りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

しのばず寄席 夜の部

4/28(金)、「しのばず寄席 夜の部」に行ってきた。

・伸力「新聞記事」
・羽光「教科書の主人公」
・はらしょう ドキュメンタリー落語「いらっしゃいまピー」
志「試し酒」
・一乃「巴御前
・よし乃 太神楽
・南なん「ねずみ」


羽光さん「教科書の主人公」
面白い!
算数の教科書でおなじみの主人公が居酒屋で教科書の主人公たちと同窓会をするという新作。
ペンを指してわざわざ「Is this a pen?」とか、逃げ出した弟を5分遅れで追いかけたりとか、教科書の例題に感じる細かい「はぁ?」のオンパレードに大笑い。

はらしょうさん「いらっしゃいまピー」
前から気になっていたはらしょうさん。好きか嫌いかどちらかだろうなぁと思っていたんだけど、面白い!好き!
「ドキュメンタリー落語」といって実際にはらしょうさんが経験したことを話してるだけなので、他の新作派の方よりも量産できるのだ、とおっしゃるはらしょうさん。
いやでもそうはいうけどちゃんとそれを「笑える」ものにするっていうのはやっぱり大変なんじゃないかな。

はらしょうさんが地元で通うお店の変な店員さんの真似をしつつ、自分が桜餅を販売するバイトをした時のことをリアルに伝える「いらっしゃいまピー」。
笑った笑った。いるいる、そういう店員。またそれを思いっきり激しく再現するのがおかしくておかしくて。


南なん師匠「ねずみ」
ああ、かわいい、南なん師匠の「ねずみ」。
甚五郎は穏やかで優しくて、宿屋の主人は困窮しているけどどこか悠然としていて、子どもは健気でしっかりしていてかわいらしい。

初めてねずみを見た二人の村人。
「うごいた」「木で彫ったねずみがうごくわけがあんめぇ。お前酒の飲みすぎで動いて見えるんだろう。かくかくかく…」

「ねずみやに泊まらなきゃなんねぇって…おらんとこのかかさま、焼きもちやきだよ。ねずみやに泊まったって言っても信じてくれねぇだよ。悪さぶったんだろうってお仕置きされるだよ。かかさまのお仕置き…こわいだよ」

人のいい村人の姿が浮かんできて、思わず顔がほころんでしまう。

そして動かなくなってねずみに甚五郎が言う台詞「私はお前さんを彫った時は世間のことは全て忘れて魂を打ち込んで作ったつもりだよ」という台詞。なんかとてもじーんとくる。

この間ラジオで聞いて、また南なん師匠の「ねずみ」を見たいなぁと思っていたので、ドンピシャだった。楽しかった。

人生の段階

 

人生の段階 (新潮クレスト・ブックス)

人生の段階 (新潮クレスト・ブックス)

 

 ★★★★

誰かが死んだことは、その存在が消えることまでは意味しない――。最愛の妻を亡くした作家の思索と回想。気球乗りは空の高みを目指す。恋人たちは地上で愛しあう。そして、ひとつに結ばれた二人が一人になったとき、遺された者はもう生の深さを感じられない。―― 有能な著作権エージェントにして最愛の 

 一部は気球にとりつかれた人たちの史実、二部は一部に出てきた人たちのロマンス(フィクション)、そして三部では最愛の妻を失った作者の想いが綴られる。

三部まで読んで一部、二部はこの物語のための序章だったのだなとわかる。

最愛の人を失うこと、その日は自分にも訪れることはわかってはいるのだが、まるで想像できない。想像することを拒絶してるのかもしれないが。

悲しみにパターンはなく、なんの準備もできないこと。あまりにも喪失感が強いと怒りにも似た感情にとらえられること。淡々とした文章で書かれているけれど、作者の悲しみや喪失感は痛いぐらいで、その言葉は胸を打つ。

さん助ドッポ

4/26(水)、お江戸両国亭で行われた「さん助ドッポ」に行ってきた。


・さん助「西海屋騒動」より第七回「霊岸島船松町西海屋」
~仲入り~
・さん助「花見の仇討」

 

さん助師匠「西海屋騒動」より第七回「霊岸島船松町西海屋」
前回はダークヒーロー義松が西海屋に奉公に行くところまで。
いよいよ今回から本編に入るということで、立ち話で今までのあらすじを説明するさん助師匠。
いやこれがわかりにくい(笑)!
初めて来たお客様がいらしたのでその方たちに向けての説明だったんだろうけど、今まで見てきた私でもよくわからなかったよ!
自分でも「私説明が下手で…聞いたらますますわからなくなったと言われるんですが」と言っていたけど、いやほんとに、お前は百栄師匠の「怪談はなしべた」か!と突っ込みたくなるほど。
でもそれがまたおかしくておかしくて。この方はほんとになんというか…生き様が落語っていうか…。

そしこの「西海屋騒動」、こうやって自分で速記本を読み解きながら連続ものでやっているけれど、これで終わらせるつもりはなく、自分でまた練り直して今やられている「牡丹灯籠 お札はがし」や…ええと他にもええと…「お札はがし」しか浮かばないのが情けないんですけど、あんなふうに一話だけでも面白いっていうふうにまとめたくて…今、圓朝物をいろんな噺家がやるように、談州楼燕枝物も広めていきたい。

…そんな野望を持っているのか!すごいな!
なんかこの方は、とても謙虚でとても腰が低くて…でもなんか他の噺家さんと別のところを見ているっていうか、野望の持ち方が独自っていうか…面白いなー。
さていよいよ本編へ。

海鮮問屋の西海屋は大きな店なのだが、ここの主である平兵衛はとても情け深くて「仏の平兵衛」と呼ばれるほどの人物。
その平兵衛があるとき船に乗っていると、橋の上から身投げした男が船の近くに落ちてきた。
船頭が川に飛び込んでどうにか助けると、ボロボロの着物を着てやせこけた男が8歳ぐらいの男の子を抱いている。
目を覚ました男は平兵衛にひれ伏してお礼を言うのだが、平兵衛は「身投げをするというのはよっぽどの訳があるのでしょう、私が助けてあげられるかもしれないからお話しください」と言う。
 
男は徳蔵と名乗り、天城で炭屋を営み妻と二人の男の子に恵まれ貧しいながらも幸せに暮らしていた、と語りだす。
しかしあるとき妻が眼病を患い、高い薬を求めたりして手を尽くしたがどうにも治らない。そのうち金も尽きどうにも立ちいかなくなって、自分は下の子どもと妻を残し、8歳になる清蔵を連れて江戸に出てきた。
しかし江戸に出てきてもいい仕事にはありつけずついには乞食になりもう4日も何も食べていない。
これは妻と子どもを棄てた報いだろう、この世ではもうどうにもならないからと絶望して清蔵を連れて身投げをした。
どうかもう一度身を投げさせてくれ、と言う。
 
それを聞いた平兵衛は、とにかく家に来て腹いっぱい食べなさい。食べてから生きるか死ぬかを考えなさい、そう言って二人を連れて帰る。
ごちそうをしてもてなして、徳蔵を奉公人として西海屋に置いてやり、息子の清蔵は自分の一人息子である宗太郎(6歳)と一緒に手習いに行かせる。
宗太郎の方は出来が悪いのだが、清蔵は非常に利発な子どもで1を聞いて10を知るタイプ。
平兵衛は清蔵をわが子のようにかわいがり、知らない人は二人とも平兵衛の実の子どもと思うほどだった。
 
それから月日が流れ、病に倒れた平兵衛。
枕元に製造と宗太郎の二人を呼び、清蔵に「お前に頼みたいことがある」と言う。
「宗太郎が不出来であることは百も承知だがそれでもたった一人のわが子。店は宗太郎に継がせたい。しかしあいつ一人では何もできないから、清蔵がそばにいてあれの相談にのってくれないか。お前が見ていてくれたら安心だ」
そういわれた清蔵は「私が今日こうしてあるのは全て旦那様のおかげ。もちろん私はずっと宗太郎様のそばで命をかけて宗太郎様とお店をお守りいたします」と約束。
平兵衛はほっとしたのか亡くなってしまう。
それからしばらくして宗太郎はお貞という妻を娶り松太郎という息子も生まれる。
 
ある日、知り合いに品川に連れていかれた宗太郎。飲めない酒を無理やり飲まされボーっとしていると、舞扇のお静という売れっ子の花魁に「これはいい金づるになる」と見込まれてしまう。
介抱すると言ってお静の部屋に連れて行かれた宗太郎は、お静の手練手管に魂を抜かれたようになってしまう。
その日以来品川通いをするようになった宗太郎。店の金を湯水のように使い、近所でも評判になり、店の者たちにも軽蔑されるのだが、一向にやめる気配がない。
妻のお貞は心労のあまり乳が出なくなり松太郎を直十のもとへ預けてしまう。
見かねた清蔵が宗太郎に意見をするのだがまるで聞く耳を持たない宗太郎。
朝から品川へ行ってしまう。
はたして店はどうなってしまうのか…。
 
というところまで。
今回はちょっと今までと雰囲気が変わって落語っぽいところもあります、という最初の言葉通り、品川に行ってフラれた男たちがもてたいもてたいと騒いだり、変な芸を披露したり…とちょっと笑える場面も。
平兵衛はいい人だし、清蔵もちゃんとしているし、一瞬平和な感じだったのに、悪女が出てきて不幸へ転がり始める、るるる~。
そして宗太郎が明け方になって帰ってきたとき、生意気な小僧の口から「よしどんは寝ないで待ってました」という言葉が。そのよしどんとはもしや義松なのでは…。そして宗太郎をそそのかして店をめちゃくちゃにしてしまうのでは、という予感。
 
今回はツッコミどころがそんなになかったけど、きっとまた破たんしていくんだわ、噺が…。
 
さん助師匠「花見の仇討」
楽しかった!
耳の遠いおじさんがすごい大きな声で聴き間違いをするだけでおかしい。
大きな声を出すだけで面白いって最強な気がする。
 
あと立ち回りのシーンのぐだぐだぶりがすごいおかしい。いかにもお仕着せっぽいっていうか、運動神経悪そうっていうか(笑)。

 

次回「さん助ドッポ」5/29(月) 両国亭 18時半開場 19時開演
・おせつ徳三郎
・初代談州楼燕枝の述「西海屋騒動」第八回「舞扇のお静(前編)」

 
その後は、6/28、7/31、8/28

ひとりはん治第二回

4/25(火)、道楽亭で行われた「ひとりはん治第二回」に行ってきた。


・小はぜ「やかん泥」
・はん治「ちはやふる
・はん治「ぼやき酒屋」
~仲入り~
・はん治「ろくろ首」


小はぜさん「やかん泥」
わーい、小はぜさん。
前回は小はださんだったのでもしかして今回は…と期待しながら行ったら、入り口のところに小はぜさんの姿が!「ひとりはん治といいながら僕も出ちゃうんです、すみません」。いやいやいや、そんなことないです!うれしい!

泥棒の小噺から「やかん泥」。これはもしかすると一朝師匠に教わったのかな。
親分親分となつく泥棒のかわいらしさよ。にこにこしていて見ているこちらもうれしくなっちゃう。
頭をひっぱたかれると本気で怒り出すのがまたおかしくて、必死に謝る親分も憎めない。
なのに大釜を渡されると「うわ、これは立派ですね!」とニコニコして、親分が「機嫌がなおりやがった」とつぶやくのがおかしい。

二ツ目になった小はぜさんをこうして大勢のはん治師匠の前で披露できてよかったなぁ。
ってあたしゃ何者だ。


はん治師匠「ちはやふる
小はぜは私と違って勉強熱心でいろんな師匠のところに噺を教わりに行ってますし、筋もいいんです、とはん治師匠。ううう、うれしい。師匠がそんなことばを…。うるうる。

古典二席って私には厳しいです。そんなに噺も持ってないですしね…。でもあの…思い出しながら…やります。と「ちはやふる」。

はん治師匠の語りはいいなぁ。剣がないっていうかこうのんびりしていてそれだけでほっとするっていうか。
時々へんてこなクスグリが入るのがまた楽しくて最初から最後まで大笑いだった。楽しかった!


はん治師匠「ぼやき酒屋」
こちらは定番。といっても最近はほんとに「妻」率が高いので、「ぼやき酒屋」は久しぶり。
これも他の人で聞いた時は客が妙に突っかかるっていう印象があったんだけど、はん治師匠がやると全然嫌味がなくてひたすら楽しい。
やっぱり完成度が高いよねぇ。はん治師匠の文枝新作は。でも私ははん治師匠で古典が聞きたい!「ちはやふる」寄席でもやってほしいな。


はん治師匠「ろくろ首」
およめさんがほしいーーと叫ぶ与太郎がかわいい。
ぱちっと目が覚めておかみさんをうっとりと見つめるところも好きだな。

前回と同様、お客さんがたくさん集まって、打ち上げも大勢が残り、はん治師匠の人気を再確認したのだった。

柏枝ジャパン

4/24(月)、お江戸日本橋亭で行われた「柏枝ジャパン」に行ってきた。

・明楽「粗忽の釘
・柏枝「蝦蟇の油」
・南なん「夢の酒」
~仲入り~
・ナナ マジック
・夢花「寝床」
・柏枝「お玉牛」
 
明楽さん「粗忽の釘
この会に呼ばれて嬉しい、二ツ目でこの会に呼ばれるのはとても名誉なこと、と明楽さん。
なんたってこの会に出られる二ツ目は一人だけですからね。今ニツ目みんな頑張ってますけどその中から選ばれたってことですからね。
兄さんにもそう言ったんです。
そうしたら言われました。「他に空いてるニツ目がいなかったんだよ」
 
…わははは。
しゅっとした見た目に反してちょっと挙動不審な雰囲気がにじみ出ていて面白い。
 
そんなまくらから「粗忽の釘」。
なんだろう。うまいところとそうじゃないところが交じり合ってなんともいえない独特な味わいがあって面白い。
なんか好きかも。
 
柏枝師匠「蝦蟇の油」
小学4年生の時に初めて見世物小屋に入った時の話がおかしい。
蜘蛛男に蛇女。あきらかに太ってる蛇女の食事のシーンをお見せしますと、小さい蛇を食いちぎって生き血を吸ったんだけど、そもそもそれじゃ共食いだし、それだけの食事でその体型にはなりませんよね?っていうツッコミがおかしすぎる。
そして蛇女はなんか火を吐くパフォーマンスも見せたんだけど、それも蛇女に必要ない芸ですね。
ってもう!ぶわははは。
そんなまくらから「蝦蟇の油」。
柏枝師匠ってクールな感じに見えて突然激しく壊れるっていうイメージがあるんだけど、この噺でも酔っぱらってからのぐにゃぐにゃぶりがすごかった。
でも私の好きな柏枝師匠はこんなもんじゃないというのがちょっとあって、少しもやもや…。


南なん師匠「夢の酒」
最近「夢の酒」がお気に入りな南なん師匠。
若旦那が夢の話をしながら本当にうっとりしているのがおかしい。確かにこんな表情でうっとりと話されたら奥さんは面白くないだろう。しかもこの奥さん…きっと美人じゃないよな…というのが南なん師匠のこの若奥さん、なんかへちゃっとした印象なんだな。そこがまたすごくかわいいんだけど。

そして大旦那がとってもやさしい。夢の女に会いに行ってくださいと言われて「女だねぇ。あたしは気づかなかった」と決してばかにしない。

大旦那が夢に入って行ってからの夢感もすごく好き。楽しかった。


夢花師匠「寝床」
おもえば夢花師匠を寄席以外でこうしてたっぷり見るのも初めてなのだった。
癖があって好きなんだけど、ちょっと言葉が聞き取りづらい。早口すぎる?

義太夫に来られない言い訳がいつも聞くのと違うものがあってそれがおかしかった。
え?それ言い訳になってないのでは?っていう…。 


柏枝師匠「お玉牛」
今日のお客様はとてもお上品な方が多いようなので、私今とても迷ってます。
なのでちょっとお客様にお尋ねしますが…下品な話をやってもいいよという方拍手してください…あ、じゃ逆に下品な話は勘弁してくれという方は拍手をしてください…あ、いらっしゃらない…(にやり)。

「お玉牛」、初めて聴く噺。いやもうこれが面白いのなんの。
特に男が夜這いに行くところのしぐさがもうたまらなくおかしくて、笑いっぱなし。
いやでもこれ…柏枝師匠だったから気持ち悪さがなかったけど、確かに…人によっては「いやーーー!!」って悲鳴が上がる可能性もあるな(笑)。少なくともさん助師匠はやらないほうが…もにょもにょ。

下品っていうけど、こういう下品は大丈夫(きっぱり)。最高だった~。

これからお祈りにいきます

 

これからお祈りにいきます (角川文庫)
 

 ★★★★★

高校生シゲルの町には、自分の体の「取られたくない」部分を工作して、神様に捧げる奇妙な祭がある。父親は不倫中、弟は不登校、母親とも不仲の閉塞した日常のなか、彼が神様に託したものとは―(「サイガサマのウィッカーマン」)。大切な誰かのために心を込めて祈ることは、こんなにも愛おしい。芥川賞作家が紡ぐ、不器用な私たちのための物語。地球の裏側に思いを馳せる「バイアブランカの地層と少女」を併録。  

 「これからお祈りにいきます」というタイトルに感じる違和感のようなもの。
一話目「サイガサマのウィッカーマン」を読んで、え?なに?それ?と嫌悪ギリギリの感情を抱き、それはおそらく私の宗教アレルギーによるものなんだけど、でも最後まで読むとなんかこう身につまされるというか、人が人を想う気持ちというのはつまるところは祈りに通じるのかもしれないと静かな感動を覚える。

二話目「バイアブランカの地層と少女」も、恋愛でも友だちでもない…たまたま知り合った地球の裏側に住む少女の恋人のことを心配して、ちょっといい感じになった女の子のことがそっちのけになってしまう主人公。
誰かのことを想って祈るという行為って人間の中にある善の部分なんだなぁ。
心配性の主人公がたまらなく好きだわ。

久しぶりに読んだ津村記久子さん。やっぱりなにかこう独自なものを持っていて好きな作家さんだなぁとの思いを新たにした。

一龍斎貞寿 真打昇進披露興行 三日目

4/22(土)、お江戸日本橋亭で行われた「一龍斎貞寿 真打昇進披露興行」に行ってきた。


・貞奈「三方ヶ原軍記」
・春陽「の海勇蔵出世相撲
・貞友「出世の大盃」
・南北「THE家族 津軽の恋」
・琴調「出世の春駒」
・貞水「王将」
~仲入り~
・口上(貞友:司会、琴調、貞寿、貞心、貞水)
・貞心「石川一夢」
・貞寿「赤穂義士外伝 忠僕勝助」

春陽先生「の海勇蔵出世相撲
初めて見る先生。
とても軽妙で楽しい。話もわかりやすくて面白いし、軽くてギャグも満載で緊張がほぐれる。
いやぁほんとにいろんな講談があるんだなぁ…。講談の世界も奥が深いなぁ。
落語ファンの方々が次々講談の方にも進出?していく気持ちがわかる。


貞友先生「出世の大盃」
いかにもお酒が好きそうな先生がそれはもう気持ちよさそうにお酒の話をされる楽しさよ。
落語の「備前徳利」みたいな話だなぁと思っていたんだけど、後半にはいかにも講談らしい展開になってそれがまた楽しい。


南北先生「THE家族 津軽の恋」
わーーなんか強烈な人が出てきたー(笑)。
しかも講談も「新作」で、強烈ー。うわーーー。
なんかいろんな意味でびっくり仰天。すごいな、講談の世界も。


琴調先生「出世の春駒」
寄席で見るたびに「好きだ」と思っていた琴調先生。
「出世の春駒」は何回か見たことがあったけれど、こういう会にぴったりだし、ほどよく軽くて笑えていいなぁ。
前から好きだったけど、こうやって見るとすごくかっこいいなぁ。すてき。

貞水先生「王将」
うわ、まさか人間国宝をこういうところでこんなに近くで見られるとは思ってなかった。
小三治師匠もそうだけど、全然えらぶるところがないというか、素のままっていうかべらんめぇっていうか子どものまま大人になったみたいな…とても魅力的な人だなぁ。
そして、こういうおめでたい席だから自分が得意としている怪談話をするわけにもいかないし、赤穂浪士はトリでやるらしいし、さてどうしようと思って…自分でもめったにやらないしおそらく講談好きな人もほとんど聞いたことがない話をやります、と言って「王将」。

阪田三吉というもとは職人だったけれど将棋好きが高じてプロになった男が主人公。
プロになって8年目、関根名人と戦って勝つのだが、この人こそ三吉が素人の時に負けて悔しくてどうしても打ち負かしたかった相手だった。
ねぎらってくれる妻とは逆に「あれは関根名人が勝たせてくれたんだ」「関根名人の将棋には品があるけどお父さんの将棋にはそれがない」と三吉に言い切る娘。
そう言われて怒り狂う三吉だったが次の日妻に「あれが言ったことは本当だ」と認める。
それからまた年を重ね真に名人と呼ばれるようになった三吉。
関根名人の祝いに駆けつけ、二人は初めて腹を割って話をする。

講談にまったく詳しくない私でもこれがとても珍しい話だということはわかる。
将棋も勝てばいいというだけのものではなくて、それはきっと落語もそうだし講談もそうで…芸の道や生き方にもつながる話なんじゃないかなぁと感じた。
初めて見た貞水先生。こんな珍しい話を聞けて本当に来た甲斐があったというか…ラッキーだったなぁと思った。


口上(貞友先生:司会、琴調先生、貞寿先生、貞心先生、貞水先生)
司会の貞友先生が顔をあげてもよろしいですかと客席に声をかけてくれたおかげで、この間と違って顔を少し上げた貞寿さん。
表情が見られるのはとてもうれしい。グッジョブ!

琴調先生の優しさとユーモアに溢れる口上のあとの貞水先生。
今日は珍しい話をやって出来は決してよくなかったんですけどあれをやろうと思ったのには理由がありまして…。
というのは自分が真打になった時を思い出しまして…あの時は講談師の数が今よりもっと少なかったし、いわゆる「名人」と言われるような人たちの中に自分も入って行かないといけないということがとても嫌で、真打になんかなりたくないと泣きながらなりました。
この話を新劇で見た時に、これは講談にできるんじゃないかと思って作者の住所を調べて許可をもらいにいきました。
話をしてみると「私はそもそもあなたがどんな芸をやるかも知らないしそれで許可を出せというのは難しい。まずは講談にしてやってみなさい。見に行くから」と言われました。これはまずはやってみなさいと言って下さったわけでとてもありがたい言葉だった。
そしてその会にこの先生見に来てくださって、「これは全部で三巻まである長い話なんです。ぜひ全部やってください」と言って下さった。

口上が始まって顔をあげていた貞寿さん、貞水先生が「自分が真打になった時を思い出して」と言ったとたん、頭がぐっと下がった。
この日が真打披露目だから自分が真打になった時の気持ちを想いだしてこの話をされたと言われて涙がこらえられなかったんだろう。
私もなんか胸がいっぱいになって泣いてしまった。

挨拶を終えた貞水先生に隣に座った貞心先生が頭を下げてお礼をおっしゃっていて、本当に嬉しそうだったのが印象的で、本当に感動的だった。
そのあとに挨拶をされた貞心先生が貞寿さんに向かって「よかったな」と声をかけ、自分はとても明るく軽い挨拶をされたのも素敵だった。多分泣いている貞寿さんがそれ以上泣かないようにされたんだじゃないかな。

 

貞心先生「石川一夢」
これも初めて聴く話。
いいなぁ、こういう話を自分の弟子のお披露目の席でやる師匠って…。見るほどに好きになるなぁ。貞心先生。
あたたかくて柔らか味のある講談。好きだ。

貞寿先生「赤穂義士外伝 忠僕勝助」
自分の憧れの先生方はこうして口上に並んでくださってこれを幸せと呼ばずに何と言ったらいいのか。
私40過ぎて…ほんとに涙もろくなってしまって…泣かずにいれば大丈夫なんですけど一度泣いてしまうともうだめです。

そう言いながらも「講談には必ずダレ場というのがありまして。今日は…ダレ場です」と笑いに変えるのがさすが。
そして前回までのあらすじから「赤穂義士外伝 忠僕勝助」 。

城を明け渡した大石内蔵助が赤穂から山科に出発するところ。長年仕えていた勝助が挨拶に来て蔵助の形見が欲しいと言う。
勝助と話をしているうちに自分の日頃の行いや忠義から仇討をするだろうと世間で言われていることを知った蔵助が…。

地味だけど蔵助の魅力がたっぷり。とてもよかった。
あーあと2日も行きたいなぁ。昼間なんだよねぇ。くー。

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圓馬社会人倶楽部

4/21(金)、お江戸日本橋亭で行われた「圓馬社会人倶楽部」に行ってきた。
寄席で見てすごく好きになった圓馬師匠の会。芸協はこういう若手真打の会をやっているのが羨ましい。開演時間が早いのがちょっと辛いけど…と言いながら圓馬師匠を二席見たかったのでそ~っと会社を抜け出して行って間に合った!


・双葉「街角のあの娘」
・圓馬「花見の仇討」
・松鯉「名人小団治
~仲入り~
・柳太郎「片棒」
・コント青年団 コント
・圓馬「佐々木政談」


双葉さん「街角のあの娘」
初めて見た双葉さん。この噺は私がかなり苦手なあの師匠の新作ですね…。噺のせいもあるかもしれないけど、苦手かも…。

圓馬師匠「花見の仇討」
協会主催の若手の会ということで…私もまだ「若手」なんですね。まだ「若手」なのかぁって…ちょっと複雑なものがありますけど。
それでも多分この会に出られるのもあと2年ぐらい。あとがつかえてますんで。

前にあがった双葉さんの新作を「私あの噺はいろんな演者で数十回は見てるんですけど…何回見ても途中でなんかわからなくなっちゃうんです。今日も袖で見てたんですけど、やっぱりわからなかった。」

…わははは。
そんなまくらから「花見の仇討」。
最初から最後までテンポがよくてとても楽しい。
待ち合わせ場所に向かう仇を探す役の二人が、松坂屋の角を曲がってABABを通り過ぎてマクドナルドのあたりで侍に出会うというのがおかしい。

聴いているともうこの師匠すごく好きだーと思うんだけど、どこが好きなのかがとても説明しづらい。
例えば南なん師匠だったらあの独特の空気感、話し方、声、表情…とても特徴があるし、例えばさん助師匠もあの内側からぴかーっと輝く明るさとかその一方でひねくれてて暗いところとか…説明ができるんだけど、圓馬師匠のどこに魅力を感じているかというの…どこってまだ自分でもはっきり言えないんだな。

なんだろう。テンポのよさ、押しが強いわけではないけれどメリハリがあるところ、独特の味わいっていうかなんかこうキラっと光る魅力があって、そこに惹きつけられる。あーうまく説明できない!


松鯉先生「名人小団治
最初、中村仲蔵?と思って聞いていたんだけど、あれ?違う?初めて聴く話。
引き上げられたのにチャンスを生かせず破門されてしまった若い役者。自暴自棄になりかけたところを座長になだめられ、自分を破門にした役者の草履を懐に入れて消えてしまう。
それから20年がたち、二人が再会する。上方を後にした若い役者は江戸で小団治と名乗り名人と呼ばれるようになっていた。

これがもうとてもよくて…胸を打たれて泣いてしまった。
いいなぁ。松鯉先生。

柳太郎師匠「片棒」
新作のイメージが強い師匠なので「片棒」はちょっと意外。
ところどころ強烈なギャグが入っていておかしかった~。


圓馬師匠「佐々木政談」
今まで何回も聞いている噺だけれど、当時奉行所で賄賂が横行し佐々木信濃守はこの悪しき風習をどうにかして断ち切りたいと思いながらも表立って注意をするわけにもいかず何かいい手はないかと思っていた、という前置きがあったのは初めてで、それゆえにこの生意気で頭のいい子をわざわざ奉行所に呼んで話をさせたのか!というのがわかって驚いた。
いままでこの噺って育ちは悪いけれど頭が良くて度胸もある子供の出世物語、としか思っていなかったよ。

面白かった~。なんかこの噺の見方が変わった。

一龍斎貞寿 真打昇進披露興行 二日目

4/20(木)、お江戸日本橋亭で行われた「一龍斎貞寿 真打昇進披露興行」二日目に行ってきた。


・伊織「三方原軍記」
・凌鶴「一心太助 旗本との喧嘩」
・梅福「お竹如来
・琴柳「野狐三次 木端売」
・貞山「出世田沼」
・琴梅「秋色桜」
~お仲入り~
・口上(琴柳:司会、貞山、貞寿、貞心、琴梅)
・貞心「真柄のお秀」
・貞寿「赤穂義士本傳 赤穂城大評定~矢頭右衛門七
 
伊織さん「三方原軍記」
言ってる言葉がほとんど理解できず、不安にかられる。
こここりは。こんな調子で講談ばかりがずーーーっと続いて大丈夫だろうかあたし。ひぃー。
 
凌鶴先生「一心太助 旗本との喧嘩」
おおお、面白い。
一心太助という魚屋が魚を買ってもらおうと屋敷に入っていくと、獰猛な犬をけしかけられる。
侍を恐れぬ一心太助、その屋敷の主に刀を抜かれて絶体絶命のピンチになるのだが、そこを通りかかった侍が…。
講談というより落語っぽい話。
凌鶴先生初めて見たけど、独特の軽さがあってとっても楽しかった。好き好き。
 
梅福先生「お竹如来
言いよどみが多くてドキドキしてしまった。あんまり普段やらないはなしだったのかな。
梅福先生は前にも一度見たことがあるんだけど、講談に詳しくないのでなんという話だったのかわからなかったんだよな。
 
琴柳先生「野狐三次 木端売」
琴柳先生は寄席で何回か見ているけど大好き。
こういう孝行の話って結構あるんだな、落語や講談には。
生意気で気骨があって病気の母親を助けようとする子どもが琴柳先生にぴったり。
 
貞山先生「出世田沼」
おお、貞山先生!か、かっこいい。前に松之丞さんが講談は男前じゃなきゃいけない、自分はかなりぎりぎり(やばい)みたいなことを言っていたけど、たしかにこれは…講談顔(え?失礼?)。
武士の話を得意とされているんだろうか。なんかとても重厚感がある語りでかっこよかった。

琴梅先生「秋色桜」
おお、この話は聞いたことがある。こういうのもおめでたい席で好まれる講談なんだな。なるほど。
琴梅先生は初めて見たけれど 重厚感もあるけど軽さもあってあたたかみもあって…講談に通い続けていたらこういう先生を好きになりそうな予感…。


口上(琴柳先生:司会、貞山先生、貞寿先生、貞心先生、琴梅先生)
頭を深々と下げている貞寿さん。落語の披露口上では少しだけ顔をあげるから表情が見えるけど、これだと全然見えない。
初日はかなりにぎやかな口上だったらしいんだけど、この日は司会が琴柳先生だったせいか?あるいは並んでいる先生方のキャラクターなのか、とてもぴしっとした口上で、初めて行った私にはとてもいいメンツだった気がする。
明るくて人懐っこくてひたむきな貞寿さんをどの先生もみな大好きでかわいがっているのが伝わってくる口上。
貞心先生が頭を下げている貞寿さんを時折ちらっと見つめるんだけど、そのまなざしが優しくてじーんとくるし、貞山先生が時々ちらっと貞寿さんを見るのがなんか面白がってる感じが伝わってきて楽しかった。
琴梅先生がこういう場合のご祝儀について事細かく説明したのも、やさしさっていうか思いやりがあってよかったなぁ。
下を向いている貞寿さん、きっとにこにこの笑顔だったんだろうな。
 
貞心先生「真柄のお秀」
初めて見た貞寿さんの師匠。かわいいっ!(笑)
とてもユーモラスな話をすごくいいリズム、気持ちのいい声、そしてあの愛嬌のあるかわいらしい顔でされるから、楽しい楽しい。
私、この先生好きだわ。
 
貞寿先生「赤穂義士本傳 赤穂城大評定~矢頭右衛門七
にこにこ顔で登場。本当に嬉しそうで幸せそうで見ているこちらもうれしくなる。
このお披露目では「赤穂義士本傳」を通しでやります、と「赤穂義士本傳 最後の大評定」。
講談をそれほどたくさん聞いているわけではないので初めて聴く話。
まくらは可愛らしい声の貞寿先生だけど、話が始まった途端に声の出し方ががらりと変わって、それがかっこよくて鳥肌がぞわぞわ…。

特に「矢頭右衛門七」の母とのシーンには涙涙。
気合が入っているけど力は入りすぎてないとても素晴らしい高座だった。


そもそも貞寿さんのお披露目に行こうと思ったのは、連雀亭で見た貞寿さんのまくらと講談がとても楽しかったからと、時々読んでいた貞寿さんのブログがとても好きで…特にこの日の記事を見た時、もう他人とは思えなくて、いてもたってもいられなくなったからだった。

ameblo.jp

講談は寄席で間に挟まっている時に聞くぐらいで、嫌いではないけれどあえて講談だけの会に行くほどではないと思っていたし、講談だけずーーーっと続くのは自分にはちょっときついんじゃないかとも思っていた。
でも行ってみたら講談の中にもいろんな話があって、そしていろんなタイプの講談師がいるんだなぁ、と改めて気づかされて、とても楽しかった。

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これからはあるくのだ

 

これからはあるくのだ (文春文庫)

これからはあるくのだ (文春文庫)

 

 ★★★★

自分が住んでいる町で道に迷い、路上で詐欺にひっかかり、飛行機が嫌いなのに海外旅行に出かけてしまうカクタさん。騙されても理不尽な目に遭っても自らの身に起こった事件を屈託なく綴るエッセイ集。そのボケッぷりとユニークな発想は、少女時代から大炸烈!大人になってよかった、と思える一冊です。  

軽めのエッセイが多いので少し物足りないけれど、安定の面白さ。

相変わらずタイトルが秀逸だが、読み終わってこの言葉にこめられた角田さんのやり場のない怒りがわかると、なんてひどい!とやり場のない怒りにかられるのだが、でもちょっと笑ってしまう。
怒るのが下手で怒られるのが苦手な角田さん。決して笑えるような出来事ではないのだが、でもそれをじっと黙って耐えて、握りこぶしを作りながら「あるく」決意に変える角田さんが大好きだ。

最後に収められた「孤独」についてのエッセイがたまらなく好き。

友と手をふってわかれて上機嫌でベッドへもぐりこみ、幸せな眠りをむさぼって、それでもときおり、ずうずうしい同居人のように部屋に居座った孤独と、しみじみ顔をあわすことがある。まさに自分の位置と同じ質量の孤独である。

 

夜のサーカス

 

夜のサーカス

夜のサーカス

 

 ★★★★★

夜だけ開く黒と白のテントのなか、待っているのは言葉を失ってしまうようなショウの数々。氷でできた庭、雲の迷路、優雅なアクロバット、ただようキャラメルとシナモンの甘いにおい…しかし、サーカスではひそかに熾烈な闘いがくりひろげられていた。若き魔術師シーリアとマルコ。幼いころから競い合いを運命づけられてきた二人は、相手に対抗するため次々とサーカスに手を加え、魅惑的な出し物を創りだしていく。しかし、二人は、このゲームの過酷さをまだ知らなかった―魔法のサーカスは世界中を旅する。風変わりなオーナー、とらえどころのない軽業師、謎めいた占い師、そしてサーカスで生まれた赤毛の双子…様々な人々の運命を巻き込んで、ゲームは進む。世界で絶賛された幻惑とたくらみに満ちたデビュー作。  

 サーカスの物語ってもうそれだけで2割増しぐらい評価が上がってしまう。さらにそれに魔法の要素が散りばめられるとほんとに弱い。

モヤモヤしたところが多く、最後まで読んでも腑に落ちない部分もあるし、小説として焦点が定まりきれてない感じもするけれど、でもそれはそれでいいと思う。

魔法をマジックのように見せる美しい奇術師、彼女の対戦相手である青年との運命の出会い、サーカスの幕開けの日に産まれた双子、そしてサーカスに魅了される人たち…と登場人物が魅力的で生き生きしている。

そして魔法の力で成り立っている夜のサーカスの描写がとにかく色覚的に素晴らしい。作者が舞台美術を勉強してきたことによるものなのかもしれない。

もうこの世界に浸ってるだけで幸せだった。余韻を残すラストも素敵。素晴らしかった。

ふたりらくご

4/17(月)、ユーロライブで行われた「ふたりらくご」に行ってきた。
渋谷らくごに行くのは今回が初めて。始まった当初から何かと話題になっていたし好きな噺家さんも出ていたのだけれど、ふたりらくごの18時開演は早すぎるし、かといって渋谷らくごの20時開演は遅すぎる…というのもあってなかなか行けなかったのだが、今回は大好きな左談次師匠と秋に真打ち昇進が決まっている気になる志ん八さんの組み合わせだったので、満を持して(←大げさ)。

・左談次「五人廻し」
・志ん八「ん廻し」

 

左談次師匠「五人廻し」
志ん八さんが秋に真打に昇進し師匠「志ん五」の名前を継ぐことになっているので、今日のトリは志ん八さんがとります、と左談次師匠。
志ん八さんの師匠の志ん五師匠は日暮里の長屋に住んでいて、自分はほんとに足しげく通っては飲ませてもらっていた。
志ん五師匠の名前はもともとは「志ん三」で志ん朝師匠が「志ん三」と付けていたのだが、5丁目に引っ越しをして「志ん五」を名乗るようになり、志ん朝師匠が「なんて無礼なやつだ」と言っていた(笑)。
その志ん五という師匠の名前を継ぐ志ん八さん。師匠の名前を継ぐというのは本当にすごい名誉なことで…私が談志を継ぐようなもの…そう考えてみるととんでもねぇことだな!
 
…ぶわははは。
左談次師匠のこの軽さと毒とでもちょびっとにじみ出るやさしさがたまらない。大好きだ。
 
そんなまくらから「五人廻し」。
もうこれがすごく楽しい。
特に漢語交りに話す理屈っぽい男の物言いがツボでおかしくておかしくて。
4人目の「〇〇でげす」という男の気持ち悪さも左談次師匠だとカラッとしていてとても楽しい。
大臣の部屋にいた花魁のけだるくさばさばした色気にはちょっとどきっとした。
 
志ん八さん「ん廻し」
仕事を断らないことをモットーにしている志ん八さん。
跳び箱の上で落語をやったというまくらから「ん廻し」の通し。
志ん八さんの古典聞いたのは初めて。
新作はなんかあんまり好みではないんだけど(すみません!)、古典の口調とかリズムが気持ち良くてすごく良かった。軽くてテンポがよくてメリハリがほどよくあって。
うわーーなんかびっくりだなぁ。先代の志ん五ファンの友だちが「志ん八さんの古典、すっごくいいから聞いてほしい」と言っていたけど、たしかに…。

真打披露目も楽しみになってきた!

鈴本演芸場4月中席昼の部

4/16(日)、鈴本演芸場4月中席昼の部に行ってきた。


・たま平「子ほめ」
・小んぶ「浮世床(本)」
・紋之助 曲独楽
・文菊「権助提灯」
・はん治「妻の旅行」
・にゃん子 金魚 漫才
・小里ん「たらちね」
・歌奴「新聞記事」
・夢葉 マジック
・川柳歌で綴る太平洋戦史」
~仲入り~
・ホームラン 漫才
・燕路「初天神
・権太楼「代書屋」
・二楽 紙切り
・さん助「妾馬」


小んぶさん「浮世床(本)」
産院で落語をやったとき。着物姿でうろうろしていたら赤ちゃんを産んだばかりのおかあさんに声をかけられた。
「あの…お相撲さんですよね?お名前は?」
「え、ええと…小んぶです」
「あ、モンゴル人ですか?」

「あの…お相撲さんに赤ちゃんを抱っこしてもらうと丈夫な子に育つって聞いたことがあって…抱っこしてもらえますか」
そう言われて赤ちゃんを抱っこした小んぶさん。なんかお相撲さんらしいことを言わなきゃいけないと思って、赤ちゃんに向かって「…どすこい」。

…ぶわははは。小んぶさん、おかしい~。
そんなまくらから「浮世床(本)」。
本を読んでる男が他の人がやるのと違って素直っていうか逆らわないのが小んぶさんらしい。
鼻から息が抜ける読み方がおかしくて笑い通しだった。

文菊師匠「権助提灯」
おかみさんが妾の家に言ってあげてくださいと言う時の黒い表情が最高。
そうか。おかみさんは旦那を試したんだ。だから「じゃ行ってこようかな」と言った瞬間にもう家には入れてもらえないことが決まってたんだ。

女たちの黒い表情と裏腹に大声あげて楽しそうな権助がおかしい。
戸をたたいて「うぇーーーーー」って叫ぶだけでこんなに面白いとは。昨日見た「権助提灯」とは大違いだった。
好きなタイプの落語をやる師匠じゃないけど隅々まで心が行き渡っていてきれいだし文句なく面白い。

小里ん師匠「たらちね」
最近の前座さんの「たらちね」って、お経じゃなくてネギを買うところまでやるのがスタンダードになっているけど、もしかするとこれが元なのかな?というような「たらちね」だった。
正直聞き飽きた噺をお手本的に淡々とされるのでちょっと気を失いそうになりつつ…でも奥さんの大仰な物言いに威厳があってそこがやけに面白かった。


川柳師匠歌で綴る太平洋戦史」
元気に歌う川柳師匠が見られて幸せ。寄席に行き始めたころに川柳師匠に当たると困惑しかなかったが(「なにこれ?」「え?戦争バンザイ?いや反戦?」「え?ジャズ?なに?」)、今はもう出てきただけで嬉しい。


さん助師匠「妾馬」
まくらなしで「妾馬」。
八五郎がいかにもごろつきって感じなんだけど、それでも根が正直な男というのが伝わってきて憎めない。
支度金の三百両もつかっちゃってて、お金をほしがるわりにあんまりお金に頓着してないというのもけろっとしていていいな。

屋敷に呼ばれてから、殿様が自分と一緒だと気づまりだろうと言って、三太夫と八五郎でつぎの間に下がるというの、他の人では聞いたことがない。でも確かにその方が自然。
すぐに奇声を発する八五郎に声を小さくしろと言い続けていた三太夫が、八五郎がお鶴の生んだ子供の顔も見られないと言った時に「声が小さいですぞ」と言うのがいいなぁ…。

が「あにさん」と声をかけただけで「もう何も言わなくていい」と言う八五郎にじーん…。
はちゃめちゃだけどちょっと泣ける「妾馬」。初めて見た時ははちゃめちゃの方が勝っていたけど、見るたびに人情味が増している気がする。よかった。

***

昨日の広小路亭の客いじりが辛かったので、客いじりのない今日の寄席はそれだけで安心して見ていられて幸せだった。
にゃん金とか正直面白いと思ったことがないんだけど、自分たちのネタをやって爽やかに帰って行ってくれてそれだけですばらしいと思った。

この間、末廣亭に行った時、私の隣の席にいたおねえさんがとてもきれいな人だったんだけど好き嫌いを思い切り態度に出す人だった。
好きな人の時は激しく拍手して声をあげて笑って、そうじゃない人の時はぱらぱらの拍手でつまらなそうに見ていて時々ため息をついて、嫌いな人の時は拍手もしないし一度も顔をあげずに目を伏せるか席を立つ、というのが徹底していて、正直不愉快だった。
やっぱり寄席を見に来てるんだから好きな人の時に大きな拍手をするのはいいとしても、そうじゃない人の時に何もそこまで差をつけなくてもいいじゃないか、と。

目に入れるのも嫌なほど嫌いという人が私もいないわけじゃないけど、それでもやっぱり舞台に目を向けて最初と最後の拍手はしなくちゃ、と彼女の姿を見ていて思ったのだった。

でも昨日みたいなことがあると、やっぱりほんとに嫌だなぁと思う時は席を立った方がいいのかもしれない、と思った。
ほんとはそういうのも含めて楽しめるようになったら一番いいんだろうけど、好き嫌いが激しいし心が狭いからなかなか難しいな。

上野広小路亭4月中席前半昼の部

4/15(土)、上野広小路亭4月中席前半昼の部に行ってきた。


・昇咲「子ほめ」
・金かん「道具屋」
・鯉輪「権助提灯」
・里光「紀州
・一矢 相撲漫談
・夏丸「茄子娘」
・文月「出来心(前半)」
・南玉 曲独楽
・圓輔「夢の酒」
~仲入り~
・紫「中山安兵衛高田馬場の駆け付け」
・京丸・京平 漫才
・遊之介「お見立て」
・南なん「不動坊」
・小天華 マジック
・遊史郎「稽古屋」


昇咲さん「子ほめ」
初めて見た前座さん。昇太師匠の9番目のお弟子さんだそう。
まだ上下もうまくふれてない感じなんだけど、時々ちょっとおかまっぽく?なるのが面白い。きっと新作派だな。


金かんさん「道具屋」
前にも一度見たことがあるけど、さすが金遊師匠のお弟子さん。前座さんなのにどこか渋い。うまいんだけどこれ見よがしなところとか前へ前へ出る感じが全然ない。なんか気になる前座さんだ。


鯉輪さん「権助提灯」
「落語が二つ続いたからみなさんもうお疲れでしょう。私はもう疲れてます」と出てくるなりいきなり愚痴。
そのあともずっとなんかぐずぐず言っていて、途中から入るお客さんがいるとそれにもいちいち声をかけたりいじったり…そのうち最前列に座ったおじいさんをいじったらこの人がもう喋る喋る。収集がつかなくなってしまった。
「もう私はっきりいってやるきありませんから」って…。なんだろう、ギャグのつもり?でも最初から見てるとほんとにそうだとしか思えなくて「でもこのままさがったら私くびになりますから」と言って「権助提灯」。
客いじりなんかしないで普通にやってほしかったな。


里光師匠「紀州
出てくるときに笑い声が聞こえたから多分鯉輪さんからおじいさんのことを伝えられていたんだろう。
その人のことを警戒しながら?でも変にいじったりせずに「紀州」。
ああ、よかった…ちゃんとした空気に戻してくれて。あのままあっちでもこっちでもおじいさんたちがしゃべりだしたらもうせっかく楽しみに来たけど帰ろうかと思ったよ…。
関西弁だと同じ噺でも印象が違う。より笑いやすくなる感じ。
あと歴史音痴なので三役の説明があったのがよかったな。
こういう空気の時に「紀州」をさらっとやる里光師匠、すてきだった。

夏丸さん「茄子娘」
噺家っていうのは変な商売で変な人が多いです、と夏丸さん。
普通の人だったら「前に出てなんでもいいから5分やれ」と言われたら「私はそんなことできません」と断るところを、つらい前座修行を4年位やってまで仕事としてやろうというんですから。変な人ばかりです。
いろんな仕事がありますけど、一番ストレスがかからないのが「農業」だそうです。もちろんいろんな苦労はあるんでしょうけど、広大な敷地で農作物を育てるという仕事自体にはストレスはない。それはわかるような気がします。
そんなまくらから「茄子娘」。これがもうとってもいい。夏丸さんの淡々とした喋りとこの不思議な噺がとても合っていて独特な雰囲気。
高座に向かって話しかけるおじいさんがいたり、反応が控えめなお客さんに演者の方がいらっとするようなシーンもあったりしたんだけど、それがこう涼しい風に洗われるような雰囲気になった。

うおおお、夏丸さん、すごい!
まくらの途中で例のおじいさんが話しかけたんだけどそれを華麗にスルーして、一切客いじりをしないで空気をがらっと変えた。
なんかもともと好きだけど、惚れ直したよ。すごくよかった。
後ろの席にいたおじさんが「才能のかたまりだな」とつぶやいていて、うれしくなった。


圓輔師匠「夢の酒」
初めて見る師匠。
もうまくらから目が釘付けになってしまった。好きだーー、私この師匠、すごく好き。
右手を怪我されていて、なんでも自転車で転んだとか。利き手なので大変でお風呂も娘さんに入れてもらっているとか。
で、年をとるとできものなんかもできるようになって、この間はお尻にできものができてしまった。自分で見ることもできないし家族に見てもらうのも抵抗があるし…。
それで家族が全員出払ったときに「いまだ」と思い、三面鏡の前で膏薬を貼ろうと四苦八苦。鏡の助けを借りてどうにか貼って「やれ安心」と思っていたら。
帰ってきた奥さんが「ちょっと。鏡に膏薬貼ったの誰?」。

…ぶわはははは。もうこれがおかしくておかしくてツボにはまって笑いが止まらない。私、こういう小噺、ほんとに大好き。しかもそれを淡々と言うものだからおかしくておかしくて。

そのあと、豊臣秀吉が聞いた小噺も披露して、そういう噺に入るのかなと思っていると、やきもちのまくらからなんと「夢の酒」。
これがもう…楽しくて楽しくて!
もしかして南なん師匠の「夢の酒」はこの師匠から?違うかな。
でも印象は違っていて、こちらの大旦那は本当の酒好きで、夢の中に入ってからも「お酒を召し上がっていただいて」と言われると、小言そっちのけで「それなら一本いただきましょう」と明らかにウキウキ。
でも「湯が沸くまで一本目は冷やで」と言われると「冷やはいけません。それでしくじってますから。冷やはいけません」。
サゲの一言にも、あー夢なんだったら飲んでおけばよかったなぁ、という酒飲みの実感がこもっていて、おかしかったー。

すごく好きだ、この師匠。また好きな噺家さんが増えてしまった。うひょひょ。


京丸・京平 漫才
笑いが控えめなお客さんに客いじり爆発。
ちょっとネタをやっては「これでも笑わない」「昨日のお客さんは笑ってくれたのに」「ふつう女性は笑うのに」「若い女性が笑ってくれるけど今日は若い人がいない。おばあさん、おばさん、おばあさん…」。
確かに笑わないお客さんだったかもしれないけど、面白ければ笑ってたし、あんなに責められたら苦痛でしかないよ。狭い空間で個人攻撃されてつらかった。
もうほんとに終わってほしくて最後は無理に笑って拍手してようやく帰ってくれた。終わった後、何人かで顔を見合わせてしまった。
うけなかったらネタだけやってすっと帰ってほしい…。地獄のような時間だった。

※ほんとにいやだったなぁ、あれは何だったんだろうと思って検索したら、どうやら客いじりはこのコンビの「得意技」らしい。あれを芸としてやっていたのか?あまりにウケないから度を失ってああなってしまったのかと思っていたたまれない気持ちだったんだけど、あれが芸風?えええ?いやな芸だな(笑)。

南なん師匠「不動坊」
あんなにも笑わないことを責められるとほんとに私たちが悪いんじゃないかという気持ちになってしまうけど「お客さんが来てくれたっていうんで楽屋一同大喜び」といういつもの言葉に救われる。
ううう、楽屋ではきっと「今日の客は笑わないよ」と言いあっているんだろうけど(明らかにそう聞かされた風で強張った表情で出てきた師匠もいた)、でも嘘でもそう言ってくれたらほっとするよ…。

南なん師匠の「不動坊」は何回も見ているけど、いつもよりちょっと陽気な「不動坊」でそれにもなにか慰められた。
攻撃的なところがまったくなくて穏やかで優しくて楽しい南なん師匠の落語。いいなぁ。
どっと笑いが起きなくても、心の底から面白いと思ってるお客だって中にはいるんだから、全体の反応にあんまり左右されないでほしい。そういう意味で南なん師匠は本当に真摯に自分の落語をやってくれるからいつでも安心して見られて幸せな気持ちになれる。


遊史郎師匠「稽古屋」
桜田淳子復活を祝って?変な替え歌。ぶわははは、なんだこれ。妙にうまくてだけどそれが噺に何も関係ないのがおかしい。

鳴り物入りの「稽古屋」。歌がとてもうまくて三味線に合ってて気持ちいいし、踊りのしぐさもとてもきれいでいいなぁ~。こういう噺をトリでやるってすてき。それもこうしんなりしていて気負った感じが全然なくて、ただひたすらに軽くて楽しい。
好きだな、この師匠も。

途中でかなり心が折れたけど最後まで頑張ってよかった。楽しかった。

みなと毎月落語会 柳家小三治独演会

4/14(金)、赤坂区民センターで行われた「みなと毎月落語会 柳家小三治独演会」に行ってきた。

 

・はん治「ろくろ首」
小三治「転宅」
~仲入り~
小三治「小言念仏」


はん治師匠「ろくろ首」
わーい、はん治師匠。「おなじみのおはなしです」と始まったので、「妻」だろうと思っていたら、なんと「ろくろ首」!うれしい~。はん治師匠の「ろくろ首」とっても久しぶり。ほんとにねぇ…もっと古典をやればいいのに、と思うのですよ。面白いんだから。
おじさんになかなか言いたいことを言えない与太郎。「はっきり言ってみろ」と言われても「おもにょにょ…がほしい」。「なんだ?息がもるじゃねぇか。はっきり言え」「じゃあいうけど…およめさんがほしいーーーーーおよめさんがーーー」。
切羽詰まった叫びに大笑い。

婚礼の晩になかなか寝付けない与太郎が、お嫁さんのことをうっとり見ていると、首がのびていくところ…黙って目線が動くだけなのに、とってもこわい。そう、結構こわいんだ、はん治師匠の「ろくろ首」。
とても楽しかった。この噺、大好きなんだよね。


小三治師匠「転宅」
青山高校に行っていたので、このあたりにはなじみがあるという小三治師匠。
高校生の時、屋上に上がってお昼を食べていると、神宮球場のスコアボードが見えた。ちょうど早慶戦をやっていて慶応のピッチャーがその後巨人の監督になった藤田。早稲田の方が…こんな話をしても今日のお客さんはみなお若いからわからないでしょうね。

…いやいや、藤田監督はすごく好きだったので、選手時代は知らないけど知ってます!
思わず身を乗り出してしまう。

それから話はどんどん脱線していき、自分の父親は校長で天皇を「神様」と言い切るような人間で、毎朝庭から皇居に向かって手を合わせていて、自分も付き合わされたこともある、と。一応父親に合わせて手を合わせたもののどうしても気になることがあって父親に向かってある時聞いてみた。
「ねぇ、天皇って神様なんだよね?」
「そうだ」
「だったら、神様はうんこするの?」
自分としてはどうしても気になるポイントだったのだが、父親は答えてくれず頭をポカリと叩かれた。
最近になって天皇にお会いする機会があったけれど私は大人なのであえて聞いたりはしませんでした。「あの…うんこはしますか」なんてね。

人間国宝になってそんなこと聞いたらほんとに驚くわー。
でもまだそんなことをもちろん冗談だろうけど言ってる師匠がかわいい~。

で、「あれ?なんでこんな話になったんだろう?」と言いながら、そういえば赤坂見附の方には池がありましたけど今もありますか?
あそこの池で私はボートを練習してボートがげるようになりました。あと、魚釣りもね。あそこにはせこい魚しかいないんですけど、でもあそこで釣りも覚えました。
あ、そういえば急に思い出しました。おふくろがそれに付きあってくれたことがありました。着物を着てね、一緒にボートに乗って。私は釣りをしたいんでおふくろだけ岸でおろそうとしたんですけどね。ボートを岸につけたらロープで固定しないといけないんですけどそれを知らなくてね。適当な場所につけておふくろだけおろそうとしたら、ボートがふわっと岸から離れだしましてね。おふくろはかわいそうに…池にぼちゃん。着物のまま落ちちゃいまして。
濡れたまま…電車に乗って帰ったんですね。今思えばかわいそうなことをしました。

「で、あれ?なんでまたこんな話をしたんだろう。あ、そうそう。ここのホール。その高校時代に、文化祭でこのホールを使ったんですよ。1年生の時のクラスで演劇をやってそれが『湖の娘』っていう劇で…私は父親役だったんですが、湖のそばに住んでいてそこに復員兵がやってきて二人で酒を飲みながら話すんですが…実はその父親には戦死した息子がいて、その復員兵がその息子の事を知っていて二人で話す…まだ戦争が終わって1年ぐらいしかたってないときでしたから、そのシーンでお客さんがみんな泣きだしてね…あれは忘れられない思い出ですね…。思えばあの時私は役者になりたかったのかもしれない」

とりとめもなく話をしていたけれど、でも本当に戦争は嫌だ、戦争なんかしちゃいけないんだ、という師匠の気持ちが伝わってきて、胸を打たれた。
私は小三治師匠がそういうことをはっきりと言うところが本当に好きだし尊敬できるし同じ気持ちでいることにほっとする。

まくらが長すぎたんだろう。
途中で幕の後ろから何かコツコツ叩いている音が。これはきっと「もう時間が」という合図だったんだろうけど、師匠は気づかず。でもさすがにまずいと思ったのか「転宅」。
この日はすごく席が良かったので表情がつぶさに見られて、どろぼうが鼻の下を伸ばすところがもうかわいくておかしくて…。
やっぱり小三治師匠ってすごく表情が豊かなんだなぁ、と改めて思ったのだった。


小三治師匠「小言念仏」
出てくるなり「みなさんもお気づきかと思いますが…時間がありません。なぜかといえば私が…長く話しすぎたせいで…合図をしてたらしいんですけど全然気づかなかった…。本当にすみません。…ぶわはははは!」

その後も少しだけ話をしてそれから「小言念仏」。おお、ちゃんと二席やるのね(笑)。
隣のおばあさんたちは師匠の「小言念仏」が見たいと言っていたから大喜びだった。
私もこんな近くで「ばぁ~」が見られてうれしかった!