りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

柳家小はぜ勉強会 其の二

6/10(土)、和光大学ポプリホール鶴川 多目的室で行われた「柳家小はぜ勉強会 其の二」に行ってきた。


・小はぜ「加賀の千代」
・小はぜ「富士詣り」
~仲入り~
・小はぜ「野ざらし


小はぜさん「加賀の千代」
前回に引き続きこの日も満員。私も1ヵ月ほど前にtwitterで「満員になりましたのでこの後はキャンセル待ちになります」というお知らせを目にしたのだが、小はぜさんにも主催の方からそういうメールが届いたらしい。
ほんとに満員?と嬉しくて何度もそのメールを読み返したという小はぜさん。
「でも私、キャンセル待ちっという言葉が引っかかてしまいまして」。


キャンセル待ちという言葉を聞いて、予約をしてくれた人が「え?キャンセル待ちがいるの?じゃ、私はそれほどでもないから譲ろうかな」という気持ちになりはしないだろうか。
待ってる人が二名で、それを聞いてキャンセルする人が20名にならないだろうか。
そう考えると心配でしょうがなかった。
だからそもそも「キャンセル待ち」っていう言葉が良くないのだ。例えば「繰り上げ当選」とか…「棚からぼた待ち」とかだったら…。


…ぶわはははは。いいなぁ小はぜさん。
そんなまくらから「加賀の千代」。
甚兵衛さんと大家さんの会話がとても楽しい。大家さんが甚兵衛さんを大好きだというのが伝わってくるし、こんなにかわいい甚兵衛さんだったら私だって大好きだよ。
ネタ卸しということだったけど、ニンにあっていて楽しかった。


小はぜさん「富士詣り」
昔は山登りというとレジャーじゃなくて信心だったというまくらで「大山詣り」かなと思って聞いていると、富士山の話に。ここ鶴川から小田急線で新宿に向かう時にも左側に富士山が見えますから帰りに見て帰ってください、と。小はぜさんも前座の頃、師匠のお宅に向かう電車の中で毎朝富士山を見て、「もう少し見ていたいな」と思っていた、と。
そんなまくらから「富士詣り」。

最初は威勢がよかったのにすぐにへとへとになって先達さんに休憩しようと言いだす江戸っ子たち。
仕方ないな、じゃここで休むかと休んでいるとにわかに空模様が怪しくなる。
これはなんですか?と先達さんに聞くと、この中に罪を犯した者がいて山の神様がお怒りになってるから懺悔しなさい、と。
そう言われて身に覚えのある若い衆たちが次々自分の罪を懺悔し始める…。

まぁとにかくばかばかしくて楽しい。
特に人様のおかみさんにちょっと手を出してしまったという告白が…「だって…大好きなんです!」と言ったのが、かわいいやらおかしいやら。
サゲもばかばかしくて大好き。

これもネタ卸しということで…すごいな、二席もネタ卸しなんて。そして噺の選択が相変わらず渋い!


小はぜさん「野ざらし
3席目は赤坂でも聴いた「野ざらし」。
普段は物静かな小はぜさんがこの弾け方。くーーーたまらん!
すごく難しい噺だと思うんだけど、調子が良くて明るくて底抜けにばかばかしくて楽しい~。そして歌がいい!また思い切って出す大きな声がいい!

小はぜさんの「野ざらし」大好きだ。

あー鶴川まで行った甲斐があった。楽しかった。

穢れの町 (アイアマンガー三部作2)

 

穢れの町 (アイアマンガー三部作2) (アイアマンガー三部作 2)

穢れの町 (アイアマンガー三部作2) (アイアマンガー三部作 2)

 

 ★★★★★

月桂樹の館で暮らす男の子ジェームズ。ある日館を逃げ出したジェームズは、フィルチングの町で、決して使うなと言われていた金貨でパンを買ってしまう。それがとんでもない事態を招くとも知らず…。物の声を聞く能力をもつクロッド・アイアマンガーと、勇敢な召使いのルーシー。世にも奇妙で怖ろしい運命に見舞われた二人の未来に待つのは?堆塵館に何が起きているのか。著者本人によるイラスト満載。『堆塵館』で読書界に衝撃を与えた三部作第二部。  

アイアマンガー三部作の第二部。
図書館で借りた本の方を先に読まなければと思いながらも買ったら我慢できず読み始め2日で読んでしまった!

月桂樹の館で暮らすジェームズが主人公。
記憶をなくし、厳格な家庭教師アーダに監視されて暮らすジェームズは、「堆塵館」の主人公クロッドの「誕生の品」だ。
クロッドがおじい様に十シリング金貨に変えられたとき、クロッドの「栓」であったジェームズは人間に戻ったのだ。
ある時、毎日渡される薬を飲まなければ頭がぼーっとしないということに気づいたジェームズは薬を飲むふりをして何日も飲まずにすませ、そうしているうちに自分が「栓」に変えられる前の暮らしを思い出す。
自分の元の家族を探そうと、十シリング金貨を携えてジェームズは月桂樹の館を飛び出す。

人間に戻ったクロッドは、おじい様をはじめとするアイアマンガー一族が町の住民たちにどんなひどいことをしていたかを知り、どうにかおじい様を説得しようと考える。
一方「ボタン」に変えられたルーシーも人間に戻り、ごみの山の中で育ったビナディットと共に生まれ育った宿屋に戻る。

自分たちの一族さえ良ければあとの人たちはどうなってもいいというアイアマンガー一族と貧乏と常に監視され虐げられているために思考が停止している穢れの町の住民たちは、現代社会を風刺してるようにも思える。

意気地無しと正義感が表裏一体のクロッドと跳ねっ返りのルーシー。ゴミの塊のようなビナディッドも気になる。三巻が早く読みたい!

吉笑と時間 或いは空間も

6/9(金)、連雀亭で行われた「吉笑と時間 或いは空間も」に行ってきた。


・笑ん「道具屋」
・吉笑「八五郎方向転換」
・吉笑「手動販売機」
~仲入り~
・吉笑「子ほめ」
・吉笑「走馬灯」

笑んさん「道具屋」
初めて見た笑んさん。爽やかハンサム!笑坊さんの弟弟子だったからああいう感じ(笑)かと思っていたのでびっくり。
聞きやすい「道具屋」だったんだけどところどころに立川流らしい?クスグリが入るのがちょっと意外性があって面白かった。


吉笑さん「八五郎方向転換」
書いちゃいけないぶっちゃけのまくら(笑)。
吉笑さんって頭がいいし野心家っぽいけど、でもうこうやって手の内を見せてしまうところとナイーブなところがあってそこが好きだな。


「八五郎方向転換」、初めて聞いた噺。
スリにあったみたいで懐から財布がなくなった!と気づいた八五郎が、スリを追いかけようとするんだけど、その前にゲタが新しいからこれを履いて追いかけると足指の股が痛くなってその状態で風呂に入るとすごく沁みていたたってなって、でもそれを見た友だちが「江戸っ子のくせにこれぐらいの熱さで入れねぇのか」って馬鹿にされるだろうから…とか次々頭に浮かんではそれを回避するにはどうしようかと逡巡する。

すごい吉笑さんらしい噺だなぁと思ったら、ご本人も自分はこういう何秒間の出来事がすごく長く感じられたり、逆に長い時間なのにすごく早く感じたり…そういうのが大好き、とおっしゃっていた。


吉笑さん「子ほめ」
あら、吉笑さんが「子ほめ」!しかもあんまり変えずに真っ当にやったのでちょっとびっくり。途中でセリフが少し飛んだりして本人もぎょっとしていたけど、それがまた面白かった。

 

吉笑さん「走馬灯」
これも初めて聴く噺。
朝、奥さんと喧嘩をしてコンビニにパンを買いに行くはめになった男。
朝だから車も来ないだろうと赤信号を渡ったところで意識が途切れ…。

幼稚園の入園式の日、「いやや、靴履かへん。」と言う子どもに「だめ、履きなさい」とお母さん。次の日も「いやや、靴履かへん。」。なんかこのあたりの繰り返しがたまらなくおかしいんだよなぁ。

これも吉笑さんらしい、時間の長短を楽しむ噺。うーん、やっぱり吉笑さんの新作って面白いなー。

まくらたっぷりで一人で4席。ほんとに吉笑さんのサービス精神とバイタリティはすごいな。

いちゃいちゃ

6/8(木)、連雀亭で行われた「いちゃいちゃ」に行ってきた。
 
志ら乃 挨拶
寸志「庭蟹」
助六「両国八景」
~仲入り~
志ら乃「道灌」
志ら乃、小助六、寸志 鼎談
 
志ら乃師匠 挨拶
今の立川流のニツ目は他の協会とも交流しているけど、その上の真打となると全くそれがない。
他の協会の噺家さんと一緒に仕事がしたいなと思っていたらありがたいことに渋谷らくごに顔付けしていただいて、今まで口もきいたことがない人たちとご一緒する機会ができるようになった。
助六さんとはそのしぶらくで何回か一緒になって、ああ、いいなぁ、こういう芸って…ちゃんと寄席で育ってるっていいなぁ、と思って、そうか!自分で会を企画すればいいんだ!それで自分がHUBになって人と人をつなげるようなことができれば、と思っ
ていて。しぶらくで一緒になった時、助六さんの方から飲みに誘ってもらって、お願いして今回の会をやることになった。
寸志さんとは彼が前座の頃は一緒になる機会もあったけどニツ目になってからなくなっていて、でも彼もなかなかの落語マニアだし、この二人の組み合わせはいいんじゃないかなと思って出演をお願いした。
 
…おお。多分熱い人なんだろうなとは思っていたけれど、やはり(笑)。
でも確かに真打になると逆に交流が難しいっていうのあるよね。
ニツ目の時から交流をしていれば真打になってからもその関係を続けてはいけるんだろうけど。
私は特に協会はこだわらず見に行っている方だと思うけど、それでも立川流の寄席はさすがにそんなには行ってないので、こういう会はありがたい。
 
寸志さん「庭蟹」
リズムと間と表情、身体の使い方が絶妙で、もう最初から最後まで隈なく面白い。
番頭がうまくシャレを言っているのに「ああ、私の身体を心配して言ってくれてるんだね。ありがとありがと。」ときちんとお礼を言う旦那が素敵。
定吉に笑われても旦那が断として「シャレがわかってないわけじゃない」と認めないのもおかしい。
笑いっぱなしだった。好き好き。
 
助六師匠「両国八景」
志ら乃師匠からこの会に誘われた時の話。
しぶらくで出番が一緒だった時に鯉八を飲みに誘っていつもと同じじゃつまらないからと志ら乃師匠に声をかけた。
店に入ってからわかった。志ら乃師匠がお酒を一滴も飲めないということを。
なのに飲んでない志ら乃師匠が一番熱かった!
「お前さん、あたしの会に出てくれないかい」と言われ、面と向かって「お前さん」って言われたの初めて!長屋のおかみさん以外でも使うんだ!と。
 
お酒がなくても仲良くなれるけどお酒があればもっと早く仲良くなれる気がする、と言いながら、お酒のまくらへ。これが聞きなれたまくら(酔っぱらって仲良くなった二人が自分の家を説明するやつ)なんだけど、すごくおかしい。
そしてそんなまくらから「両国八景」。
最初の部分は「ずっこけ」。たちが悪い酔っぱらい、いるいるこういうの!(自分もか…?!)この部分はたまに聞くことがあるけど、そのあと広小路を抜けて行って香具師が出てくるというのは初めて聴く。
助六師匠が出てくる前に湯呑が置かれたので「ええ?小助六師匠、お茶飲みながらやるの?」と思ったらそうではなくて。
この湯呑を使って早接ぎの粉を売る香具師
もう本当に面白くて、しかもこの湯呑を使う手つきも鮮やかで、楽しい~!たまらん!
これは先代の助六師匠がやってらした噺らしいんだけど、落語マニアの小助六師匠がなぜ助六師匠のところに弟子入りしたのかというのがうかがい知れるような気がして、ファンとしたらたまらなかったなぁ。
 
志ら乃師匠「道灌」
この会は自分の大師匠のことをお互いに語り合うという趣旨の会だったので、談志師匠の話を。
直接稽古をつけてもらったことはないけれど二ツ目に昇進するときに談志師匠の前で「道灌」をやり、そのあと「親子酒」の稽古をちょこっとだけつけてもらった、と。
志ら乃師匠って談志師匠が乗り移ったかのように口と体を曲げて話をされるんだけど、本当に談志師匠、そして志らく師匠のことをリスペクトしているんだろうなぁというのが伝わってきた。
で、思い入れのある「道灌」を。
立川流ってやっぱりもとは柳家だったんだなっていうのが伝わってきてなんかいいなぁと思った。
でも「道灌」ってほんとに難しい噺なんだな…。これを面白く聞かせるって本当に大変なことよね…。

志ら乃師匠、小助六師匠、寸志さん 鼎談
志ら乃師匠が聞き役になって小助六師匠と寸志さんが落語の音源なんかをいつから集め始めたのか等を聞いたんだけど、いやもうこれが面白い!
小学生の頃から落語好きで演芸番組を録音していたという小助六師匠。勉強するときに志ん生師匠の落語だと間が結構あるから気になって勉強がはかどらないんだけど、先代の助六師匠だと音楽のような落語だから勉強がすすんでよかったってあなた…。
「私も数学の勉強の時だけ自分に落語を聞きながらやることを許してました」って寸志さん…。
音源を集めてることが楽屋でも知られているから自然に自分のところに集まってくるという小助六師匠。その音源はどうやって整理しているのかという質問に、亭号順に並べていて、あとは別に何があるかをリストにしていて、それは中学生のころからやってるって…もう最高。

志ら乃師匠から「何か珍しい音源とかお宝を持ってきてくれ」と頼まれたという小助六師匠と寸志さんが持ってきたお宝を披露。これももうなんか想像の上を行きすぎていてマニアじゃないとすごさがわからないっていうのがおかしかったなぁ。

また次回もあったら絶対行きたい。楽しかった。

 

 

 

 

冬の日誌

 

冬の日誌

冬の日誌

 

 ★★★★

いま語れ、手遅れにならないうちに。幼時の大けが、性の目覚め。パリでの貧乏暮らし。暮らしてきた家々。妻との出会い。母の死―。「人生の冬」を迎えた作家の、肉体と感覚をめぐる回想録。  

自伝ではあるけれど自分にたいして「君」と呼びかけることで、私的な出来事をできる限り客観的に俯瞰して見つめようとしてるように感じた。

とても正直でデリケートでエモーショナルな人なんだなぁ…。
身体や怪我や住んだ家などの切り口から自分の人生の歩みを見直そうとしたり自分にとって決定的だった出来事を取り出していったり…なかには思い出すことも辛いようなこともあっただろうに驚くほど赤裸々に描かれていて驚いた。

とても面白かった。

柳家小三治と若手一門会

6/7(水)、なかのZERO大ホールで行われた「柳家小三治と若手一門会」に行ってきた。

・小かじ「馬大家」
・三之助「棒鱈」
~仲入り~
・小八「お菊の皿
 
小かじさん「馬大家」
前座の頃、つまらなそう~に落語をやっているイメージしかなかったのでなんかびっくり。面白くなってるし、言葉がきびきびして聞きやすいところやテンポがいいところは三三師匠のお弟子さんなんだなぁという感じ。
ニツ目として小三治師匠の会に出させてもらえる喜びが全身からあふれている感じがした。
 
小八師匠「お菊の皿
かみさんからメールが来て「yahoo知恵袋を見ろ」とURLが貼ってあった、というまくら。
お披露目の時はなんかこう張り詰めた神々しさのようなものを感じたけど、こうしてみるとやっぱりろべえさんなんだな、と思っておかしいやらほっとするやら。
でも「かみさん」なんて話をまくらでするようになってとってもほほえましい。
お菊の皿」、弾けてて楽しかった。
 
今日の会が若手との会だからか、自分が若かったころの話を。
 
前座の頃から私は本当に物覚えが悪かった。
他の前座は早い人だと5日、そうじゃなくても3週間あれば噺を覚えられるのに、私は1か月かかっても覚えられない。とにかく覚えられない。
もともと私は物覚えが悪くて、また「こういうものだ」とただ覚えるというのが苦手。
 
例えば柳家は最初に「道灌」という噺を教わるけれど自分はこれがいつまでたっても覚えられない。
「こんちは」「おや、誰かと思ったら八っあんじゃないか」
この挨拶だけでも、どんな家でどんな間取りでどう声をかけられたのか、ご隠居は玄関まで行ったのか、あるいはひょいっと顔を出しただけなのか、そういうことが腹に落ちないと先に進めない。
25で結婚して当時は狭い家に住んでいたんだけど、部屋でずっとこの「誰かと思ったら八っあんじゃないか」を繰り返しやっていたら、かみさんに言われました。
「イライラする」って。
 
そんなふうにこだわってとことん考えてやっているのだという自負と、そこまでしないと覚えられない自分がめんどくさい、この仕事に向いてない、と思う両方の気持ちが伝わってくる。
 
それから、今も高視聴率を誇る「笑点」に対抗して、自分が司会で生で大喜利番組をやった時の話。
自分は台本通りにやるのはいやだった。台本通りじゃないからこそ面白い化学反応が起きると思っていた。
だけど自分は「はい、スタート」って声がかかるとまず一言目がうまく出て来ない。
その時に、アシスタントで女子アナウンサーの人が付いてくれたんだけど、この人がとにかく有能で、その場その場で臨機応変に対応をしてくれて、とても頼りになった。
そんな風だからとても面白い回もあったけど、全然つまらない回もあった。
それが怖いから台本を用意するんでしょう。
 
それから深夜ラジオのDJをやったこともあった。
2時間、あれやこれやと話をつながないといけない。
当時7秒黙ると警報が鳴って警備員が飛んできてしまう。生易しい警報じゃないんだけど、これを何回鳴らしたことか…。
でも今考えてみるとあの経験が今の長いまくらにつながってるのかもしれない。
 
…ああ、楽しいっ。
前に出た三之助師匠が「今日の師匠は絶好調です。こういう時ほど危ないんですが」というようなことを言っていたけど、なるほどこういうことか!
たしかにもうこの日の小三治師匠のまくら、本当に楽しくて、師匠も話が次から次へと出てきて止まらない。
ほんとにもうずっと聞いていたいくらいだけど、時間は大丈夫?とちょっと気にもなる。
そうしたら舞台袖から時間を知らせる合図が。それに師匠が「え?」と言うと「今8時45分です!」という声。
「あと何分?」
「終演時間過ぎてます!」
「え?あら…でも…今日はこういう日だからそうは言ってもまだあるだろ?それはあと何分?」
「……15分」
 
客席に向かって「15分ですって」という小三治師匠がおかしすぎる。
どうするのかなぁと思っていたらぱっと空気が変わって「ちはやふる」へ。
 
これがもう…この日の「ちはやふるがもうとんでもなく楽しくて。
聞かれてわからない「先生」がどうにかしてごまかそうとするのと、それを聞いて金さんが「あーそうなんですか」と間に受ける様子が、もうなんともいえずおかしくて楽しくて。
何度も聞いている噺なのに、ひっくり返るぐらいの面白さだった。
 
あーーー楽しい!
もうこういう高座に出会えるからやめられないんだよなぁ。
サゲを言って頭を下げながら、ごめんねというように手を合わせる師匠が、もうほんとに落語そのものだったなぁ。たのしかった。

東京日記5 赤いゾンビ、青いゾンビ。

 

東京日記5 赤いゾンビ、青いゾンビ。

東京日記5 赤いゾンビ、青いゾンビ。

 

 ★★★★★

ネットで、「あなたが一番もてる年齢」というものを調べてみる。川上弘美は、六歳。あなたの身の回りでも、不思議なこと、愉快なこと、実はいっぱい起こっていませんか?「事実は小説より奇なり」。もはやライフワークの人気日記シリーズ、第5巻!二〇一三年から二〇一六年収録。  

大好きな東京日記シリーズの最新版。相変わらず楽しい!私もあえてちゃんとしようとしないでコンタクトつけずにいたら、こんなふうに日々を過ごせるだろうか。

自分だけビールを注いでもらえなかったりビミョーに名前を間違って呼ばれたりほんととは思えないことを真顔で言われたり。ありそうでなさそうな川上弘美さんの日常。

作家の言葉で綴られた日記のようなちょっぴりうその混じった話を読める幸せ。ふくふく。

五月の雪

 

五月の雪 (新潮クレスト・ブックス)

五月の雪 (新潮クレスト・ブックス)

 

 ★★★★

目を細めると、今も白い雪山が見える――。米国注目のロシア系移民作家が描く、切なくも美しい9篇の物語。同じ飛行機に乗りあわせたサッカー選手からのデートの誘い。幼少期の親友からの二十年ぶりの連絡。最愛の相手と死別した祖父の思い出話。かつて強制収容所が置かれたロシア北東部の町マガダンで、長くこの土地に暮らす一族と、流れ着いた芸術家や元囚人たちの人生が交差する。米国で脚光を浴びる女性作家による、鮮烈なデビュー短篇集。  

ロシア極北の町マガダンの過酷な暮らし。
物資も娯楽も少ない中で楽しみや希望をつないで生きている人たち。
一方、そこを飛び出して海外へ移住した人たちも決してすべてにおいて恵まれているわけではない。自分の中に沁みついた故郷を取り出したり目をつぶってなかったことにしたりしながら、やはり孤独を抱えて生きている。

苦い物語も多いが、ソーニャという少女(作者自身に重なる部分が多い)の希望に満ちた視線が救いになっている。

短編だけれど登場人物が重複する作品もあり、視点を変えて見る面白さもあった。良かった。

こしらの集い

6/2(金)、お江戸日本橋亭で行われた「こしらの集い」に行ってきた。


・かしめ「のめる」
・こしら「親子酒」
・こしら「長短」
・こしら「化物使い」


もうとにかく最初から最後まで笑いっぱなし。
笑いすぎてよく覚えてないや。

ぶっちゃけのまくら(信用してるからね、書かないでね、書いたら当たり障りのないことしか言わなくなるからね!)から「なんかやってみた」という落語から、もう楽しすぎる。

なのに二席目なにやったかもう全然思い出せないの(笑)。
twitterを検索してようやく演目思い出した。

「長短」、長さんのほうが「気が長い」というよりはめんどくさいヤツ。それを短さんが「俺がお前にかなり合わせてるよ。友だちお前しかいないからな」と受け入れてるのが面白かった。
なんかこしら師匠って物事のとらえ方が独自でそこが落語の解釈とか改変に生きていてとても面白い。

行ったら間違いなく面白い会を毎月やってるってほんと魅力的。

浅草演芸ホール6月上席昼の部

6/2(金)、浅草演芸ホール6月上席昼の部に行ってきた。

・金の助「転失気」
・昇吾「牛ほめ」
・よし乃 太神楽
・圓満「ラブレター」
・愛橋「のっぺらぼう」
・ナイツ 漫才
今輔雑学刑事
・紫「出世の馬揃い」
北見伸&ステファニー マジック
・文治「鈴ヶ森」
・金遊「大安売り」
・うめ吉 俗曲
・圓輔「短命」
~仲入り~
・慎太郎「壺算」
東京ボーイズ 歌謡漫談
・南なん「不動坊」
・寿輔 漫談
・今丸 紙切り
・栄馬「紺屋高尾」


昇吾さん「牛ほめ」
お、この暗い表情は、この間連雀亭で「今日は鬱入ってます。」と言ってのけた昇吾さん。こうやって覚えているんだから不愉快なことも言ったもん勝ちなのか?
暗い表情でさもやる気なさそう~なんだけど、リズムが良くて思わず笑ってしまった。


圓満師匠「ラブレター」
いわゆる芸協噺ってやつなんだろうか。面白かった!


愛橋師匠「のっぺらぼう」
初めてショーンなんとかじゃない噺だったけど、う、うーん…。滑舌があまりに悪いのと間の悪さやギャグのセンスが客を引かせるレベルで、見ていて正直しんどい。


今輔師匠「雑学刑事
クイズ好きの今輔師匠らしい新作。笑った笑った。


うめ吉さん 俗曲
ついに私は鯉昇師匠のまくら通りの出来事に遭遇した!
いつものように蚊の鳴くような声で喋るうめ吉さんに、二階席から「聞こえないよっ!!」というおばちゃんの声が!
「あ…そうですか…ではマイクの音量を少し上げてもらって…(やはり蚊の鳴くような声)…どうでしょうか」
「まだ聞こえないっ!!」(もちろんマイクを使ってるわけじゃないのにうめ吉さんの15倍ぐらいの音量)
これ以上マイクの音量を上げられないからなのか、マイクがびよーんと上がってきて、うめ吉さんの口元の高さまで…。

鯉昇師匠のまくらを聞くたびに「それって浅草ですよね」と思っていたけどやはり浅草であった。わははは。


圓輔師匠「短命」
楽しかった~。やっぱりいいな、圓輔師匠。トリの芝居、見に行きたい。


南なん師匠「不動坊」
ご縁のまくらからの「不動坊」。
ほんとに無駄なところがいっさいないからこの位置でも「不動坊」をできてしまうっていうのがすごいな。
前座の幽霊がしゃんとしていて面白かった~。


寿輔師匠 漫談
最初から最後まで客いじりのみ。ある意味爽やか(ほんとか)。
私の客いじり恐怖症、寿輔師匠にショック療法を受けてみたら案外克服できるかも。もしくは完膚なきまでに叩きのめされるかどちらかかな。


栄馬師匠「紺屋高尾」
栄馬師匠といえば「茄子娘」しか聞いてことがなくて、私にとったら栄馬師匠はイコール茄子娘だったんだけど、なんと「紺屋高尾」。
案外クスグリがきつめ(?)だったりして面白いんだけど、声が小さくて喋り方がこう…淡々としすぎているので、浅草のお客さんにはちょっと…だったかな。

グローバライズ

 

グローバライズ

グローバライズ

 

 ★★★

生まれてくる時代を敢えて間違えた、すべての人たちへ。プロの書き手も熱狂する、孤高の作家、初の短篇集!  

相変わらず頭おかしいなぁ。

目も当てられないくらい酷い!と読み飛ばしかけて、いやちょっと待てよとまたページを戻って読んでみたり、あれ?フツウに終わっちゃった?と肩透かしを食らったり、出た!ジェローム!と笑ったり。

笑ったと言えば「道」に出てくるクソ坊主の中国語?よくこういうの思い付くよなぁ。もう読んでておかしくておかしくて。
なんだかよくわからないけどたががはずれたグローバルな世界がここに。

でも身体をムキムキに鍛えた中年が、戦争反対の若者のメガホンを取り上げて、気が狂っているような自分のマッチョな体験を至近距離でがなり立てたり、フツウのOB訪問にいきなり惨殺死体の写真が紛れ込んできたり…なんとなく今の世界と重なるような描写もあって、どきっとする。
アメリカの今の大統領や日本の首相ってこの小説に通じるグロテスクさがあるよな…。

蜃気楼龍玉独演会(長講 女殺油地獄)

5/30(火)、国立演芸場で行われた「蜃気楼龍玉独演会(長講 女殺油地獄)」に行ってきた。
 
・龍玉「女殺油地獄(上)」
~仲入り~
・龍玉「女殺油地獄(下)」
 
龍玉師匠「女殺油地獄(上)」
近松門左衛門の「女殺油地獄」を本田久作さんが落語に書き下ろし龍玉師匠が高座にかけるというこの会。
 
向島の花見に女を連れていくという「女」は花魁ではなく芸者。なぜなら花魁は籠の鳥で吉原から出ることができなかったから。
そんなまくらから「女殺油地獄(上)」。
 
子どもを二人連れて向島に花見に来た油屋の女房・お吉。
そこで隣家でやはり同じく油屋をやっている河内屋徳兵衛の次男与兵衛と会う。与兵衛は「芸者狂い」と評判の放蕩者。自分が入れ込んでいた芸者が他の男と花見に来ると聞き、二人を「踏んづけてやろう」と友だち二人を連れてやってきたと言う。
与兵衛に向かって両親がどんなに嘆いているかと説教をするお吉だが、与兵衛は聞く耳を持たない。
 
与兵衛が友人と向島をうろうろしていると、頭巾をかぶった男と二人で歩く芸者・小菊を見つける。あろうことか自分が買ってやった着物を着て他の男といる小菊を見て逆上する与兵衛。
相手の男は金貸しの小兵衛だった。小兵衛を責めると、逆に「貸した金を返さないのは盗人だ」と言い返されてしまった与兵衛は、泥をつかんで小兵衛に投げつけるが、その泥は小兵衛ではなく通りかかった武士の着物に当たってしまう。
この時お供をしていたのが与兵衛の叔父の森右衛門で、森右衛門はこのことが原因で浪人に身を落とさなければいけなくなる。
泥だらけの着物で呆然とする与兵衛を見つけたお吉はお茶屋の中に入って与兵衛の着物を拭いてやる。
娘たちに、父に会ったら二人でお茶屋にいると言ってくれと告げるお吉。
言付けを聞いて二人が怪しい仲になっているのでは?と慌ててお茶屋に乗り込んでみると…。
 
前半は笑いどころもたっぷりでサゲも落語っぽいばかばかしいサゲ
深刻な物語なのにサゲだけ妙にばかばかしいって、すごく落語っぽいと思う。
やりおさめなんて言わずにぜひとも寄席でかけてほしいなぁ。
「陰惨」を覚悟して聞いていたけど、前半は予想に反して笑えるところがたくさんあった。
 
龍玉師匠「女殺油地獄(下)」
与兵衛と違って、まじめで堅い長男の太兵衛は父・徳兵衛に与兵衛を勘当するようにと説得するが、徳兵衛は首を縦に振らない。
徳兵衛はもともとは河内屋の番頭だったのだが、主が亡くなった時に奥様のお沢を嫁にもらって河内屋を引き継いでくれと叔父の森右衛門に頼まれて、番頭から店の主になった身の上。太兵衛と与兵衛はもとは自分の主の子なので遠慮してきつくしかることができず、与兵衛がますます増長するのだった。
 
太兵衛と入れ替わりに入ってきたのが与兵衛で、徳兵衛に嘘をついて50両をだまし取ろうとするがすぐに嘘を見破られ金を渡してもらえない。
そのことにかっとなり徳兵衛を踏みつけているところに、実母であるお沢が入ってくる。
父を踏みつけてる与兵衛を見て勘当を言い渡すお沢。
与兵衛は渡された油徳利を持って家を出て途方にくれ、自分に親切にしてくれるお吉を頼ることにするのだが…。
 
…いやもうやっぱりそうですか、そうきますか、という展開で、さん助師匠がやっている「西海屋騒動」でも圓朝物でもいつも感じることだけれど、悪党には関わっちゃいけないね。なまじ親切心を起こすと必ず殺されちゃったり金を盗まれたり店をめちゃくちゃにされたりするんだもの…。
これだってそうだよなぁー。もうだめなものはだめ。性根の腐った奴に関わっちゃダメ。
まぁそんなこと言ってもしょうがないんだけど…。
 
面白かったのはこの与兵衛という人物。とにかく性根の腐ったクズなんだけど、なんかこう甘ったれっていうか「僕を助けて」と臆面もなく言ってしまうようなところがあって、そこが原作でもそうなのか、あるいはこの物語を落語にする際にそう変えたのか。
でもだからこそ、お吉もかわいそうになって家にあげてしまったのだろうし、両親も冷酷な態度をとることができなかったのだろうな、という納得感。
 
お吉が櫛が折れたことと夫が立ち酒をしたことを怖がるところが、この先の展開を予感させてこわかった…。
そして与兵衛が聞こえてくる鐘の音にどんどん追い詰められていき、迷いながらも殺人の一歩を踏み出すところ。リアルだった。
 
いやしかしやっぱりすごいな、龍玉師匠。
とてもきれいなんだ。所作とかすっと伸びた腕とか。そして芝居くささっていうか演技してる感がない。
淡々としてるけど、ただ筋を追ってるっていうんじゃなくて、ちゃんと人物が浮かび上がってきてる。
 
私もともと落語はばかばかしい滑稽話が好きで、あえて落語で陰惨な噺を聞きたいとは思わない方なんだけど、面白かった。

さん助ドッポ

5/29(月)、お江戸両国亭で行われたさん助ドッポに行ってきた。

・さん助 初代談洲楼燕枝の述「西海屋騒動」より第八回「舞扇のお静(前編)」
~仲入り~
・さん助「へっつい泥」
・さん助「おせつ徳三郎」

さん助師匠 「西海屋騒動」より第八回「舞扇のお静(前編)」
まずはいつものように立ち話。

前回から「西海屋騒動」がいよいよ本編に入るということで、それまでのあらすじをここで解説したんですが、これがもう…驚くほど不評でして。初めてのお客様だけじゃなく今まで見てきたお客様さえも私の解説を聞いて逆に「?」が浮かんでしまったという…。
私ほんとに説明下手なんですね。
この間も鈴本で「へっつい泥」をやったんですけど、へっついについてわかってもらわおうと思って一生懸命説明したんですが、説明すればするほどお客様が困惑。
今日の鈴本では解説なしで「へっつい泥」に入ったんですが、今日の方がご理解いただけた模様。
ですので、今日はあらすじなども申さずにお話します。

あ、あと今日初めていらっしゃるお客様から「両国亭ってどう行くの?」と聞かれまして、「ええと…あれです。昔は警察署がありまして。その隣だったんです。昔は警察署が…」と言うと「いやそれじゃわからない」。
「じゃ、ええとお寺がありましてそれを背に歩いていくと…いやあの橋があるのでそれを…」
あれこれ説明したんですが「いいや。ネットで調べていくから」。

…わはははは。
私も説明下手だけどさん助師匠の説明下手もかなりのものだよなぁー。
噺家で口下手って…そんな噺家さんもいるんですね…。
あ、私もプログラマーだけどITに弱いから、人のことは言えないか。

西海屋の跡取り息子宗太郎が品川に行って夢中になってしまったのが「舞扇のお静」という花魁。これがとんでもない悪女。
今回と次回はこのお静についての物語。
ということで。

麻布で八百屋を営む太助とお安の間に生まれたのがお静。
待望の赤ちゃんということでかわいがられて育ったのだが、お静が8歳の時に太助が病に倒れてしまう。
太助が医者に見せてもなかなかよくならないので、お安が大家さんに相談に行くと、大家が知り合いに長坂南碩という展医がいる。本来であれば我々庶民が見てもらえるような先生ではないが自分は懇意にしていて近しい者に何かあれば見てあげると言われているのでその先生を紹介しよう、と言ってくれる。

太助の家を訪ねてきた長坂は太助を診察したが「自分は治療はできるが寿命を延ばすことはできない」と見込みがないということを告げる。
「ところで家の前で遊んでいたのはその方の娘か?」見目麗しいお静が目にとまったらしい。
長坂の言う通り太助は数日後に亡くなってしまう。

1か月後にお安が長坂のもとにお礼に行き、お安が夫を亡くして子どもを抱えていると仕事に出るのも大変だと愚痴をこぼす。
それを聞いて長坂がお静を自分にくれないか、と言う。
お安はもともと自分は子供はほしくなかったのだが亭主がほしがったから産んだのだと言って承諾する。

お静を引き取った長坂は歌や踊り、三味線などをお静に仕込んだのだが、とりわけて踊りの方が大変うまく、また非常に美貌だったため、たちまち江戸中の評判に。
お殿様のお屋敷で宴があったりするとお呼びがかかるようになる。
町の若い衆も隙あらば…とお静を狙っているのに気付いた長坂は、変な虫がつく前にお屋敷に入れようと考えた。
というのは長坂はなかなかの山師で、お静を利用して出世をしようとたくらんでいたのである。

そんな中、侍が訪ねてくる。名前を小畑左内と名乗り、京極壱岐守の家来だというのだが、これが非常にいい男。
奥様がお静のことを気に入ったのでお静を屋敷に入れないかという申し出に、飛びつく長坂。
このお屋敷で後にお静が左内といい仲になり騒動がもちあがる…。

…なんか本編に入ってから、とても落語っぽくなった気がする。
娘を売ってしまうお安ってひどい母親だと思うんだけど、これがとても落語っぽく描かれていたから陰惨な印象がなかったし、お静に色目を使われてすっかりその気になってる若い衆たちとかいろんな登場人物が出てきて楽しかった
さん助師匠がアレンジを加えているのか、あるいはもともとそうなのか。
おかげで前よりずっと聞きやすくなってる。
時間も1時間みっちりとかではなく今回は30分ぐらいだったので聞いていて負担が少ない(笑)。
だんだん面白くなってきた?か?(喜んでるとすぐにまた話が破たんしていくので油断できない)

さん助師匠「へっつい泥」
「おせつ徳三郎」はネタ出しされていたんだけど、時計を見てまだ時間があまるようなので、と「へっつい泥」。
この間鈴本で見た時より面白かった!なんなんだろうなぁ。ほんとに落語って毎回違うんだよねぇ。だからこそこうやって何度も見に行っても楽しめるんだけど。生の楽しさ。まさに。

へっついを盗もうとするところがめちゃくちゃおかしい。
ちょっとしょんべんしてくる、と言ってトタンに当たって音がかんかんかんかん!って鈴本ではなかったけど、こればかばかしくて楽しい!
兄貴分がへっついを持ち上げて、弟分が縄を通そうとするんだけどうまくいかなくて「おめぇは不器用だなぁ、じゃ俺がやるからへっついを持ち上げてろ」と言ってやらせると「おもーい」といってあっさり手を離す弟分。
もうこのドタバタがすごく楽しくてばかばかしくて最高だった。

さん助師匠「おせつ徳三郎」
最初の「花見小僧」のところ、多分定吉がさん助師匠がやると「しゃっくり政談」の定吉みたいな、こまっしゃくれてエキセントリックな感じなんだろうな、と思っていたんだけど、呼ばれて出てきた定吉がもっとお兄さんな感じ。
驚いたのは、大旦那に問い詰められて定吉が答えている様子がとてもよかったこと。
この時の花見が定吉にとってはとても楽しくておいしいものを食べられてうれしい出来事だったんだな、というのが伝わってきて、逆に奉公人って大変なんだなぁとその辛さも感じられて、今まで「花見小僧」でそういう感じを受けたことはなかったので、びっくりした。

大旦那は温厚で人が良い感じで、定吉の話を聞きながら「それはよかったな」というような反応をしていて、なんかちょっとじーんときてしまった。
それだけに最後まで聞いて怒り出すところはリアル。やっぱり一人娘が奉公人といい仲になるなんていうのは許せないんだな…。

徳三郎は直情的というか苦労知らずな印象。
刀屋はとても落ち着いていて話を聞いてくれる安心感があるのだけれど、この間喬太郎師匠の「おせつ徳三郎」を見たもんだから、番頭に悪意があるのでは?刀屋のおやじのあやしいのでは?という色眼鏡で見てしまうのが、自分でもちょっとおかしい。

全体的に抑えたトーンで、なんかこう…いつものさん助師匠ではない、こう新たな一面を見たって感じ。
聞く前はさん助師匠が「おせつ徳三郎」を?!って思ってたんだけど、これが意外にも(!)すごくよくて、ああ、さん助師匠ってやっぱりさん喬師匠のお弟子さんなんだなぁ…と改めて感じたのだった。
とてもよかった。

次回「さん助ドッポ」 6/28(水) 両国亭 18時半開場 19時開演
●化け物使い
●初代談州楼燕枝の述「西海屋騒動」第九回「舞扇のお静(後編)」

その後は7/31、8/28、9/27

静かな雨

 

静かな雨

静かな雨

 

 ★★★★

忘れても忘れても、ふたりの世界は失われない。新しい記憶を留めておけないこよみと、彼女の存在がすべてだった行助。『羊と鋼の森』と対をなす、著者の原点にして本屋大賞受賞第一作。 

これがデビュー作なのか。小さいけれど心に響く物語。

毎日を作り上げているのは記憶じゃなくて「思い」っていうの、いいな。

リスがたいせつなクルミを隠すように、積み上がらない記憶をメモに残してあちこちに隠しておくこよみさんが愛しい。
月夜に涙を流すこのみさんの姿が目に浮かぶ。一枚の絵のような静かで印象的な物語だった。 

ブロディ先生の青春

 

ブロディ先生の青春

ブロディ先生の青春

 

 ★★★★

ジーン・ブロディ先生は誇り高く、ロマンティックで生徒たちの憧れの的。授業は型破りで、校長とは反りが合わない。先生のお気に入り「ブロディ隊」も学院中から特別な目で見られた。ブロディ先生は二人の男性教師と親しく、多感な年頃のブロディ隊は、先生の恋と性に興味津々、想像を逞しくする。ブロディ隊であることは誇りであり、みな先生を崇拝していた。だが、先生の指導は次第にエスカレートし…。20世紀最高の青春小説、待望の新訳決定版!  

いったん中断していてようやく読了。

なんて意地の悪い話なんだろう。
思春期の女の子たちの熱狂と感じやすさがひりひりと痛い。

愛が憎しみに変わり、崇拝が軽蔑に変わる瞬間がとてもリアルでとても辛い。
美しくて理想に燃えていてキラキラ輝いていたブロディ先生。しかしその中身はエゴイスティックで空虚で寂しい。だからこそ自分より幼い生徒たちを支配し常に自分を賛美し続けるように仕向けたのだろう。

ブロディ先生は自分の崇拝者であるブロディ隊を手放すことができず、長く一緒に居すぎてしまったのだ。それは彼女自身の孤独がそうさせたんじゃないかと読んでる私は同情的になるのだが、作者スパークはそういう「悪」を決して許してはくれない。そんな後味。