は「ええ、ここをのぼるの?」みたいな険しい階段をぜいぜい言いながら上がってね。人もごちゃごちゃいてね。
恋に疲れた女が一人であんな階段登らないでしょう。ほんとにあの人は嘘つきだ。
庭にはきれいに木が生えていて、植木屋が何人かいて手入れをしていたんでね。
「植木屋さん、ご精が出ますね」って声をかけてみたんだけど、無視されました。洒シャレのわからない植木屋だね。

…そのあとにも鞍馬山に行った話、そこから昔修学旅行で行った時に鞍馬天狗の真似をして小枝を口にくわえて橋を渡っていったら、たまたま中学の時の同級生にばったり会ってしまった話、とらやの本店が京都でショックを受けた話から仙台の羊羹の話。
もう次から次へと話が止まらない。
まくらが止まらない時の小三治師匠は調子がいい証拠なので、ああ、よかった…師匠元気なんだな、と嬉しくなる。
それでも「実は結構危なかった」「手術室に入る時は、もしかするともう帰って来られないかもな、と思った」「高座も上がれないかと思った」というから、かなり悪かったんだろう。

止まらないまくらのあいだにふと「後で落語もやりますから」と言ったりして、おかしい~。
そんなながーいまくらから「転宅」。
まぬけな泥棒を手玉にとるお菊さん。私が座った席がちょうどお菊さんが泥棒に話しかける時の目線の先だったので、もうほんとにドキドキ。「お前さん、あたしと逃げておくれでないかい?」と言われて思わず「うん!うん!」とうなづいてしまった。
右手が自由に動かせないのか少しぎこちない動きになった時にお客さんの視線がそこに集まると、「大丈夫ですよ」とぽそっとつぶやく小三治師匠。
なんかいつも以上に小三治師匠を身近に感じた高座だった。

落語はもちろん素晴らしいけど、なによりも小三治師匠の感じ方、面白がり方が大好きなので、独演会でなくていいから、これからも高座にあがってほしい。ほんとにもうそれだけ。

連雀亭ワンコイン寄席

9/16(土)、連雀亭ワンコイン寄席に行ってきた。


・今いち「道灌」
・小辰「いかけや」
・紋四郎「植木屋娘」


今いちさん「道灌」
二日連続の今いちさん。昨日とまた印象が違う。
まくらのような小噺のような…結局のところダジャレ?でサゲるんだけど、それがなんかくすっとおかしい。
そして「道灌」もちゃんと面白い。あまり普段はやられない小野小町の部分もあって、昨日見た通り所作も小さ目なんだけど、なんか面白いんだな。
師匠の今輔師匠とはまた一味違うのも面白いなぁ。でも今輔師匠のお弟子さんだからきっと新作もやられるんだよね。聞いてみたい。


紋四郎さん「植木屋娘」
初めて見る噺家さん。上方落語大好きだから、連雀亭でこうして上方の噺家さんを見られるのうれしいな。

武蔵小山、武蔵小杉、などの駅名に突っ込みながら「植木屋娘」。
これってあんまり好きな噺じゃないんだけど、関西弁だとこの植木屋さんが憎めないキャラクターに感じられるから強味だなぁ。

紋四郎さんがちょっとなよっとした感じがあって伝吉さんにぴったり。
楽しかった。

時間のないホテル

 

時間のないホテル (創元海外SF叢書)

時間のないホテル (創元海外SF叢書)

 

 ★★★★

チェーン系巨大ホテル「ウェイ・イン」に泊まったニール・ダブルは、謎めいた赤毛の女から、世界各地のホテル内各所に掲げられた抽象画の写真を撮って集めていると聞かさた。その抽象画は巨大な1枚の画をバラバラにして額に入れられているため、組み合わせると模様が続きになる筈だという。ある晩、眠れず部屋を出たニールが廊下を歩くと、いつまで経っても端に行き着かず……クリストファー・プリースト絶賛の、J・G・バラード『ハイ・ライズ』とスティーヴン・キング『シャイニング』に捧ぐ、巨大建築幻想SF。  

前半がリアルなだけに、え?こういう展開?!と後半にびっくり。
でもたしかに冗長に感じるほど丁寧に描かれた前半があるから、後半の展開に爽快感を感じられるのかもしれない。

家よりホテルの方がホッとする男がホテルに捕らわれてメタメタにされるって、怖いけどちょっとおかしい。
ホラーのようでもありコメディのようでもあるな。

映画向きかも。

落語ぴっぴ堂vol.3

9/15(金)、新馬場スペース松本で行われた「落語ぴっぴ堂vol.3」に行ってきた。
前から行ってみたいと思っていたこの会。ちょっと家から遠いんだけど、会社からならそんなに遠くないし、気の合う仲間とわちゃわちゃしている小はぜさんを見てみたいという…ハハゴコロ?

・鯉丸「鮫講釈」
・今いち「四人癖」
~仲入り~
・小はぜ「宿屋の富」

鯉丸さん「鮫講釈」
リニアモーターカー、品川から名古屋まで47分だそうです。名古屋まで47分と言われてもピンとこないんですけど、品川から橋本まで6分。そっちのほうがなんかワクワクしませんか?ワープっぽくて。

そんなまくらから「鮫講釈」。
なんかよく聞く「鮫講釈」よりこの間露の新治師匠で聞いた「兵庫船」っぽいなと思ったんだけど、wikiで見るとサゲでタイトルが変わるらしいので、ってことは「鮫講釈」だったのかな、と。
最初の謎かけとか講釈とか結構難しい噺だよなー。
鯉丸さんって滑舌があんまりよくないっていうイメージが強いんだけど、なんかあんまり気にならなくなってた。成長を感じるなぁ。
ってあたしは何様だ。ははは。


今いちさん「四人癖」
新作っぽい小噺がなんかすごく面白くて…あーでも何一つ覚えてない。くーーー。なんだったっけ。
これは新作をやるのかな?と思っていたら「四人癖」だった。
この間鯉んさんで聞いたばかりだけど、鯉んさんよりしぐさがうざくない(笑)。
今いちさんって所作がとても小さめなんだな。それがいいのか悪いのかわからないけど、私は結構好きだな、今いちさんの落語。あっさりめでのんびりした面白さがあって。


小はぜさん「宿屋の富」
自分はお客さんの数はあんまり気にならない。いやもちろんたくさん入っていただいたら嬉しいけど少ないからどう…とはあんまり思わない。この間インタビューを受けていてそう言ったらすごく驚かれたんですけど。
小三治師匠の会の前座だと千人近いお客さんの前でやることもあるし、今日みたいに…少ないお客さんの前でやることもあって…でもどちらの方が緊張するというのはなくて、どちらでも同じように緊張します。それがいいのか悪いのかはわからないですけど。

あと私…今日はまだ何の噺をするのか決められてません。たいていいつもは上がる前に3つ4つ候補を考えて上がるんですけど…今日は決められないまま上がってしまって…。
そう言いながら「馬喰町はかつては宿場が…」と始まったので、お!宿屋の富!と思っていると、ふと噺をやめて「そういえば宝くじなんですけど」と小はぜさん。

たまに宝くじを買うことがあって。
うちの一門では…一門といっても師匠のはん治と私と小はだの3人ですが、毎年正月になると一緒に出掛けて3人でそれぞれ1枚ずつ宝くじを買うんです。それは当てようというんじゃなくて師匠が言いだして…遊びというか楽しみでやってるんですけど…。


…はん治師匠が言いだしてお弟子さんと3人で宝くじを1枚ずつ買ってるって…なんて微笑ましいエピソード。
小はぜさんって本当に師匠のことを尊敬していてすごく大切にしているのが伝わってきてじーんとくるなぁ…。

そんなまくらから「宿屋の富」。
宿屋に泊る田舎者がとても面白いキャラクター。一文無しではあるんだけど肝が据わってるというか大物感があって。それだけに富が当たった時の動転ぶりがおかしくて。
あとこの間の鶴川の時も感じたけど、宿屋の主人が憎めないキャラクターで、客が大ぼらで「あーいいだいいだ、(千両)全部持って行きなせぇ」と言ったときに「いえ、私は半分頂戴できればもう十分なんで…」という言葉がリアルに感じる。
客が結果を見に行くときに「5両ありゃええだ。それで十分だ」と言うのも面白い。他の噺家さんでそんな言葉を聞いたことはないから、きっとこれは独特の形なんだろうな。

この間聞いた時より進化していた小はぜさんの「宿屋の富」。
楽しかった!


小はぜさんの僧侶感(笑)。鯉丸さんと今いちさんが洋服姿なだけによけい…。

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