りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

ポーランドのボクサー

 

ポーランドのボクサー (エクス・リブリス)

ポーランドのボクサー (エクス・リブリス)

 

 ★★★★

69752。ポーランド生まれの祖父の左腕には、色褪せた緑の5桁の数字があった―アウシュヴィッツを生き延び、戦後グアテマラにたどり着いた祖父の物語の謎をめぐる表題作ほか、異色の連作12篇。ラテンアメリカ文学の新世代として国際的な注目を集めるグアテマラ出身の鬼才、初の日本オリジナル短篇集。  

 短編なのか長編なのかも分からずに読み始めたのだが、途中から主人公が作者と同姓同名であることと短編同士がつながっていることに気が付いた。

ポーランドに生まれた祖父がアウシュヴィッツポーランドのボクサーと出会い、裁判の時に言うべきこと言ってはいけないことを教わり、それにより銃殺されずに済んだ。アウシュヴィッツにいたことを隠し続けていた祖父が死ぬ間際になって主人公エドゥアルドに真実を語る。

民族や宗教の呪縛から逃れようとしながらもそこを避けては通れない。
ユダヤ系として生まれたエドゥアルドは、ユダヤ人であるということを意識しないではいられないのだが、しかし正統派ユダヤ教徒と結婚することになりガチガチの宗教心を見せつける妹には反発を覚えずにはいられない。
民族からは逃れられないのに、その中にどっぷり浸ることもできない自分。自分はいったい何者なのか、苦悩するエドゥアルドは作者自身でもあるのだろう。

そんなエドゥアルドは旅先で出会ったジプシーの血を引くピアニストであるミランに魅了される。
世界を渡り歩くミランから次々と届く絵葉書。最後に届いた一枚を頼りにミランを探してベオグラードを訪れたエドゥアルドは、ジプシーにもセルビア人にもなりきれないミランに自分自身の姿を重ねていく。

苦い物語が多く読んでいて気持ちが沈んでくるのだが、最終話の主人公の語りに少しだけ救われた気がする。

末廣亭3月中席昼の部

3/11(土)、末廣亭3月中席昼の部に行ってきた。


・小多け「道灌」
・歌太郎「やかん」
・夢葉 マジック
・海舟「熊の皮」
・喬之助「初天神
・ひびきわたる 漫談
・琴調「来豆腐
・吉窓「大安売り」
・小菊 粋曲
・はん治「妻の旅行」
・錦平「紀州
・正楽 紙切り
・小満ん「宮戸川(上)」
~仲入り~
・菊志ん「あくび指南」
・一風・千風 漫才
・小ゑん「ぐつぐつ」
・小はん「親子酒」
・ストレート松浦 ジャグリング
・小里ん「五人廻し」


歌太郎さん「やかん」
明るくて声が大きくて勢いがあって、ざわざわした客席をぐいっと高座にひきつけたのはさすがだなぁ。
「やかん」も前の日に見たのとはうってかわってスピードがあって緩急もあって楽しかった。センスを感じる。好き。


喬之助師匠「初天神
明るくて軽くて大好きな師匠。学校寄席のまくらも楽しかったけど、子どものだだのこね方がとってもありがちでおかしい。いるいるこういう子!


ひびきわたる先生 漫談
キセルも微妙だったけど、そのキセルをやめて漫談だけっていうのも…。


琴調先生「来豆腐
とてもよかった。これぐらいの浅い出番で琴調先生の「来豆腐」を聴けるなんて幸せすぎる。
豆腐屋の七兵衛さんの人の好さがさらりとした語りから伝わってきてじーんとくる。
「あなたみたいな方は絶対に世に出る。そうでなきゃだめだ」と言って毎日おからを持ってきてくれた七兵衛さん。
七兵衛さんとの再会のシーンには涙がじわりと…。よかった~。


はん治師匠「妻の旅行」
「妻の旅行」連続記録更新中。


小満ん師匠「宮戸川(上)」
他の人がやるようにお花さんが妙に積極的だったりしなくてそこが好きだな。
短いお芝居を見ているような味わい。


小はん師匠「親子酒」
本当にお酒を飲んでいるような酔っぱらいぶり。
息子が帰ってきたと聞いて目を剥いたのがリアルでびっくりした。


小里ん師匠「五人廻し」
二階席までいっぱいで、お子さんも何人かいたのにまるで気にせず「五人廻し」。さすが小里ん師匠はぶれないなー。謝楽祭でサインをお願いしたら他のお客さんと話したまんま一度も目を合わせることなくサインしてくれただけのことはあるなー。いや、いい意味で。(いい意味?)


一人目の男が花魁がいつまでたっても来ないことを嘆いて「ああ…よしときゃよかった」とつぶやくのが真に迫っていて笑ってしまう。甘い言葉に誘われて銭を払ってやってきて女が来ない虚しさ。そうしてみると女房はありがたい、というのも実に勝手な言い草だけど、笑ってしまう。

妙に堅い言葉で喋る男も面白いけど、「〇〇でげすな」という「酢豆腐」の若旦那みたいな男が最高におかしい。「銭を返せなどと言うのは野暮の極みでげすな」などと言いながら最後は「えーん」と泣き出すおかしさ。

誰のところも回らずに田舎のお大臣のところにいた花魁。彼女の言った一言で、そうやって部屋を廻る花魁の侘しさも伝わってきて、なかなか苦い後味。

そんなに聴く噺じゃないけど面白い。好き。

末廣亭3月上席夜の部

3/10(金)、末廣亭3月上席夜の部に行ってきた。


・小蝠「やかん」
青年団 コント
・圓馬「干物箱」
・伸治「ぜんざい公社」
・扇鶴 音曲
・蝠丸「文七元結

圓馬師匠「干物箱」
見るほどに好きになる。トリネタも見てみたいと思っていたら浅草演芸ホール4月上席夜の部のトリ!これは行かねば。


伸治師匠「ぜんざい公社」
ほんとにしょうもない噺だなぁといつも思うんだけど、伸治師匠が笑いながらなんかほんとに楽しそうにされているのを見て、思わず笑ってしまった。昭和チック。


扇鶴先生 音曲
好きだわー。初めて見た友だちが目が釘付けになっていて「な、なに?この人は?」とハートを射抜かれていたのがうれしかった~。でしょでしょ気になるでしょいいでしょ。


蝠丸師匠「文七元結
まくらなしでいきなり噺に入り、うおお!と思っていると「もう落語に入ってますよ」と言うので大笑い。この師匠のこういうゆるーいところが大好き。
あまり好きな噺じゃないんだけど、蝠丸師匠の「文七元結」はとってもよかった。

左官の長兵衛がいかにも江戸っ子らしく明るくて軽い。
博打に夢中になるあまり仕事をしないもんだから女房は着物も全部売るしかなくて思い詰めた娘は女郎になろうとさえしているのに、悲惨な感じが全然しない。
佐野槌の女将は長兵衛にちくりと言うけど、さばさばした印象。

吾妻橋のところで身投げしようとする文七を助ける長兵衛。
十両ないと死ぬと聞いて長兵衛が「五両にまからない?」「他のやつが通らないかなぁ。代わってもらいてぇなぁ」と言うのがすごくおかしい。
しょうがねぇなぁと五十両を文七に投げつけるんだけど、「この金はこれこれこういうわけで」と未練がましく説明するのも、人間らしくて好き。

文七が店に戻ってからの展開もスピーディなのでダレなくていいな。ここをねちねちやられると、ああもう!って焦れてくる。

こういう噺を「人情」とか「江戸っ子」とかっていうふうにきっちり理由付けをされると、「こんなことあるわけないじゃん」と思ってしまうんだけど、笑いたっぷりに軽くされると「落語の世界だなぁ」とそのありえなさも含めて楽しめる。

楽しかった!

そして幕が下りたあと「アンコールはありません」「千秋楽を迎えられました。ありがとうございました」と最後までサービス精神満載の蝠丸師匠、大好きだ。

第54回白酒ひとり

3/9(木)、国立演芸場で行われた「第54回白酒ひとり」に行って来た。
この会は前に一度来たことがあって、できれば定期的に来続けたい!と思ったのだけれど、チケットがぴあで土曜日に売り出すのでたいてい買いそびれてしまってなかなか行けず。
一度はヤフオクでチケット買ったんだけど、なんと当日過ぎてもチケットが届かず、お金だけ払って行けなかったという悲しい思い出。
今回は土曜日にチケットを予約してようやく行くことができた。
 
・はまぐり「たらちね」
・白酒「馬の田楽」
・白酒 桃月アンサー
・白酒「辰巳の辻占」
~仲入り~
・白酒「花見の仇討」
 
白酒師匠「馬の田楽」
この間、新橋で行われている落語会に呼ばれた。
その会はすごくちゃんとしたお弁当が出て日本酒の試飲会もあってなおかつ落語というなかなか贅沢な会だったんだけど、その前の時の会で落語をやったのは風間杜夫さん。
もうなんなのか。風間杜夫。なにを目指しているんだ。こんなところにまでか!と。
顔もよくて役者としても一流でそれで落語の方に来ないでもらいたい。
自分だってもし顔が良ければ落語なんてやってないで役者になった。こういう見た目だからやむを得ず落語家になっているのに、そこを荒らさないでもらいたい。負けるに決まってるから。
だってあちらはたとえうけなくても噛んでも、ちっ(渋い顔)てやれば「きゃーー」ってなるわけだから。ずるい。
こっちは崖っぷちでやってるんだ。もう下がる場所がないんだ。
 
でも俳優さんが落語をやってみたいという気持ちになるのはなんとなくわかる。
一人芝居といってもそれなりに準備がいるし小道具もいるけど、落語はまさに体一つでできる。やってみれば意外と難しくない。できちゃう。
それでもあれでしょ。風間杜夫さんは「火焔太鼓」とかね。志ん朝師匠が好きなんでしょうね。きれいなネタでね。百両見て「あーーー」なんてね。
「勘定板」やりやがれ!って思いますけどね。
 
…わはははは。
どきっとするような毒を吐きつつも、いやな感じが全然ないっていうのがすごいな。白酒師匠は。
それから、これからは動物に落語をやらせればいいかもしれない。犬が兄弟子なんてことになったらいやでしょうね、なんていうまくらから「馬の田楽」。
 
白酒師匠の「馬の田楽」は前にも聞いたことがあるけど、いいなあ。ちゃんと田舎の風景が浮かんできておおらかな気持ちになる。
それほど大きく変えているわけじゃないけど、耳の遠いおばあさんが聞き違いをするとき、「え?アルゼンチン?」とか「南米を離れろ」とかいうのがすごくおかしい。
面白いんだけど、それがこの噺ののどかな風景の邪魔をしてないっていうのがすごい
 
白酒師匠「辰巳の辻占」
雲助師匠で何回も聞いている噺。
おたまがいいねー。ケロッと悪くて。
男の方も全然軽くてそれが楽しい。
 
はんちゃんがいなくなったらあたしの人生、何にも楽しいことがなくなっちゃうと言っていたおたまが、はんちゃんが死ぬと聞いて「でもほら…生きていれば他にも楽しいことは見つかるもんだし」と言ったのがおかしい。
はんちゃん自身も「たしかにな。おたまが言ってた通り、生きていれば他に楽しいこともあるよな。おれもう3つ見つけちゃった」と言ってたのもいい。
楽しかった。
 
白酒師匠「花見の仇討」
こういう噺を聴くと、ああ、春が来るんだなぁと感じられてとてもうれしい。季節を感じられる噺があるっていうのが落語の好きなところ。
 
耳の遠いおじさん、巡礼兄弟の仇討と聞いて助太刀をしてやろうという侍とそれぞれのキャラが生き生きしているので、退屈しない。
仇討をやっていて刀が重いといって泣き出すろくちゃんがおかしかった~。
 

 

 

 
 

小んぶにだっこ

3/7(火)、落語協会で行われた「小んぶにだっこ」に行ってきた。
 
・小んぶ「親子酒」
~仲入り~
・小んぶ「(江戸っ子の新作)」
・小んぶ「死神」
 
小んぶさん「親子酒」
この会を始めて1年が経過しました、と小んぶさん。
ちょうど一人暮らしを始めてからこの会をやるようになったのでそちらの方も1年越え。
ずっと痩せたいとは思っていたけどなかなかダイエットというのもやらなくて、でも一人暮らしを始めたらみるみる体重が落ちてきて気が付いたら100キロ超えだった体重が89キロまで。
なーんだ。ダイエットって結構簡単じゃん。ダイエット本出せるんじゃ?なんて思っていたけど、それからゆるゆると体重がまた増え始め、現在95キロ。
リバウンド…という言葉はまだ使いたくない。けど。明らかにリバウンド、です。
 
で、日暮里にはたこ平兄さんがいてよく誘ってくれる。
誘われると付き合うんだけど、たこ平兄さんは…こういったらなんですけど、私のことがかなり好きみたいで、二人で飲んでいて酔っぱらってくるとほかの人には言わないような本音とか鬱憤を私に言ってくる。もう小んぶ目がけてぶつけてくるんです。
これが結構きつい。もうなんとかしてそういうのは避けたいと思って、そうだ、じゃ先に酔っぱらっちゃえばいいじゃないかと思いつきまして、ある時、もうがんがん率先して飲んだんです。そうしたらもともと酒に強くないので1時間ぐらいでべろんべろんになりまして。
たこ平兄さんは優しい人なんで「おい、小んぶ、大丈夫か?もう帰った方がいいよ」と。
これはいい!とその後もその作戦でいっていたら、どうやらそのことにたこ平兄さんが気付いたらしく、自分も負けじとハイスピードで飲むようになり、もう二人でわれ先に酔っぱらおうとするように。
この間もそんなふうに二人でべろんべろんになって、WIIがほしい!と盛り上がって、ツタヤに行って中古で買って夜通し二人でやった。
たこ平兄さんはとても懐の広い方なので、みなさんももしWIIやりたかったから、たこ平兄さんの家に行くといいです。
 
そんなまくらから「親子酒」。
これがなんかもう…酔っぱらう前からお父さんがちょっと変(笑)
私はもうとにかく「親子酒」は聞きすぎているのでフツウにやられると「またか」感がハンパないので、これぐらい異常にやってもらったほうが楽しくて好きだけど、怒る人もいるかもしれない。
酒を飲ませてくれ、一杯だけ、と何度も頼むお父さんにおかみさんが「だめですよ」と言い続けていると、「こんなに頼んでもだめかい?そうか。わかった。じゃ考えがある」と言ったあとに「一杯飲ませてくれ」と同じセリフを吐くの…すっごく面白い。
小んぶさんのこういう独特なセンス、大好きだ。
 
小んぶさん「(江戸っ子の新作)」
仲入りをはさんで、小んぶさんのドキドキの新作。もうこれが楽しみで楽しみで。
今回は、3代続くと江戸っ子っていうけど、それが22代続くと逆に変なイントネーションになってしまうという新作。
もうこれがシュールでばかばかしくておかしい~。もうなんだろう、この世界。いわゆる新作のセオリーとかそういうの全部無視で、自分の感性だけで作ってるヒリヒリ感。でもそれがこう新作によくあるダレる感じにならない不思議。
サゲを言った後に小んぶさんが「ああっ」って顔をしたのがまた面白くて。いいと思う!
 
小んぶさん「死神」
小んぶさんが心を整えるために新作をやる前に仲入りをはさんでいるんだけど、新作のあとに仲入りをとったほうがいいような気がしないでもない。
聞いている方もあの新作のあとに正統派の噺っていうのにギャップがありすぎて…。
 
「親子酒」とは打って変わって、とてもちゃんとした「死神」。
結構死神が不気味でこわい。何を考えてるか計り知れない感じ。
主人公の男はぱーぱー軽いのでそこが落語らしくて楽しい。
もう少したっぷりやるところはたっぷりやったほうが聞いてる方が余韻に浸れると思った。
 

 

 

 

 

ぎやまん寄席 馬治・さん助ふたり会

3/6(月)、湯島天神 参集殿で行われた「ぎやまん寄席 馬治・さん助ふたり会」に行ってきた。
 
・たま平「一目上がり」
・馬治「片棒」
・さん助「不動坊」
~仲入り~
・さん助「ぞろぞろ」
・馬治「抜け雀」
 
たま平さん「一目上がり」
初めて見た時は「うまい」と思ったけど、見るたびに苦手になっていくなぁ…。笑わせよう笑わせようとしてくどいから、聞いていてじりじりしてくる。
そして兄貴分が途中からご隠居口調になっちゃってた。うけようとするあまり散漫になっているような…。
 
馬治師匠「片棒」
40になって初めて経験することってあるんですね、と馬治師匠。
今年になって初めて花粉症になった。自分の場合は鼻水やくしゃみより咳。あと鹿芝居に出ていてお化粧をしたら肌がかぶれて大変。医者に見せたらこれも花粉症の症状らしい。
薬を飲んでいるから頭もぼーっとしていて、この間落語会で「井戸の茶碗」をやったんだけど、最初に仏像からお金が出てくるところ、本来は五十両なのに五百両と言ってしまった。
そうすると井戸の茶碗はもっと高くしないといけなくなっちゃって仕方なく一千両にして、ほんとは懐から小判を出すところを、つづらをえっほえっほと肩に担いで持っていくはめに。
 
…ぶわははは。それはそれで面白いなぁ。
馬治師匠って古典に時々独自なクスグリを入れるから、わざとやったのかと思いそうだな。
 
それから駐車場で隣の車のバンパーをこすってしまった。
初めての事故だったのでこれはへこみました。
結局示談にできたんですが、問題はこの車、私のものじゃなくて…金原亭馬生さんっていう方の車だったんですね…。
 
…いやぁ、もう面白すぎるよ、馬治師匠!
とほほって感じで言うんだけど、それがこうほどよくとぼけているからすごく楽しい。好きだなぁ、この師匠。なんたって顔がすごく好み(←そこ?!)。なのにちょっと残念な感じがただよっていてそこがとっても噺家さんらしくて、たまらなく好き。
 
そんなまくらから「片棒」。
3兄弟がそれぞれキャラが立っていて面白い。
長男が弔いと聞いて「しめしめ」みたいなちょっと悪い顔。
次男はいかにもはすっぱな感じで入って来て、三男は陰気っぽい。
ふつうこの噺って次男のところが一番面白いけど、馬治師匠のは三男がほんとにおやじの弔いになんかお金使いたくない!っていうのが出ていて、それがすごくおかしかった。
次男のところがもっとばかばかしくはっちゃけたら、もっと陽気になって楽しいと思う。
 
さん助師匠「不動坊」
大家さんに呼ばれた吉さんがお滝さんとの結婚を言われるところから。
お滝さんは俺の女房ですからと口をとんがらせるのがおかしいけど、大家さんが「吉さんはまじめでおとなしくて」と言ってるだけのことはあって、そんなにエキセントリックな人物じゃないところが好印象(笑)。
お湯に行こうとして手拭いと間違えて鉄瓶を持って出かけそうになって、いけねぇいけねぇと戻って来て今度は越中ふんどし。今度こそと手拭いを持って玄関を出ようとして扉を閉めてしまい頭をぶつける。ぶわははは。
 
そのあと、風呂で他の3人の悪口を言ってのろけるところはフツウなんだけど、帰ろうとする吉さんに徳さんが声をかけて「どういうことだ」というのは初めて聞いた。
 
徳さんのところに集まって不動坊の幽霊を出そうと相談して、幽霊役に噺家頼むんだけど、これが前座じゃなくて引退したギスケじいさん。ギスケじいさん、登場する時に、げほっげほっと激しく咳き込んで、もう最初からだめな感じが漂っていておかしい。
アルコールとたいこを万さんに頼んだあと、このギスケじいさんが「私のセリフは?」と聞くと、徳さんが教えるんだけど、これをギスケじいさんが何度も「え?」と聞き返すのがおかしい。
そのやり取りを何度かやった後ギスケじいさんがやって見せるんだけど、これが芝居調でなかなかの迫力。
 
屋根に上がるのもぜいぜい言いながらで今にも死にそうなギスケじいさん。
徳さんと万さんと喧嘩をしてると「おい。ギスケじいさんが寝ちゃったよ」。
そしていよいよ幽霊で出るんだけど、これが先ほどの練習と打って変わって棒読み。
「おい。本番の方が下手じゃねぇか!」には大笑い。
 
吉さんに祝儀をもらうと寝返るギスケじいさんをひもで引っ張ると、ぶるん!と幽霊の形になるんだけど、このぶらさがる形がやたらとおかしい。この形だけでこんなに笑えるって…ずるいよ!
ひっくりかえるほど面白かった~。
 
さん助師匠「ぞろぞろ」
前半がたっぷりだったので、あっさりと。
「ご利益ですよ」というおばあさんがちょっと怪しげなのがさん助師匠らしい。
あと、床屋の親方っておじいさんだったの?!
サゲがちょっと気持ち悪いのもさん助師匠らしい。(ほめてます?
 
馬治師匠「抜け雀」
お人よしで一文無しばかり泊めてしまう宿屋の主人が馬治師匠と重なって見えて、とってもほほえましい。
硯を持ってこいと言われて「もういやになっちゃうなぁ。」とぶつぶつ言いながらも、はいはいと言うことをきいてしまう人の好さが心地いい。
雀が抜け出して驚いて女房のところに駆けつけるも、説明がわやわやしていて聞いてもらえないのがおかしい。
評判になって宿屋がどんどん大きくなって、本館、別館、アネックスとできるっていうのに大笑い。
 
老人が止まり木を描いてやるというと、墨を擦って「いい匂いですね。鼻だけはほめられます」と言うのもおかしいし、絵を描くと言われて角度を調整して「慣れておるな」と言われるのも楽しい。
なんか馬治師匠ってこういう人情噺がとっても合ってる気がする。じっくり聴かせるけど、くどくなくておかしみもあって…いいな。
 
いやー楽しかった。
この二人会、いいなぁ。すごくいい組み合わせ。
そして入り口に立てかけてある「馬治・さん助の会」というのが「馬治さんを助ける会」に見えるところがまた楽しい(笑)。

人生激場

 

人生激場 (新潮文庫)

人生激場 (新潮文庫)

 

 ★★★

気鋭作家の身辺雑記、だけに終わらぬ面白さ!プレーンな日常を「非日常」に変えてしまう冴えた嗅覚。世間お騒がせの事件もサッカー選手の容貌も、なぜかシュールに読み取ってしまう、しをん的視線。「幸せになりたいとも、幸せだとも思わないまま、しかし幸せとはなんだろうと考えることだけはやめられない」。美しい男を論じ、日本の未来を憂えて乙女心の複雑さ全開のエッセイ。  

 全体的にはそうでもなかったんだけど、時折妙にツボにはまるものがあってそこは笑いが止まらなかった。
なんていうかあれだ、笑う門には福来る。ばかばかしくてもなんでも笑えるのは幸せだ、ほんと。

柳家小三治一門会 三鷹市公会堂光のホール

 3/4(土)、三鷹市公会堂光のホールで行われた「柳家小三治一門会」に行って来た。


・小はぜ「道灌」
・禽太夫「くしゃみ講釈」
~仲入り~
・そのじ 寄席囃子
小三治「小言念仏」

 

小はぜさん「道灌」
前方に徹して基本通りの「道灌」。独自のクスグリとか入れてないのにちゃんと面白い。
前座時代、小はぜさんの「道灌」を何回も聴いたなぁ。なんて欲のないきれいな落語をする人だろうと思って好きになったんだった。


そのじさん 寄席囃子
この間のきゅりあんの時にもやった噺家さんの踊りについての話。「噺家さんの中には踊りを踊られる方が多くいらっしゃいます。その中には上手な方。それなりの方。いらっしゃいますけど、私は気を付けて見ないようにしております。以前ある方が踊ってるところを見ておりましたら、気取ってくるりと回った姿が…もうなんともいえない哀愁がありまして、私それがツボにはまって笑いが止まらなくなってしまって、最初から最後まで歌うことができず三味線だけになったことがありました」。
きゅりあんでは「普通の方」と言ってそれ以上はおっしゃってなかったんだけど、「哀愁」って…おかしい~。最高。


小三治師匠「小言念仏」
都知事のことや豊洲移転のことについて話し出したら止まらなくなってしまった小三治師匠。名前が出てこなかったり話していて気持ちが沈んできたりして「この話はやめましょう」と言うんだけど、「いやでもほんといったら大事なことですよ」「落語なんかより大事です」とやめられない。 

そのうち「私に新たに病気が発見されました」と。まだ誰にも言ってないけど、ここは三鷹ですから言っちゃいますけど…といって、「永六輔と同じ病気です。ええと…バセドー氏病」。
ええ?バセドー氏病?!永六輔さんってそうだったっけ?
最初の症状は筋肉が堅くなって動かしづらくなるんです。私それで気づきまして。そのうち症状が進むと手が震えてくるんです、湯呑を持ってもその手が震えて…。と言ってやってみせるとお茶がこぼれて「何もそこまで震えて見せるこたぁなかった」。
なんて言ってると小はぜさんが意を決したように飛び出してきてなにやら紙を師匠に見せると「え?ああー?いいんだよ。そんなの。え?なに?あーーマネージャーからで”師匠はバセドー氏病ではありません”って。いやあいつはね…まぁ心配してくれてるんですけどね。あれ?わたし、バセドー氏病って言ってました?違いました。ええと…なんていったっけ。横文字で。脳からくるやつで。ほらあれ。ほら。」

パーキンソン病
あれなんていったっけって言ってる中でこの名前も出てきたみたいだけど、師匠はなんかぴんとこないようで。
「薬飲み始めたら効くんですよ、これが」と。「ま、聞いてもこの程度ですが」。

自分はこれから先どうなっていくのかわからない。
先代の文楽師匠は「名人」と呼ばれた方である時高座に上がっていて登場人物の職業が出てこなくなってしまった。しばらく絶句して「勉強してまいります」と頭を下げて高座を降りてそれっきりもう高座に上がることはなかった。それを見て自分は「さすがは名人だ」と思った。
私はどうでしょう。時々あるんですほんとの話。登場人物の名前が出てこなくなったりすることが。はっつぁんだかくまさんだか分からなくなって名前が交互になっちゃったり。そういうときはさーーっと血の気が引くんですけど。でもなんとかごまかしてやっちゃう。
私もいつか文楽師匠みたいに頭を下げて降りるときがくるんでしょうか。それとも…私は名人じゃないからそういうことはこれから先もしないんでしょうか。

なんて言ってて、「もうこの話はやめましょう」とこの間と同じく船村徹の話に。歌ったり、名前が出てこなかったり、また歌ったり。
そのうちおそらく幕のところからマネージャーさんが合図を送ってきたのか「わかってるよ。わかってますよ。時間がおしてるんでしょ。わかってるって。…みなさんだって…これで帰っても別にやることもないでしょ」。

…ぶわはははは。もう小三治師匠、最高だよ。
その後もしばらく歌ったりしてたけど、陰陽のまくらから「小言念仏」。さすがに落語やらずにおりるわけにもいかないと思ったのかな。

「小言念仏」だとがっかりする人もいるみたいだけど、私は大好き。だってほんとにチャーミングなんだもん。
赤ん坊に小言を言いながら「ばぁ」ってやるところ。かわいいー!

人間国宝」の落語を楽しみにしてきた人には気の毒だったけど、自由に振る舞う小三治師匠が見られて私は満足だったな。

末廣亭3月上席夜の部

3/3(金)、末廣亭3月上席夜の部に行ってきた。


・小蝠「出張中」
宮田陽・昇 漫才
・圓馬「干物箱」
・伸治「棒鱈」
・正二郎 太神楽
・蝠丸「叩き蟹」

 

小蝠師匠「出張中」
滑舌の悪さがはんぱない。
「今噺家が800人いるんですよ。そんなにいりますか。噺家なんて5人もいれば十分じゃないですか」と言うけど、やぶへびなのでは…。
落語協会でも全く同じことを言ってる人がいるけど、なぜその5人には入れない人がそれを言うんだろう、と思ってしまう。


圓馬師匠「干物箱」
あーなんか楽しい、この師匠。すごく好き。
若旦那は遊び人っぽいけど品があって、善公はとにかくパーパーしたバカで陽気で、大旦那はどっしりとした威厳がある。
テンポがすごくいいから聞いていて楽しいし、でもちょっとこうどきっとするようなところもあって…なにかすごく惹かれる。


伸治師匠「棒鱈」
ぐずぐずの酔っぱらいと田舎者だけど威厳のある侍の対比が面白い。


蝠丸師匠「叩き蟹」
甚五郎が蝠丸師匠らしく穏やかなんだけど時々ちょっと怖くて面白い。「私も筋を通すから、払うものは払う。燃やすものは燃やす」と言うときに、ほんとに燃やしかねないような迫力があるんだよな。
えらそうなことを言ったわりに実はお金がないということが分かってもそんなには慌てず蟹を彫って渡すと、こんなもんいらないやい!と言いながらも餅屋がそれ以上言わずに帰すというのもなんかいいなぁ。これが落語の好きなところ。

ほのぼのとじんわりと楽しくてよった~。
「叩き蟹」、前に聞いたことがあったんだけど、ブログを検索したら出てこなかった。いつ聞いたんだろう?

末廣亭3月上席夜の部

3/2(木)、末廣亭3月上席夜の部に行ってきた。
 
・小蝠「無精床」
・コント青年団 コント
・圓馬「粗忽長屋
・伸治「だくだく」
・正二郎 太神楽
・蝠丸「寝床」
 
圓馬師匠「粗忽長屋
この師匠、おもしろい!わーわーわー。
テンポがよくて、なんかこうところどころに「あれ?!」って驚くようなユニークさがあって、好き好き。
他の噺も聞いてみたい!
 
伸治師匠「だくだく」
わーい、伸治師匠。笑顔で出てきただけでウキウキっとテンションが上がる。
しかも大好きな「だくだく」。うれしすぎる!
タンス描いて、猫描いて(雄!)、へっつい描いて、槍描いて…え?手が届かない?じゃそこに踏み台描いて。
指示する男がうきうきとうれしそうで、見ていて楽しい。
泥棒が風呂敷にポンポン着物や帯を放り込んでいるつもり、なのも軽くて楽しい。
 
蝠丸師匠「寝床」
「それじゃ長屋の連中は誰も来られないのかい」という旦那のセリフから始まる。
そこから、「乾物屋はどうした?え?おかみさんが赤ん坊をひりだしそうだ?前の義太夫の会の時もそうじゃなかったか?」、「隠居はどうした?あれは義太夫が大好きだから」と旦那が聞いて、繁蔵が言い訳を並べる。
来られない人の中には、くず屋の清兵衛さんが右往左往していて来られなかったり、魚勝が芝浜で財布拾ったり、薮井先生が出てきたリ、と楽しい遊びがたくさん。
75年ぶりに初恋の人にあったおばあさんが「今夜は帰らない」には笑った~。
一人で旦那の義太夫に立ち向かった1番番頭はさすが特攻隊の生き残り。
次から次へとばかばかしいギャグが出てくるのでおかしくておかしくて。
 
しかも途中で「ふぅ。みなさんお気づきかもしれませんけど、私普段はあんまりこの噺やらないんです。なにせね、この噺、すごく体力がいるんですね。私体力がない方なもんですから、反対俥とかそういう噺はやらないんですけどね。これ今度ネタ出しされてるもんでね。どこかでお稽古しないといけなくて。って噺の途中で愚痴言っちゃいけませんけど。じゃ後半にいきます」って。ぶわはははは。もうほんとに自由だなぁ。
 
説得されて集まってきた長屋の人たち。
義太夫熱や前世は義太夫を絞殺したその呪いや言いたい放題なんだけど、おいしそうなお刺身が旦那の義太夫が始まったとたん、防衛本能で丸まったのには笑った。
サゲも今まで聞いたことがない蝠丸師匠独自のもの。
幕が締まっても蝠丸師匠の「アンコールはありません」の声が聞こえてきて大笑い。
 

柳家小三治一門会 きゅりあん大ホール

2/28(火)、きゅりあん大ホールで行われた「柳家小三治一門会」に行ってきた。

・小はぜ「狸鯉」
・はん治「粗忽長屋
~仲入り~
・そのじ 寄囃子
 
小はぜさん「狸鯉」
狸がかわいい。
そして鯉になった狸を置いていくときに心配そうに「なんか…悪かったなぁ」と言うのが大好き。
どんどん表情が豊かになってきているのを感じる。いいなぁ。
 
はん治師匠「粗忽長屋
面倒を見ているおじさんの「おいおい」という言い方がいいなぁ。はん治師匠の「粗忽長屋」大好きだ。
 
小三治師匠「厩火事
前方で出たそのじさんのことを手放しで褒める小三治師匠。ほんと小三治師匠はそのじさんが好きだよねー。でも品が良くて歌が良くて三味線がうまくてほどがよくてトークは意外にも辛口で。ほんとに素敵だもんな、そのじさん。小三治師匠がメロメロになるのも無理はないな。
そしてそのじさんがご懐妊とな。「私の子じゃありませんよ」って…。ふふ。
 
そして今日はこれを言わなければいけません、と船村徹について。
以前も熱く語ってらしたけど、確かにあの時師匠がおっしゃっていたように船村徹さんはほどなく亡くなってしまった。亡くなる前に文化勲章をもらえてほんとによかった。
あの歌もこの歌もと口ずさむんだけど、これがほんとにいい。渋くてでも色気があって。うっとり。
そのたびに拍手する人がいて、拍手もいいけど静かに聞いていたい気分。
 
今日はだめだ、今日見に来た人ははずれだ、だのなんだかんだ言いながら「厩火事」。
お茶を飲みながら噺をする小三治師匠とおさきさんの話を聞いている大家さんが重なる。
確かに小三治大家さんなら「あたしゃあいつは嫌いだ。肩を持つ気になれない」と言いそうだ(笑)。
なんだかんだ言いながらやっぱり亭主に惚れているおさきさんがかわいらしい。
そして亭主も確かにつかみどころがないけれどかっこよくて、こんな男に「一緒におまんま食いたいじゃねぇか」とか言われたら、くらっときそうだ。

長いまくらに「厩火事」を聞けて満足。なにより小三治師匠がお元気そうで楽しそうで見ていてうれしかった。
 

鈴本演芸場2月下席昼の部

2/28(火)鈴本演芸場2月下席昼の部に行ってきた。
 
・ろべえ「やかんなめ」
・ストレート松浦 ジャグリング
・文蔵「真田小僧
・一九「時そば
ロケット団 漫才
・菊之丞「長短」
・小ゑん「下町せんべい」
・のだゆき 音楽パフォーマンス
・一之輔「人形買い」
~仲入り~
・にゃん子・金魚 漫才
・圓太郎「祇園祭り」
・小満ん「悋気の火の玉」
・二楽 紙切り
・さん助「子別れ(中)~(下)」
 
文蔵師匠「真田小僧
文蔵師匠が「真田小僧」ってなんか珍しい~。
生意気な子どもと子供のようなおとうさんがとてもリアルで楽しい
「〇〇ではないか」という言い方がすごくおかしくてツボ。
 
小ゑん師匠「下町せんべい」
いいわー。江戸っ子に憧れるおたくっぽい男といかにも江戸っ子なさっぱりしたせんべい屋のおやじのやりとり。
好き好き。
 
小満ん師匠「悋気の火の玉」
最初から最後まで全部好き。
奥さんの火の玉が出てきて「おいおい、すごい勢いだな。まぁこっちにおいで」という言い方が優しくて、きゃ~。(←あほ)
 
さん助師匠「子別れ(中)~(下)」
くまさんが弔いに行ってそのまま吉原に居続けをして家に帰ってきたところから。
おかみさんに文句を言われるも、「まぁまぁ」「わけがあるんだよ」とくまさん。葬儀の時に酒を飲んでいい気分になったことやおこわをかすめとったことを自慢げに明るく語る。
そのあとに吉原に行ったことも、最初は「紙くずやとばったり会って二人で通夜に行った」などとうそぶく。
おかみさんに詰問されると、わけありの女と再会をしたことを話すが、女が俺の胸で泣きやがるんだ、とのろける。
おかみさんが本気で怒っているとわかると、「まぁこっちに来いよ」と言うんだけど、それがなんかこうちょっと色っぽくてどきっとする。
 
おかみさんに離縁してくれと言われると逆ギレして追い出してしまうんだけど、それまではそんなにたちが悪い感じはしなくて、とにかく酒でだらしなくなってるという印象。
離縁と聞いて慌てて止めようとするかめちゃんが生意気でとてもかわいい。
 
それからまともになったくまさんのところに番頭さんが訪ねてきてかめを見つけるところ。
かめちゃんの友だちのろくちゃんがまっさきに気付いて「ねぇねぇ、さっきからあそこでおじさんがかめちゃんのこと見て泣いたり笑ったりしてるよ」。このろくちゃんという登場人物がさん助師匠の「子別れ」を笑いどころがたくさんあるものにしていて大好き。
 
くまさんがかめちゃんに「新しいおとうさん」のことを聞いた時も、「どういう意味?」とわからないかめちゃんに向かってろくちゃんが「あのですね。新しいおとうさんっていうのはですね。昼間はおもちゃを買ってくれたりしていて、夜になると…」と訳知り顔で説明。
「ろくちゃん、悪いけど帰ってくれる?」と言われてろくちゃんがいなくなるとくまさんが「…いい友達がいるんだな」。
 
もらったお小遣いでズックを買うというかめちゃんに「なんだ、おっかぁは買ってくれないのか」。
それに対してかめちゃんが、おっかさんがどれぐらい苦労しているか、二人でいつもお腹をきゅうきゅう鳴らしていると言うのが、おっかさんの肩を持って男の子らしくていいなぁ。
それを聞いてくまさんより先に泣いちゃう八百屋さん。くまさんが「かんべんしてくれ」と、ちょっとすまねぇって感じで軽く言うのも好き。
 
おかみさんがくまさんからもらったお小遣いを盗んだと思って、玄翁でぶつ真似をしたあとに「出てけ」と言うと、かめちゃんが「それは言わないって約束したじゃないか」と泣くのが…そうだよね、くまさんにそういわれて二人で出てきたんだもんねと思って胸が痛い。
 
うなぎやの再会のシーンで、復縁を言われたおかみさんが「都合がよすぎるんじゃないかい」と言うのもいいな。そうだよそうだよ言ったれ!と思うし、「自分たちばっかり鰻食べてないであたしの分も」と言うのも、それを聞いてくまさんが「うなぎーーーー」って叫ぶのも好きだ。
 
最終日にさん助師匠の「子別れ」を聞ける幸せ。さん助師匠の「子別れ」が一番好きだ。
鈴本の昼の部って思っていたより本当にお客さんが大勢来ていて、誰かを目当てに見に来てるというよりは寄席を楽しもうという雰囲気。
さん助師匠、大丈夫かなぁと内心心配していたけれど、最終日までいろんな噺を聴かせてくれてとてもよかった。

 

 

 

旅を数えて

 

旅を数えて

旅を数えて

 

★★★★

「本が好き!」から生まれた旅のアンソロジー。

 図書館で本の福袋というのをやっていて勧められたので「旅の本」というのを借りてみたら入っていた一冊。旅をテーマにしたアンソロジー。
これがことのほかよかった。

亡くなった人に思いを馳せたり友だちの傷心旅行に付き合って蓋をしていた自分の心を覗きこんだり。
旅のとらえ方も作家さんによってさまざまだけど、要するに生きることが旅することでもあるのだな。

特によかったのが川本晶子さんの「ニケツ」。田舎道を走るカブの後ろ姿が目に浮かんで、ぐっときた。

鈴本演芸場2月下席昼の部

2/27(月)鈴本演芸場2月下席昼の部に行ってきた。
 
・あんこ「道具屋」
・ろべえ「初天神
・ストレート松浦 ジャグリング
・文蔵「手紙無筆」
・一九「親子酒」
ロケット団 漫才
・菊之丞「町内の若い衆」
・はん治「妻の旅行」
・のだゆき 音楽パフォーマンス
・一之輔「寺小屋権助」
~仲入り~
・ニックス 漫才
・圓太郎「野ざらし」
・小満ん「長屋の花見
・二楽 紙切り
・さん助「藪入り」
 
一之輔師匠「寺小屋権助」
子どもの通っている小学校に落語をやりに行ったりすることがある。先生から「子供たちに落語を聞かせてやりたい。でもうちは公立ですから…」とノーギャラをにおわされる。えええ?と思っても、子どもを人質にとられているから無下にも断れない。
行ってみると自分の子どもだけすごいおっかない顔をしてにらんでる。「ちゃんとやれよ」「みんなを笑わせろよ」とプレッシャーをかけてきている逆参観日状態。
落語の最中も自分の子だけくすりとも笑わない。家に帰ると「本気出せよ!」と怒られる。…本気出したよ!わはははは。
 
そんなまくらから「寺小屋権助」
初めて聴く噺。
飯炊きの権助が店の坊ちゃんと一緒に寺小屋に通う。
なんでもソツなくできる坊ちゃんと違って、権助はマイペースで傍若無人一之輔師匠の権助は堂々としていてバイオレンスでかわいそうげがなくて楽しい。まるで動じない権助がおかしくて笑った~。
 
小満ん師匠「長屋の花見
上野はもう桜が咲き始めました。とはいえソメイヨシノはまだで、寒桜。おっちょこちょいの桜なんですね。
そんなまくらから「長屋の花見」。
大家さんの酔狂に渋々付き合う長屋の連中が楽しい。むしろを担いで「夜逃げだ夜逃げだ」。
「景気のいい話をしろ」と言われて「おばさんから遺産をもらいました。太田胃散」とか、ふわふわ楽しくて気持ちがいい。
やっぱり最強だなぁー。小満ん師匠がひざ前って。
 
さん助師匠「藪入り」
藪入りの前の日、眠れないくまさんが亀が帰ってきたらあれを食わせてやろう、これを食わせてやろう、あそこに連れて行こう、そこまで行けばもっと足を伸ばして…と止まらないのがかわいい。
そしてそのたびに「おっかあ。今何時になった?」
ようやく4時の声をきいて表に飛び出して掃除を始めるんだけど、それを見つけた近所の人が声をかけると、箒を動かしながら口をとんがらしてひねくれた返事。これがなんかもうレレレのおじさんみたいで大笑い。
ようやく亀ちゃんが帰ってくると、親方を迎えるような大仰な口調になるのもおかしい。
 
亀ちゃんから手紙のことを言われると、あれが自分にとってはなによりの薬だった。今も具合が悪くなるとあれを取り出して読んでる。自分は字が読めないけど、あれだけは読めるんだ、と言うのがじーんとくる。
亀がお湯に行ってる間にガマ口をあけた女房がお金を見つけると、最初は「あのきらきらした目を見ればそんなことはするはずないのがわかる」といってたくまさんも「そういや目つきが悪かった」と言い出す。
話も聞かずにぶん殴って、亀から訳を聞くとすぐに反省するのも、からっとしたくまさんらしくていいなぁ。

さん助師匠は時々「うちにはご子息がおりまして」とまくらで言ったりするけれど、こういう噺を聞くと、ああ、やっぱり男の子のお父さんなんだなぁという感じがして、とてもよかった。

鈴本演芸場2月下席昼の部

2/26(日)、鈴本演芸場2月下席昼の部に行ってきた。
本当は金も土も行くつもりだったのに、まさかの風邪でぶっ倒れ。いやぁまいった。
今日はどうしよう大丈夫だろうかと思いながらも、えいや!で出かけたのだが、寄席でゲラゲラ笑っていたら、からだに残っていただるさが吹っ飛んで行った。わーい!


・かな文「たらちね」
・ろべえ「旅行日記」
・翁家社中 太神楽
・文蔵「寄合酒」
・小満ん「馬のす」
ロケット団 漫才
・菊志ん「宮戸川(上)」
・小ゑん「ミステリーな午後」
・のだゆき 音楽パフォーマンス
・一之輔「天狗裁き
~仲入り~
・にゃん子・金魚 漫才
・圓太郎「真田小僧
・はん治「妻の旅行」
・二楽 紙切り
・さん助「崇徳院


ろべえさん「旅行日記」
おもしろい!
陰気なところがちょっと苦手だったろべえさん。真打昇進前に吹っ切れたか!すごく楽しかった。「なじみの宿」に来たつもりの男のやられ加減が素敵。


文蔵師匠「寄合酒」
兄貴分が「なんですって?」って言ったのがツボ。こういう噺の「兄貴」が本人とかぶるから楽しさが倍増。
与太郎の味噌には会場中が固唾をのんで見守っていて最高だった。


小満ん師匠「馬のす」
ヒートアップした客席をすっとさます。でも決して冷やすっていうわけじゃなくて、もう少しこう…噺をきいてくすっと笑う落ち着いた雰囲気に変えるっていうか。だから小満ん師匠がひざ前ってすごくやりやすいんじゃないだろうか、と素人了見で思ったり。
今日は出番が入れ替えになっていて、この位置。

いつものマンホールや美術館の小噺で会場がどっと沸く。
そこからの「馬のす」。
馬の尻尾を抜いてるところを見た友だちの反応が、確かにすごく意味深なんだな。ちょっと体を斜めに引いて「え?抜いたの?」って。
家に上がって酒を出してもらうと馬の尻尾の話はそっちのけで床屋の小噺。もうこれが好きで好きで。銀座の床屋だったんだね、じつは。そこをたっぷりやって、酒をぐいっと飲んで枝豆を全部やっつけて。
最初から最後まで楽しかったー。


菊志ん師匠「宮戸川(上)」
菊志ん師匠、一周回って苦手に戻った(笑)。

一之輔師匠「天狗裁き
夢の話を聞きたがる大家が「最近面白いことがなんにもないんだよー。面白い話を聞かせてくれようー。」と言ったり、お奉行様が「この仕事、つまらないんだよー。外にも出られないしさー。だから願書を見た時に、この夢の話聞きたいと思ってさー」と言ったりするのがおかしい。
一之輔師匠は、ダレるところはすごい早口で飛ばしたり、ここってところはちゃんと間を作ってやるから、はずさないんだなぁ。すごいな。


さん助師匠「崇徳院
とてもエキセントリックな「崇徳院」(笑)。
ちょっとムキになりすぎたような感じがしないでもない。なにもそんなに青筋立てて叫ばなくてもね、いいと思うの…。お客さんとの波長が合わないと思うとついムキになってしまうんだろうけど、押せば押すほどお客さんは引くからなぁ。

とはいえ、くまさんが「水も滴る」を「血も滴る」と言い間違えたり、「茶袱紗」を言えなくて変な雄たけびになったり、「背をはやみー」といきなり大声を出して床屋にいた客がびっくりしたり、と笑いどころが満載。
ハイテンションのくまさんが右往左往するのは見ていて楽しい。
この噺、たいていダレるんだけど、さん助師匠のはダレる隙を与えないから、そこがすごいなぁと思う。

昨日は「黄金餅」だったらしく(友人談)それも見たかった!