りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

おばちゃんたちのいるところ

 

おばちゃんたちのいるところ - Where the Wild Ladies Are

おばちゃんたちのいるところ - Where the Wild Ladies Are

 

 ★★★★

わたしたち、もののけになりましょう!
あるときは訪問販売レディ、あるときはお寺の御朱印書きのアルバイト、そしてあるときは謎の線香工場で働く〝わたし〟たち。
さて、その正体は――?!
八百屋お七や座敷童子、播州皿屋敷お菊たちがパワフルに現代を謳歌する痛快連作短篇集。

嫉妬、憎しみ、孤独に苛まれ、お化けとなった女たちの並々ならぬパワーが昇華され、現代女性の生きにくさをも吹き飛ばす!
ここにしかない松田青子のユニークかつ爽快な17つの物語 

 読んでいて、あれ?牡丹灯籠?野ざらし?…松田さんってもしかして落語好きなの?と嬉しくなっていたら、後ろに各作品のモチーフ一覧が載っていて、これらは落語や歌舞伎をモチーフにした作品と気付いた。

当たり前の日常にひょいっと幽霊や異世界が混じりこんでくるところは確かにとても落語的で、こういう世界とっても好き。

私にとったらこれで3作目(エッセイを含めると4作目)の松田作品なんだけど、どれも同じじゃなくて、「こういう作風」というのを掴みきれなくて、そこに魅力を感じるなぁ。楽しかった。

七月に流れる花

 

七月に流れる花 (ミステリーランド)

七月に流れる花 (ミステリーランド)

 

 ★★★★

坂道と石段と石垣が多い町、夏流に転校してきたミチル。六月という半端な時期の転校生なので、友達もできないまま夏休みを過ごす羽目になりそうだ。終業式の日、彼女は大きな鏡の中に、緑色をした不気味な「みどりおとこ」の影を見つける。思わず逃げ出したミチルだが、手元には、呼ばれた子どもは必ず行かなければならない、夏の城―夏流城での林間学校への招待状が残されていた。ミチルは五人の少女とともに、濃い緑色のツタで覆われた古城で共同生活を開始する。城には三つの不思議なルールがあった。鐘が一度鳴ったら、食堂に集合すること。三度鳴ったら、お地蔵様にお参りすること。水路に花が流れたら色と数を報告すること。少女はなぜ城に招かれたのか。長く奇妙な「夏」が始まる。  

 久し振りに読んだ恩田陸作品は実に恩田陸らしい作品で嬉しくなる。

酒井駒子のイラストも物語にぴったり合っていて、懐かしさとじわじわとした恐ろしさと少女らしさがにじみ出る。

みどりおとこの不気味さと林間学校の静けさが不思議と懐かしく、自分もその屋敷に行ったことがあるような錯覚に。

どういうシリーズなのか知らずに読んだけれど、面白かった。

あひる

 

あひる

あひる

 

 ★★★★

【新たな今村夏子ワールドへ】

読み始めると心がざわつく。
何気ない日常の、ふわりとした安堵感にふとさしこむ影。
淡々と描かれる暮らしのなか、綻びや継ぎ目が露わになる。

あひるを飼うことになった家族と学校帰りに集まってくる子供たち。一瞬幸せな日常の危うさが描かれた「あひる」。おばあちゃんと孫たち、近所の兄妹とのふれあいを通して、揺れ動く子供たちの心の在り様を、あたたかくそして鋭く描く「おばあちゃんの家」「森の兄妹」の3編を収録。  

 あひるを飼うことになった家族。子どもの頃は家族の中で太陽のような存在だった弟が思春期には過程で暴力をふるうようになりしかしそれも落ち着いて巣立っていき、家には両親と自分だけ。なんとなくポカンと穴が開いたような日々を送っていた両親が、あひるを飼うようになって近所の子どもたちがあひる目当てに訪ねてくるようになり、にわかに活気づく。
子どもたちのためにおやつを用意するようになり、生きがいを見つけたかに見えたとき、あひるの元気がなくなってくる。父親があひるを病院に連れていき何日かして「病気が治った」とあひるが帰ってくるのだが…。

あひるを飼うことで近所の子どもが集まってくるようになったとか、おやつを用意し部屋を解放したら子どもがそこで宿題をやるようになったとか、心温まる出来事のはずなのに、なにかざわざわと怖い。
子どもから見た大人も大人から見た子どもも、どこか計り知れなくてぞわぞわと怖い。異質だから怖いのか、大人の寂しさやこころもとなさが怖さを誘うのか。

家族の中心だった弟が妻と生まれたばかりの赤ん坊を連れて家に戻ってくる、というのも、普通に考えたら明るい出来事なのに、この人の文章で読むと何かまた怖いのだ。

「おばあちゃんの家」も、両親とこのおばあちゃんとの関係、多くを語らないけれど何かを胸に秘めていそうなおばあちゃん、そして衰えていっているのにどんどん元気になっていくおばあちゃんがなにか怖い。
心が通じる心地よさと何かわけのわからない怖さ。それがやけにリアルでちょっとぞっとするのだ。

この人の描く物語は独自の世界観があって好き。でもデビュー作と比べるとちょっと小粒かなと感じた。

その姿の消し方

 

その姿の消し方

その姿の消し方

 

 ★★★★★

フランス留学時代、古物市で手に入れた、1938年の消印のある古い絵はがき。廃屋と朽ちた四輪馬車の写真の裏には、謎めいた十行の詩が書かれていた。やがて、この会計検査官にして「詩人」の絵はがきが、一枚、また一枚と、「私」の手元に舞い込んでくる…。戦乱の20世紀前半を生きた「詩人」と現在を生きる「私」。二人を結ぶ遠い町の人々。読むことの創造性を証す待望の長篇。

初めて読んだ堀江作品。
期せずしてtwitter文学賞の国内1位と2位を続けて読んだけど、これらが選ばれるって渋いなぁ。

こってりしたフィクションではなくてゆらゆらと思索を漂うような小説だった。

偶然見つけた絵はがきに書かれた詩の意味を長い年月をかけて読み解いていきながら、その家族や友人との交流を通して作者の内面に思いを馳せ、その時代の空気を感じる。

その詩は主人公の人生にいつも寄り添っていて、ふとしたときに「こういうことだったのかも」と理解できる。
文学ってこういう風にして人生を豊かにしてくれるんだとしみじみ思う。

とてもよかった。

第405回国立名人会

3/25(土)、国立演芸場で行われた「第405回国立名人会」に行ってきた。


・久蔵「壺算」
・南なん「お見立て」
・鯉昇「長屋の花見
~仲入り~
・菊丸「天狗裁き
・正楽 紙切り
・木久扇「鮑のし」

 

久蔵師匠「壺算」
この師匠もあんまりちゃんと落語をやるイメージがないんだけど(失礼!)、ネタ出ししている「名人」の会だからちゃんと落語を。
明るくてにぎやかでハイテンションな「壺算」だった。

 

南なん師匠「お見立て」
わーん、南なん師匠、会いたかったようー。
3月南なん師匠を全然見られなくてもう南なん師匠の落語が見たくて見たくてしょうがなかった。
「不動坊」が4回続いてしまっていじけて浅草に行かなかったことをどれだけ後悔したか。

今は遊びがたくさんあって。みなさんが持ってるスマートフォン、あれも遊びなんでしょう。スマートフォンで何をやってるんだろうとのぞいて見るとゲームをやってたりして。
あたしは「師匠はガラケーですか」って言われたりすることも多いですけど、携帯は持ってないんです。パソコンもないし、ファックスもない。ファックスは古いのがあるからあげるよと言われたり、買ってあげるとまで言われたりもするんですけど、あたしはいらないんです。そのせいで迷惑もかけてるんですけど、でもいらないんです。

…あー、南なん師匠って偏屈だなぁ。だって不便だもん。携帯がなかったら。絶対に。
そしてそんなことは百も承知だけど、でも頑として持たない。
会を主催する人とかからしたら困ることもあるんだろうな。
でもだからこそあの純粋さを保てるのかもしれないと思うし、南なん師匠には頑なさと同時にふわっとした柔らかさもあって、そこがなんともいえない味になってるんだよなぁ、と感じる。


そんなまくらから「お見立て」。
もくべえ大臣の「ほーほーほー」の声が控えめでそれがすごくおかしい。「あれ?鳩が鳴いてる?」「わしが泣いてるだよ」そう言われて笑いを必死にこらえる喜助がおかしい。
いいなぁ。南なん師匠の落語は。なんかほっとする。


鯉昇師匠「長屋の花見
お酒とお弁当の中身に鯉昇師匠のオリジナルの品が入っていて楽しい。
なによりも大家さんの酔狂に付き合わされる長屋の人たちがみなのんきにとほほで楽しい。

菊丸師匠「天狗裁き
テンポが良くて明るいから最初から最後までずっと楽しい。
好きだなぁこの師匠。体の引き方がとってもいいんだよなぁ。だから見ていると引き込まれて笑ってしまう。


木久扇師匠「鮑のし」
ある意味レア。最初にあがった久蔵師匠が「ほんとに久しぶりのはずです。多分すごい稽古してると思います。今」って言ってたけど、新鮮だったなぁ。まじめに落語をやる木久蔵師匠。

林家きく麿独演会第十七夜『花見だ!わっしょい』

3/24(金)、道楽亭で行われた「林家きく麿独演会第十七夜『花見だ!わっしょい』」に行ってきた。

・きく麿「お餅」
・きく麿「殴ったあと」
~仲入り~
・きく麿「幾代餅」

きく麿師匠「お餅」
地方でお店のマスターとかが会をしてくれることがある。ありがたいんだけど、最近自分の故郷でやってもらった会、回数を重ねるごとにマスターの対応が適当になってきてさすがに酷いんじゃないかなぁ、と感じている。
めんどくさいから勝手に人数を少なくしちゃうとか、落語やってる間にテレビで野球見てるとか、さすがに酷いと思って高座から「消してもらえますか」と言ったら「え?でも音消してるよ?」。

…ひぃーーー。あんまりすぎるー。
それもネタにするからいいや…といっても傷つくよなぁ、そういう態度は。っていうかありえないよー。えーん。

で、のんびりした噺も作ってみようと思って作りました、と「お餅」。
私はこれで3回目。「せめ達磨」でネタおろしも見ているんだな。(えへん!)
これねすごい新作だと思うんですよ。すごい間があって最初のうちよくわからないから、噺家さんの勇気が試されるっていうかな。この二人の老人の微妙な距離感がね、見ていてちょっとヒリヒリするんだけど、すごくのんきでばかばかしくもあって。たまらないんだよなぁ。

五郎さんがやってきて「なんか面白い話をしてくれ」と言われて「さっきまで何話してましたっけね」って思い出せなくて、ええとええと、ああ、そういえば「永遠のアイドルの話をしてたっけ」って思い出して話してみると「やめて」と言われてた餅の話だったってていうのも老人あるあるで、面白いなぁ。


きく麿師匠「殴ったあと」
初めて聴く噺。
上司と部下が商談がうまくいって気分よく旅館へ。
仲居さんが挨拶に来て、二人で「こういうところにいる仲居さんってなんかやっぱりわけありなんですかね」なんて話で盛り上がって、料理を運んできてくれた時に「ちょっと一杯つきあってよ」と仲居さんに酒を注ぐと、結構お酒好きらしくくいっと飲んだ仲居さん。自分のわけありな過去を語り始める…。

仲居さんが一声をあげたとき「そっちか!」と大爆笑。こういうのはもうきく麿師匠の得意技っていうかテッパンっていうか、面白いに決まってるワールド。
繰り返される「殴ったあとは…」のフレーズがもうおかしくておかしくて。最高。


きく麿師匠「幾代餅」
ちゃんとした「幾代餅」(笑)。せっかくだから少し改変してもいいのになぁ、なんてことも思ったり。
でも後から考えてみるとこの会、餅で始まって餅で終わっていたのだった。わははは。

忘却の河

 

忘却の河 (新潮文庫)

忘却の河 (新潮文庫)

 

 ★★★★★

「忘却」。それは「死」と「眠り」の姉妹。また、冥府の河の名前で、死者はこの水を飲んで現世の記憶を忘れるという―。過去の事件に深くとらわれる中年男、彼の長女、次女、病床にある妻、若い男、それぞれの独白。愛の挫折とその不在に悩み、孤独な魂を抱えて救いを希求する彼らの葛藤を描いて、『草の花』とともに読み継がれてきた傑作長編。池澤夏樹氏の解説エッセイを収録。  

 初めて読んだ福永作品。
父から始まって、二人の娘、母親、長女が淡い想いを寄せた男の独白が各章で語られる。

皆それぞれに愛されたい満たされたいと思いながらも、自分の胸のうちを明かすこともできず心を通わせることができず、孤独に生きている。

愛の欠損に苦しんだ妻が抱えていた秘密を知った夫が「自分が愛してあげられなかった妻が、誰かを愛し愛されたことがあって良かった」と慰めを感じるところに、読んでいる私も救いを感じた。

最終章が本当に素晴らしくて、宗教的なことは分からないけれど、大罪を犯したものもみな最後は救われるのだと思った。素晴らしかった。

鈴本演芸場3月中席夜の部 三遊亭ときん・真打昇進襲名披露興行

 3/23(木)鈴本演芸場3月中席夜の部「三遊亭ときん・真打昇進襲名披露興行」に行ってきた。
 
・にゃん子・金魚 漫才
・さん喬「替り目」
・一朝「宗論」
・仙三郎社中 太神楽
・金馬「長屋の花見
・市馬「時そば
~仲入り~
・真打昇進襲名披露口上(玉の輔、扇遊、ときん、金時、金馬、市馬)
・玉の輔「マキシムドのん兵衛」
・扇遊「手紙無筆」
・正楽 紙切り
・ときん「試し酒」
 
さん喬師匠「替り目」
酔っ払いがそんなにたちが悪くなくてわりと物静かで、他の噺家さんがやっている「替り目」と印象が違う。
こういうちょっと寒い夜にぴったり。よかった。

 一朝師匠「宗論」
落語のことですのでお怒りになりませぬようにと前置きをして「宗論」。えええー?一朝師匠が「宗論」?!しかも玉の輔師匠がよくやってるような「宗論」で、一朝師匠の口から「いまどき、白百合学園にも…」のクスグリが飛び出そうとは!
すごくばかばかしくて面白かった。


金馬師匠「長屋の花見
どこか他の人と違う長屋の花見
ちょっとでも景気のいいことを言うと喜ぶ大家さんがかわいらしい。

 

市馬師匠「時そば
最初のおそばが本当においしそう~。まだ寒さが残るこんな日に、花見と時そばが両方かかる楽しさ。


真打昇進襲名披露口上(玉の輔師匠:司会、扇遊師匠、ときん師匠、金時師匠、金馬師匠、市馬師匠)
自分の師匠と大師匠がお披露目の口上にあがってくれるってほんとにすごいことだよなぁ。
市馬師匠が「真打に上がる時にこんなにうれしいことはない。これもひとえに金馬師匠が丈夫で長持ちだから」とおっしゃっていたけど、ほんとにそうだよなぁ…。

久しぶりに鈴本のお披露目に来たけれど、緊張感があって温かい雰囲気でとてもよかった。感動。


ときん師匠「試し酒」
出てくる前に楽屋から大きな歓声と拍手。こんなふうに送り出してもらえるっていいなぁ。
登場すると今度は客席から大きな拍手と声援が。
最近恒例の撮影タイムには楽屋にいた人たちがぞろぞろと。こういうときにほんとに嬉しそうに出てくる噺家さんや色物さんっていいなぁと思う。

お酒のまくらから「試し酒」。初トリで「試し酒」ってしびれる~。
お酒が好きなときん師匠らしく、豪快な飲みっぷりが見ていて気持ちいい。
おそらく知り合いとかお友だちとか、普段落語を聞きなれてない方たちは固唾をのんで落語の中の勝敗を見守っていて、サゲには「うおお」と驚きの声があがったのが、とても新鮮でよかったなぁ。

楽しかった~。

さん助ドッポ

3/20(月)、お江戸両国亭で行われた「さん助ドッポ」に行ってきた。
 
・さん助「西海屋騒動」より第六回「義松の悪事」
~仲入り~
・さん助「花見酒」
・さん助「道灌(通し)」
 
さん助師匠「西海屋騒動」より第六回「義松の悪事」
いつものように立ち話から。
先週、仕事で仙台へ行って来たというさん助師匠。
震災で倒壊した酒屋さんを建て直して二階にコミュニティスペースを作り、そこで初めての落語会。
小さな会場だったんだけど高座はわりと高めに作ってあった。
30名ぐらいのお客様に最後「子別れ」をやったらすごくいい反応を見せてくれた。
高座をおりようとしたら、見事に段を踏み外し落下してしまったさん助師匠。
場内は騒然として、噺の余韻も何もあったものじゃない。
 
…ぶわははは。
高座から落下したさん助師匠を想像するとおかしくてしょうがない。
でもほんと怪我がなくてなにより。
私も人のこと言えないけど(しょっちゅう酔っぱらって転んでる)、気をつけてください…。
で、今日の西海屋騒動はほんとに陰惨です、と繰り返すさん助師匠。ほんとに陰惨でグロテスクなので聞いていてもう嫌だなーと思ったら席を外してくださって結構ですので、ってあなた…。
 
そんな立ち話から自ら幕を上げて「義松の悪事」。
お照をだまして惨殺した辰五郎とお山はお照から120両を奪う。
すぐに出立すると怪しまれると思い3年の間はその地にとどまったが、その間も殺しそびれたお照の残した子ども義松の行方が気にかかり調べ、森田屋才兵衛が引き取ったことを知る。
 
3年後に碓氷峠の方(?)まで移るのだが、もう山賊はやめて奪った120両を元手に商売を始めようというお山の言葉に同意した辰五郎。二人で居酒屋を始め、娘のお糸と3人で安定した暮らしができるようになる。
店が繁盛して忙しくなり、誰か小僧を雇いたいと言っていたお山のもとに、熊吉が「それなら小僧にするのにちょうどいい子供がいる」と声をかけてくる。
親が年を取っているのでこれ以上面倒が見られないと預かった子どもだが身体は丈夫だしこの通り器量もいい、と。
それが義松なのだが、お山はすぐに気に入り、小僧としておくことにする。
 
帰ってきた辰五郎が義松に気付くのだが、義松が賽子を振って遊んでいる姿を見て、「あれはほんとに賭場に行ってやったことがある、とんでもない子どもだ」と悪性を見抜く。
あんなやつを置いたら娘のお糸に何か悪さをしかねないという辰五郎に、実はあの子は義松なのだ、とお山が言う。
自分はお照を殺してから毎晩成仏してくれと祈っていたが安眠できた日はない。義松を引き取って自分たちの子として育てればきっとお照も成仏してくれるはず。そして時期を見てお糸と一緒にさせたい。
 最初は「そんな危ないことをしないほうがいい」と言っていた辰五郎だったが、お山がそこまで言うなら、と結局義松を引き取ることにする。
 
お山が猫かわいがりをするものだから増長した義松は早速賭場通いをするようになる。店の金を持ち出したりして店はどんどん荒れていく。
また義松が12歳の時にお糸と同衾するようになる。
とうとう居酒屋をたたむことになり、辰五郎も博打に行っては借金をふくらます日々。
 
ある日辰五郎がお山に「もうどうにも立ちいかないので、お糸を女郎に売ってきた」と言う。
60両で売れて今その半金の30両をもらってきた。
そう言う辰五郎に「そんなことはさせない」と怒るお山。
 
二人の争う声を聞いた義松はお糸に二人で逃げよう、と言う。
どうにかして30両をこっちのものにするから、先に出ていろとお糸に言った義松。
家にあった短刀で辰五郎とお山を殺し金を奪ってお糸とともに江戸へ向かう。
途中、江戸まで駕籠に乗って行かないかと声をかけられた二人。別々の駕籠に乗ったのだが、実はこれが山賊で、お糸はかどわかされ、義松は半殺しの目に合う。
死にかけているところに通りかかったのが、一人の和尚。これが花五郎で、義松を助け自分の寺へ連れていく。
手厚く看病をしてようやく元気を取り戻した義松が、かどわかされた妹を見つけたいというと、花五郎は昔なじみの〇〇(名前忘れた)に相談すると、そういうことであれば自分が昔江戸で奉公していた西海屋という海鮮問屋で若い衆をほしがっていたから口をきいてあげる、という。
 
それならよろしく頼むということで、義松を自分の家に連れて帰った〇〇。
義松が離れで一人寝ていると、夜も更けたころ、扉を叩くものがいる。
義松が何かと思って出てみるとこれが熊吉。
熊吉は義松が辰五郎とお山を殺したことを知っていて脅しに来たのである。
金がほしいのかと思ったらそうではなく、義松の色香にやられて、冥途の土産に一度…と言うのである。
それはいいがここではまずいからと二人で川の方へ向かい、そこでいたして(!)その後、熊吉を殺した義松。
何事もなかったように次の日、〇〇に連れられて江戸の西海屋へ向かうのであった。
 
というところで、「西海屋騒動」のながーーい発端がようやく終わり。
 
…って、おいっ!
もうつっこみどころ満載すぎるわ、この話。
半殺しにあった義松のところを通り過ぎる和尚。…「またお前かっ!」。どこにでも通りかかるな花五郎!イッツアスモールワールドすぎやろ!
そんでもって残虐にお照を殺しておきながら義松を引き取るお山って…。義松の悪性を見抜きながらも受け入れる辰五郎も辰五郎だよ。
そして義松…お前はいくつなんだ!まだ12歳で同衾って。しかも熊吉に誘われて平然といたしてしまうとか、どんだけの経験があるんだ!12歳って嘘やろ!おっさんやろ!
しかもそんなに悪のくせに、山賊の駕籠に乗っちゃうとか。なんやねん!おぼっちゃまか!
そしてあれだけのことをしておきながら(義松がこんなになっちゃったのも花五郎がその周辺の人たちを惨殺したのが原因)、すっかり好々爺になっちゃって、義松のことを見抜けずに江戸に送り込んじゃうって花五郎っていったい!
 
陰惨っていう面でいえば、さん助師匠が心配するほどにはヤラれなかったんだけど(龍玉師匠の殺人モノとかで慣れてるし)、それよりも濡れ場が3回もあったのにはびびったでー。
考えてみたら落語って人殺しの場面は結構芝居がかりでやったりするけど、いたすところに関しては案外ぼかしてあるのよね。
それがこの噺では3回も出てきて、しかもここには書かなかったけど、人を殺してきたあとの辰五郎がお山に「こっちに来いよ」と言うシーンが…な、なまなましい…。なんかやだ…。ばたり。
 
…まあ、いい。許そう。(←何様?!)
さん助師匠直筆の小学生の宿題のような前回のあらすじ、人物相関図といい、お手伝いされている unaさまによるきれいにまとめられた今までのあらすじといい、ものすごく心がこもっていて、他で聞くことのできない(そして今後も二度と聞くことがないかもしれない)噺を聞けるのはうれしい。
 
さん助師匠「花見酒」
前の日に池袋で見た時よりすっきりしていてわかりやすかった。
けど、お互いに釣銭で用意した25銭をあげたりもらったりするシーンが抜けてるところがあって、あれ?って。
きっと前半で燃え尽きたに違いない。ふふふ。
 
でもこういうおバカな小学生男子丸出しな噺、さん助師匠にとっても合ってる。
あんまりかからない噺だから、寄席でもどんどんやってほしいな。
 
さん助師匠「道灌(通し)」
とにかく前半が長かったので残り時間もわずか。「花見酒」で終わってもいいんですけど…悩んでたんですけど…やります!と、「道灌」の通し。
うわーー、うれしいーー。
 
そのかわり久しぶりにやったせいなのか?すでに燃え尽きてしまっていたのか、時々もやもやに(笑)。
くまさんがご隠居から渡された本(なんの本だ?)をぱらぱらめくりながら「この絵はどういう意味ですか」と聞くんだけど、明らかに聞かれたご隠居が「(ええと。次はなんだったっけ?)…」と困ってるようす。
くまさんの言い間違いに、「ここは本来〇〇と言うところだな。やっつけでやるからこういうことになる」とご隠居が言ったのには笑った。
 
あー楽しかった。
また来月が楽しみだ。

次回の「さん助ドッポ」 4/26(水) 両国亭 19時開演
初代談州楼燕枝の述「西海屋騒動」第七回「霊岸島船松町西海屋」、「花見の仇討 」ほか
その後は、5/29、6/28、7/31

池袋演芸場3月中席昼の部

3/19(日)、池袋演芸場3月中席昼の部に行ってきた。


・市朗「子ほめ」
・さん若「権助魚」
・たけ平「宗論」
・アサダ二世 マジック
・さん助「花見酒」
木久蔵「こうもり」
ホンキートンク 漫才
歌笑「親子酒」
・菊千代「金明竹
・小円歌 三味線漫談
・志ん輔「七段目」
~仲入り~
・小のぶ「粗忽長屋
・正楽 紙切り
・左龍「片棒」


さん若さん「権助魚」
満員のお客さんに向けてたっぷりの「権助魚」。顔芸が以前より激しくなっていた(笑)。


アサダ二世先生 マジック
ちゃんとやらないこと山の如し。寄席になれたお客さんばかりだと「いつものね」とそれも受け入れる雰囲気になるけど、この日のように初めてのお客さんが大半を占めていると「え?なに?」「ほんとにできないんだ?」とビミョーな空気に…。


さん助師匠「花見酒」
ハイテンションでばかばかしく。お釣りに用意した25銭が兄貴分と弟分の間を行ったり来たり。ベロンベロン加減に笑った~。


木久蔵師匠「こうもり」
なんか最近ちょっと好きになってきた…。


小のぶ師匠「粗忽長屋
この日のピュアなお客さんが小のぶ師匠の噺に引き込まれてどっかんどっかんウケていた。結構この噺って「え?」っていう反応のことも多いのにすごい。
せっかちな粗忽者の方の堂々とした勘違いぶりと、くまさんの「どうもすいません。私夕べここで倒れちゃってたそうで」というのんびりした勘違いぶりがほんとに楽しい。
面倒を見てるおじさんの「ああ、また同じようなのがもう一人来ちゃったよ」の嘆きがしみじみおかしくて、もうほんとにいやというほど見ている噺なのに大笑いしちゃった。

 

正楽師匠 紙切り
この日は三三師匠が来なかったので、正楽師匠がたっぷりの紙切り。それはそれでレアで楽しい。
注文で切ったあとに、先代の小さん師匠を切ったんだけど、これがすごく感じが出ていて素敵だったなぁ。


左龍師匠「片棒」
山車の人形のおかしさったら!
笑った笑った。

雷門小助六独演会

3/18(土)、プーク人形劇場5階で行われた「雷門助六独演会」に行ってきた。

・たたじゅん 獅子舞
・小助六「七度狐」
・松本優子 寄席囃子
・小助六「百年目」

 

たたじゅんさん 獅子舞
かわら版でこの会のことを知り、予約の電話をした時に出られたのがおそらくたたじゅんさんご本人。とても感じが良くてもうそれだけでこの会がとても楽しみなものに。
電話で「5階まで階段で上がっていただきます」と申し訳なさそうに言われたので覚悟して会場に向かうと入り口のところに立ってらしたのがたたじゅんさんで「ここから上がっていだたきます」と送っていただいたと思ったら「受付も私がやらないといけないので。どうぞごゆっくり上がってらしてください」とまた5階まで上がって行かれた。

手作り感いっぱいの会場に、たたじゅんさんによる獅子舞。客席をまわって一人ずつ噛んでいただいて、なんかもうおめでたい気持ちでいっぱい!素敵。


助六師匠「七度狐」
たたじゅんさんとは学校で落語を教えるワークショップのようなもので知り合いに。
行き始めた当時は学校?と違和感を感じてもいたけれど、今はもうそういうのもなくなって慣れたもの。
この日のお客さんも普段寄席に通っているような方たちばかりではなかったので、学校でやるような落語講座。うーん。教え方がとっても上手。

そしてそんなまくらから「七度狐」。
なんとこの日は小さな会場の隅に屏風のようなものが置いてあって演者さんはそこに控えてらっしゃったんだけど、お囃子の松本さんがいらしていて、生演奏。
この間、日暮里サニーホールで聞いたのと同じ、鳴り物入りの「七度狐」。
噺だけでも楽しいのに、三味線が入るとよりにぎやかで楽しい!


松本優子さん 寄席囃子
この間の日暮里サニーホールの時も思ったけど、ほんとに楽しそうに三味線を弾かれるので、見ていてこちらも楽しくてにこにこしてしまう。
歌も伸びやかでほんとに素敵。


助六師匠「百年目」
まくらで「お、きっとこれは」と思った通りに「百年目」。
この間聞いたばかりだったんだけど、この間は泣かなかったのに今回は泣いてしまった…。
「昨夜は眠れたかい?私は眠れなかった。申し訳ないが帳面を改めさせてもらったよ」と言う大旦那の気持ちに、胸をうたれたのだった。

連雀亭ワンコイン寄席

3/18(土)、連雀亭ワンコイン寄席に行ってきた。


・小はぜ「巌流島」
・遊里「まんじゅうこわい
・夏丸「橘ノ圓物語」


小はぜさん「巌流島
若侍は声が大きくていかにも血気盛んでえばってる。
屑屋を庇う老人の侍は冷静で品がいい。
商売っ気を起こして余計なことをしてしまう屑屋さんに、その姿を見てヤイヤイ言ってる江戸っ子たち。
人物がくっきりと描かれているので、舟の上の様子が頭に浮かんできて楽しい~。

安全とわかった途端に大きな声で啖呵を切る江戸っ子もおかしい。「このやろう」の巻き舌には笑った~。
久しぶりの小はぜさん(小三治師匠の会の前方では見たけど)。すごく楽しかった。


遊里さん「まんじゅうこわい
花粉症になった話やヘリコプターに乗った話や秋田の救護ヘリの名前が「なまはげ」という話など、たっぷりのまくらのあとに「まんじゅうこわい」。
テンポが良くてハイテンションで楽しかった。


夏丸さん「橘ノ圓物語」
噺家には二つの特徴がある。一つ目は嘘つき。とにかくウケたいので話を盛る。もう一つの特徴はみんなおしゃべり。
だから楽屋で自分がした面白い話が、尾ひれがついてまるでスケールが違う話になって次に行った時に人から聞かされる、なんてこともある。

嘘つきといえば圓師匠。この師匠はとにかく話を盛るのでどこまでがほんとでどこまでが嘘かわからない。
この圓師匠に付いて師匠の故郷での独演会に行った話と、師匠に稽古をつけてもらいにお宅に伺ってそのあと師匠の家でやってる居酒屋でカラオケを歌った話。
これがほんとに話としても面白いし、なによりも圓師匠の人柄が伝わってきてじーん…。

うおおお。こんな噺も作れてしまう夏丸さんってすごい。じんわりとよかった~。

これでワンコインなんてほんとに申し訳ない!

第三回マゴデシ寄席

3/17(金)、お江戸広小路亭で行われた「第三回マゴデシ寄席」に行ってきた。


・語楼「子ほめ」
・かしめ「元犬」
・吉笑「一人相撲」
・談吉「当たりの桃太郎」
・笑二「親子酒」
・こしら「夢の酒」


かしめさん「元犬」
こしら師匠の独演会で初めて仮面女子さんを見た時は「うへぇ。こんな落語をこれからもこの会に行くと聞かなきゃいけないのか」と思ったものだが(申し訳ない!)、なんか驚くほど面白くなっていてびっくり!
声の出し方も全然変わって堂々として聞きやすいし、落語っぽくなってる(笑)。
こしら師匠のお弟子さんらしく、あちこち手を加えているんだけど、それも面白い。
ほーーー。


吉笑さん「一人相撲」
マゴデシ寄席の情報を立川流のホームページの方に置かせてもらっていたんだけど、それがいきなり削除されてしまった。今別の場所でドメインをとったので1週間ぐらいでそちらに移します。

おお。さすが吉笑さん。このフットワークの軽さがすばらしい。
こういう人はおそらく同じ組織にいたり年がちょっと近かったりすると目障りに思われたりもするのだろうが、私は好きだ。
計算高いところと同時に「こうやったらもっと効率はいいんだろうけどそっちは選びたくない」という頑なさがあって、そこが好きだな。
ただただガンバレと思う。

「一人相撲」、前に見た時よりもコンパクトに、よりわかりやすくなっていた。
この理屈のこねくり回し方がいかにも吉笑さんだなと思うし好き。


談吉さん「当たりの桃太郎」
おお、談吉さんの新作を生で見るのは初めて。前にテレビで女の人が「そうね」って何度もいう新作を見た時も思ったけど…シュールだなぁ…。
談吉さんってとってもデリケートそうな感じがするけど、その一方で結構心が強いんじゃないか。そんな気がする。

誰もが知ってる昔話のパロディ。繰り返しの面白さとシュールな展開。独特。


こしら師匠「夢の酒」
次回のトークライブには呼んでもらえなかったこしら師匠。吉笑さんに「俺も出たい」と直談判したけど「いや兄さんはちょっと…」と断られた。「ちょっと」って!!て叫ぶこしら師匠がおかしい~。
「あの立川流ドメインは俺がとったんだかんね!あ、この話よりさがみはらの話のほうがいい?」。
ぶわははは。もうどんなことを言いだすかわからないから、きっと吉笑さんも呼べないんだよー。
でも案外ちゃんとしてるから大丈夫!…だと、思うよ?(南なん師匠風味)

そんなまくらから「夢の酒」。
これがもうこしらワールド全開でめちゃくちゃおかしい。
夢の話を聞きたがる奥さん。若旦那が見た夢の話を始めたとたん「雨ってどんな雨?どんなだった?どんなだった?」「…どんなって…お前何を知りたがってるんだよ」。
騒ぎを聞きつけて駆け付けた大旦那が若旦那に向かって「だからお前…メンヘラだけはやめておけって言ったじゃないか。顔とか家柄とかそんなのはどうでもいいから、メンヘラはだめ!」。

大旦那が夢の中に入っていったあとも、せっかく夢なんだから誰かを殴りたいなぁ、でも知ってる人はいやだな、こう世の中のためになってないやつがいい、って言ってると、「あーー働きたくねぇーねみぃー」と言ってる男が。こいつだ!と殴りかかると「あ、全然手ごたえがない。あーーだめなやつか。だめなのか。殴っても。そっちか」。

ああ、やっぱりこしら師匠は破壊的に面白い。すごいわ。

 

吸血鬼

 

吸血鬼

吸血鬼

 

 ★★★★★

  独立蜂起の火種が燻る、十九世紀ポーランド。その田舎村に赴任する新任役人のヘルマン・ゲスラーとその美しき妻・エルザ。赴任したばかりの村で次々に起こる、村人の怪死とその凶兆を祓うべく行われる陰惨な因習。怪異の霧に蠢くものとは―。

 

最初から何か恐ろしいことが起こりそうな不吉な予感に満ちていて、その正体がなんなのか、ドキドキしながら読み進める。

村の土地の大半を所有する元詩人クフルスキとその妻。可愛らしい妻を連れてこの地に赴任してきたオーストリア帝国の行政官ゲスラーは文学を愛し村の人にも公正であろうとする善人。

貧しすぎる村で変死を遂げる子ども、妊婦、そして美しい女中。
昔パニックを起こした村人たちが村を焼き払ったこともあると聞かされていたゲスラーは、彼らの恐怖心を静めるために、自分が最も軽蔑していた野蛮な風習を復活させることを決意し…。


ゲスラーが宿屋で会話した青年の声。不可視な存在が自分の信念や常識を脅かしていく恐怖はとてもリアルで苦い。
何が正義なのか、何を守ればいいのか、吸血鬼とはいったい何者なのか。

翻訳本のようでもあり、非常に日本的なようでもあり。
2016年のtwitter文学賞がこれっていうのも渋い。

三笑亭可龍十番勝負~第六番勝負は雷門小助六さんと~

3/16(木)、道楽亭で行われた「三笑亭可龍十番勝負~第六番勝負は雷門小助六さんと~」に行ってきた。
前から寄席で見ていて、会に行ってみたいなと思っていた可龍師匠。大好きな小助六師匠をゲストに招いて二人で二席ずつとあったので、これは行くしかない!と小助六師匠ファンのお友だちを誘って行ってみた。

 

・可龍「宮戸川(上)」
・小助六「百年目」
~仲入り~
・小助六「擬宝珠」
・可龍「片棒」


可龍師匠「宮戸川(上)」
ここに来るとき、銀座線で着物を着た男性二人と同じ車両でした、と可龍師匠。
一人はお茶の先生?みたいな雰囲気だったんだけど、もう一人がどう見ても堅気じゃない。といって噺家っぽくもない。
黒い着物に赤い羽織。しかもその赤がラメが入っていてキラキラしてる。羽織紐にはビーズが付いていてキラキラ。
これはいったい何者だろう??と思っていたら…その人たちとこのあたりまで一緒でした…。

道楽亭があるのは新宿2丁目。
ということはおそらくそこのお店のおにいさん?
さすが、可龍師匠。普通に会に来るだけでそんな面白い目にあえるなんて(笑)。

そんなまくらから「宮戸川(上)」。
お花ちゃんがいかにも可龍師匠らしくちょっと蓮っ葉で現代的な感じ。面白いけど正直あんまり好きじゃない、かなぁ。この噺自体が、ね…。
でも途中に圓丸師匠の物まねがちらりと入ったのがもうツボで。本当にそっくりだった!


助六師匠「百年目」
同期と紹介された小助六師匠。同期と言っても自分が入った時、可龍師匠はたて前座で自分はお茶くみ、一番のぺーぺー。正直あのころは兄さんが怖かった。
でもいざ自分がたて前座になってみると、確かにお茶くみの子たちっていうのは気が利かなくて動かすのが大変で、ああ、あの時兄さんはこういう風に自分のことを見ていたのか、ってわかりました。

そんなまくらから「百年目」。
店の若い者たちにガミガミ言って、迎えに来た一八を邪険にして、舟の上でも障子をしめろ!見つかったらどうする!と周りの目を気にして、だけどお酒を飲んだら気が大きくなってはしゃいで鬼ごっこ。
そんな番頭さんが小助六師匠に重なって見える。
大旦那に見つかってから番頭さんが部屋で着物を脱いだり着たりするのもすごくリアルででもなんかとってもおかしいし、笑いどころもたっぷりあってすごく楽しい。

うわーーー。なんかすっごくいい!
この噺って若い人がやるとなんかちょっと背伸びしている感があるんだけど、小助六師匠には全くそれがなくて、番頭さんもチャーミングだし、大旦那もユーモアがあっていかにも大店の大旦那らしくて…かといって泣かせるぞーというところもなくあっさりしていて、だけど大旦那に受け入れてもらえた嬉しさも伝わってきて、じーん…。感動。


助六師匠「擬宝珠」
猫好きで知られる小助六師匠だけど、実はちょっと猫アレルギーがあって…というのは知らなかった。
家でも猫にデレデレじゃなくツンデレっぽく接しているっていうのが、いかにもキャラに合っていておかしい。
そんなまくらから「擬宝珠」。「擬宝珠」といえば、喬太郎師匠と文治師匠でしか見たことがないんだけど、くまが若旦那を見舞うところで「え?女の子のことじゃない?ってことは崇徳院じゃないな」、「え?みかんでもない?じゃ千両みかんでもないのか」というのが、落語おたくの小助六師匠にぴったりでおかしい!

前半がたっぷりだったからごくあっさりした「擬宝珠」だったけど、テンポがよくて展開も早くて楽しかった。


可龍師匠「片棒」
あの「擬宝珠」っていうのは芸協だと他には文治師匠ぐらいしかやってなくて、小助六さんが持ってるってことはネタ帳で見て知ってたんですけど見たのは今日が初めてで…。驚きました。文治師匠がやるとあんなに気持ちの悪い噺が、小助六さんがやると全然気持ち悪くないっていうのに。こんな噺でもきれいなんですね。

ぶわははは!そういえば前に見た文治師匠の「擬宝珠」はとても長くて、確かになんか気持ち悪かった(笑)。

自分は小学生のころから落語が好きで落語番組をテープに録って集めるみたいな子だったから、一番の趣味を仕事にしてしまって趣味がなくなってしまった。こういう世界に入ったせいか、逆に趣味は和じゃないほうに惹かれるようになって、一時期ロイヤルコペンハーゲンのカップを集めたりしてました。

…に、思わずぶわはっ!と吹き出すと、「そこ、笑うところですか?」と言われちゃった。すすすみません。でもなんかやっぱり面白い、可龍師匠がロイヤルコペンハーゲンを集めてるって。
寄席で見ていて、なんか気になるなぁ、いったいどんな人なんだろう、自分の会だときっともっと自分のことを話してる気がするから見に行ってみたいなぁと思って来たんだけど、そんな自分をほめてあげたい。ほら、やっぱり面白い!って。
あー楽しい。

そんなまくらから「片棒」。
これがほんとに楽しかった。特に銀さんの笛や太鼓のリズム感が抜群で楽しい!
そしてしゅっとしていてきれいな芸を目指していると言いながら、時々ひょいっとすごく現代的なクスグリが入るんだな。え?そこ?みたいな。そこに攻撃性を感じてちょっとどきっとする。

楽しかった~。